EPISODE8.こんな形で会いたくなかった
「父上は、僕が物心ついた時から変わっていた。優しい表の顔。裏は、そうですね。冷徹で人を容易に使い捨て、挙句の果てに・・・まあ、蓮唯さんが行方不明になるんですよね・・・」
「は?」
「え?」
「何を言っているんだ?」
雷樹の暴露に三者三様のリアクションをした。
「いやいやいや。何を言っている?蓮唯が行方不明になった原因に父が関係している?」
「だからそう言ってるじゃないですか!」
雷樹の声の大きさに驚きつつ、遥斗がふと気づく。
「でも、なぜ蓮唯の行方不明がここで出てくる?」
「確かにそうですね」
「まさか、なにか情報を知っているのか?」
「そうですね。父上が何を仕組んだのか、全部はわかりませんが、一部だけならわかってますが・・・」
父上が仕組んだことを言うかどうか、雷樹は躊躇った。
しかし、その躊躇いはすぐに消え、真剣な顔で決意を固めた。
「いえ、この躊躇いはいりませんでしたね。正直に言います。覚悟してください」
三人の視線が痛いが、雷樹は怯まずに全てを明かす。
「父上は蓮唯さんに任務を与えました。これが単独任務です。ですが、その前から父上と蓮唯さんは敵組織と組んでいたと考えるべきでしょうね」
淡々と語る雷樹にもはや恐怖すら覚え始める三人。
「蓮唯さんは、ЯEBIRTH CODEに入ってからずっと不信感を抱いていたみたいで・・・。同じく父上も表面は中部支部で頑張るリーダーを演じて、裏ではЯEBIRTH CODEが気に入らないと僕に言うことが多くて。そこで、父上が敵組織と接触しました。そこで蓮唯さんに実験を行うという条件でおそらく協力関係を築きました。蓮唯さんが、二、三日連続で有給申請していたのはきっと実験のためと考えます。もちろん、自論ですので真に受けないでください。そして、実験を経て、今年の六月、父上は蓮唯さんをЯEBIRTH CODEから離すためにあえて単独任務を与えました。結果的に蓮唯さんが行方不明になった。そこで本格的に敵組織になったと考えます」
休むことなく、雷樹が持つ考えを言い終えた時、空は暗くなり、星が瞬いていた。
「現実味がない」
遥斗がかろうじて紡げた言葉はそれだけだった。
「逆に聞く。なぜ蓮唯と父が敵組織と関わりあっているとわかる?」
「そうですね・・・わかった理由には僕の能力が関係していたりします」
藍翔の質問に雷樹が答える。
「僕の能力は半径百メートル、は建前で本当は半径二キロメートルの範囲であればどんな声でも聞き取れます。例えそれが地下室などの場所であっても。故に学校に行っている間に能力を発動させ、声を聞いていた時に、この関係に気づきました」
「そうですか」とここでしばらく聞き専門でいた楼梨が口を開けた。
「複雑な関係になりました。遥斗さん、本当に希々と一緒に中部支部へ行くの?」
「・・・躊躇う理由がない」
遥斗が拳を握る。
「全てを漠から聞けばいい」そう言い残した遥斗は屋上を去った。
「お、おい遥斗!み、みんなも帰ろうぜ」
残された三人も遥斗の後ろを追うように屋上を去った。
同時刻、武器開発部で希々は武器相談をしていた。
「藍翔さんの言うことですから何かと思ったら、まさか新入りの武器を作って欲しいとは思わなかった」
菜珠がモニターと睨めっこしながら希々の要望を聞く。
「さて聞くけど、どうゆう武器がお望みで?藍翔さんからは銃とは言われましたが、銃にも種類がありますしね」
恋登が銃のモデル武器(所謂モデルガン)を三種類ほど持ってくる。
「この中からお選びください!」
希々は銃を握って感触を確かめる。
「この中だと拳銃をベースにして作って欲しいです」
「拳銃ね。うん了解。他にオプションとかない?」
希々がきょとんとする。
「オプションですか?オプションと言われましても、何をつければいいのでしょうか」
