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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
十章 少年の食罪
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73 サキュバスと魔力権

「魔力権は元々わたしと子供たちのものよ。無効化がなくたって、人間の威力なら全然平気なのよ」


 サキュバスの口調が少し冷たくなってきた。

退屈になってきているのだろう。


「祓魔師の魔力権は、きみの両親が子供たちを利用して作ったものに過ぎないわ。チェルシーちゃんみたいに悪魔並みに使いこなす子もいるけど、基本的には劣った模造品よ。全く、ラスケティアの血は親子揃って盗むのが好きなのね」

「チェルシー……?」


 チェルシーと聞いた途端、頭の中に何かが閃いた。

サキュバスの嫌味が聞こえなくなるくらい、頭が回転し始めた。


 思い出したのは、チェルシーがトーナメントの時に使っていた水壁だ。

あれなら、光線を防ぐことができるかもしれない。

しかし、チェルシーがどこにいるか分からない。

会ったとしても、クラスメートに似ているだけの見知らぬ人間に力を貸すだろうか。


 モルディオかハミルにこのことを伝えれば、チェルシーに伝わるかもしれない。

しかしサキュバスは司令室に悪魔を送り込んでいる。

ハミルの方がいいだろう。


「さあ、かくれんぼの続きをしましょ。あ、鬼ごっこだったかしら? きみがもう一度鬼よ」


 とりあえずハミルに連絡できる距離が必要だ。

セヴィスはサキュバスと逆方向に走り出す。


「ちょっと、鬼はきみよ?」


 サキュバスの言葉を無視して、窓ガラスを割る。

それから今いたビルから別のビルに飛び移った時、セヴィスは目を疑った。

美術館へ向かう大通り。

そこに、一人走るローズの姿があった。


「ローズ……!」


 ローズがこちらを見上げる。

後ろを見ると、サキュバスが既に目の前にいた。


「そうね。順番的には、わたしが鬼だったわねぇ」


 サキュバスは下にいるローズを見た。

ローズが身構える。


「そんなところで何してんだ! 早く逃げろ!」


 サキュバスの意識を少しでも逸らすべく、セヴィスは鎌をサキュバスに投げる。

サキュバスはそれを避け、両手を広げる。


「それはハミル君が……わたしが司令室に行ってベルクを助けるわ!」

 とローズは言う。

彼女なら、チェルシーの水壁が通用するか分かるかもしれない。

しかしそれにはサキュバスが邪魔だ。


 案の定、ローズの周囲に五体の悪魔が生み出された。

セヴィスは悪魔たちにナイフを投げて、電撃で動きを封じる。

ナイフが当たらなかった悪魔は、ローズが衝撃波で倒した。


「彼のことはわたしに任せなさい!」


 そう言ってローズはまた走り出す。


「ちょっと待て!」


 セヴィスは上の電線にワイヤーを巻きつけて飛び降りる。

そのまま走るローズの腰を鎌を持った左腕で抱えて、向かい側のビルのガラスを割って中に入る。

そして誰もいないビルの一室でローズを下ろし、奥に走る。

ローズは状況を理解したらしく、黙ってついて来た。


 サキュバスは物質を通り抜ける。

小さい部屋に隠れるより、分かりにくい物陰に隠れた方がいいだろう。


「こんな場所を選ぶなんて、さすがフレグランスね」


 二人が隠れた場所は、隅の机の下だった。

注意深く見れば分かる場所だが、サキュバスは虱潰しに探すような悪魔ではない。

多くの部屋を通り抜けて適当に探すような悪魔だ。


「それにしても、人を随分ぞんざいに扱うのね。鎌の刃が擦れそうだったわ。ミルフィさん以外の女にはみんなこうなのね」


 サキュバスがいなくなって安心したのか、ローズは悪態をついている。


「俺はアンタが嫌いだから、ぞんざいなのはアンタだけだろ。どうしてここに来た? アンタは刑務所にいたんじゃないのか」

「ベルクを助けることは、ハミル君に頼まれたことなのよ」

「ハミルが? サキュバスが司令室に悪魔を送り込んだことを知ってたのか」

「美術館からの指示が送られていない、つまり彼に何かあったとハミル君は踏んでいたわ」


 やはり、時間がない。

早くサキュバスを倒さないと、彼の命も危ない。


「それでサキュバスの魔力権なんだけど、少し引っかかるところがあるわ。さっき、サキュバスがわたしを攻撃した時、五体程の悪魔が突然現れた。変だと思わない?」


 ローズは外に出たまま聞いてきた。


「別に変じゃないだろ。サキュバスは悪魔を生み出す魔力権を持ってるんだ」

「でもさっきの悪魔は服を着ていたし、武器も持っていた。ジェノマニアが戦争に勝利したのは、サキュバスが出来てから十年後だったとベルクに聞いているわ。つまり、悪魔は成長するまで時間が掛かるのよ」

「じゃあさっきの悪魔は何だって言うんだ」

「サキュバスの、解明されていなかったもう一つの魔力権……空間移動じゃないかしら」

「空間移動?」

「相手をテレポートするの。意思伝達同様、その相手が許可しないとできないわ。未来予知程じゃないけど、珍しい魔力権よ。でも消耗が激しいから、何度も使うことはできない。いくらサキュバスでも、五体も同時に召喚したら、続けてはできないと思うわ。わたしも一度しか見たことがないから、確証は持てないけど……」


 これが正しいのならば、サキュバスの魔力権が全て明らかになったということになる。

未知の能力に怯える必要もなくなった。

後はチェルシーの魔力権が通じるかどうかだ。


「そうだ、チェルシーの魔力権はサキュバスに通用するか?」

「フランの魔力権? 分からないわ。サキュバスだって今見たばっかりなのよ。そもそもサキュバスに魔力権は効くの?」

「効かないわけじゃない。でも俺ぐらいの威力じゃ駄目だ」


 セヴィスは一度机から出て、サキュバスがこの部屋にいないことを確かる。

それから物音を立てないように戻る。


「確かにフランの魔力権は凄いけど、フランは集団相手の重要な戦力よ。あなたは彼女がどこにいるか、知らないでしょう? まあ、わたしがベルクの立場だったら、フランを避難所前に置くと思うわ」


 モルディオとローズの思考回路はかなり近い。

チェルシーは避難所にいる可能性が高いだろう。

しかし、避難所はいくつもある。

セヴィスも全ては把握していない。


「ここでフランが抜けたら、確実に犠牲が増えるわ。もし水弾が効かなかったら最悪よ」

「水弾じゃない、水壁が効くか聞いてるんだ」

「水壁は防御用でしょう? まさか、それで光線を跳ね返せると思って」


 ローズは腕を組み、考え始めた。

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