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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
九章 監獄の熱縄
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67 追懐・奇妙な師弟

 サウスと戦いながら、シンクは直感した。

この戦いは長引かないだろう。


 互いに防御を捨てた攻撃を繰り返し、既に全身傷だらけだ。

シンクはメイスによる打撲で痣だらけになっていた。

肋骨は一部が砕けているらしく、鋭い痛みが走っている。

口も血の味しかしない。


 しかしサウスも手の指を数本失い、足ももげそうな程斬られている。

未だ地面にマグマが残っていることが不思議なくらいだ。


「うおああっ!」


 サウスが雄叫びをあげて、メイスでなぎ払う。

シンクにそれを避ける力は残っていない。

だが、サウスも十分に力が篭っていない。

シンクは左腕の防御を完全に捨て、右手で薙刀を持って突きを繰り出す。


「ぐうっ!」


 薙刀の刃はサウスの腰に刺さった。

さすがに限界が来たのか、マグマが干上がっていく。

シンクはつぶれた左腕を片目で一瞥すると、薙刀を振り下ろす。

それをサウスは肩で受け止めた。

肩から血を流したまま、メイスの攻撃がシンクの頭を狙う。


「っ!」


 決定的な一撃を受けた。

平衡感覚を失った身体が、前のめりに倒れる。

右肘と両膝を地面に打ちつけて、顔面の直撃だけ免れる。

しかし右腕にも身体を支える力はなく、そのまま左側に転がるように崩れる。


「ボクの勝ち、かな?」

「それは……どうかな」


 上から血が降ってきた。

それからサウスの身体が目の前に倒れてきた。


「俺の戦いはな、これからなんだよ」


 シンクの頭の中に浮かぶ、過去の記憶。

それは長い間暮らしてきた洞窟や、悪魔たちではなかった。

クレアラッツに開いたレストラン『クリムゾン・スター』での人間らしい暮らし。

潔癖症のアルジオとドジなマリ、自称祓魔師研究家の常連客、大抵食事以外の目的でやって来るハミルとモルディオ。

そして泥棒少年との奇妙な思い出ばかりだった。


***


 3019年、クロエ=グレインが初めてS級になった頃。

 クレアラッツにあるウル牧場から少し離れた林に、不自然な草原があった。

山火事で一部の木が失われてできた円型の広場だ。


 そこで、一般の人間が見たら目を覆いたくなるような光景が広がっていた。

原型を留めていない程壊された死体と、大きな血溜りの上で血まみれの少年が横たわっている。


「おい、死んだ悪魔いたぶってどうすんだ」

 と、シンクは言った。

少年は苦しそうに咳をする。

口から血霧が出た。 


 少年はとても返事のできる状態ではなかった。

身体は傷だらけで、頭からも流血している。

その手から少し離れた場所に一本の片手剣が落ちていて、真っ赤に染まったシャツと破れたズボンは本当に最低限の服装だった。


「俺は何て言った? 生きたままいたぶれって言ったよな?」

「……シンク」


 少年はシンクに顔を向ける。

血溜りが少し揺れた。

この血は全て、少年のものだった。


「大体、片手剣は振ったり突いたりするもんだろ。何でてめえはすぐに心臓に向かって投げる?」


 シンクは血溜りに足を踏み入れて、少年の髪を掴んで持ち上げた。

頭から血が流れ、鼻で二つに分かれた。

赤みを帯びた紫の髪からも多量の血が滴る。


「投げ、た方が、速い、から」

「今回はそれで相手が死んだから良かったが、次は外れるかもしれねえぞ。たった一つの自分の武器投げて、かわされたらどうすんだ? その武器とてめえの腕との間に糸でも付いてるなら別だけどな、今は付いてねえだろ」


