15.二時間彼女
あらすじ
このハル様が二時間だけ彼女になってやんよ!
「なぁ、涼!この二時間だけ、お前は私の彼氏な!」
満面の笑みでそう告げるハル。涼は『何を言ってるんだ』という気持ちを全く隠さない顔をしていた。その顔を向けられたハルは意気揚々と説明し始めた。
「ほら、涼ってどうせ誰とも付き合ったこともないだろうし、奥手でしょ?だから、私が涼の練習台になってあげるって言ってるの。『男だった』私なら、緊張しなさそうじゃない?」
正直涼には、何がどうしてその考えに至ったのかがさっぱりわからなかった。ハルは考えに至ったらすぐに実行する性格なのは知っている。ただ、その思考回路まではいつもよくわからない。
「いや、別に、彼女がいなくても困ってないんだけどな…」
「今困ってなくても、いつか困る時が来るよ。私なんて困る未来しか見えないし…。」
と、遠い目をするハル。なんだか分からないが、ひとまず付き合ってあげるのが良さそうだ。
「そしたら…ん!」
そう言いながら手を差し出してくるハル。なにか欲しいものでもあるんだろうか?こんな時にいつもハルが欲しているものがあったか?
涼がその手の意味を考え込んでいると、ハルがじとーっとした目を向けていた。
「いや、彼女がこうやって手を差し出してきたらひとつしかないでしょ。手繋ぐんだよ。へたれなの?涼は。」
「…それは考えつかなかったな…。」
涼が呆気に取られていると、もうっ。と口を尖らせながらハルが涼の手を取った。
「どうせ私の中身なんか『男』なんだから。女子に触れたこともないような涼に女慣れさせてあげるって言ってるの!」
「お、おう…?ありがとう…?」
「まったく…そんなんじゃ彼女、一生できないよ?」
別に欲してない。なにせイメージなんかわきゃしない。でも、ぶつぶつ文句を垂れながらも自分のことを考えてくれる親友に、少しは付き合ってみてもいいかと思った。
「じゃ、ここからはリードしてね?私を彼女だと思ってさ。」
そう言いながら拗ねるハルがなんだか可愛く見えて、思わず頰が緩んでしまった。
「はいはい、わかったよ。」
頬が緩んだまま微笑みかけると、こっちを見ていたハルの表情が一瞬固まってそのままそっぽを向いてしまった。何か機嫌を損ねるような事を言ったのかもしれない。
…しかし、ハルはこんなに表情豊かだったか?今まで一緒にいたが、こんなにも拗ねたり笑ったりというのもあまり見たことがなかったな。
そんな事を考えていた涼は、ハルの耳が真っ赤になっていることには気付かなかった。
「それで?本を探しに行くんだったか?」
「あ…う、うん。そうそう、早く行こっ?」
そう言って微笑みかけてくるハルを見て、ようやく機嫌を直してくれたな。と安堵した。
そして手を繋いで歩いていることに、涼はむず痒さを覚えながら二人並んで書店へ向かった。
着いた書店は、モールの中にしては広いものだった。中にはス○バまで入っている。ひとまずはお目当ての本を探しに行こうということになった。
ハルが楽しそうに本を選んでいるところを横から見ていると、なんだか本当に彼女と来ているみたいで少し不思議な感覚がした。…まぁ、ハルなんだけどな。そう思いながら心の中で苦笑していると、
「これ面白そう!これにしよー。よしっ、ちゃちゃっと買ってくるから、涼はその辺で待っててくれ!」
そう言ってハルはレジに早足で向かって行ってしまった。
とりあえず、俺はマンガでもみてみようかな…。そんなことを考えていると、ブブーッとスマホが震えた。画面には『優也』の文字。なんだろうかと思いながらトーク画面を開く。
『デートは順調か?』
…すごく余計なお世話だった。いやにニヤニヤしている優也の顔まで幻視した。こいつは無視でいいだろう。スッとタスクキルをしてスマホをしまっていると、ハルが小走りで帰ってきた。
「おまたせー。ねぇ、コーヒーでも飲んでく?」
「そうだな。少し休憩していくか。」
そう言ってス○バの方へ歩き出す。涼はさりげなく、ハルの持っている本の袋を取った。すると、ハルは驚いたように顔を上げて、すぐにニヤニヤと笑った。
「いやー、気が利くね。これは私が彼女をやる必要もなかったかな?」
からかうようなハルの表情になんだか居たたまれなくなって、「うるさい。」といいながら少し早歩きでス○バへ向かった。「冗談だよー。ごめんってば。」とおどけたように言って、ハルは後ろをついてくる。そして自然に繋がれた手に、少しドキドキした。
なんだか今日は、調子狂わされてばかりだな…。涼は静かにため息をついた。
1日目から進展しすぎのような気もしますが、問題ありません。私は可愛い二人を書きたいんです愛でたいんです。
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