表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
十章 少年の食罪
83/100

74 二枚の予告状、二人の賭け

 それからローズはすぐに、顔を上げた。


「考える時間の方が無駄ね。やれるだけやってみましょう。わたしは司令室に行ってベルクを助けるわ。それが終わり次第、フランに駅に来るよう司令を送るわ。あなたはできるだけ駅周辺でサキュバスを引きつけて。絶対美術館には来させないで」

「分かった。それともう一つ、アフター・ヘヴンは今どうなってるんだ? さっきサキュバスが、催眠術が使えないとか言ってたんだ」

「順調に進んでいるわ。ミルフィさんの話だと、わたしたちの予想通り、弱体化したサキュバスが現れたそうよ。それでロザリアとレンが何体かの悪魔を鼓舞して抑え込んだとか。でももう一つは一筋縄でいかないと思うわ。あなたもそれに頼らないで」


 もう一度外に出ると、ローズも出てきた。

状況は先程と変わらない。


「じゃあわたしは行くわ。それと、わたしからの贈り物よ。本当はベルクを介して渡そうと思ってたんだけど」


 そう言ってローズは手に持っていた袋を投げた。

その瞬間、地面の下から細い腕が出てきて袋を掴んだ。

思わず後退すると、今度はサキュバスの上半身が出てきた。


「なぁに、これ?」


 早く行けと言うように、ローズに向けて手を振る。

ローズはすぐに踵を返して部屋から逃げた。

サキュバスはローズを見ようともせず、這い上がってきた。


「さては、わたしを殺す為の秘密兵器かしら?」


 ローズが何を持ってきたのかは知らないが、とにかくサキュバスに渡してはいけない。

鎌を拾っている暇はない。

セヴィスは素手でサキュバスの腕を掴む。

生物とは思えないような、冷たい感触が伝わってきた。


「そんなに抵抗されたら気になるわ」


 サキュバスが袋を持たない左手でタロットカードを出す。

避けるために手を離すと、サキュバスが袋を開けて中を見た。


「……こんな時なのに、彼女おかしいんじゃないの?」


 サキュバスは乱暴に袋を投げ返してきた。

中身を取り出してみると、エルクロス学園の制服が入っていた。

しかもS字がぶら下がっている。

間違いなく、家に置いてきた自分の制服だ。


「何でこれを……」

「正しい服装で戦うのが礼儀ってこと? あれもわたしの娘なんて信じられないわ」


 すぐに、自分の家がローズの家になっていることを思い出した。

しかしこれをわざわざ会えるかも分からなかった自分に持ってくる意図が分からない。


「でもちょうどよかったわ。サウスの服を着たきみと戦いたくなかったし。またかくれんぼをしましょう。わたしが隠れるまでに、それを着て探しにきてよ」


 そう言ってサキュバスは再び地面を通り抜けて消えた。

サキュバスを見失うわけにはいかない。

仕方なく要望に応じて、セヴィスは制服の袖に腕を通す。

久しぶりに着たものの、どうも右腕の辺りに違和感がある。

一度脱いで袖の方を見ると、何か光るものが縫い付けられている。

それを引っ張って外すと、黒い鞘に入ったナイフと、何故かフレグランスの予告状と同じ柄のカードが付いていた。


 カードには『命をいただく』としか書かれていない。

だがよく見ると、二枚くっついている。

一枚目を剥がすと見ることができるメッセージのようだ。


『一枚目はサキュバスに見られた時用よ。気にしないで。それでこの武器なんだけど、ウィンズのレシピが家にあったから、その通りに作ってみたの。光線は跳ね返せないから彼にとって失敗作だと思うけど、あなた向けはこっちのようね。武器の名前は「ジュエル・フレグランス」だそうよ』


 どちらもローズが書いたらしいが、かなり殴り書きだ。

ナイフを黒い鞘から抜くと、刃だけが透明だった。

鎌と同じ、ダイヤモンドで作られた武器のようだ。

しかもワイヤーまでついている。

セヴィスは刃零れが特にひどいナイフを一本ブレスレットから外し、代わりに黒ナイフを付けた。


 ウィンズは最初ヴァイオレットではなく、自分にサキュバスを討伐させようとしていた。

その時に作ったレシピなのだろう。

それをまだ残していたことに驚いた。


「……兄貴」


 セヴィスは二枚の予告状をポケットに入れた。


***


 刑務所は祓魔師の警官少人数で守っている。

人数が多いとサキュバスに気づかれる可能性を踏んで、あえてモルディオがそうした。

その精鋭たちに入り口を任せ、ハミルはミストと共にミルフィのいる牢屋にいた。


 ミストには、ローズが事情を説明した。

この場をハミルだけにすると、万が一悪魔が来た時に連絡する人間がいなくなるという理由らしい。

ミストはあくまで非常時でもアフター・ヘヴンの消滅を知らせる連絡役だ。


「アフター・ヘヴンってどんな気分なんだろ」


 鉄格子の向こうで、ミルフィが眠っている。

アフター・ヘヴン内に入るには眠ることが必要条件だ。

所持者は目を閉じて、魔力権を出す要領で集中すれば少しの間眠ってアフター・ヘヴンに入れるとローズが言っていたが、その通りらしい。

最もミルフィはそれを初めて実践したらしいが、念の為置いてある睡眠薬はまだ一度も使っていない。

そして、ミルフィが起きた時に中の事情を聞くのだ。


「夢に悪魔が出てくる、か」


 彼女の中では、ロザリアとレンが戦っている。

中で出てきたサキュバスを倒し、気絶させることを抑え込むと言うらしい。

一つ目のダイヤモンドは既に抑え込んだ。

もう一つは今抑え込んでいるところだ。

そしてそれが成功して次第、ジュエルバレットを飲ませる。

そうすればアフター・ヘヴンは消滅し、セヴィスの前にいるサキュバスも弱体化する。


 しかしこれが失敗したら、彼女は通過能力だけを持ったサキュバスに乗っ取られ、脱走してしまうだろう。

これはセヴィスとミルフィ、双方の命に関わる最大の賭けだ。


「人工は身体を乗っ取られたりするだけで、夢の中に入るわけじゃねえし。また違うもんな」

「どうした、ハミル」

「いや、何でもねえ」


 ミストに人工アフター・ヘヴンを得たことは一度も言っていない。

これは今後も秘密にするつもりだ。


「しかし、未だに信じられん。セヴィスが生きていて、サキュバスと戦っているとは……」


 ミストは怪盗フレグランスの正体を知らない。

自分で捕まえて調べるから教えるな、と言って聞かなかったらしい。


「親父はあいつのこと馬鹿にしすぎなんだよ。一回殺されかけたサキュバスに立ち向かうなんて、普通できねえよ。あんな美人まで落としてさ」

「美人? 誰だ?」


 このおっさん、アフター・ヘヴンが効かねえのか。

それとも好みのタイプじゃないとか。

ハミルは首を傾げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