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ドアマットヒロイン? いえ、ドアはございません  作者: 六軒さくみ


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率直に言って、好きです。多分

「何か問題でもありますか」とローランドが無表情で答える。

その無表情さにフランは内心でひぇっと悲鳴を上げた。

一方で顔のいい人間は、どんな表情も絵になるのだとこの時改めて知った。


「引き分けの場合、ドレスを送ってはいけないとも、ダンスを誘ってもいけないとも、

エスコートをしてはいけないとも取り決めしておりませんでしたよ、問題ございますか」


大ありです、と即座に言葉に出来ないフランは、

目の前の香ばしい紅茶を口にはこぶ。

家柄のいいお家は、紅茶も一味違うと思ったかどうかは定かではないが、

どう穏便にローランドの反論しようか、考えを巡らせる。


巡らせるもなかなか言葉が思い浮かばない


「問題はありませんね」


今度はにっこりと笑って告げられて、思わず

「大ありです。でも、言葉がすぐに出ないんです」と、

泣き言を告げられたローランドは話題を変えることにした。


「あなたはなぜ刺繍が好きなのですか」


何故と今まで問われたことがなかったので、フランは再び閉口した。


はて、いつからだろう。


もともと好きだったが、

これほどにのめりこんだのはいつからだっただろうと考えて、

一の核にいた時だと思い当たる。


いつも両親にとっての都合の良い長女として生きてきたフランにとっては、

自分の刺した刺繍で誰かに褒められたのが単純にうれしかったのだ。

だから、のめりこんだ。


そして、奥深さを探求するとどんどん面白くなった。


うん。

どう説明しようとしてまた悩みつつ、

「一の核にいたのです」と、爆弾を投下した。

両親からは空白の3年間は、決して言葉にするな、

田舎で療養していたと話を合わせるようにと言われていたのだが、

ここは本当のことを話した方が、

婚約を断ってくれるに違いないと考えたからだ。


(あれほどのドレスもらっても困るんです! 結婚もする気もありません)


とは、すぐに言い出せる雰囲気ではないくらいはフランにも理解できる。

同時に、彼がフランの話の先を待っていることも察せられたので、

フランはゆっくり思考を整理しつつ、言葉をひねり出した。


「実は…我がバンキンスの恥をお話し致しますが、すでにローランド卿も知っているとおり、弟は学園でも落ちこぼれの上に手のつけようもない問題児でした…」

「知っていますよ」


即座に言われて「ですよねぇ…」と喉の奥でつぶやく。


「3年前…弟が友人達とその…私が嫁に行く当てがないと話していた上、友人達が自分が練習台になるだのという話をきいて、気持ち悪くなって逃げ出したのです。もちろん、理由はそれで家ではありません。色々と幼い頃からたまりにたまった不満があったものですから…」


あまり家庭の内情を話しすぎるのも良くはないので、

フランはそのあたりはぼやかした。

その後も、フランは逃げ出した先に祖母の異母妹がいて、

頼りにしたことや、その異母妹が亡くなってしまい、

途方に暮れたところを仕立屋のマダムに拾われ、

そこで刺繍に褒められたことなどを話した。


話にさりげなく、かねてからマダムアレクシアンの、

ファンであることをアピールすることは忘れない。


「その刺繍が褒められることがとても嬉しかったのです。なにより、その刺繍を喜んでもらえることが。なので、真剣にお針子として生きていこうと考えていました」

「でも、あなたは家に戻ったわけですよね。どのような心境の変化ですか」

「特に大きなことではないのです。私は幼い頃から我慢をさせられましたが、虐げられていたわけではありません。面倒ごとを押しつけられはしましたが、両親の愛がなかったとは思っていません。なので、このままではいけないと思ったのです。逃げるだけでは何も解決しないと。アンリスタのことも」


しばしの沈黙の後、ローランドが問う


「一の核での生活はどうでしたか」

「とても新鮮でした。私の知らないことばかりでした。私は自分が身につけていたドレスの価値も知りませんでした。料理が黙っていれば出てくることもなく、掃除をしなければ埃だらけになることもはじめて知りました。邸の料理人やメイド達を尊敬したくらいです」

「そういうあなただから、私は自分の伴侶に選びたいのです」


(逆効果だった!!)