「そうね。色々あるんだけど、例えば空気抵抗を減らして銃弾を撃てる機能や、銃弾を自動で装填してくれる機能とかあるよ。オリジナルの能力を作ることもできるよ。まあ、どうするかはその人次第ですしね」
指をおりながら能力の種類を確認する菜珠。
「なら、オリジナル能力を作って取り入れていただく形でお願いします」
「おっ、即答だね。了解」
希々の要望を打ち込む。
「能力の詳細は、銃弾を必中にして、銃弾が当たった人を昏睡状態にさせるでお願いします」
「なかなかの容赦のなさが垣間見える能力だね。ところでもうひとつ能力つけれるけど。どうする?」
「え?つけれるのですか?」
希々の拍子抜けした声に菜珠が笑いをこぼす。
「つけれますよ?ところで、今すごい声出てたね。では改めて。もうひとつの能力をつけます?」
「では、────をお願いします」
菜珠と恋登にしか聞こえない声で能力の詳細を話すと、菜珠は頷き、恋登は「こ、こんなの無茶じゃ・・・?」と思わずにはいられなかった。
「ふーん。聞いたところ、私たちも知らなくて、そして新入りらしい能力だね。うん了解。ってことで、恋登?この要望通りに動く仮プログラム作っておいて」
「は、はい!では、希々さん。二日後にまたここに来てください!そこまでに大まかなモデルガンを作っておきますので。(ダイジョウブカナコレ)」
最後の恋登の発言は希々と菜珠には聞こえなかった。
希々は深々とお辞儀した。
「ありがとうございます。では帰らせていただきます」
希々がスタスタと武器開発部の部屋を出ていった。
「これまた、大変だ・・・」
菜珠が椅子に深く座り込む。
「だ、大丈夫ですかね・・・とりあえず、大まかなシステム作ってきます」
恋登が端末とノートPCを抱えて武器開発部の部屋の中にあるフリースペースに置いてあったソファに横たわって作業をはじめた。
後片付けをし、本部から家に帰る途中の話。
空は真っ暗、そして街灯の灯りが所々にある細い道を希々が歩いていると背後から声が聞こえた。
「希々」
聞き覚えのあるような声。
希々は真実を知りたくて、振り向きながら尋ねた。
「誰ですか・・・?」
見た目は暗いせいで見えないが、身長や声から男性と判断した希々。素性が知らない以上、何者かを警戒しつつ、いつでも剣を出せるように予めバッグで隠していた剣に触れる。
すると、男は少しだけ長考した後、フードを外して、話をはじめた。
「忘れたのか?本当に俺のことを?」
「知らない人って言ってるじゃ・・・え?」
希々のバッグが路面に滑り落ちた。
見間違えるはずがない、あの顔は・・・兄に似ている。
「本当に、兄さん・・・なの?」
「ん?そうだが?希々は相変わらずだな。元気にしてたか?」
愛想を振りまいているその姿は希々が知る兄、蓮唯そっくり。
強いていえば、嫌な気配を感じ取らずにはいられなかった。
本当に目の前にいるのは兄さんなのか?兄さんの皮を被った偽物ではないか?
様々な考えがよぎる中、希々は喋らずただ考えていた。
そんな希々の様子を見た蓮唯が希々に対して聞く。
「ЯEBIRTH CODEをどう思う?」
「ЯEBIRTH CODE、ですか?」
「ああ。憎い?それとも正義の味方か?さあ、ここで今答えろ音華希々!」
希々が知る蓮唯は、ここまでトゲトゲしていないはずだ・・・。
でも、何かが引っかかる。
希々は、勇気を持って問うことにした。
「ЯEBIRTH CODEは、いい組織だと思います。この世界を守るために動く、なくてはならない組織だからです。逆に聞きますが、なぜ兄さんはЯEBIRTH CODEのことを話にするのです?兄さんは、兄さんは・・・ЯEBIRTH CODEのメンバーじゃないんですか!?今の兄さんは、なにかに取り憑かれているようで・・・別人だ」
