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09.新剣聖と旧剣聖

 やはりというべきか、私とギルツの決闘はすぐに話が広まりギャラリーが大勢集まってきた。


「おい、剣聖と筋肉聖女が決闘するらしいぞ」

「元剣聖と剣聖な」

「それだと分かりにくくないか?」

「じゃ天然筋肉と養殖筋肉」

「それだ!」


 それだじゃないよ。百歩譲って私のは紛れもない養殖筋肉だからいいけどギルツさんにまで不名誉な名前を与えないで欲しい。

 とまあギャラリーの会話は置いといて、元剣聖はこの事態を想定していたのか自前の剣を用意していたらしい。


「俺はいつでも大丈夫だが、嬢ちゃんは剣持ってるか?」

「大丈夫です。アルハ、剣を」

「はい」


 側仕えの少年から要求物を受け取り、私もギルツと同様に剣を構える。

(凄い。同じように構えてるのに……空気感が全然違う。これが本物の剣聖なんだ)

 初めて見る彼の立ち姿に思わず見惚れてしまった。


「決着はどうする?」

「多少の怪我なら聖女の魔力で治せます。死なない程度に、気の済むまでやりましょう」

「そうこなくっちゃな」

「アルハ、合図をお願いします」


 お互いに準備が完了し、あとは少年の合図を待つのみ。

 死闘ではないが緊張は凄まじかった。

 衆人環視の下で新たな剣聖である私の実力が試される状況、元剣聖の胸を借りる状況、そして憧れの人に私の成長を見てもらう状況に身震いが止まらない。

 そして間もなく、合図が鳴らされる。


「始め」

「ふっ!」

「せぃっ!」


 金属同士が激しくぶつかり合う轟音。

 試合開始早々だが、私はギルツの剣の重さに耐えきれず、思わず受け流して距離をとってしまう。

 流石元剣聖の名は伊達ではない。

 私が取った距離も数瞬の間に詰め、追撃が来る。


「づっ……」

「なるほど、剣技の熟練度は高い。相当鍛錬を積んだようだな」

「ありがとう、ございます!」

「けど避けるばかりじゃ勝てないぞ」

「そんなこと言ったって……」


 休む間もなく繰り出される剣戟、まさに攻め入る隙もない。

 私も長年毎日鍛練を続けて強くなったつもりだった。

 それで剣聖に任命されて、自分の努力が認められたようで嬉しかった。

 でもそれは自惚れだった。本物の剣聖との差を見せつけられ思い知る。

 やはり剣術だけでは勝てないのか……。


「どうした嬢ちゃん、魔法は使わないのか?」

「……ダメですよ。あの魔法は努力という長く険しい道を一瞬で冒涜してしまう……決闘で使うものじゃありません」


 筋肉魔法、ふざけた響きだがそれは紛れもない神の奇跡。

 長い年月をかけた鍛錬の末に手に入れるべき肉体を、私は一瞬で作り上げることができる。

 これが努力への冒涜でなくて何だというのか。

 聖女としての責務を果たすためなら迷うこともないが、実力を競う決闘で使うべきでないことくらいは分かる。

 だが会話をしながらも彼は攻める手を緩めない。

 早く本気をだせと急かさんばかりに彼は私に問いかける。


「だが嬢ちゃんはそれ込みで剣聖になれたんだろ?」

「……返す言葉もありませんね」

「はっきり言おう、素の実力だけじゃ絶対に勝てない、ぞ!」

「ぐぅっ……」


 激しい斬り払いにより私は体ごと大きく後退させられる。


「なあ嬢ちゃん、どうしたら本気で相手してくれる?」


 ギルツは再度問いかける。

 必死な私に対して余裕を見せる辺り、もう勝負はついているようなものだ。ならば求められているのに力を出し惜しみするのは最早冒涜以上の無礼か。

 だがタダで魔法を使用するわけにはいかない。

 何せ憧れの人を前に、私は女を捨てることになるのだから。


「……なら一つ、私が勝ったらお願いを聞いてもらえますか?」

「それは面白いな。こっちも頼んで決闘している身だ、負けたらなんでも聞くとしよう」

「では七年前、私があなたに結婚を申し出たこと、覚えてますか?」


 言いながら想起するのは私が当時12歳の頃の思い出。少し言葉を交わしただけで私は思わず彼に告白してしまったのだ。


「あったなそんなことも、そのときは何て答えたんだったか……」

「『俺は強い女性が好みだ。結婚したかったら俺より強くなってくれ』と」

「そうそう……え? もしかしなくてもそういう……?」

「私、あれから毎日剣の鍛錬を積んだんですよ。それこそ剣聖に任命されるくらいに」

「それは本当に凄いと思うが……あの頃の返事は嬢ちゃんに婚約者がいたから無理難題言って諦めてもらおうと思っただけで……あ」

「はい。私婚約破棄されて今絶賛フリーなんですよ」

「あー……でも俺26だし、嬢ちゃんからしたらほぼおっさんだぞ?」

「私ももう19、『嬢ちゃん』なんて歳じゃありませんので」


 子供に言い訳する大人のように逃げようとするギルツだが、19歳にもなれば大人と言って差し支えない。

 7つの歳の差なんて大した問題じゃないと真剣に目で訴える。

 それを見たギルツもまた、私の思いに応えてくれる。


「……分かった。俺も男だ、今更撤回するような真似はしない。ただしそれは嬢ちゃんが勝ったらの話だがな」

「それでは遠慮なく……」


 思いに応えるために、思いを伝えるために、私は魔法を発動した。


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執事さん可哀そう…
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