58 探偵と怪盗
「ちょっとノートを貸してくれない。サキュバスについて書いてあると思うんだけど」
そうモルディオに言われて、ハミルはノートを差し出す。
モルディオは十五分程、後半のページを眺めていた。
後半はハミルもよく分からなかった、サキュバスに関する部分だ。
「おれもこれ読んだけど、サキュバスの魔力権とか意味分かんねえんだよ」
「それはグロウが親切に書いてくれてるよ。じゃあ僕が説明しようか。まずアフター・ヘヴンを思い出したら分かると思うけど、悪魔は一つの魔力権で、『宝石』も一つだ。でもダイヤモンドは六つある。つまりサキュバスは六つの魔力権を持ってるんだ」
モルディオは六枚のダイヤモンドの写真を机の上に置き、一番大きなダイヤモンドの写真を指差した。
この形状は見覚えがある。ジェノマニア美術館にあったダイヤモンドだろう。
「メインは魔属性攻撃系ジュエル・レプリカ、悪魔を生み出す能力だ。まあ一度生み出す量には限りがあるみたいだけど」
「魔属性? そんなの授業で習ってないぞ」
ハミルは首を傾げる。
「グロウが名づけた属性だからね。千里眼もそれに当たるみたいだけど、そこは僕もよく分からない。二つ目は壁とか武器とか、物質を通り抜ける能力。三つ目は浮遊。四つ目は治癒。五つ目は催眠術。あとの一つはグロウも解明してないんだけど、タロットカードかサキュバスの光線に関係してるのかな」
「何でサキュバスだけ六つも魔力権を持ってんだよ。ったく、ダイヤモンドのことを考えたらイノセント・スティールも意味分かんねえし」
ハミルは考え込む。
前のセヴィスの顔を見ると、彼もよく分かっていないらしい。
「じゃあイノセント・スティールについてまとめるよ。まず悪魔の共存……つまりギルティ・スティールに反対したグロウは、サキュバスと直接戦う方法を選んだ。でも普通の武器は透けるし、素手で戦おうと思ってもサキュバス自体が強い。そこでグロウはダイヤモンド製の武器でサキュバスを倒すことを考えた。ダイヤモンドはアフター・ヘヴンに入れない限りジュエルバレットじゃ消えないけど、溶かして形を変えることはできたからね」
「えっダイヤモンドって所持者に食わせたら、アフター・ヘヴンごと消せるのか?」
「どこに確証があるのか分からないけど、そう書いてあるね。これはキングの情報じゃないかな? それを利用しようとしたのがクロエだしね。でも所持者がサキュバスに乗っ取られたら失敗になる。だから所持者の血を飲ませて、人工アフター・ヘヴンとか作ってたみたいだね」
人工アフター・ヘヴンは、ハミルも得たことがある。
だが、それが所持者の血によって発現するものだとは知らなかった。
「話を戻すよ。サキュバスは治癒の魔力権を持ってるから、大きな武器を使って真っ二つにして即死させないといけない。かつその武器は、光線を跳ね返せる形状でないといけない。サキュバスの光線はダイヤモンドを貫かないみたいだしね。で、その武器がナイトメア・カタルシス。これを使ってサキュバスを倒すのが、悪魔全滅計画イノセント・スティールだよ」
モルディオは順を追って説明してくれたが、ハミルの頭の中は余計混乱してしまった。
セヴィスに至っては硬直している。
「グロウがダイヤモンドを必要として、怪盗を育てようとしたのは分かった。お前らがナイトメア・カタルシスを使ってサキュバスを倒そうとしてるのも分かった。でも新生児誘拐事件とかさ、あそこまでやる必要あったのか? おれはグロウの連中が倒せばいいと思うけどなぁ」
「できなかったんだろうね。これを見る限り、グロウはサキュバスに何度も敗北してるみたいだ。だから幼少期から育てた強い戦士が必要だったのかな」