「・・・ЯEBIRTH CODEのメンバーだったことを希々は知ったのか?」
「・・・」
無言で首肯すると、蓮唯が希々を殴った。
軽症で済んだので立ち上がって思いをぶつける。
「なんで、ЯEBIRTH CODEのメンバーじゃなくなったの?」
「言っておくが、ЯEBIRTH CODEには恨みない・・・。あと俺は・・・“変わった”から」
蓮唯が高らかに宣言をする中で希々は、必死に考えた。
ここから抗う方法を・・・そして、賭けに出ることにした。
戦って、兄さんを正気に戻そう、と。
やれるかは怪しい、でも・・・怖気付いたらだめだ・・・。
その考えだけが希々をその場に立たせていた。
「兄さんがそこまで言うなら、ここで戦いましょう!ЯEBIRTH CODEの一員として!」
「ほぉ?抗うときたか・・・わかった。ここで戦おう」
希々がバッグの中に入ってた鞘から片手剣取り出しつつ、同時進行で本部にメッセージを流す。
その流れをわずか三秒で成し遂げた希々。
一応、メッセージが送れているかの確認のために機械をバッグの中でいじる。
その様子を見た蓮唯が首を傾げる。
「何ガサゴソ探し物をしている?」
「静かにしてください。いくら兄さんでも、今の発言は許さないですから」
「ほぉ?妹が俺に反抗?昔はできなかったのに、ついに覚えたか。まさか俺が行方不明になってから一ヶ月でここまで変わり果てるとはな。人間って面白いな」
やはり、兄さんは・・・いや、そんな考えはダメだ・・・。
今は、集中するの・・・。
送れていることを確認した希々はバッグを遠くに置く。
「兄さんは、なぜЯEBIRTH CODEを裏切ったのですか?」
「裏切った・・・か。そうかそうか。希々にはそう見えたんだな。あながち間違いではない。たしかにЯEBIRTH CODEにいた時に引き受けた任務で行方不明になった。このことは事実だ。しかし、その前から俺は、ЯEBIRTH CODEから“消える”予定でいた」
初めて蓮唯から言われた言葉。
衝撃よりも、パズルのピースがピッタリ合わさっていく感じ。
希々は驚きもせず、知っていたかのように振舞った。
いや、そうせざるを得なかった。
「ЯEBIRTH CODEの体制が合わないから?それとも・・・」
「違うな。少なくともЯEBIRTH CODEの一員として加入して、敵組織と戦ううちに敵組織のことが可哀想で、ЯEBIRTH CODEのやっていることが気に食わなかっただけ・・・それ以外のなんでもないさ。それに・・・」
そう言いかけて、蓮唯がニヤリと笑った。
「ЯEBIRTH CODEに復讐するために、今の俺がいる」
「はい?」
「なにせ、ЯEBIRTH CODEでは世界を救えない。故に、俺は自らの意思で実験に協力した!」
希々はもう、目の前の人物に、実の兄であっても恐怖を覚えずにはいられない。
「狂ってますわ・・・」
「狂ってるって、とうの昔に言われたさ。何千回もね。さて、無駄話はここまでだ。戦いを始めようか」
蓮唯の周囲に漂っていた空気が一瞬で凍りついた。
「・・・覚悟はできました」
希々は、蓮唯の戦闘スタイルを思い出す。
蓮唯は遠距離も近距離も行けるはずだから・・・最速で倒さないと不利になる。
だからこそ希々は必死に戦い方を考え、試してみたい戦い方をイメージしながら前を見据えた。
「じゃ、始めよう」
蓮唯が踏み込んでから希々がいる場所への距離を詰めるまで、かかった時間は一秒もかからなかった。
「一撃が重いっ」
弾く意識で蓮唯の剣を受け流す。
「ほぉ。よく剣を弾いたものだ」
軽やかに元いた場所へ戻る。
「たとえ兄さんと言えど、手加減するほど私は甘くない」
片手剣に秘められた風の力をコントロールしながら、身に纏う防具をイメージし、本部で練習したあの技を使う!
