ヘンテコ・ヘッド
「全滅・・・だと・・・!?」
最後の4匹がエリーに吹き飛ばされた直後、カメラに映った光景を見て俺はダンジョンコアの前で崩れ落ちた。いやぶっちゃけ9割くらい全滅するだろうなぁって思ってたけどしかし内容が酷かった。
「攻撃能力皆無・・・っ!!圧倒的皆無!!!」
そうなんだ・・・攻撃力がまったく無かった。まさかのゼロ、イチぐらいはあるだろうと思ったがイチですら無かった・・・。あの時、4匹で製作者のメルに対して攻撃を仕掛けた。もちろん俺達の糧になってもらおうと全力で攻撃命令を出したが攻撃とすら認識してくれなかった。それどころかメルに遊ばれる始末!くっそぉ!!目の保養にはなったが悔しいなぁこれ!!!なんだよぽふ!って!あいつらまじでぺらっぺらだった・・・重量すら無く突進させてみても女の子一人すら動かせなかったわ!!そしてなにより
「エリーの奴容赦ねえ!俺のモンスターって認識しつつメイスフルスイングしやがった!!」
ハジメもまたメルを襲ったので同レベルであるが本人は気づかない。
「くそぅ・・・少しぐらい手心ってもんを入れないか?普通・・・まあいいや、色々わかったしな」
そう、今回の戦闘は惨敗だったが必要な事でもあった。まずカメラ越しでも相手の情報を見る事ができたのが大きい。ますます創造者が有利な気がするがそれはおいておこう。ざっとメルの情報を見た感じだとこんな感じだった。
<キャラクター情報>
名前:メル
クラス:製作者
職業:なし
<所持スキル>
<薬製造*2><鑑定*2>
完全に生産寄りのスキル構成、しかも防具は俺と同じ布服だったわ。つまり完全にヘンテコ達の火力が足りなかった、あれを火力と言っていいのかわかんねえのが困るが・・・。そしてカメラ映像だけでは無く、音声も俺には聞こえていた。エリーの奴全部聞こえてたからな?しょっぼって言ったの聞こえてたぞいつか仕返ししてやる。
「しかしメルの居る所に辿り着くまでに5匹死ぬとは思わなかったよ・・・」
震え声で俺はそうダンジョンコアに向かって呟いた。そう、メルの場所に到着したのは4匹である。他の5匹は別の冒険者を襲っていたんじゃないのかって?何を言ってるんだ、あいつらは道中で立派な生き様を見せてくれたよ?
「2匹は石に躓き体制を崩した拍子に頭部を強打し爆散、2匹は木の枝に引っ掛かり体が破れ爆散。そして1匹は転んで後ろを走っていたヘンテコに踏まれ爆散・・・それを無言で見ていた俺の気持ちを誰かに投げつけてやりたい」
今回の死因の半分以上が戦闘以外っていう驚異的事実にお気づきだろうか?ギースの作り出したシザースに復讐する前にまずヘンテコ達をなんとかしねぇとだめだこれほんと。これじゃぼくのかんがえたさいじゃくのかいじゅうじゃねえか!!
「くそぉ・・・とりあえず何かできないか試してみるか・・・。登録モンスターからヘンテコ選択してっと」
調子を取り戻しながら俺はヘンテコを選択して情報ウィンドウを出してみる、何かできねえかな?って意識してみると実行メニューが出てきた
<モンスター実行メニュー>
・強化
・スキル習得
・削除
「お?もろに強化ってあるじゃねえか、他は大体分かるけどこれなんだろうな・・・選択してみるか」
<ヘンテコの強化を実行します、イメージが完了したら実行ボタンを選択して下さい>
おいこれもイメージかよ!強化っていうよりあれか?何か特徴増やせるみたいなそんな感じだろうか・・・試しに角生やしてみよう。捩れた角をイメージしてみるか・・・これぐらいならできるぞぉ!頭に角!頭に角!頭に角!・・・・・・そして実行ぉ!!
<強化コスト:DP10>
<強化が完了しました、モンスター情報を開示します>
<創造モンスター情報>
名称:ヘンテコ
種族:変テコな生物
HP:3
SP:4
維持DP:2
創造DP:6
位階:1
<習得強化>
・<捩れた角*1>
<習得スキル>
なし
DPを消費して強化してみるとコスト関連が全体的に上昇した。<捩れた角>も獲得したみたいだな、強化は別枠になんのか。
「おぉ・・・これは強くなったんだよなぁ!!よっしゃあ早速姿拝んでやるぜこいやぁ<変テコな生物創造*1>!!」
再度テンションが上がりつつある俺は軽く叫びながらスキルを発動させ、ヘンテコを作り出す。今までと同じように光の粒子が集まっていき、そしてヘンテコが現れた。
「がぁー・・・」
眠たそうな産声を上げる。そして容姿は、長めの尻尾に淡いピンク色のすべすべした体、手が無く2本の脚だけが聳え立ち、恐竜とは程遠いつぶらな瞳。そして・・・!!
