39話 新たなる力
魔女エマヴィス・リティスの領域にミズキの明るい声がした。
「ただいまです~」
しかし、ミズキの言葉に返事はない。また寝ているかもしれないとベッドを見るが、リティスの姿はどこにもなかった。
机の端まで歩き辺りを見渡すと、床に何やら黒い泥のようなものがゴボコボと泡立っていた。
その黒い水溜りを見ていると、色が次第に肌色や赤色に変わり始めた。かと思えば人型を形成しだす。
(ッ!? ッ!? !!?)
ミズキの驚愕をよそに、それはリティスとなった。
グジュグジュと禍々しい音が聞こえていたが、やがてそれもなくなり、ふわりと舞った銀髪が一糸まとわぬ肌を流れ落ちる。
リティスは閉じていた目を開くとミズキに気がついた。
「あら、おかえりなさいミズキちゃん」
「さっきのは一体……? そ、それになんで裸なんですか!?」
「前に服を巻き込んでしまったからよ」
リティスが指を振ると服がその体を覆った。
「たぶん溶けてたと思うけど、それは前にミズキちゃんが持ち帰ってきてくれた毒キノコのおかげね」
「毒キノコですか……?」
「ええ、とても良かったわ」
リティスの恍惚とした表情にミズキは得体の知れない恐怖を感じた。汗が一筋どころか、背中をべったりと濡らしている。
「あら、違う服を着ているのね?」
「あ、これはアラムさんがくれたんです。すごく丈夫なんですよ!」
両腕を広げて、くるりと回れば黒ポンチョがひるがえる。
「確かにすごくいいわね……でも私だって素材さえあればもっといいものが作れるのよ?」
「そうなんですか?」
「ほんとはルールなんて無視して、もっといいものを作りたいのに我慢してるのよ……! それで今回も収穫はないのかしら」
「ありますよ?」
カバンから『燐光樹回廊』でのヒヒや、『花の迷宮』で得た素材を取り出してリティスへ渡す。
「あら、前のものに比べたらかなりいい素材ね。何を作ろうかしら」
「それなら、ばとるん二号を強化することってできないですか?」
素材を手の平で転がすリティスを見上げながらに尋ねた。
「可能だけれど効率は悪いわね。でもいいの? 私が勝手に素材を使って作っちゃったものだけれど……」
ミズキに無断で素材を使ってしまったからか、リティスが申し訳なさそうに眉尻を下げている。
「それでもいいんです。愛着が湧いちゃいましたから」
過程はどうあれ、今となっては大切なものとなったばとるん二号だ。ミズキは愛おしそうに目を細めていた。
「そう。ならどんなものがいいかしら」
「ばとるん二号も直る機能があるんですよね?」
「その黒い服にはないけれど、もちろんあるわよ」
「この服にはないんですか。あ、えっと、ボクは戦うことがあまり得意じゃないですし、単純にもっと威力を強化してもらえたらそれでいいんですけど……大きな魔物と戦うと全然倒せなくて……」
使い慣れた長柄戦斧を強化してほしいと提案する。
戦うことになれていない現状では、攻撃を当てることも難しく、ならば一撃を重くしていこうと思ったからだ。
「できないことはないけど威力強化は難しいわね……少し上げるだけじゃ駄目なのよね? それにミズキの魔力だと制御が……うーん」
乗り気ではないのかリティスがうなる。
「駄目ですか……?」
「一度しか使えない機能で、使ったら壊れてしまうけれどいいかしら?」
「一回当てるだけでも大変なので大丈夫ですよ! それにもっと強くなりたいんです」
「わかったわ! それに一回しか使えない大技なんてロマン溢れるしいいわね!」
ミズキがばとるん二号を渡すと、リティスが手の平で光の輪を動かし始めた。素材とばとるん二号が光の輪に包まれる。
光が収束していき、全てが一体となっていく。ひときわ眩しい光が発せられると一本の長柄戦斧が出来上がっていた。
形状は同じだが刃の腹部分、平らな場所に文字が彫られていた。それをミズキへと摘んで渡すと、リティスが機能を熱演しだした。
「名づけるならばとるん二号改ね! 魔力刃の機能を追加したわ!」
「魔力刃ですか?」
「〈魔力刃〉と唱えれば魔力が込められ刃を強化できるのよ。ただしミズキちゃんの魔力だと一回しか使えないから注意してね。使ったら魔力に耐えられずに消し飛ぶわ」
説明を重ねていくが、最後にとんでもないこと言いだした。
「あ、危ないですね……?」
「その代わり威力はあるはずよ。使いどころを考えないといけないけれど、燃えるわね……」
「ここぞってときですね……! ありがとうございますリティス様!」
ばとるん二号改を持つミズキが瞳を輝かせ喜んでいた。
「ふふ、いいのよ。また何かあったら私に言ってね?」
「あ、そういえばアラムさんからもらった素材もあるんでした」
思い出したミズキがカバンから取り出したのは『永遠鉱石』だ。
「時の素材だと思うんですけど、これで帰ることはできるんですか?」
リティスが目を細め検分し、かなり質の高い時の素材だと太鼓判を押す。しかし。
「残念だけれどこれだけじゃ足りないわね」
「そうですか」
「あまり残念そうじゃないのね」
リティスは意外と言った様子だ。
「帰れないのは残念でしたけど。今はやりたいことができましたから……」
いつかジャラックに恩を返したいと思っていることだ。
「そう、大変かもしれないけれど……応援しているわ。できればほかの魔女も見返してほしいと切実に応援しているわ!」
「あはは……では、行って来ますね」




