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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
三章 猛毒の与感
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19 金髪の狂気、仇

「グロウが育てた? あいつを? ……まあ、腹黒そうな奴だとは思ってたけどよ。ったく、てめえらの手はそこら中に回ってるんだな。じゃああいつはてめえらの仲間ってわけか」

「それは微妙なところっすね。あいつは未来が見える分セビっちより厄介っす。前にあいつの真意を知る為に刺客を送り込んだんすけど、ことごとく殺されたっすよ」

「へえ。あいつも立派な殺人鬼だな。何で解放したんだよ」


 シンクは自分で言った言葉に疑問を抱く。

どうして今『あいつも』と言ったのだろう。

まさか、親近感でも覚えたのだろうか。

セヴィスより断然腹黒い、あいつに。

同じなのは、髪の色だけだと思っていた。


「ベルクの思考回路はイノセント・スティールとかなり近いんすよ。だから、例え栄光の翼がなくなっても、あいつは似たようなことを成し遂げると思うんすよ」


 イノセント・スティールって何だよ、とシンクは思った。

ナインの話でシンクに伝わったのは、モルディオが内に秘めている、自分と似た狂気ぐらいだ。


「ウィンズは、自分らの命より悪魔の全滅を望んでるのか?」

「まあ、根本的にはそうなんすけど、ベルクがイノセント・スティールに賛同しない可能性も高いっすからね。やっぱりあの時、ハミルが来る前に排除しておけばよかったっす」


 上に向いた銃口を、シンクは右手で下ろさせる。


「最後に一つ聞かせろ。何でてめえは洞窟を抜けてグロウなんかの手下になった? グロウってのは、悪魔の全滅を企んでるんじゃねえのか?」

「自称長老のグランフェザーより栄光の翼が正しいと思ったから、それだけっすよ。さっ、お喋りはもう終わりっすよ」


 そう言って、ナインはもう一度機関銃の銃口をシンクに向けた。


「そこにいるミルフィを庇うようなら、死んでもらうっすよ」


 どうしてミルフィを連れ去る必要があるのだろう。

グロウの計画もまた、アフター・ヘヴン所持者を必要とするのだろうか。

それとも、ここで殺すつもりなのか。


 ミルフィを匿ってくれとセヴィスに頼まれた時点で、戦闘は覚悟していた。


「ここじゃ目立って面倒っす。ミルフィを連れてあそこの丘に来るっすよ」


 そう言って、ナインは先に歩いて行った。

シンクがまだ動いていないにも関わらず、一度も振り向かずに歩いていく。


「馬鹿かあいつ」


 シンクは小さくなったナインに背を向け、電話を手に取る。


「何するの?」

「通報すんだよ。あいつが場所を指定した時点で、何かあるに決まってる」

 と言って、シンクは電話についた赤いボタンを押し、耳にあてる。

この赤いボタンを押すと、電話が祓魔師本部へと繋がるようになっている。

クレアラッツの電話器では当たり前のようについているボタンだ。


「こちらクレアラッツ祓魔師本部です」


 電話の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

この単調な喋り方、間違いない。


「よう殺人鬼。今度は美術館勤務の祓魔師でも殺したのか?」

「冗談も大概にしてください。担当の祓魔師がトーナメントの準備で手を離せないので、僕が代理をしています。要件は、ウル牧場付近の丘でB級悪魔ナインの討伐でしょうか?」

「ああそうだよ」


 シンクが電話してくることを予め知っていたのだろう。

今思えばモルディオは恐ろしい能力を隠していたものだ。


「先程祓魔師を二人派遣しておきました。悪魔の数は三十程ですが、S級がいるので大丈夫です。店長は現場でミルフィを守ることに専念してください。ミルフィが殺されることだけは避けたいんです。僕はここにいないといけないので、お願いします」


