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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
九章 監獄の熱縄
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65 怒る頭領

 それから三人が再びレストランに集まったのは二時間後のことだった。

三人は客がいないことを利用して、堂々と情報を交換した。

セヴィスは変装したまま、地声で話していた。

店内にいるのはシンクとアルジオだけなので、そんなことは気にしていられない。


「サキュバスが怒る前に城に行って、仕留める。簡単だけどこれが、僕が考えた作戦だよ。これなら市民を避難させる必要もないし、被害も少なくて済む」


 てっきりクロエのように防衛線を張って戦うと思っていたが、モルディオの考えは違うようだ。

サキュバスが怒り、悪魔を放出する前に倒す。

未来が見える彼だからこそできる策略だ。


「サキュバスの城って、どこにあるんだ? 俺はそもそも場所を知らない」

「マグゼラ近くの海辺だね。お化けが出るから立ち入り禁止っていう、幽霊城の噂が大分前からあったけど、どうやらそれで間違いないみたいだね」

「幽霊だと思われてたのは、悪魔だったのか。そんなのいかにも怪しいだろ」

「あれ、もしかして幽霊が怖いの? 幽霊城すら知らないのに知ったかぶるのはやめなよ、セビ」

「誰も知ったかぶってないだろ」


 緊張しているのかと思ったら、こんな不毛な冗談を言っている。

モルディオの思考回路は未だによく理解できない。


「先に倒すって言ってもよ、入り口に強い悪魔がいるんだろ。それはどうやって倒すんだよ?」


 ハミルは昨日から質問ばかりだ。

分からないのはセヴィスも同じなので、人のことは言えない。


「強い悪魔って何だ?」


 横からシンクが口を挟んだ。


「広範囲に渡ってマグマを流す魔力権を持ってる、サウスっていう悪魔のことです」

 と、モルディオが説明した。


「まあ、そんなの俺からすればどうでもいいけどな。あーそういえば幽霊城の近くに極上のルビーが埋まってるって聞いたことあるぞ」

「は?」


 セヴィスは眉をひそめる。

シンクは一人で嬉しそうな顔をして、話す。


「多分サキュバスの手下の悪魔がそこで死んだんだよ。昔洞窟の連中が言ってたんだ、今やっと思い出したぜ。これは行かないと損だな。悪魔が全滅しちまう前に、ルビーは食っておかねえと。セビも後で絶対来いよ。高く売れるぞ」


 シンクは奥に行って簡易な荷物を取ってくると、笑顔で言った。


「アル、俺が帰ってくるまでは、お前が店長だぞ! 分かったな!」


 シンクは嵐のように店を出て行った。

アルジオが止める間もなく、三人も呆然として扉を見つめていた。


「そうだ、ミルフィを使ったサキュバスの弱体化なんだけど」


 昨日と同じように、モルディオは六枚のダイヤモンドの写真を置いた。

昨日と違うのは、写真の下に魔力権の名前が書いてあることだ。


「あれ、どのダイヤモンドがどの魔力権かなんて分かるのかよ」

「ノートを読んだら、グロウがご丁寧に調べてくれてたよ。サキュバスが自分で喋ったみたいだね。それで、どの魔力権を消したらいいと思う?」

「それって一つだったよな?」

「ジュエルバレットの量を考えたら、武器に使うダイヤモンドは四つ。だからもう一つもミルフィ次第で消せるかもしれないんだよね」


 悪魔を生み出すジュエル・レプリカ。

物質を通り抜ける能力。

催眠術。

浮遊。

治癒。

そしてもう一つは未知の能力。

消せるなら、どれも消したい能力だ。


「早く決めて。これを決めないと、ナイトメア・カタルシスを作れないんだ」


 最優先は催眠術だろう。

サキュバスの前で眠ってしまっては元も子もない。

今まで殺されなかったのは、サキュバスの情けだ。


「ナイトメア・カタルシスだってあるんだし、おれは悪魔を生み出す能力がいいと思うぜ。それがなかったら、増えることもねえだろ」


 命に関わる選択だ。

一撃で倒す前提なので、治癒はまず候補から消える。

サキュバスは他の悪魔を治すより、新しい悪魔を生み出す。

それにサキュバスが軽い怪我で疲れるとも思えない。

浮遊もこの中では一番優先度が低い。


 ハミルの言うように、ジュエル・レプリカを消すという手もある。

しかしモルディオの話では、サキュバスが一度に生み出せる悪魔の量は限られているらしい。

それなら、ジョフェンが協力を要請した海外の祓魔師で十分だ。


「一つ目は催眠術、これは確定だろ」


 モルディオは黙って頷いた。

ハミルも文句を言ってこない。


「あとは……物質を通り抜けるやつが消えたら、ナイフの攻撃も当たるし、建物を使えるな」

「僕もそう思ってたよ。でも、もしこれでミルフィが乗っ取られたら拘束を通り抜ける。下手したら、サキュバスが乗っ取ったミルフィと戦うことになるんじゃない」

「サキュバスと、サキュバスが乗っ取ったミルフィが同時に襲ってくるのか?」

「うーん。そもそもアフター・ヘヴンにサキュバスが現れるかどうかもよく分からないんだ。どっちにしても、こっちにはあまり期待しない方がいいかもしれない。

 じゃあ、催眠術のダイヤモンドを先に食べさせて、できそうならもう一つもってことで。とりあえず決まりだね」


 ハミルが一人驚いた顔をしている。

それに気づいたのか、モルディオは小さく笑った。


「ハミル、ヴィーナ・リリーとフリージアのダイヤモンドを残すって、ローズに伝えてくれないかな。僕はもう一度未来を見てみるよ」


 そう言ってモルディオは目を閉じて集中し始めた。

ハミルは電話を使ってローズに連絡しようとしているらしい。

とてもそんなことをしている場合ではないのだが、少しだけ暇になったセヴィスに眠気が襲ってきた。


 しばらく呆けて、こんな事態なのに軽く欠伸が出た。

それからハミルが電話を終えた。

すると、モルディオが突然息を呑んで、立ち上がった。

今までの冷静さはどこに行ったのかと思うくらい、焦った表情だ。


「セビ、店長を追いかけて!」


 モルディオの声に叩き起こされるように、セヴィスは席を立つ。


「どうしたんだ、突然」

「サキュバスは、サウスが殺されたことに怒ってたんだ!」

「えっ?」

「早くマグゼラに行って店長を止めて! 手遅れになる! 僕は美術館に行ってみんなに伝えるから、ハミルはナイトメア・カタルシスを手伝ってきて!」


 何が何だか分からないまま、セヴィスは店を追い出された。

路頭で少しの間考えてみると、その理由はすぐに分かった。


 サキュバスが未来で怒っていたのは、忠実な右腕であるサウスを殺されたからだった。

そして、それを殺すのはシンクだったのだ。


 マグゼラはここから遠くはない。

いくら方向音痴なシンクでも、毎日市場に行っているマグゼラなら迷わない。

むしろ迷う可能性が高いのは、幽霊城の場所を知らないセヴィスの方だ。


 サキュバスが怒れば、モルディオが最初に見た未来が現実になる。

それだけは防がなければならない。

ナイトメア・カタルシスがない状態で、サキュバスとは渡り合えない。

さらにサキュバスを野放しにして見失うだけではなく、何も知らない一般市民にまで被害が及んでしまう。


 黒い髪の青年のまま、ワイヤーを使ってビルの屋上に飛ぶ。

そのまま屋根を飛び移っていく。

シンクは急いでマグゼラに向かった様子だった。

追いつくには、そうするしかなかった。

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