「風龍戦乙女」
希々の片手剣の周囲から風が吹き荒れながら、明るい緑色の防具が現れた。
「なるほど・・・それが希々が持つ片手剣の力か?」
「まだ全部じゃないけど、今出せる全力であなたを倒します!」
希々の瞬発力と風の力が合わさり、蓮唯であっても目に追えないスピードで加速し、剣を振り下ろす。
「すばしっこい動きだな!」
一瞬だけ希々の動きが止まったように蓮唯視点では見えたが、残念ながら希々の残像だった。
「風雅斬・風月」
風の刃を飛ばして敵を怯ませながら、突き技十連撃を決める希々オリジナルの技。
「くっ・・・」
蓮唯の身体に切り傷がたくさんできてきた。
血が少しずつ滲み出しているが、希々は気がついた。
血が赤色ではなく、黒色であることを。
「それでも!」
風月を決めた希々は蓮唯から距離を置く。
「これで倒せてないなら、それでこそ化け物ですよ・・・」
「化け物で結構」
風が収まり、蓮唯の姿が見えた。
しかし蓮唯をよく見てみると、右腕が変異していた。
右腕だけにとどまらず、身体中が変異していた。
「あまり力を使うなとは言われたが、さすがに腹立たしい。今ここで倒す」
空気が重く、立つこともままならない。
しかし、希々は全力を込めた一撃を放すことを決意し、必死に距離を稼ぐ。
「こっちは飛翔しながらだから、兄さん視点では狙いやすいとはいえ、なんの攻撃をしてくるかわからない以上、あの技で行くしかない」
希々が方向転換し、片手剣を物質変形させた。
「なっ!?」
希々が物質変形を使えるとは思ってなかったようだ。
希々が物質変形させたのは、明るい緑のオーラが漂う弓だった。
これこそ、希々が導き出した答えだった。
話は昨日の夜、遥斗達が任務で本部から離れている時の話。
希々が拳銃を武器開発部に依頼するよりも前の話。
希々が家でゴロゴロしながら片手剣を見ていた。
「風龍戦乙女以外にも技が欲しいなあ」
そう、この時の希々はまだ風龍戦乙女しか技を持っていなかった。
「剣だけじゃ遠距離攻撃はできないから、ダメ。どうする・・・」
ふと閃いた。
片手剣を別の武器に変えれたら解決するのでは・・・?
希々はその答えにたどり着き、片手剣をどうやって弓に変えるかを考え始めた。
しかし答えが見つからなかったので、心当たりある人に電話をかけた。
「片手剣を弓に物質変形!?あー、まあ、確かに私は物質変形使えるけど・・・」
電話相手は空癒だった。
「物質変形が使えれば、技のレパートリーが増えるんです。というか、物質変形を使えなきゃ、私は、弱いままだから・・・」
「わかった。わかったから。今、家?」
空癒が希々の思いに耐えきれず、今いる場所を聞くことで話を遮る。
「家です」
希々の即答に空癒が「わかった。今向かう」とだけ言い残し一方的に電話を切った。
十分も経たずにピンポーンという音が鳴り、空癒が有無を言わず家に上がってきた。
「本部行くよ」
「は、はい」
空癒の車に乗せられて、本部に逆戻りした希々。
空癒と一緒に訓練所へ来て、空癒から説明を受ける。
「物質変形は、自分の武器を握りながら念じたところで、できるか怪しいのよ。だからこそ、これを使う」
「なんですかこれ」
銀色の指輪を空癒が指輪ケースから取り出し、希々に嵌める。
「これは指の形をした能力補助装置。今回で言うところの物質変形の能力を確実に成功させる装置だね」
「能力補助装置・・・」
見た目はシンプルな指輪だが・・・本当に装置なのか?
「本当に装置なのですか・・・?」
「そうだよ?試しに片手剣握って念じてみて」
空癒に言われるがまま、愛剣の片手剣を握る。
「イメージは弓」
片手剣から風が発生し、片手剣が包み込んで消えたと思いきや、手元に弓が現れていた。
「これが物質変形・・・」
「おー。成功したね。うん。これが物質変形。効果は五分だけだから。使い場所は考えるんだよ?」
空癒に忠告された効果の有効時間を忘れることなく、希々が弓を構える。
「狙いは、足」
そう、希々が呟きながら風が緑色の光の矢となる。
そして迷わず蓮唯の足元目掛けて放たれる。
「・・・舐めるな!」
蓮唯が片手剣を銃を構える体勢で持ちながら光線を放つ。
複雑な経路で放たれる光線を咄嗟の判断で躱す。
「紙一重・・・っ」
矢を放つスピードを変えず放ち続ける希々。
遠距離攻撃同士の戦いが長引く中、その戦いを中断せざるを得ない人物が現れたからだ。
二振りの刀を差して現れたのは、他でもない遥斗だった。
「やぁ、蓮唯・・・行方不明になったあの時から随分と変わった。一体何があった?」
「遥斗さん!?(まさか本部にメッセージ送ったら遥斗さん本人が来るとは・・・)」
「・・・」
驚きを隠せない希々と無言で立ち続ける蓮唯。
双方を見て遥斗が蓮唯に刀を向ける。
「何があったか、教えてもらう」