 シンクの返事を待たず、電話は切れた。


「行くぞ、ここにいたら撃たれるかもしれねえ」


 シンクが立ち上がっても、ミルフィは心配そうな表情をして座っている。

セヴィスとシェイム、この国にいるS級の共通点はやたらミルフィを守ろうとしていることだろうか。


「心配すんな、S級が来てるらしいから大丈夫だ」

「えっセビが来てるの?」

「いや、多分シェイムだろ」


 予告状を出した以上、セヴィスは準備で来れないはずだ。

シンクの予想では、もう一人はタッグを組んだハミルだろう。


***


 ナインが歩いて行った道の先の草原では、既に戦闘が始まっていた。

シンクの予想通り、シェイムがバトンと風を使って乱舞し、ハミルが下で戦っている。

この短時間で落ちている『宝石』は十個程だ。

それならシンクが加わる必要もなさそうだが、唯一気がかりなのは、ナインが見当たらないことだ。


 そんなことを考えていると、シンクの方に一人の男悪魔が剣を片手に走ってきた。


「死ねぇっ!」

「てめえが死ぬんだよ」


 悪魔の剣が届く前に、シンクは悪魔の腹に蹴りを入れた。

落ちた剣を拾い、そのまま悪魔の心臓の位置に突き立てる。


「ミルフィ!」


 聞こえたシェイムの声に反応してシンクが振り返ると、数メートル先でナインが銃口を向けていた。


「っ!」


 今の悪魔は、シンクの意識を惹きつける囮だった。

庇うか、いや、間に合わない。


「危ないっ!」


 ナインが引き金を引くと同時に、ミルフィの元にハミルが飛び込んできた。

銃弾は先程ミルフィが立っていた場所を通り抜けた。

だが、ナインはすぐに銃口を下に向ける。

ハミルは覆いかぶさったまま動かない。


「邪魔だクソったれ!」


 ハミルがここに来たことにより、彼が相手していた悪魔が全員シンクの元に向かってきた。

シェイムも一度に五人相手していて、余裕はなさそうだ。


「そこをどかないと、死ぬっすよ」

「撃つなら撃てよ! おれが盾になる!」


 ハミルは立ち上がり、ミルフィを庇うように両手を広げた。

恐怖のあまり、ミルフィは何も言えなくなっている。


「馬鹿かてめえは! ナインの奴、マジで撃つぞ!」


 シンクは伸ばした薙刀を振り回しながら言う。

それでもハミルは動かない。

ナインは確実に射殺する為に近づいてくる。


「じゃあ、仕方ないっすね」

「先輩!」


 シェイムの叫び声もむなしく、ハミルは目を閉じた。


 すると、

「ぐぁあっ!」


 聞こえたのは、銃声ではなくナインの悲鳴だった。

全員が同時にナインの方を見る。


 ナインが口から血を吐いて膝をつく。

その背中には赤いナイフが刺さっていた。

だが急所は外れている。


「セビっち、すか……」


 ナインの後ろの木から、セヴィスが飛び降りてきた。

シンクは周辺に群がる悪魔を片付けると、ハミルと共に無言で見届ける。


「死んでくれ、ナイン」


 電撃が迸り、ナインはあっさり事切れた。



「ミルフィさん、大丈夫ですかっ」

「あたしは大丈夫、ありがとう」


 『宝石』を回収しているシェイムをよそに、ハミルはミルフィに話しかけている。

大丈夫とか言える立場か、セビが来なかったら死んでただろ、とシンクは思った。

セヴィスは呆然としてナインの『宝石』を見つめている。


「親の仇、取れたじゃねえか」

 と言って、シンクはセヴィスの背中を軽く叩いた。


「……ああ。でも、俺も急所を外すなんて甘いな」


 ナインの『宝石』は黄色だ。

セヴィスはそれを拾うと、ハミルの方に視線を向ける。

そこへ大量の『宝石』を抱えたシェイムがやって来た。


「先輩、もしかしてやきもち」

「違う」


 そう言って、セヴィスは一人で帰って行った。

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