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ドアマットヒロイン? いえ、ドアはございません  作者: 六軒さくみ


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サプライズは効果的に

最終回です。

結婚式当日。

その日は朝方まで降り続いた雨が止み、美しい虹が弧を描く素晴らしい日だった。

新緑に抜ける風が涼やかで、まさに結婚式にはうってつけの日で、

フランは密かに己の日頃の行いに感謝した。


王都でも指折りの大聖堂を結婚式のために使えるグリーンフィールド侯爵家に、

改めてすごい家にお嫁に行くのだと実感した。


高く伸びる天井に色とりどりのステンドグラス。

どれをとっても美しかった。

自分以外は。


なにより、この大聖堂に逃げ場が、ない。


(いや、そもそも逃げるつもりはないけれど)


この期に及んで一応密かに出口を探してしまったのは、

隣に立っているローランドには秘密だ。

ちらりとローランドを見やると、彼がにやりと笑った。

まるで、フランの考えなどお見通しとばかりに。


ほんのすこし気まずくなったフランは笑って誤魔化したのち、

小さくため息を吐いた。


自分はどうあれ、フランのウェディングドレスの刺繍は、

フランの会心の出来映えだった。

リリアンもアデラインも感嘆の声を上げたくらいだ。


そのアデラインだが、近頃、第二王子との婚姻が決まり、

半年後に結婚式が執り行われることになっており、

妹のリリアンもまた、良縁に恵まれて、近々婚約する運びである。


フランの両親も刺繍の出来に褒めてくれたし、

何よりも、先ほど隣にたつローランドが絶賛してくれたのだ、ドレスの刺繍の素晴らしさを。

そのローランドは、先ほどのにやりとした表情は納めて、

いつも通り目に痛いほどの美しい顔をしている。

フランは緊張で出口を探してしまったり、心臓が痛いほどなのに、

結婚式だと理解しているのだろうかと疑いたくなるほどに落ち着いている。


(……いえ、理解しているわよね……)


「フラン」


小さく愛称を呼ばれ顔を上げるとヴェールを持ち上げたローランドと正面から向き合う。


「顔色がいいですね」

「健康は、刺繍の次に私の取り柄です。あなたはいつにもましてまぶしいです…」


その言葉に、ローランドがくすりと笑う。


「これから毎日見れば見慣れますよ」

「その前に私の目が持たなくなりそうです」

「それは困ります。あなたの刺繍を見るのは私の楽しみの一つなのですから」


(だめだ…やっぱり笑顔がまぶしくて痛すぎる…馴れないって。絶対に毎日、目がくらむ…)


フランの心の叫びとは裏腹に式は順調に進んでいく。

緊張し続けて疲れ果てたところに行われた誓いのキスも無事にやり過ごし、

会場にいた招待客の沢山の拍手が終わると、

その瞬間、ふっと空気が緩んだ気がした。


最大の懸念事項だったアンリスタも問題を起こすこともなく、

表情はかみつかんばかりだけど、それはこの際、目をつぶる。

式は滞りなく進むはずだった。


「フラン」


ぽつり、と。

あまりにも場違いな軽さで、ローランドが口を開いた。


「はい?」

「一つ、言い忘れていたことがありまして」


ローランドは、楽しそうに、ほんの少しだけ口元を緩めて告げる。


「マダム・アレクシアンですが、私です」


沈黙。

そして、なんだろう。

フランの理解が、追いつかない。


(……は?)


「正確には、私がアレクシアンの名で刺繍を」

「はあ……」


気の抜けた声がフランの口からこぼれ出た。

予想外のフランの返答に、今度はローランドの方が沈黙する。


「今……言うことですか、それ」

「機会を逸していまして」


フランが硬直した。

参列者たちは何が起きているのかも知らず、若い二人の門出を祝して、

拍手と花のシャワーの準備をしている。

神官が咳払いをするが、フランもローランドも聞いていない。

ルイローゼに至っては笑いをこらえている。


とにもかくにも、この場から動かなければ、次の予定が遅れていくのである。

硬直したフランをローランドが無理矢理歩かせて、

赤い絨毯のバージンロードを出口へと向かって歩いて行く。

が、密かに会話が繰り広げられている。


「あの刺繍、全部ですか…」

「ええ。あなたが褒めてくれたものも、すべて」

「聞いてないです…」

「言っていませんから」


しれっと、言い切る。

フランは頭を抱えたくなった。

けれど、フランにだって、このまま結婚式を滞りなく進めなくてはという気持ちはあるので、

叫び出したい衝動を必死にこらえる。

(だから会わせてもらえなかったのね…)


今までの違和感が、一気に繋がる。

そして同時に


(……私、あれだけ褒めた……本人に向かってファンだとも言った。大好きだとも何度も言った)


顔が熱くなる。

逃げたい。

今すぐこの場から逃げたい。


「安心してください」


ローランドが、静かに続ける。


「あなたの刺繍が好きだというのも、結婚したいと思ったのも、全部本当ですから」


その言葉だけは、不思議と軽くなかった。


「だからって今言わなくてもいいじゃないですか…」

「結婚式にはサプライズが必要だと姉から。なので、今が効果的かと」

「効果的すぎます!!」

「夫婦の間に秘密は作りたくないので」


祝福の拍手の中、フランの悲鳴めいた抗議が響いた。

フランの結婚一日目は、ローランドの壮大なサプライズにより、

精神的に疲れ果てて、初夜を逃すという失態から始まることになるが、

それはまた、別の話である。


なにより、フランとローランドの夫婦は、

刺繍という強い結びつきで、

互いに切磋琢磨してよりよい関係を築いていったのもまた別の話である。


お読みくださった皆様。

ありがとうございます。

フランとローランドの話はひとまずこれで終わりとなりますが、番外編などを考えておりますので、

そのときにはまた、宜しくお願い致します。

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