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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
六章 私亡の鼓舞
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44 狂った時計

 シェイムとヴィーナ・リリーに行く計画を勝手に立てたハミルは、その日の夕方、家の扉の前で立ち往生していた。

今日は珍しくミストもいる。

こっぴどく怒られるに違いない。


 いや、こんなところで迷っている場合ではない。

ここでおれが逃げてどうする。

ハミルは固唾を呑み、ドアノブを捻った。


「おかえりハミル、大丈夫だった?」


 すぐにエミュが出迎えた。

家に帰ってきただけで安否を聞かれる程、このクレアラッツは物騒な町だっただろうか。


「大げさなんだよ、おふくろ」

「シュヴァルツ副館長が殺されたって聞いたから」

 と、エミュが唐突に聞き捨てならないことを言った。


「えっ、シュヴァルツが殺された? そんなばかな」

「さっきニュースでやってたわ。警察署の前で、何者かに銃殺されたそうよ。でも今までのA級連続殺人がシュヴァルツだったらしいし……」


 シュヴァルツが警察に連行されるところまでは、ハミルも見届けた。

そんな状態で殺せるだろうかと思っても、実際クロエは面会室で殺されている。

それを考えると、サキュバスなら可能だ。

しかし、銃殺なら犯人はサキュバスではないだろう。


 そもそも銃を扱える悪魔は、シュヴァルツやクロエといった人間の手下になっている者ぐらいだ。

それにサキュバスが銃を使うような悪魔なら、蜂の巣にされると噂の鬼畜遠距離系訓練を無傷で潜り抜けたセヴィスがやられるわけがない。

モルディオの言葉を借りると、これはグロウ――ウィンズたちの仕業だ。

シュヴァルツは口封じに殺されたのだ。

やはり、グロウは放っておけない。

しかもグロウはサキュバスを殺す方法を知っている。


 ハミルは雪が残る靴を脱ぎ捨てると、廊下を走ってダイニングに向かう。


「ハミル、シュヴァルツってA級殺しの犯人だったのか? モルディオが犯人だと暴いて、クラスの人間が蜂起したって聞いたぞ。お前も参加したんだろ?」


 ダイニングでは、ミストがテレビを見ながら煙草を吸っている。

ハミルもテレビを見てみると、『シュヴァルツ=アルテミス副館長銃殺される』という文字が映っていた。


『二年A組生徒によると、A級モルディオ=アスカにより、シュヴァルツがS級及びA級連続殺人事件の犯人であったことが判明し、彼に鼓舞された、とのことです。しかし、どの生徒もモルディオがどうやって暴いたのかは話そうとしないそうです。

 このニュースに関しては、新しい情報が入り次第報道します』


 どうやらモルディオは寮に帰っていないらしい。

それよりも気になったことは、どうして誰もモルディオの能力について何も言おうとしないのだろう。

ハミルとシェイムが退室した後、チェルシーが何か言ったのだろうか。

もう気にしても仕方ない。


「ん? 腕時計がずれているぞ。気づかなかったな」


 ミストが腕時計のネジを回している。

そろそろ切り出そう、そうしないと話すタイミングを見失う。


 エミュがミストの隣に座ると、ハミルは大きく息を吸った。


「親父、おふくろ、話があるんだ」

「何だ」


 ミストは煙草を灰皿に置くと、視線をハミルに向けた。


「……セヴィスの仇を討ちたい。おれが、ヴィーナ・リリーに行くことを、許可してください」


 思わず頭を下げると、ミストの方からため息が聞こえた。


「何を言い出すのかと思ったら。犯人はシュヴァルツだろ。シュヴァルツが死んだ今、仇がどこにある」

「モルディオは、みんなをシュヴァルツ拘束に動かす為に嘘をついたんだ。セヴィスはシュヴァルツじゃなくて、サキュバスに殺された。モルディオはそれを利用したんだ。あいつ、名前まで変えて……何があいつの素なんだよ」


 最低な野郎だと言いかけて、呑み込む。

サキュバス討伐という最終的な目標に辿りつくには、グロウについて調べているモルディオの協力が必要不可欠だ。

ハミルとシェイムだけでは、未知なことが多すぎる。

例えまぐれで本拠地に到達できても、その先は未知数だ。

そう思って先程電話してみたのだが、繋がらなかった。

やはり、館長室の時に引き止めるべきだった。


「ベルクについて知ったのか?」

「えっ何で親父が知ってるんだよ!」

「ローズは新生児誘拐事件の生き残りだ。だから、事前にベルクについては聞いていた」

「ローズも?」

「あいつの本名はレイラ=ザインローズらしい」


 またおれを騙した奴が、一人、二人。

シェイム以外、誰も信じられなくなりそうだ。

いや、ここで人間不信に負けるわけにはいかない。

一ヶ月前、これに負けたから、クロエに実験台にされたのだ。


「ちょっと待ってハミル。悪いけど、セヴィスでも勝てない相手にあなたが勝てるわけがないわ。気持ちは分かるけど、命が第一よ」


 エミュがハミルの手を握る。


「でもウィンズやシュヴァルツがいたグロウっていう組織が、サキュバスを倒す方法を知ってるんだ。グロウの居場所はヴィーナ・リリーってことしか分からないけど、多分フレグランスが知ってる」

「フレグランスだと?」

「フレグランスは突然ダイヤを狙い始めただろ? 絶対グロウと関係あるはずだ。今グロウはヴィーナ・リリーにいるし、フレグランスもいつか必ず来る。だから、おれはヴィーナ・リリーでグロウを探って、同時にフレグランスを待ち伏せするんだ。

 頼む、親父、おふくろ! 行かせてくれ!」


 ミストとエミュは顔を見合わせる。

しばらくして、ミストが再びため息をついた。


「さっき、フレグランスの予告状が特捜課に来た。世界中のダイヤモンドを全て盗み出すそうだ。でも日時と順序は書かれてなかった。そこでローズは、ヴィーナ・リリーに絞って警備するらしい」

「えっ」


 ハミルは顔を上げる。


「おそらくフレグランスは、そのグロウとやらの本拠地があるヴィーナ・リリーを最後に回すだろう。だから、オレが明日からしばらくヴィーナ・リリーに行くってことを、今エミュに伝えたばっかりだ。なのにお前まで行くと言い出すとは思わなかった」

「じゃあ!」

「この状態だと、どうせエルクロスは授業をしないだろう。あの生意気ガキの仇が討ちたいならついて来い。だが、死なないことが絶対条件だぞ」


 この言葉を聞いた時、ハミルは嬉しさで涙を零した。


「ありがとう! ありがとう親父!」

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