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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
十章 少年の食罪
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69 対峙再び

 三人が別行動を始めてから五時間が経った。

全ての指揮権を握るモルディオは候補生であることから多くの反論を受けたが、構わずに祓魔師を動かしていた。

美術館に集められたジェノマニアの全祓魔師と、ジョフェンが呼んだ海外のS級は、彼の指示で動き出した。

称号を持たない候補生は、一般市民の避難に駆り出された。


 祓魔師たちにモルディオは自身の魔力権を明かし、悪魔がジェノマニアに襲来するということだけを伝えた。

そして今まで隠していた理由を、『悪用されたくなかった』の一言で終わらせた。

祓魔師には不満が募っていたが、すぐ魔力権が立証されたので従うしかなかった。


 総攻撃の際にクロエが美術館に防衛線を張ったが、今回は違う。

モルディオは悪魔を倒すのではなく、クレアラッツに入れないことだけを考え、マグゼラからの道を全て封鎖し、そこに祓魔師を配置した。

全ての市民が避難するには、まだ時間が掛かる。 


 ほとんどの祓魔師は、これを総攻撃と同様のものと見ている。

死んだS級がサキュバスと戦おうとしているなど、無論誰も考えようとしない。


***


 セヴィスの家でナイトメア・カタルシスの制作を手伝っていたハミルは、ふと窓を見る。

既に日は沈み、夕方になっている。

ローズが言うには、思ったより早く進んでいるらしい。

最低限の手順で作っているので、あともう少しで武器は完成するそうだ。


 セヴィスが時間を稼いでいるが、それも長く持たないだろうと、先程モルディオが伝えてきた。

サキュバスが未だ気づいていないのは、偶然昼寝が重なったからだと彼は予想している。


 ハミルに任せられたのは、完成したナイトメア・カタルシスをセヴィスに届けることだ。

しかし、これもまた難題らしい。

もうすぐ夜になる。

そうなると、電気のない浜辺周辺は暗闇になる。

そこでモルディオは、常に電話を繋いでおくよう指示してきた。

未来を見て、悪魔に遭遇しないよう導いてくれるらしい。

だがそこまですると彼の頭も心配になってくる。

ハミルが武器を届けられないという、最悪の未来だけは回避しないといけないのは分かっているのだが。


「できたわ」

 と、ローズが言った。

隣を見ると、透明な大鎌が明かりを反射している。

石突の部分には、なぜか長い鎖がぶら下がっている。

その大鎌の隣には、ダイヤモンド製の小さな刃がある。

形はやけに整っているが、ハミルは余った部品と解釈した。


「さあ早く届けてきて! わたしはミルフィさんの様子を見てくるわ」


 手渡されたナイトメア・カタルシスは重かった。

ハミルはそれを肩に担ぐと、モルディオに電話を繋ぎ、家を出る。

外は既に暗くなっていた。


『大通りは駄目、地下を通って』


 言われた通り、地下道に入る。

いつも人で溢れているこの場所ですら、無人だった。


『地上に出た? そこから先は悪魔がいるから、迂回して』


 モルディオの声に従いながら、ハミルはクレアラッツを出た。

マグゼラまであと少しだ。

そう思って走ってきたが、街道を通っていないので道が分からない。

しかもここで、指示が聞こえなくなった。


「次は?」

『……』

「おい」

『……ごめん。ちょっと、眩暈がしただけ』


 さすがに彼の魔力権にも限界が来ているようだ。

ここまでずっと未来を見続けたのだから、無理もない。


「眩暈ってお前、大丈夫なのかよ! とりあえず方角だけ教えろ、あとはおれがなんとかする!」

『右に行けば海岸だけど……悪魔がいるかも』

「分かった! お前は一回休んでろ!」


 電話を切ると、一気に不安が押し寄せてきた。

でも、こんな不安に負けてはいけない。

何が何でも、セヴィスにこの武器を届けないといけないのだ。


 浜辺には着いたが、明かりはほとんどない。城のような建物は見える。

しかしここに来て、前方に人影が立ちふさがった。


「くそっ悪魔か!」


 ハミルは鎌を置こうとする。

すると人影は無防備で走って来た。


「ハミル」


 赤い服を着た見知らぬ人間が、ハミルの名前を呼んだ。

この声は、間違いない。


「よかった、間に合った!」

「ああ、サキュバスも気づいてないのかわざとなのか……サウスの声真似まで練習したのにさっきから何もしようとしない」


 ハミルはセヴィスに鎌を手渡す。

同時に大きな達成感に襲われた。

まだ戦いは終わっていないだろ、と自分を叱咤する。


「中はどうなってるんだ? サキュバス以外にも側近がいるんじゃねえのか?」

「それが、何も聞こえないんだ。中は多分サキュバス一人だ。サウスはそれだけ信頼されてたんだ。それに、悪魔ならサキュバスが生み出せるからな」

「じゃあ今から侵入するんだな? おれも行くぜ」

「いや、お前には頼みたいことがあるんだ」

「何だよ」


 ハミルは首を傾げる。

セヴィスからの頼みなんて初めてだ。


「ローズと一緒に、刑務所を護ってくれ。悪魔が彼女を襲う可能性が高いんだ。それでミルフィのアフター・ヘヴンが消滅したら、国内放送のチャイムを二回鳴らしてほしい」

「お前また一人で戦うつもりかよ」

「俺一人じゃ勝てない。お前の合図が重要なんだ。頼む」

「わ、分かったよ。その代わり、無事でいろよ! 絶対だぞ!」


 ナイトメア・カタルシスさえ持っていなければ、悪魔を避ける道を選ばなくてもいい。

そのことで頭を無理矢理埋め尽くして、ハミルはその場を去った。


***


 入り口で五時間過ごし、やっと城に足を踏み入れる時が来た。

サキュバスには、攻撃する直前まで気づかれてはいけない。

悪魔を生み出されては厄介だ。


 扉を開けて中に入る。

城の中は、外見通りの漆黒だった。

松明が薄暗い廊下を照らしていて、廊下は真っ直ぐだ。

その先に大広間があるだけの、単純な造りの城のようだ。


 足音を立てないように廊下を歩いていくと、大広間の中が見えてくる。

大広間には太い柱が四本あり、高い天井には巨大なカーテンがいくつもぶら下がっている。

そしてカーテンをハンモックのようにして、サキュバスが眠っている。


 セヴィスは近くの柱の影にそっと鎌を置き、予め持ってきていたサウスのメイスを持ち替える。

服の一部が切れているのを悟られないように、袖を曲げる。

自分の変装は悪魔の頭領に通じるのか、今までにない程の緊張が走る。


「あらサウス、どうしたのぅ?」


 予想通り、近づくとサキュバスは起きた。


「ちょっとお腹がすいたかな」


 シンクに身体を乗っ取ってもらうことによって、身につけたサウスの声。

サキュバスは気づくだろうか。


「何が食べたいのぅ? 『宝石』?」


 サキュバスはカーテンに足を絡ませると、にやりと笑った。


「それともS級祓魔師の串刺しかしらぁ?」

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