「それなのにお前ら三人をあっさり逃がしたってのか?」
「多分、僕らじゃ駄目だと思ったんだよ。その証拠に、僕はセビに負けてA級になった。サキュバスに知略はほとんど通用しないし、僕らよりセビの方が強いから捨てたんだろうね。グロウが大きな武器じゃないと倒せないって知ったのはきっと最近だよ。だからセビには泥棒だけ任せて、ヴァイオレットを鍛えたんだ。これだけですぐ諦めるウィンズの性格が出てるよ」
「うーん……ナイトメア・カタルシスって結局誰が使うんだ?」
「ヴァイオレットは死んだ。例えナイトメア・カタルシスがあっても、ヴァイオレットみたいに訓練を受けてなかったら、光線は防ぎきれないと思う」
「はあ? じゃあどうすんだよ」
「サキュバスの光線より早く動いて避けるしかない。それができるのはセビしかいないと思うけど」
ハミルは腕を組んで考え込む。
セヴィスに大鎌は扱えるだろうか。
ハミルが知っている人物で大鎌を扱えそうなのは、このレストランの店長シンクぐらいだ。
「ちょっといいかしら?」
沈黙は、レストランに入ってきたローズによって遮られた。
ローズの後ろには二人の警官がいる。
「あっお前! 今までどこに行ってたんだよ!」
ローズと二人の警官はハミルの後ろを通り過ぎて、奥の扉に向かう。
それを見た三人は同時に立ち上がった。
「何をする気?」
ローズが奥の部屋に入って行ったのは、モルディオにとっても想定外のことらしい。
あの奥の扉には、ミルフィがいるはずだ。
すぐに扉が開いた。
それを見たハミルは息を呑んだ。
二人の警官がミルフィを無理矢理連れ出していて、ローズが彼女の腕に手錠を掛けたのだ。
「どういうことだ」
ハミルより先に、セヴィスがローズの前に出た。
ローズは警官に命じて、抵抗するミルフィに猿轡をかませた。
「はじめまして。セヴィス、いえ、怪盗フレグランス。怪盗って呼ばれてるからどんな派手な格好をした人間なのかと思ってたけど、まさかあなただったなんて。S級が犯罪者っていうのも面白いけど、わたしからしたらちょっと拍子抜けだわ」
「……」
「誰だって顔してるわね。わたしはローズ=ラスター。あなたならよくご存知でしょう」
ローズは不敵な笑みを浮かべて言った。
「サキュバスを倒した後、わたしはあなたを逮捕する。それまで、このミルフィさんを監禁させてもらうわ」
「意味が分からない。俺はともかく、ミルフィは何もしてないだろ」
「あなたに手錠を掛けたところで、どうせ外すでしょう。それに、死んだことになっている人間をどうやって逮捕しろと? だから彼女を捕まえた方が手っ取り早いのよ。それに彼女は所持者で」
「何でアンタがそれを知ってるんだ」
ミルフィはセヴィスが来た時を除けば、接客をしていない。
所持者だと知る契機はどこにもなかったはずだ。
「あなたが一人の所持者を助けたいから、ナイトメア・カタルシスに使うジュエルバレットを残してほしいって言ったんでしょう? 彼女に関しては、気になってベルクに聞いたわ。ハミルくんが彼女の名前を挙げていたのも気になったしね」
「だからって、俺の犯罪で彼女を逮捕するのはやめろ」
「……驚いたわ。あなた、彼女を随分大切にしてるみたいね。つまり彼女を逮捕すれば、あなたは嫌でも刑務所に来るってことでしょう? 違う?」
「このクソ女が」
セヴィスは聞こえよがしに文句を吐き捨てた。
「あれだけ手こずらせた怪盗フレグランスが、こんなにあっさり捕まるのね。しかも女性を庇うなんて、素敵で無様なことね」
それを聞いたミルフィが抵抗を止めた。
キャラ紹介に候補生四人のイラストを追加しました。
今後他のキャラも追加していきます。




