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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
五章 悔恨の被策
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35 諦念のグラファイト

 闘技場ではなく美術館にいた自分が一番早く着くと思っていた。

だが、会議室に入ると既に三人いた。

シュヴァルツは偉そうに足を組んで座っている。

その向かいにはチェルシーがいて、さらにその隣には女のA級、ミッシェルがなぜか嗚咽していた。

深刻な雰囲気だった。


 セヴィスはシュヴァルツの隣にある自分の席に座る。

それから少し遅れてモルディオが入ってきた。

あと来ていないのはミッシェルとタッグを組んだフロストだけだ。


「鍵閉めろ」


 低い声で、シュヴァルツは言った。

まだフロストが来ていないのに、モルディオは言われた通りに扉に鍵をかけた。


「テメーら、今日フロスト見たか」


 モルディオが席についてすぐに、シュヴァルツは重々しく切り出した。

シュヴァルツとミッシェル以外のA級は顔を見合わせる。


「やっぱり見てねェな」

「何かあったんですか?」


 モルディオが尋ねる。

どうせ知っているくせに、とセヴィスは思った。


「今朝、集合時間になっても来なかった奴を心配して、ミッシェルが奴の家に行って来た。そしたら、これだ」


 シュヴァルツは一枚の写真を机の中央に置いた。


「っ!」


 チェルシーが息を呑んだ。

その写真に写っていたのは、血まみれで無残に殺されたフロストだった。


「クロエ、アルヴェイス、ライム、フロスト。これでA級が死んだのは四人目だ。このままじゃ全員死ぬぞ。アスカ、何かいい手はねェのか」

「正直、僕にもどうすればいいのか分かりません」


 シュヴァルツがモルディオを頼る程、緊迫しているのはよく分かった。

モルディオはどうか知らないが、他の祓魔師も気が動転している。

A級が短い間に四人も殺されたのは、前例のないことだ。


「テメェも他人事じゃねェんだぞ、ラスケティア」

「分かってる」


 シュヴァルツが初めて自分のことを苗字で呼んだ。

この空気は異様だった。

ウィンズのことを聞く余裕など到底なかった。


「クロエ以外の三人は一人でいる時に殺されてんだ。とりあえず犯人が見つかるまで、一人で行動するのは避けた方がいいかもしれねェ。だから今日は全員美術館の地下に泊まれ。特にミッシェルが一番危なそうだしな。まずファリアントは、ハーヴェルも呼んでミッシェルと同室にいろ。アスカはオレと司令室に残れ」


 チェルシーとシェイムが同室の理由は女だからだろう。

それはすぐに分かったが、シュヴァルツがモルディオを司令室に置く理由が分からない。


「あと、S級悪魔討伐依頼があってな。クレセント町の105番通りで、毎日夜十一時に女悪魔が出没するらしい。テメェはその討伐だ、分かったな」


 シュヴァルツはセヴィスの方を見て言った。

一人で行動するなと言っておきながら、結局一人にするのか。

別に嫌というわけではない。

ただ、シュヴァルツが分からないだけだ。


***


 これから流れる音声は、緊急会議の後の司令室で録音されたものである。

その内容は、後に誰かに聞かれることもなく、気づかれることすらなかった。


「ベルク、テメーはまだ栄光の翼に楯突くのかァ?」

「……もう諦めましたよ」

「はあ、諦めたァ? 嘘つけ」

「嘘じゃなかったら、今頃あなたを殺してますよ。でも僕はグロウに従うんじゃない、無謀な抵抗をやめただけです」

S級フレグランスはテメーを信じて、館長室の侵入を手伝ったんじゃねェーの?」

「やっぱり知ってたんですね。あのカメラの量の割りに情報量が釣り合わなかったので、わざとだろうとは思ってましたが」

「じゃあテメーは、トモダチを裏切ったってことか」

「……最初からそうするつもりはありませんでした。館長室に、大量のA級悪魔がいることを知るまでは」


「でも、正直驚いてます」

「驚く?」

「セヴィス=ラスケティアは犯罪者のくせに、人をほとんど疑わないんです。かといって、頼りにもしない、変な奴なんです。変な奴だから、警察の息子とも一緒にいられるし、僕みたいな人間を平気で信用するし、所持者にも好かれるんです」

「へェー」

「ウィンズ、様に直々に育てられたS級って聞いていたので、最初はどんなすごい人間なのかと思ってました。なのに、悪い意味で期待を裏切られました。

 初めてですよ。僕の正体を知ってて、一切態度を変えなかった人間は」

「確かにテメー、昔から浮いてたよなァ。まっ、テメーがおかしくなる理由も分かるぜ。テメーはあの事件の被害者で唯一誘拐されなかった……麻薬中毒の姉によって、金目当てにオレらに売られたガキだもんなァ。そういえば解放された後、姉には会ったのかァ?」

「姉は半年前に自殺しました。で、ここに僕を置いた理由は何ですか?」

「いや、まだテメーに反抗する気があんのか確かめたかっただけだ」

「もうありませんよ。館長室に大量にA級がいることぐらい、能力を使えば分かります。いくらセビがいたって無理です。僕には味方が少ないから、いや、最初からいなかったのかもしれません。だからどうしようもできないんです」

「そうだ。テメーじゃオレまでたどり着けねェ。あいつらはオレの最高の部下で、『宝石』って名の飴と鞭で鍛えられた奴らだからなァ」


「一応確認しておきますが、副館長は知ってるんですよね。サキュバスを殺す武器の作り方」

「知ってるぜ。鎌状の武器で、『ナイトメア・カタルシス』って館長が呼んでたな」

「相変わらずのネーミングですね。それの作り方を僕に教えてくれませんか?」

「これは館長が直々に作るからな。そもそもテメーの脳みそは戦略向きだろ。武器は館長の仕事だ」

「そうですか。もう用はないですね。僕は地下に行って寝ます」


「ああそれと。副館長、これだけは忘れないでください」

「何だ?」


「僕が諦めたのは嘘をつかないことと、諦めることだ」


 この扉が閉まる音を最後に、録音された音声は終わる。

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