第八十話 未来視
めっちゃ書いてるじゃん!
シドウとクロは同時に地を蹴り、砂煙を巻き上げながらアスへ一直線に迫った。
崩れた壁の破片が転がる中を、風を裂くような速さで抜けていく。
だが――
「くっ……」
刀を振り下ろすより早く、アスの腕が残像もなく伸びた。
シドウの胸ぐらが掴まれ、そのまま腕ごと引き寄せられる。
次の瞬間、無機質な音が立て続けに響いた。
アスの拳がシドウの顔面に連打で叩き込まれ、反撃の隙すら与えない。
シドウの身体は軽く弾かれたように宙へ跳ね上がり、遠く都市中心の方角へ一直線に飛ばされていった。
地面を滑り、粉塵がもうもうと舞い上がる。
クロが怒りと焦りを込めて元のドラゴンの形になり大きく身体を膨張させ、腕を振るうと同時に暴風が生まれた。
瓦礫や砂が竜巻のように巻き上がり、アスを包むように襲いかかる。
しかし――
「邪魔だ。」
アスが手を前に突き出しただけで、暴風は音もなく霧散した。
まるで最初から風が存在していなかったかのように、世界が一瞬で静まり返る。
「うそ!」
クロは逆にアスの掌から生まれた風圧に押し返され、後方へ大きく吹き飛ばされていった。
瓦礫の雨が地面に落ち、辺りは嘘みたいに静かになった。
その光景にクレアも目を丸くし、
「マジで言ってんの?」
と本気で引いた声を漏らす。
俺は息を飲みつつ、焔から一気に抉れた地面を踏み越えアスの元へ駆け寄った。
「アス……帰ろう。」
肩を掴むようにして声をかけると、アスは俯いたまま、小さく震える声で答えた。
「嫌だ。新しい主人を見つけた。
イーサン様についていく。」
その時、瓦礫の影から二つの影がゆっくりと現れる。
緑髪の女性とイーサンだ。
2人とも、俺たちの混乱など関係ないとでも言いたげな落ち着いた歩調でこちらへ向かってくる。
その緑髪を見た瞬間、胸の奥がざわついた。
――戸破心音。
魔王評議会の一人。
クロエが急いでシドウとクロを引き戻してくれた。
2人は身体中に傷と砂をつけ、明らかに限界ぎりぎりの状態だ。
「主人、アイツ前より強いです……」
シドウは胸元を押さえながら、息を荒げて言った。
クロは俺の肩の上にちょこんと乗り、荒い呼吸を整えている。
「クレア、手伝ってくれるのか?」
俺が問いかけると、クレアの表情が普段の軽さを完全に捨て、静かに鋭さを帯びた。
「そうしたいけど、サタンに止められてる。
アスもイーサンもライトに関することだから、ライトとその配下達自身が自分で解決しないと。
だから、僕はあの戸破だけぶちのめす。」
「それはありがたいね。」
その判断はクレアらしいし、理にかなっている。
戸破はこの件では完全に部外者だ。任せて問題ない。
「頼んだ。
あとは俺たちがやるよ。」
クレアと手のひらを合わせ、乾いた音が響く。
シドウとクロはイーサンへ。
クレアは戸破心音へ。
そして俺は――アスへ。
イーサンが薄く笑いながら言い放つ。
「無駄だよ、アスタロトはこっちの物だから……」
「その時点でダメだ。アスは物じゃない。」
その瞬間、地面が揺れ、各々が動き出す。
戦いが始まった。
俺はアスへ向けて、開幕から全力の“火星”を放つ。
轟音とともに炎が地を舐め、一帯を真紅の光が染め上げた。
しかしアスは燃え盛る炎の中心を平然と突っ切り、俺の足を掴む。
俺の身体が遠心力で振り回され――
次の瞬間、俺は空高く投げ飛ばされていた。
「吹き飛ばすの好きだな!お前!」
「うっさい、」
アスの拳が魔力を帯び、光の粒子が収束する。
重い一撃が迫る。
俺は水星の力で脚に魔力を流し、一気に加速して回避。
逆回転で回し蹴りを叩き込んだ。
だがその動きすら見透かされていた。
アスは簡単に俺を受け流し、またもや一撃で吹き飛ばす。
《バカか?
アイツは未来を読めるぞ。》
頭の中にヴルドの声が響く。
未来視――その能力があれば、俺の攻撃など見えて当然。
《俺が出る。
策でも考えてろ!》
了解。
俺は深く息を吸い、ヴルドに身体の主導権を渡した。




