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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
九章 監獄の熱縄
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漆黒の衝動 -Magenta Fate- ④

 僕が十二歳になった時、千人いた子供たちは百人もいなかった。

『知』の連中が再び僕と同じ部屋で寝ることになった。

会ってすぐに、彼らはあの時のように僕を殴ろうとした。

それを予め知っていた僕は冷静に振舞おうかと思ったが、彼らに対して漆黒の衝動が収まるわけもなく、結果返り討ちにしてやった。

『知』よりもきつい『武』の訓練を受けていたせいか、彼らの動きが前よりも遅く見えた。

千人いた子供たちの中で、審議以外の場で一人を死に追いやったのは僕だけだった。

レイラが止めなければ、僕は他の奴らも殺してしまっていたかもしれない。

それ以降、僕とフランたちの間に張られた境界線はさらに濃くなった。


 審議でも、僕はかつての仲間らしき相手に手を抜くことはない。

訓練が厳しくなっても、夜中の訓練は欠かさず行い、自覚はなかったがどんどん強くなっていった。

遂に、僕がレイラ以外に負けることはなくなった。

一度フランが相手になったが、彼女は僕に怯えて戦おうともしなかった。

しかし黒スーツはフランを一目置いているらしく、殺さなかった。

確かにフランの魔力権を操る力は群を抜いて優れていて、僕以外の人間には負け知らずだ。

だから僕の贔屓と違って、嫌な目で見られないのだろう。


 僕を虐げていた連中が、悔しそうな顔をするようになって、怯えるようになっていった。

それを見ているうちに、自然に笑みがこぼれるようになった。

笑うようになったことで自信をつけた僕は、剣の訓練を楽しむようになった。

黒スーツすら怖くなくなった。

贔屓される弱者は歪んだ人間へと変わっていった。


 十三歳になって、子供たちは二十五人になった。

そして十四歳になった時、僕とフランとレイラだけが生き残っていた。

『武』『魔』『知』から一人だけが残るという状況だ。


 黒スーツはこれ以上殺すつもりはないらしく、審議を行わなくなった。

それに安心したのか、フランは元の明るさを取り戻しつつあった。

それでもフランの話し相手はレイラしかいない。


 そんなある日の朝、黒スーツが思わぬ一言を口にした。


「お前らの代わりとなるS級が現れた。だからお前らはもう用済みだ。どこへでも行け」


 最初聞いた時は、意味が分からなかった。

黒スーツたちが最強のS級祓魔師を育てたいことは、夜に何度も聞かされた。

でも、代わりってどういうこと?


「どういうことですか!」

「あたしたちより強い人が現れたっていうんですか?」


 僕とフランは黒スーツに詰め寄った。

レイラは黙り込んでいる。


「そういうことだ。ベルク、フラン、自由になれるのがそんなに嫌か」


 黒スーツの話によると、ウィンズという男が僕たちの代わりとなるS級を育て上げたらしい。

しかもウィンズは僕たちの遺伝情報から被害者の親を片っ端から調べ、家族まで特定した。

僕は家族に会える喜びから、ウィンズという人物や今まで育てられた理由を疑うことを忘れた。

僕がはしゃいでいたのを見たフランが思わず吹き出して、最後の最後に僕に話しかけてきた。


***


 三人の中で、僕は一番早く家に送ってもらった。

フランは僕に連絡先を書いた紙をくれたが、レイラは見向きもしなかった。


 それからフランはすぐに再会することになるが、レイラとは後に思わぬ形で再び対峙することになる。


 僕が黒スーツに下ろされた場所は、フリージア連邦の商業都市ランディーニにある病院だった。

森の中にあるような雰囲気を漂わせる病院は、『アスカ総合病院』という看板がよく目立つ。

これから僕は家族と一緒に暮らせて、黒スーツに怯えることもない。

それが、たまらなく嬉しかった。


 扉をノックすると、白衣の男女が出迎えた。

女の髪の色が僕と同じだったのを見て、彼らが家族であることを実感した。


「あなたたちが、両親……?」


 母さんが、涙を流して抱きしめてくれた。

父さんも頭を撫でてくれた。

僕も、レイラではなく、彼らの中で思い切り泣いた。


「おかえり、モルディオ」


 母さんがそう言った。

モルディオ? と頭の中で聞き返す。


「この家ではそれがあなたの名前なの。父さんがつけたのよ?」


 どうやら、元々つけられていた僕の名前らしい。

父の白衣にぶら下がる名札には『フルヴィオ=アスカ』、母さんには『ユウナ=アスカ』と書かれている。

つまり、僕の名前は『モルディオ=アスカ』。


***


 父さんは厳格な人物だったが、昔の黒スーツと比べると怖さのかけらもない。

僕が帰ってきてから一ヶ月は両親も甘かった。

父さんはこの病院を継がせたいのか、すぐに僕に勉強をさせてきた。

学校に行かせるのは十五歳からでいいから、それまでは父が勉強を見るというのだ。

それでも僕は死に物狂いで勉強していたから、学力に関しては文句は言われなかった。

僕が話さなければ、事件について問い詰めてくることもなかった。


「いい加減にしなさい!」


 ある日、父さんが僕を叩いた。

薬の勉強をしていた時だ。


「どうしてお前はすぐに殺すことを考えるのだ! 確かにこの薬は毒薬として使われていたが、今は治療の為に……」

「僕は思ったことを言っただけで、実際やったわけじゃない」

「モルディオ、お前は一体どういう育てられ方をしたんだ」


 今思うと、モルディオって変な名前だ。

小動物みたいで、無駄に長い。

モルかディオのどちらか片方でよかった。

おそらく父の名の響きを少し残したのだろうが、まだベルクの方が呼びやすい。

これではどっちが本名だか分からなくなりそうだ。


「辛かったら言わなくていいって、母さんが言ってたよ。それに余計な詮索をしたら殺すって、黒スーツに脅されたんじゃないの?」

「確かに生き残りがいることを少しでも言いふらしたら殺すと言われた。だからと言って、医薬品ですぐ殺す方法を考えるのは間違っている。これでは麻薬夫妻と同類だ」

「麻薬夫妻って……」


 その単語を聞いた瞬間、僕は忘れかけていた恨みを思い出した。

僕が強くなろうと決意した時、黒スーツが教えてくれた事実。

姉が僕を売ったことだ。

しかし、この家には僕と両親以外誰も住んでいない。


「知っているのか。ラスケティア夫妻は一時期話題になっていたが、最近は全く聞かなくなった」

「父さん、僕に姉がいたの?」

「何を言っている。……子供はお前一人だ」


 父さんは部屋から出て行った。


 それから姉イリア=アスカが写った家族写真を見つけるのは簡単だった。

どういうわけか、子供をなかったことにしようとするこの両親に嫌気が差した。

イリアとはこの後二度会うことになるが、二度目で彼女は自殺する。

そこで彼女が捨てられた理由を麻薬だということを知る。


 後になって思い出してみれば、ここで父さんがラスケティア夫妻の名前を出していた。

しかし僕は姉のことを聞くのに夢中で覚えようとしていなかった。

それを覚えていれば、未来はまた変わっていただろう。

でも、必ずしもそれが良い方向に転ぶとは限らない。

同じ苗字だという理由でセヴィス=ラスケティアを真っ先に疑って、もっと間違った方向に進んでしまったかもしれないのだから。

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