無計画ですわね
これまでの柴崎菜央の人生ではいつでも計画通りに過ごしてきた。
小学生の時から夏休みの宿題は計画的に進めて早め早めに終わらせていたから、最終日に泣きながら標語ポスターを描いている友達を手伝ったこともあるし、学生時代にはきちんと自分でスケジュールを立てて試験対策もしてきた。
大学も早い内から目指す方向を決めて試験対策をして、就職だって資料集めから面接対策と全て準備万端にこなしてきた。
総務課では想定できない仕事を振られることもあったが、それも慣れてしまえばある程度のパターンをいくつか想定して下準備をしておけば唐突に困ることはなかった。
その私が!! こんな無謀な逃避行をするなんて……
そのきっかけはもしかしたら成瀬春人との出会いかもしれない。
あいつが時季外れの移動をしてきて、その歓迎会の帰り道になぜか一緒にタクシーに乗ることになり……そしてこの有様よ。
けれど、と不意に考える。
計画、準備、対策……
それに馴れ合い、愛想笑い、無変化の日々……
この世界に来てからは、予想外の日々でそんなものとは無縁に過ぎてきてしまった。
けれどそれが日々新鮮で、日々驚きで、日々悩みで、それがそんなに嫌いじゃ無かった。
だからこの深い森の匂いを吸い込む呼吸がとても楽な気がしている。
自分の逃げる道も行き先もわからないのに、なぜか怖さよりも自由を感じてしまう。
「人の心って、本当にわからないのね」
自分の心でさえもままならない。もう二度と誰にも心揺らされたくないと思っているのに……って、こんなこと考えている場合じゃないわ。
この先、どうするか考えなければならない。
いくら逃走計画が無鉄砲だとしても、王軍が到着してしまえば隣国との小競り合いが避けられない状態になってしまう。ギースのいない間を狙うには今夜しかなかったのだ。
突如バササッと背もたれにしている樹上で大きな音がして数枚の葉がハラハラと落ちてきて、驚いてザッと立ち上がり木の上を見上げたが、シンと静まり何も動く様子はない。
「びびびっくりしたー。なによ、鳥? 驚かせないでよね」
わざと大きめの声で自分を落ち着かせようとする。バクバクと心臓が激しく鳴っている。
びびりと言うなかれ。夜の森で唐突に自分の側で大きな音がするという経験、したことない人がほとんでしょう? どれだけビックリすることか。それも追われている身になってみてよ、めっちゃドキドキするからね?
はああ、と大きなため息を吐き出しながらもう一度座ろうとした瞬間、背後から首を強く掴まれた。