みたいだよ、フランちゃん。

ローランドはふっと優しい笑顔を見せる


(ま…まぶしい……綺麗な顔の優しい笑顔は光り輝いている…無理…私、灰になる)


「あなたの刺繍を初めて見たときからおもったのですが、あなたはとても素直で素朴な方です。今も結婚の話を断りたいのに率直です。ここからは現実的な話をします」

「はい、拝聴します」

「正直に申し上げれば、最初はもちろん興味からです。あなたは最初、私のことを顔が綺麗だからと振った。正直今までそのような対応をされて事が無かったので新鮮でした」


過去の不躾な行動を持ち出されて、フランが申し訳ないとばかりに眉を下げる。


「それだけではありません。その後もあなたは私ではなく、刺繍ばかり見ていた。はっきり言って、とても不思議な感じがしました。世の中には、私がグリーンフィールドの人間だから近づく者はいても、あなたのような反応をする人はいませんでしたので」

「それは…つまり、反応が面白いからと理由でしょうか」

「今は違いますよ」


即答された。


「私は将来このグリーンフィールドの当主になります。その際の伴侶には様々な条件が必要です。そういう意味ではあなたは最適なのです」

「私がですか…? しがない伯爵家のしかも家出娘ですが…」

「その家出であなたは、モノの価値を知り、料理人やメイドを初めてとして家に仕えている者達の重要性を知った。その素直さはあなたの良いところです。私は自分の伴侶に気位ばかりが高く、貴族であることを当然だと思う人間は必要ありません。何より、我が家の価値を当然と思われても困るのです」

「身代が大きいと……何かと大変ですね…ぇ」


フランははじめてローランドに同情の気持ちを持った。

持ってしまった。

この人はフランには想像も出来ない大きい何かを背負っている人なのだと。

そしてローランドの話術と策略にはまりつつある。


「我が家は権力ちからがあります。同格の家同士で婚姻を結べば、どちらの家が主導権を握るかで必ず軋轢が生まれます。実際、過去にもあったことです」

(無理無理無理、私にはそんな高度な話理解できない)


話が、もう結婚の話ではない。

何を言われているのか、半分も分からない。

家と家の話。

立場と立場の話。

そして、それはフランの知らない「世界」の話だ。

誰と結婚するのではなく、何と結婚するのか、

結びつくのかの話をされているのだが、今までそんなことを考えたこともない。

だから、フランの思考は上滑りしていく。


引きつったフランの表情を見たローランドがいったん言葉を切ると、思案顔をする。


「ひとつずつ整理しましょう。まず、あなたの父上は商の才があり、バンキンス家は裕福だ」

「そうですね」


祖父に似ず父には商才があり、

一時傾いていたバンキンス商会を立て直した手腕がある。

もっとも、アンリスタに商才が遺伝しなかったことは残念であるが。


「裕福であるが故に我が家の財産を狙うことは考えなくていい。そして次に、バンキンス伯爵は権力志向がない」


フランの目から見ても父には権力志向はない。

向上心はあるが、過度な野心もない。

どちらかと言えば、繊細で気の小さい方だ。


「我が家にとっては王家とのバランスを考えれば、権力志向が弱く、貴族院での発言力の影響力も無い伯爵家は願ってもない良縁なのですよ」

「……それは…ローランド卿にとってはいい事づくめでも、私にとっては関係ないですよね?」

「いいえ、関係大ありですよ」


いい事づくめ、なのはローランドだけで、

フランにとっては悪いことばかりな気がするのだ。

まず、自分をよく知っているフランは、艶やかであるとか、美しいであるとか賞賛されるポイントははっきり言ってない。


(美しいローランド卿の隣に並んでしまったら、絶対に笑われる。それくらい、鈍い私にだって分かる)


次にバンキンス家はしがない伯爵家だ。

中央とは無縁で野心もない。

なのに、突然、グリーンフィールド家のような家格の大きな家に嫁ぐとなると気苦労ばかりの人生が目に見えている。

フランも、リリアン同様現実的な人間である。


ただ、ローランドがフランのことを否定ではなく褒めてくれていることもわかる。

一の核時代の話をしても、ローランドは一の核生活時代のフランの積み重ねを、

貴重だと評してくれているのだ。

これは率直に嬉しかった。


「なにより、あなたは逃げ出しても、きちんと自分を手に入れて逃げずに戻ってきた人です。逃げずに戦える人。だから、あなたがいいのです。それに私の元に来て頂ければ、マダムアレクシアンの刺繍にいつも触れられますし、紹介も出来ますよ」

(うっっ、的確に私のツボをついてくる…さすがはやり手の方…でも、負けるわけにはいかない)



「今日は帰ります」


唐突に宣言すると、フランはまた、脱兎の如く逃げ出した。

その際、返すつもりのドレスをそのまま馬車に積んでいて、持って帰ってきてしまい、

「私はなんてお馬鹿なの」と後悔するのだが、それは後の祭りというものだった。


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