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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
十章 少年の食罪
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72 光と刃の交錯

 ハミルは来た道を走りながら、セヴィスと同じ嫌な予感を感じ取っていた。

広い道に、少なすぎる祓魔師。

明らかにおかしい状況だった。


 モルディオが眩暈を訴えていたことも引っかかる。

休んでいろとは言ったが、モルディオはこの事態で休むような人間ではない。

もし彼が倒れると、事態はさらに最悪なものとなる。


「ローズ! そっちに悪魔はいるか!」


 ハミルはローズに電話をかける。


『今のところはゼロよ。サキュバスは多分、ミルフィさんを視野に入れていないわ。いえ、セヴィスの相手をしていてそれどころではないのかしら』


 ローズは冷静に答えた。


「それならよかった! ローズ、今すぐ美術館の司令室に行ってくれ! 何か、嫌な予感がするんだ!」

『どうしたの? 何かあったの?』

「美術館からの指示が送られてないんだ! 多分、あいつに何かあったんだ! 頼む、司令室に行ってくれ!」

『何を言ってるの? わたしは祓魔師じゃないのに』

「モルディオと頭で対決できたのはお前だけだ! あいつの代わりができるのも……」

『代わり……分かったわ。でもここはどうするの?』

「おれが今からそっちに行く!」


 ハミルは電話を切り、全力で走る。


***


 サキュバスは空中から光線を放ってくる。

空中では避けられないので、セヴィスはワイヤーで引き寄せた障害物をぶつけて攻撃を防ぐ。

ナイトメア・カタルシスを背中に巻きつけ、サキュバスを追いかけることだけに専念していた。


 サキュバスに追いつけず、いつの間にかクレアラッツに入ってしまった。

催眠術は封じられたようだが、通過能力は厄介だ。

どうしても遅れを取ってしまう。 


 候補生たちが誘導してくれたのか、人は一切いない。

セヴィスは空中移動をやめ、地面に着地する。

元々逃げることに特化した足だ。

空中よりも速さは上げられる。


 遠くのビルの屋上で、サキュバスが降り立つのが見えた。

すぐに追いつくと、サキュバスは高らかに笑い声をあげた。


「ふふふ、かくれんぼの続きねぇ。それとも鬼ごっこかしら? 今度はきみが鬼よぅ」

「誰もするなんて言ってない」

「防衛線を破った悪魔には、先に司令室に向かうよう命令したわ。早く見つけないと、先にモルディオが死んじゃうわよぅ。彼が死ぬまでが、タイムリミットかしら」


 サキュバスは魔力権を発動し、地面を通り抜けてビルの中に消えた。


「クソが」


 建物の中は危険だ。

サキュバスがどこから出てくるか分からない。

辺りを見回すと、向かい側にあるビルの方が高い。

セヴィスはサキュバスに見えないように後ろの道路に回り込み、ワイヤーを使ってそのビルの屋上に上る。

この場所なら、サキュバスがビルから顔を出した瞬間を狙える。


「……っ?」


 その瞬間は、すぐに訪れた。

サキュバスは自分を挑発しようとしたのか、窓から身を乗り出し、そのまま窓を通り抜けて外に出てきた。

セヴィスはすぐにナイトメア・カタルシスを持ち、ビルから飛び降りる。

そして空中から大鎌を振り下ろす。


「甘いわよぅ!」


 サキュバスはタロットカードを剣のように繋げ、大鎌の攻撃を受け止めた。

鎌の形状のお陰で腕に軽い怪我を負わせることができた。

しかし相手はカードなのに、シンクの力と落下の勢いを利用しても、致命傷まではもう少しのところで届かない。


「あらあら、見つかっちゃったわねぇ」


 剣状になった全てのタロットカードから、光線が放たれた。

ナイトメア・カタルシスが光線のほとんどを反射したが、その威力に負けてビルに吹っ飛ばされる。

自分の身体が窓ガラスを突き破って、誰のものかも分からない机を壊し、書類が散らばった。


 あれはおそらく浮遊の魔力権の応用だろう。

魔力権でタロットカードを浮かせて、それで剣の形状を保っているに過ぎない。

しかしその一つ一つが強い。


「その髪の色はなぁに?」


 身体を起こすと、割れたガラスから中に降り立ったサキュバスが、首を傾げている。

おもむろに髪を触ると、吹き飛ばされた衝撃でサウスの変装が剥がれていた。

そして、髪が元より長い金髪になっていた。

それも完全な金髪ではなく、先端にいくにつれて元の紫色になっている。


 これはシンクの『宝石』を食べた影響だろう。

ハミルもグランフェザーの『宝石』を食べた時、目が金色になっていた。


「アンタを倒せるなら、手段を選ばない。それだけだ」

「あらそうなの。わたしは紫の方が好きだったなぁ」


 サキュバスがおどけて攻撃を中断している。

その間に考えろ。

どうすれば、この怪物を倒せる。

前と違って、傷をつけることはできた。

通過能力さえなくなれば、対等に渡り合えるかもしれない。

それまでどうする。

時間稼ぎか。

ただでさえ自分の為にモルディオが時間稼ぎをしているのに、それを長引かせるのはでくのぼうにも程がある。


 通過能力を消せるかは、ミルフィに懸かっている。

それに頼りすぎてはいけないと言われたばかりなのに、頼ろうとしている。

それは駄目だ。

サウスさえ死ななければ、もっと考える時間があった。

だがこれはシンクのせいではない。

二日後だったサウスの死を早めてしまったのは、あの場で話をしていた自分たちにも責任がある。


「俺は大切な友達まで食べたんだ。もう誰も、死なせはしない」

 と言って鎌を持ち、立ち上がる。


「モルディオは、きみにわたしの討伐を託したんでしょ?」

「それがどうした」

「今の祓魔師は悪魔の足止めしか考えてないように見えるわ。それで、もう何人も死んでるみたいねぇ。むしろ総攻撃で死者が出なかったのが驚きだったのよぅ。きみの言葉は既に嘘になってるわ」


 サキュバスの言葉はほとんど耳に入っていない。

せめて、サキュバスの標的が自分以外に向けば。

サキュバスの光線の威力を下げることができたら。

死んだ人間には、どれも叶わないことなのか。


「ほら、早くわたしを倒さないと」

「言われなくても殺す」


 セヴィスは鎖を握り締めて、鎌ごと振り回す。

サキュバスは軽く浮いて後退した。

その腹に向けてナイフを投げる。


「効かないって言ってるでしょう」


 無論ナイフはサキュバスを通り抜けて、後ろの壁に突き刺さる。

そこでセヴィスは魔力権を発動する。

グロウのノートに、サキュバスが無効化を持っているとは書かれていなかった。

だから効くかどうか、試してみたかった。


「ちょっと、ふざけてるの?」


 電撃は、確かにサキュバスに触れた。

しかし、ほとんど効いていない。

ナイフも戻ってきた。

この一連の動きは、全て無意味だった。

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