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08.剣聖と再会

 称号授与式にて、私は王宮で多くの人に見られながら玉座の前に跪いていた。

 後方のギャラリーからひそひそとした小声が耳に届く。


「あれが新しい剣聖……」

「華奢な小娘ではないか……あれで剣聖が務まるのか?」

「ほら、あれだよ。噂の筋肉聖女」


 出たな私最大の悪名。いつ聞いてもおぞましい響きだ。

 けど私はもう聖女じゃないからその名ともおさらばだ。


「なるほど……ん? では次の聖女は誰に?」

「妹のフェリシア嬢が引き継ぐって話だ。魔法は非公開らしいが」


 そこまで知れ渡っているのかと少し驚かされる。だな聖女が居なくなるのは国の一大事だし周知されるの当然のことか。

 それでも魔法については非公開という言い訳がどこまでもつのやら。 

 そんな噂話に耳を傾けている間に式典の準備が整ったらしい。


「グレイシア・ルベリオ、貴殿に剣聖の称号を授与する」


 私にそう言い放ったのは国王、つまり元婚約者リュカ・ノーブルの父親だ。

 国王は私に剣聖の証として華美な装飾が施された剣を手渡す。

 もちろんこんな剣で戦えるわけがないので、あくまでトロフィーのような扱いだ。

 すると国王は周囲に聞こえない小声で私の耳元に囁いた。


「……この度は息子の我が儘で迷惑をかけてすまない。どうか恨まないでやって欲しい」


 恨むな、というのは些か無茶な相談ではないだろうか……と思うものの国王は悪くないどころか今回の騒動でかなり苦労しているのだろう。

 これ以上この人に心労を与えるのも忍びないのでにっこりと笑って言う。


「謹んでお受けいたします」


 こうして式典は無事終了した。

 玉座から離れる際にリュカ殿下の顔がちらりと見えた。

 私と目が合い、奴は不敵に笑った。

 全く、小物過ぎて本当にあの国王と血の繋がりがあるのか疑わしくなる。真実なら鷹がとんびを産んでしまったというわけか。

 王子のあの満足げな表情は、私が正式に聖女ではなくなり婚約関係が完全消滅したことが余程嬉しいのだろう。


(ご満足いただけて何よりです。けど新たな婚約者である妹を泣かせたら今度こそ、あなたの嫌いな筋肉でそのお顔ぶちのめします)







 剣聖ギルツ・バルトナー。

 史上最年少の十八歳で剣聖へと上り詰めた天才。

 異例の事態に物議をかもしたが、それら全てを彼は持ち前の剣技と腕力でねじ伏せた。

 何十年と時間をかけた達人さえも瞬く間に彼に追い越されたという。

 もちろん戦場においても多大な功績を残し続け、彼は生ける伝説となった。


 そんな彼に私は今……深々と頭を下げている。


「ほんっっっとにごめんなさいっ!」

「やめてくれって嬢ちゃん、謝られることなんて何もない」


 私に意思がなかったとしても、身内の故意で彼は剣聖の身分を失った。

 詳しい話を知らない彼からすれば、弱そうな小娘に最強の座を奪われたことに腹をたてていても仕方ないことだ。

 しかし彼は怒りを露にすることなく、私の頭を上げさせようとしてくれる。


「許してもらえるんですか……?」

「許すも何も……そりゃ悔しい気持ちもあるぞ? だが嬢ちゃんの戦場での功績も耳に届いている。俺が若い頃に国から選ばれたように、今度は嬢ちゃんが選ばれたってだけさ」

「うぅ……ありがとうございます……」


 元剣聖、昔と変わらず優しい人だった。

 本当によかった……この人から恨み顔で責められたら私もメンタルを保てなかったかもしれない。

 しかし話はそれで終わらないらしく、男は真面目な顔で私に言った。


「だが、もし許されるなら一つだけ頼みがある」

「はい、私にできることならなんでも……」

「俺と決闘して欲しい」


 時間が止まったように感じた。

 実際には止まっていないので私が返答できずに固まっているだけ。

 決闘……決闘ってことは闘うってこと? 私が? 元剣聖で憧れの人でもあるギルツさんに? 

 意図が分からずに思わず聞いてしまう。


「えっと……それはどういう……」

「剣聖の称号を寄越せなんて器の小さいことは言わない。ただ、自分で納得したいんだ。剣聖にまで上り詰めた嬢ちゃんの今の実力を」


 ギルツは徹頭徹尾真剣な面持ちだった。

 それだけ真摯な気持ちで、ただ純粋に私の力が知りたいと言う。

 それに応えられない者に、剣聖を名乗る資格などあるはずないだろう。


「分かりました。決闘を引き受けます」

「ありがとう……剣聖殿、胸をお借りします」


 どうしてだろう、嫌だと思っていたはずなのに身体が熱い。

 この感覚は身体が覚えている。私の筋肉が闘いを欲しているんだ。

 それは彼を憧れの人としてだけでなく、乗り越えたい強者として見ているから。

 緊張が高まり鼓動が逸る。

 血が騒ぎ、筋肉に伝播する。

 これは私の身体が絶好調である証だ。

 私はこの身体現象を筋肉の昂りと呼ぶことにした。


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