「はっはぁ!!なるほどそう来たかってうっそだろおい!!!俺は額から伸びる角イメージしたんですがぁ!?」
新たに誕生したヘンテコには素晴らしい角が付いていた。付いていたぞ?形状はまっすぐな円錐が捩れた感じで見た目だけなら攻撃力は高そうだ。そして、その角は頭部の「左右」に1本ずつ、合計2本付いていた。長さは大体俺の腕の半分くらいだ、結構長いな。
「がぁ~♪」
「なんで嬉しそうなんだよ!ファンキーなヘッドホンしてるみたいになってんぞおいぃ!」
嬉しそうな顔しやがってくっそかわいいな。じゃねえよ!!どうやって攻撃するんだソレ・・・頭部に左右まっすぐに伸びてるから頭横に振りながら敵に当てないとダメじゃないか?すげえテクニカルな感じするんだが・・・。
「神よ・・・俺を見放したか・・・・・・いや、なら逆に俺はこの方向性すら凌駕してみせよう!!」
テンションがおかしくなってきた俺はヘンテコに対して今度はスキルを追加する。手順は大体一緒だった。・・・・・・よっし!イメージ完了ぉ!これでどうだぁ!
<スキルコスト:SP10>
安いなおい!まぁ運動や体の動かし方次第で再現できるからか?よくわからん、構うか実行だぁ!
<スキルを習得しました、モンスター情報を開示します>
<創造モンスター情報>
名称:ヘンテコ
種族:変テコな生物
HP:3
SP:32
維持DP:20
創造DP:21
位階:1
<習得強化>
・<捩れた角*1>
<習得スキル>
・<ヘッドスイング*1>
ヘッドスイングである。もう一度言おう、ヘッドスイングである!!イメージしたのは横の動きを主軸にした頭の動きだ。これスキルで必要かだって?わからん、半分悪ノリで増やした。つかコストとSP上がりすぎだろこれ、スキルの方がコスト重いんだろうか。てか恐竜の体格に頭部に生えた真横に伸びる角ってすげえシュールなんだけど。かわいいけどな?
「あとは・・・問題のHP3か。こいつはどうしたもんか・・・取り合えず体の中身詰めてみるか、どう考えてもぺらっぺらだったからな」
中身が無いのはハジメのイメージが足りなかったせいだが本人は気づかないだろう。
さらに同じ手順で強化を実行する、あまり無茶な強化をしようとすると残りのDP的にきっついな・・・あと16しかねえ。・・・ちなみに中身を全部「鉄」にしてみるとどれ位コスト掛かるんだ・・・イメージイメージ・・・。
<強化コスト:DP6200>
たけえ!!やっぱ鉄とかにするとダメなのか、じゃあ「石」ならどうだ!
<強化コスト:DP560>
っぐ!大分下がったがまだ高いな、なら「土」は!?
<強化コスト:DP100>
もう一声だぁ!!「砂」は!?
<強化コスト:DP88>
そんな変わらん・・・。!?、じゃぁ「肉」ならどうだぁ!!
<強化コスト:DP820>
なんで石より高えんだよ意味わかんねえ!!くっそならもう綿でいいよ綿で!
