16.筋肉と努力
「筋肉集団の大組織、悪くないですね。私もこの魔法で散々虐げられてきたので称賛されるのは素直に嬉しいんですよ」
「そうかそうか。やはり君は我々の同士だったか。では共に築こうではないか、世界最高峰の筋肉を!」
「姉さま……」
歓迎の意を示す大男の集団と落胆する二人。
二人には申し訳ないが、私は彼らの存在を否定するわけにはいかない。
「そうですね。とりあえず王子を解放してあげてくれますか?」
「うーむ、しかし王子をタダで返すのは心配だな。すぐに追っ手がくるのではないか?」
「ではこうしましょう。今からあなた方に魔法をかけます」
「なるほど、身体強化で追っ手を蹴散らすわけだな。是非頼む」
「承りました」
私は男達7人全員を対象に魔法を発動する。
光に包まれた男達は徐々に体が変化していく。
「これが魔法……これで我々の筋肉も!」
「おお……段々と力が湧いてきて……?」
「あれ?」
男達は期待通りの効果が得られていないのか、疑念を抱き始める。
その疑念は勿論私へとぶつけられる。
「これ、何かおかしくないか……? 力が抜けてきたのだが」
「何もおかしくないですよ。私が授けられた魔法は操力、筋肉魔法と呼んでいます。文字通り筋肉を操作する魔法なので……強化だけでなく減衰もできます」
「筋肉減衰、だと……?」
気づいた頃にはもう遅い。
男達の自慢の筋肉は既に見る影もないくらい痩せ細っている。
「どうして、我々は同士ではなかったのか!」
「俺の筋肉が……」
「ええ、筋肉を見れば分かりますよ。貴方達が今までどれだけ努力したのか、その苦労は私も理解できます」
「だったらなんで……」
「なんでじゃないでしょう。貴方達はそのまま自分の努力を信じるだけでよかったのに、最後に魔法で楽をしようとした。そういう曲がった根性大嫌いなんですよ」
「そんな……」
「そんなわけで罰を与えました。恨むなら己を信じきれなかった自分を恨んで、一から鍛え直してください」
「ぐっ……ぬぅ……」
反抗しようにも彼らは既に非力な姿。
人質の王子も自力で払い除けてしまい、彼らは完全に丸腰だ。
私は彼らの努力も買うし筋肉の味方をしたい気持ちもある。
けれど目的のために手段を選ばないなんてやり方は好きになれない。彼らの仲間になっても私の筋肉は萎えてしまう。
「さ、そのもやしボディをさらに鶏ガラみたいにされたくなかったらさっさと帰ってくれます?」
「鶏ガっ……て、撤収しろぉ!」
一目散に屋敷の外へ向かっていくヒョロヒョロな男達。
帰り道体力不足で倒れそうだなーと軽く心配しながら見送る。
「姉さま、逃がしてよかったんですの?」
「いいんですよ。私の魔法が目的というだけでそれ以外に危害を加えるつもりもなさそうでしたし。筋肉減衰の魔法も時期に切れるので復讐してくることもないでしょう」
「流石姉さま。慈悲深いところも素敵ですわ」
いつもの妹の称賛を聞き流していると、この場にいるもう一人が何か言いたげな表情をしていたので私は向き直った。
「ありがとうグレイシア、それから……すまなかった」
「殿下、その謝罪は何に対してのものですか? 心にもないお言葉ならいりませんが」
「そうだな……婚約破棄については謝るつもりがないのは確かだ」
「ええ、それ自体は私も正しいと思います」
私達はどうあっても合わない人間だったのだ。
趣味嗜好が、性格が、生き方が合わなさすぎる。
それはどちらが正しいと言うわけでもないので仕方ないことだ。
「ただ俺は……お前の存在を否定したことだけは謝るべきだと思った。俺は何もかもお前より劣っていたから、どうしても何かで勝ちたくて……無理矢理価値観を押し付けてしまった。それだけは俺の過ちだ……」
「殿下……大人になりましたね」
「うるさい。そういう小馬鹿にしたような態度も嫌いなんだよ」
「それはすみませんでした。でも私のことはいいですけど、フェリのこと泣かしたら許しませんよ?」
「そんなことするわけがないだろう。念願叶った好いた女との結婚だからな」
「え?」
「……は?」
私とフェリシアは王子の言葉に肝を冷やされた。
王子の言葉通りなら、彼は昔から……。
「言っていなかったか? 俺は昔からフェリシアのことが好きだ。新しい婚約もそうなって欲しいという打算はあったが、本当に幸運だったよ」
「「ええ……」」
「おい、二人して嫌そうな顔をするな。まったく……仮にも王子だぞ……」
「でも私この二日で結構酷いこと言ったつもりですのに、普通は愛想を尽かすのでは?」
「好いた女からの言葉なら何だって嬉しいさ。叱責も罵倒もむしろご褒美だな」
「え……変態ですの?」
「否定したいところだが……今その冷たい視線に少しばかり興奮を覚えている」
「こいつガチですわ……」
王子の意外な一面が発覚、しかもマゾの素質ありと……フェリシアは今後益々苦労することになりそうだ。
けど妹を大切にする意思があるなら私はなんだって構わない。
二人が幸せになれることを祈っていよう。




