17.剣聖とデート
早朝、私は使用人を巻き込んで慌ただしくしていた。
「アルハ、この服どうですか?」
「どれでもいい」
「そんなこと言わずに! ギルツさんとの初デートなんですよ!」
今日は元剣聖で現在は最上位騎士の一人であるギルツ・バルトナーと共に出かける予定だった。
昨晩まではただ楽しみに思っていたのだが、いざ朝になってみると物凄い緊張が襲ってきた。
身だしなみが異常に気になり、着ていく服を選ぶのに一時間以上かけていた。
「姉さま、そろそろ時間ですわよ」
「フェリ良いところに、服決めてください!」
「姉さまならどれでも似合いますの」
「そんなこと言わずにお願いします!」
二人目の犠牲者、妹のフェリシアもいつもじゃ考えられない嫌そうな顔を姉に向けていた。
普段は慕ってる姉だが今は心底面倒そうだ。
「もう……アルハ、好きな色を教えてくださいまし」
「んー黒!」
「黒ですわね。じゃあこれにしますの」
「ええ……デートに黒はちょっと……」
「服の色なんかより遅刻の方が印象悪くなりますわ。分かったらさっさと出発するんですの!」
「そんなー!」
そんな感じでドタバタな朝は終結し、不本意な気持ちのまま私は出発することになった。
◇
待ち合わせ場所に到着するとギルツは既に待っていた。
小走りしてきたので息切れしながら挨拶する。
「お待たせ……しました……」
「いいや、秒単位で時間ぴったりだ。流石だなグレイシア」
「あはは……ありがとうございます」
遅れかけたことを特に責めるでもなく褒めてくる辺り、この男も流石だ。
息が落ち着いてきてようやく男の姿をしっかりと目で捉えた。
(ギルツさんの私服ってなんか新鮮ですね。カッコいい……たぶんどんな服着ててもそう思ってしまうんですけど)
彼のファッションセンスは至って平凡、それでも魅力的に映るのは恋による盲目のせいなのか。
「しかしいきなりデートなんて言われるからちょっと驚いたな」
「一緒に行きたいところがあったので。それでその、私変じゃないですか? 服とか……」
「ん? ああ、なんか全身黒いけど似合ってるぞ。強そうだ」
「あ、ありがとうございます!」
強そうなんて感想を出すあたりが彼らしいと思いながら素直に喜んだ。
しかし一瞬彼の顔は曇った。
「けど魔法使ったら弾け飛びそうな服だが大丈夫か?」
「えっと、今日は魔法使う予定ありませんよ?」
「そうなのか……」
(え、何その残念そうな顔。筋肉状態の私にも興味を持ってくれるのは嬉しいけどちょっと複雑ですね……)
顔と言動から察するに私が魔法を使った姿を見れないのが残念、という認識とで良いのだろう。
その顔を見てると私もどんな顔をしていいのか分からないので無理矢理切り替えることにした。
「そ、それじゃあ行きましょうか!」
そうして目的地へ出発することに。
道中も他愛のない話を続けた。
「とまあ先日そんなことがありまして」
「王子と聖女の屋敷を襲撃か。今時テロリストなんているんだな」
「おかげで同棲生活も一旦中断、警備を見直すそうです」
会話の内容は少し前に起きた珍事件の話。
結局犯人達が過激的じゃなかったために助かったが、流石に問題視され、次の同棲拠点と王宮自体の警備も見直された。
使用人達も聖女の指示ということもあり多少の温情を受けて厳重注意で済んだ。
結果フェリシアは現在実家にいるが、しばらくしたら同棲生活を再開するそうだ。
「王子が危険にさらされたのだし当然か。けどフェリシア嬢にとってはありがたいことなのかな? その王子のことも苦手みたいだし」
「うーんどうでしょうね。フェリは嫌なことからは徹底的に逃げますから、本当に嫌いな人は完全シャットアウトしますよ」
「なら多少は王子のことも認めてるってことか」
「かもしれませんね。っとと、話していたら到着しましたね」
私が反応を示すとギルツも私の視線を追って目的地を確認する。
「ここは……武器屋か。剣でも新調するのか?」
「ですね。私ではなくギルツさんのを、ですが」
「俺の? なんでまた」
「だって、称号授与式の日の決闘でギルツさんの剣折ってしまったので……」
それは私が正式に剣聖になった日のこと。
彼との決闘にて魔法で強化した私の一撃は彼の剣を粉砕してしまった。
故意でなくともずった申し訳なく思っていたので、今回デートという形式で弁償させてもらおうと思ったのだ。
「そんなことか。俺から挑んだ勝負だし安物だから別に良かったのに」
「それでも、私がプレゼントしたいんですよ。ダメですか?」
「なるほど……じゃあよろしく頼む」
ギルツからの合意を得て私達は入店した。
「いらっしゃませ……ってこれはこれは剣聖様! いつもご贔屓にしていただきありがとうございます」
武器屋の店主は詰め寄ってくる。
剣聖の私ではなく、元剣聖のギルツに。
どうやらギルツはこの店主と知り合いのようだ。
「よしてくれ。俺はもう剣聖じゃないしな」
「そういえば……ってそちらもしかして新しい剣聖の……!」
「初めまして。新しい剣聖のグレイシア・ルベリオと申します」
「おお、新旧剣聖のカップルですか。お似合いですね」
「まだ付き合ってないので……」
かなりグイグイ来るタイプの店主らしく、しばらく話は続いた。
長話からようやく解放され、私達は剣を見繕う。
「これなんかどうですか?」
「おいグレイシア、そんなに高いのは……」
「けどまたすぐ折れちゃいますよ?」
「しかし安物折らせて高いものを買わせるなんて詐欺みたいで気が引けるのだが」
「私が使って欲しいだけですから。性能に異論なければこれに決定です!」
「むぅ……」
多少強引ながらもプレゼントは決まった。
本来なら男女立場逆なのかなとも思いながら、私からおねだりする勇気もない。
いつかそんな日が来ることを内心少しだけ期待して、私達は店を出た。
「ありがとう。大切に使わせて貰うよ」
「喜んでいただけて何よりです。さて目的も済んでしまったのですが、どうしましょうか」
「ちょうど昼だし、飯にでもしないか?」
「いいですね。ただこの辺のレストランはあまり知らなくて、ギルツさんはどこか良いお店知ってますか?」
「そういうことなら俺の行きつけを紹介しよう」
◇
案内されたのは大衆食堂のような店だった。
あまり馴染みのない場所だったため新鮮に感じたが、それ以上に出てくる料理に驚かされることになった。
「こ、これは……!」
「気づいたか」
「チキンとシーフードの高タンパク低カロリーな主菜、食物繊維豊富な野菜のサラダ、どれを取って筋トレに最適なメニュー……素晴らしいですね!」
「そうだろう! いやーグレイシアなら分かってくれると思ったんだよ」
「薄味ながら満足感のあるボリューム。それでいてこの破格な値段、これは鍛練の後毎日来たくなりますね……」
食事の時間中も筋肉談義で盛り上がった。
結局デートだろうと趣味の話をしているときが一番楽しいらしい。
「よし、腹ごしらえも済んだな。このあとはどうしたい? 予定はないからどこへでも付き合うぞ」
「んー……あ、ならーーーー」
ここでオシャレな服屋やカフェ、なんて言えたら可愛げがあったのだろう。
けれどそれは私のキャラじゃないし、何よりギルツさんは多分楽しめない。
だから私達らしい選択肢を選ぶことにした。
「折角ですし、鍛練に付き合って貰えませんか?」