<強化コスト:DP20>
足らねえっ!!って思ったけどもう4分以上経って回復してるわ、現在DP21でギリ足りるな・・・これでいいや実行だ!空っぽよりマシだろう・・・。
<強化が完了しました、モンスター情報を開示します>
<創造モンスター情報>
名称:ヘンテコ
種族:変テコな生物
HP:15
SP:36
維持DP:30
創造DP:30
位階:1
<習得強化>
・<捩れた角*1>
・<体内:綿*1>
<習得スキル>
・<ヘッドスイング*1>
強化が完了した途端、既に創造していたヘンテコの体が、どっくんという重い音と立てて一瞬拡縮した。驚いた俺はすぐにヘンテコに近づき、体を触ってみる。すっべすべ。
「おぉぉ!明らかに弾力が違う!!たぶん中にそのまんま綿が入ってるんだろうな。空っぽのぺらぺらよりは良いだろこれ、ていうか枕にしたくなってきた」
「がぁ~」
実際にヘンテコを座らせて枕にした俺は寝転びながらウィンドウを再確認する。少なくともHP15は最初期のプレイヤー1人以上のHPだ、これで何人かは倒せるはずだろ。体の中に綿が入ったおかげで防御力が多少なりとも上がっている事に期待しようか!そしてふと登録モンスター一覧にも変化が起きている事に気づく。
<キャラクター情報>
名前:ハジメ
クラス:創造者
職業:なし
体力:10
SP:41
MAXDP:70[-30]
DP:6
生成DP:1
登録モンスター
・変テコな生物・ヘンテコ
・ヘンテコ
・ヘンテコ
・ヘンテコx1
<所持スキル>
<変テコな生物創造*1>
「あれ、名前被ってるなこれ。どうなってんだ?」
最初と最後のヘンテコだけウィンドウを開いてみる。
<創造モンスター情報>
名称:ヘンテコ
種族:変テコな生物
HP:3
SP:1
維持DP:1
創造DP:1
位階:1
<習得スキル>
なし
<創造モンスター情報>
名称:ヘンテコ
種族:変テコな生物
HP:15
SP:36
維持DP:30
創造DP:30
位階:1
<習得強化>
・<捩れた角*1>
・<体内:綿*1>
<習得スキル>
・<ヘッドスイング*1>
これあれか、強化とスキル増やした段階で[変テコな生物]ツリーが増えていくパターンか。つまり自分の好きなスキル構成の生物が呼べるみてえだな。種族を増やすには高いコストが要求されるが同じ種族を強化していくって考えると安く済むってとこか?近距離タイプと遠距離タイプに分けて作っておくのも戦略が広がっていきそうだ。
「とりあえずこの二種類以外のヘンテコは登録から消しておこう、そして一番新しいヘンテコは名前変えような、紛らわしいから」
<変更を受理、名称が変更されました>
<キャラクター情報>
名前:ハジメ
クラス:創造者
職業:なし
体力:10
SP:41
MAXDP:70[-30]
DP:3
生成DP:1
登録モンスター
・変テコな生物・[ヘンテコ]
・[ヘンテコ・ヘッド]x1
<所持スキル>
<変テコな生物創造*1>
整理してみるとこんな感じになりました。結構すっきりしたんじゃないか?長くなったが・・・準備は整ったぞ、さぁ復讐じゃあ!!DPの回復なんか待ってられるか!突っ込めヘンテコ・ヘッド!!
「マップで確認っと・・・くっそ、こんな時に限って孤立してる生物いねえな。今度は勝ちたいんだが・・・いや、どんな人数でも関係ねえ!お前ならやれるぞヘンテコ・ヘッド!!」
「がぁー?」
「お前はわかってるのか・・・?まぁいいや!暴れて来い!『目標の生物達に襲い掛かれ』」
「がぁぁー!!」
そう雄叫びを上げたヘンテコ・ヘッドは、中身に綿が入ったおかげなのかさっきより走る姿勢が安定しており、速度も上がっているように思える。茂みに入る瞬間、木に頭の角が引っ掛かって態勢を崩し俺はひやっとしたが、すぐに持ち直して頭を振って通り抜けていった。あれで爆散してたら俺は泣いてた。
街から南西の森、その少し手前の位置。ハジメが最初にシザースに遭遇した場所で現在、三つ巴の闘いが繰り広げられている。片手に銅製の剣を持ち、もう片手には木製の盾を持ちながらアーサーは2匹の怪物と戦っていた。
「なかなか手強いね・・・、北門周りは余裕だったんだけ・・・どぉっ!!」
言い終えると同時に目の前で鎌を振り下してきたシザースの斬撃を、アーサーはタイミングを合わせ盾で押し返す。
「キイイイイ!」
押し返したと同時に、今度は左から毛玉が回転して攻撃してくる。この毛玉の毛は非常に鋭くまともに受けるのはまずい。
「あぶないねっ!!」
アーサーはそれにも反応し、剣で毛玉を弾いた。
「キシャアアアアアア!」
毛玉が弾かれて中に舞った瞬間、シザースの鋭い攻撃<裂傷*2>が毛玉に襲いかかる。
「キイッ!!!」