 少年の頭を血溜りに落とすと、シンクはため息をついた。

死体は光に包まれ、黄色の『宝石』を残して消えた。


「ったく、今日はこれで終わりだ」


 少年は立てない状態にある。

シンクは少年の呼吸が落ち着くまで、腕を組んで待つ。


 もはや拷問に近い光景だが、シンクが行っていたのは戦闘訓練だった。

シンクは夜の道端で悪魔を見つけると、問答無用に襲う。

悪魔は決まって命乞いをする。

そんな彼らにシンクは命を助ける条件を出す。

それが、彼と戦わせることだった。


「……やっぱり、楽しめない」


 口から血を垂らしながら、少年は立ち上がった。


「シンクは悪魔を嬲り殺すのは楽しい、殺すのが楽しくなれば、戦闘も楽しくなる。戦闘が好きになれば、強くなれるって言った。俺もそう思った。でも、俺には分からない。いくら斬ったって、悪魔の気持ち悪い面を見せられるだけだ。これのどこが楽しんだ」


 先程まで喋ることすらままならなかったのに、少年は淡々と言った。


「何度同じことを言わせるつもりだ? 俺は生きたままいたぶれって言ったんだ。てめえは死体をいたぶった。そこから間違ってる。死体をいたぶったって何も楽しくねえ。動物を料理するのと同じだぞ」


 舌打ち交じりにシンクは言った。


「悪魔の悲鳴なんて聞いても、何も面白くない」

「偽善者ぶってんじゃねえ。この場にはてめえと俺以外誰もいねえんだからよ、醜い本音を曝け出せよ。本当は、気持ちよくて仕方ねえんだろ?」

「気持ちよくなんてない」


 そう言って少年は地面に落ちていた簡素な片手剣を拾った。


「相手を心の底から憎め。この上ねえ苦しみを与えてぶっ殺してえって思えば、その腐りきった本能は絶対について来る。実力も伴ってくる。強くなれば、戦闘なしじゃ生きられなくなる程、その快感に依存できるようになる。

 てめえは強くなりてえんだろ。だから俺に頼んだんだろ。俺は予め言ったぞ。俺ができるのは最高で最低の戦闘訓練だってな。そんじょそこらのヘボ訓練所とは正反対なんだよ。それでもてめえが道徳とかいうクソの塊にすがりつくようなら、俺は訓練所に行くことを勧めるぜ。そもそもお前、これ以上強くなってどうするつもりだ?」

「祓魔師になることにした」

「はあっ?」


 シンクは目を見開いて驚愕した。

理由を聞かずに訓練をしている自分も変だが、この少年はもっと変なことを言っている。


「てめえみたいな泥棒が祓魔師になるってのか?」

「祓魔師になれば、昼でも堂々と悪魔を殺せる」


 将来のS級祓魔師のエルクロス学園志望理由。

それが、悪魔を怪しまれずに殺せる、だった。

たったそんな理由で彼は拷問に近い訓練を受け、エルクロス学園に入学し、S級という称号を手に入れる。


「俺は、悪魔を全滅させるんだ。どうしてそう思うのかはよく分からない。何回か襲われたからかもしれない。でも、俺は悪魔を根本的に恨んでるんだ」

「悪魔を全滅、ねえ。そりゃ面白そうだ。俺も悪魔が嫌いなんだ。全滅するなら是非見てみたいもんだな」


 シンクは一人で笑い声をあげた。

少年は首を傾げた。


「よし。じゃあ五年後にクロエをぶっ殺せるぐらい強くならねえとな。候補生、それも一年生に負けるなんて屈辱だぜ?」

「クロエは悪魔じゃないし、それに一年生はまだ無理だ」

「無理じゃねえ、なるんだよ。それで世界中に知らしめるんだ。史上初S級候補生セヴィル=マスケティアの名前をな」

「……名前が違う」

「あー、でも途中までは合ってるだろ? めんどくせえからこれからセビって呼ぶぜ」


 少年は何かに気づいたかのように目を見開いた。


「どうした?」

「その名前で呼んでくる人が、いたから」

「何だ、そんなことかよ。とにかくできなかったら、俺がてめえをぶっ殺すからな。それが嫌なら、俺をぶっ殺すぐらい本気でやれ」

「え……?」

「分かってねえな。俺の『宝石』は、てめえが『いただく』んだよ。死んだら何も見えねえし、何も食えねえ。でも人間のアクセサリーになったり、雑魚悪魔に食われたりすんのは死んでも嫌だぜ」


 少年は、追い込まれた殺人鬼のような顔をした。

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