44.寂しいだけだから
あらすじ
ハルちゃんヘタレ疑惑。むしろヘタレ。
いつもの帰り道。茜差す中、私と涼は並んで歩いていた。私は結局、まだ明日のデートと今日こうやって送ってもらうことしか伝えられていない。どういった言い方でお泊りを申し込みしようか全く浮かばない。ていうか考えられない。
うだうだと歩き始めてから5分程、未だにお互い一言も喋っていないというなんとも微妙な空気が漂っていた。私が男だった時は何でもないくだらない話で盛り上がれたのに、今じゃこれだもの。少し寂しくなる。まあその時はこんなに意識したことないから当然か。
ちらりと、涼の手を見る。男らしいごつごつした手。私はそれがたまに、無性に恋しくなることがある。もちろん、女になってからの話。
「ねぇ、涼」
「ん、どうした?」
「手、繋ごうよ」
「……ああ」
すると、珍しく涼の方から私の手を取ってきゅっと握ってくれる。驚いて涼を見上げると、涼は肩を竦めて笑った。
「なんだ? 俺も繋ぎたいと思ってただけだよ」
「ん……そっか……」
はぁぁ……どうしてそういうことを不意打ちで言うかなぁ。嬉しくて死んじゃいそう…
いつのまにか絡んだ指から、涼の優しさが伝わってくる。私はこの指や手が、いつのまにか大好きになっていたみたいだ。
ふと、なんとなく昔のことを思い出す。
「私が愛に告白した時、涼に相談したの覚えてる?」
「ん? …ああ、そりゃあなぁ…あの時のハルはずっと頭を抱えて、恋愛経験もない俺に『どうしたらいい!?』ってずっと言ってたもんな」
「ははは、あれれ? そうだっけ?」
「そうだよ、清水はどう思ってるのかとか、自分でいいのかとかすごく考えてた。まあ、それで告白まで全く踏み切れなかったけどな」
その時の私を思い出しているのか、目を細めて薄っすらと微笑む涼。
「あは…今も昔も、あんまり変わらないね…」
ぽそりと呟く。すると、涼は首を傾げながら「なんて?」と聞いてくるので、私はふるふると首を振って「なんでもないよ」と答える。その返事を受けて、涼は肩を竦めつつまた視線を前に戻した。
「まぁ、俺はハルのそんなとこが好きだったよ」
「へ……? 好き……って?」
「ん? いや、そうやって相手の気持ちを必死になって考えたり、自分をなんとか高めようって頑張るハルを見たらさ、俺も頑張らないとなって思わされたんだよな」
「な、なにそれ…変なの」
「うん…まぁ、変かもしれないな。でもさ、俺はずっと友達も多くなくて、それをずっと、周りが俺と合う人間がいないからだ。なんて思ってたんだよ。でも、ハルを見て、それは違うんだなって思ってさ。周りの人がどうしたら笑顔になるか考えて、そのために努力するハル、俺はそんなハルが憧れだったんだ」
「ちょ、ちょっと……やめてよ、なんか恥ずかしいって」
「はは、でも、これは俺の本心だ。本当に、そう思うよ」
「あう……そ、そっか…」
涼がそんな風に私のことを思ってくれていたなんて、知らなかった。でも、そんなのまやかしで、私は今も昔もただヘタレているだけだ。周りから人が居なくなっていくのが、怖いだけ。
つい、握る手に力が入る。そんな私の反応に、何も言わずにきゅっとより力を入れて握り返してくれる涼の手。その手の温もりがじんわりと心に沁みていく。
私も、涼が大好きなのに。不器用だけど、優しくて包容力があってあったかいところが大好きなのに。伝えてあげたいのに。私はただ、私の本心を打ち明けるのを怖がっているだけなんだ。
気付けば、もう家に着いていた。随分しばらく無言で歩いていたらしい。いつかの日のように、すでにオレンジに燃えていた空は鳴りを潜め、無彩色に輝く小さな星がそこらに散りばめられていた。
「じゃあ…また明日、な。あとで連絡するよ」
私と涼の今日のお別れの言葉が贈られる。でも私は、まだ、あなたと一緒にいたい。
「待って……涼。ちょっとだけでいいから」
「……? いくらでも待つよ。どうした?」
抱き締めて。そう言えたら、きっと楽になるんだろう。でも、私は自分で思ってたよりずっとヘタレみたいだから、もう一度涼に、相談させてほしい。
「ね、涼…私は、さ。どうしたら、いいの…?」
私は涼の胸にぴとりとくっついてどこにも行かないように服をぎゅっと握る。我ながら大胆なことだと思う。
「なんか、あったのか?」
「うん……もう、わかんないの。私は、どうしたらいい?」
「……そのままのハルで、いいよ」
奇をてらった言葉じゃない。ただ、私を認めてくれる言葉。その一言で、私はここにいていいんだって思えるから。だから、涼も、一緒にここにいて欲しい。
「………涼、一緒にいて」
「……いるよ」
「……寂しいから」
「……分かってるよ」
「……ほんと、それだけだから」
「……ああ、分かってる」
そんな、全然素直になれない私をそっと抱きしめてぽんぽんと頭を撫でる涼。ここまできてまだ素直になれない私。情けなさすぎる。私は涼に包まれてしがみつきながらぽそぽそと喋る。
「…今日は、一緒に寝よ」
「……それは、どうだろうな」
「…だめ、一緒に寝る」
「わ、わかったよ……」
「……一緒にお風呂もはいろ」
「………それは無理」
「…一緒に居てくれるって言ったじゃん」
「………うーん、それは、ちょっと違うなぁ」
「違くない。それとも、やなの?」
「………わかったよ。その代わり、なにされても恨むなよ」
「……涼にできるの?」
「…………そう言うなよ」
ま、してくれたら嬉しいけど、ね。それは、言わないでおこう。
何もいうことはありません。あとは走り抜けるだけです。
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