毛玉が空中で<ステップ*2>を発動させ、高速で地面に着地する。
「もらったぁ!!」
アーサーがその隙を待っていたと言わんばかりにシザースへ<突き*1>を繰り出す。
「キ・・・シャアッ!!」
シザースは<速度上昇*2>を使いアーサーの突き攻撃を己の鋏で受け切った。
「まったく・・・かれこれ20分ぐらい戦ってるんだけどそろそろ諦めないかい?というか手強すぎ。こっちは北門より強いけどそんな強い奴は出ないって聞いたんだけどね」
そう言いながらアーサーは再度、両方のモンスターを再確認する。
<モンスター情報>
名前:シザース
製作者:ギース
位階:1
<習得スキル>
・<裂傷*2>
・<速度上昇*2>
<モンスター情報>
名前:ハリモン
製作者:みなみ
位階:1
<習得強化>
・<体毛鋭利化*2>
<習得スキル>
・<ステップ*2>
「なかなか・・・燃えてくるよ」
構え直そうとしたが前の二匹の様子がおかしい。急に動きが止まり、2匹はシザースの背後に注視している。これはチャンスと思いアーサーは体に力を入れようとしたが、シザースの背後から走ってくる異様な生物を見て固まった。ピンク色のナニカがこっちに向かって走ってくる。
「なんだいアレ・・・」
取り合えずモンスター情報を見よう、他の二匹は止まっているが何をしてるんだろう。僕にはわからない。
<モンスター情報>
名前:ヘンテコ・ヘッド
製作者:ハジメ
位階:1
<習得強化>
・<捩れた角*1>
・<体内:綿*1>
<習得スキル>
・<ヘッドスイング*1>
「なんか弱そうだね・・・変な角生えてるし」
率直な感想だった、あと数秒で接触するヘンテコ・ヘッドを見ているとどうやらシザースとぶつかるつもりらしい。この三すくみにもいい加減飽きていた所だった、僕は目の前の毛玉に集中しようか。
「キシャアアアアア」
真正面から突っ込んでくるヘンテコ・ヘッド。シザースは何の警戒もせず、タイミングが合うように垂直に鎌を振り下ろした。
そして、ヘンテコ・ヘッドの頭部がブレた。
「え?」
横目で見ながら毛玉に攻撃しようとして僕は息を呑んだ。正確には見ていなかったが僕の視界の隅で確かにヘンテコ・ヘッドの頭部は消えた。そして次の瞬間
「キ・・・シャ・・・アァ・・・」
ヘンテコ・ヘッドの捩れた長い角が、シザースの上半身の一番細い所に突き刺さっていた。だがそれで終わりではなかった、そのまま首の勢いは止まらずシザースの胴体を勢いだけで引きちぎった。そのままシザースは爆散した。
「マジか!!」
余り使わない言葉を口にしながらアーサーは一気に距離を取る、相対していたハリモンは対象を変えたのか<ステップ*2>を使用しながら高速でヘンテコ・ヘッドへ近づいていき、その体毛を生かした回転攻撃でヘンテコ・ヘッドを狙う。そしてまた、今度は先程よりも明らかに頭がブレた。さっきより確実に早い!!
「・・・キッ・・・」
動きの量の差だろうか、首だけ動きの圧倒的な速度でヘンテコ・ヘッドはハリモンを捉え、頭部の横の角で正確に突き刺した。体が小さいハリモンはそれだけで致命的だったのだろう、静かに光の粒子となって消えていった。
「いや強くね?」
俺は戦慄していた、ぶっちゃけまた殺られるだろうと思っていたのが嬉しい大誤算って奴だ。シザースに関しては馬鹿正直に縦に鎌を振り下ろしてきたから、ヘンテコ・ヘッドの頭の動きだけで回避してそのまま胴体へ流れるように攻撃が入った。見事なカウンターだったと思う。そしてシザースを倒した直後、俺は手に入ったSPを使って<ヘッドスイング>のランクを上昇させた。たぶん上昇させなかったらハリモン倒せなかったな。余りにも強化した内容とマッチしてたから何も考えないでランク上げちまったわ。
「半分ネタだったんだが・・・まぁいい!残るはあいつか」
<キャラクター情報>
名前:アーサー
クラス:冒険者
職業:なし
<所有スキル>
・<殴打*1>
・<突き*1>
・<受け*1>
・<一刀必殺*2>
「普通に強そうなんだが、スキルの数多くね?あれSPいくつぶんかな・・・1000ぐらいか?」
そんな事を考えながらカメラを見ていたら、アーサーが明らかに今までとは違う構えになっていた。
「あ、すげえ嫌な予感がする。『下がれ』」「<一刀必殺*2>」
カメラの音声から、アーサーの声が聞こえた。その直後アーサーの手から剣が消え、そしてその瞬間ヘンテコ・ヘッドは真っ二つに切断されていた。そしてカメラが閉じられる。
「まじかよつええええええ!!何が起きた!?」
<システムメッセージ>
<シザースを倒しました:獲得SP50>
<ハリモンを倒しました:獲得SP55>
<ヘンテコ・ヘッドがアーサーに倒されました>