14.偽聖女と襲撃者
「我が組織の基本理念は筋肉だ」
これはとある非公式組織のお話。
同じ志を持つ同士が集い、構成員は既に50を越えていた。
彼らには少なからず虐げられてきた過去がある。
国全体の美意識が高く、筋肉は醜いものという共通認識があったからだ。
彼らは圧倒的少数派。それでも自分を貫き通す心強き者達がいたからこの組織は出来上がった。
「我々の目的はただ一つ、究極の筋肉へと至ること」
彼らは日の目を避けつつ、一つの野望を胸に活動していた。
理想の筋肉を追い求め日々トレーニングを続けた。
「健全なる筋肉は健全なる精神に宿る」
「人間は歩く筋肉、故に筋肉の強い者こそ強い人間だ」
「いいね仕上がってるよ!」
「キレてるキレてる!」
「ナイスバルク!」
お互い切磋琢磨し、時には称賛しあい共に高め合った。
そんな彼らに一報が入った。
「この国の聖女はどうやら『筋肉聖女』と呼ばれているらしい」
「ほう? 聖女は魔法と呼ばれる特殊な力を持つ。つまりその筋肉聖女の魔法は……」
「そう、筋肉を強化する魔法らしい」
一斉にざわめきが広がった。
噂話を種に好奇心が渦巻く。
「筋肉強化……なんと甘美な響きか」
「是非我が組織に欲しい人材だ」
「しかし聖女をどう勧誘する? 国唯一の存在ならきっと警護もつくだろう」
「そもそも所在も分からない……」
案を出し合うが、小規模組織では国の重要人物へのコネクションが見つからなかった。
しかし皆が唸り合う中、一人の情報が道を拓く。
「小耳に挟んだ情報だが、婚約中の聖女と王子が近々同棲するらしい」
「王子なら王宮に住んでいるから所在は分かるな」
「つまり王子の動向を観察していれば……」
「いずれ聖女に辿り着くということだな!」
皆の顔に希望が出始める。
光明は見えた、あとは目的のために突き進むのみ。
そして判明した王子と聖女の同棲拠点。
「住居を見つけたのは良いがこれからどうする?」
「当然のように使用人はいる。敵対人数が多くては勧誘どころじゃないぞ」
「仕方ない、屋敷を出るまで様子を見よう」
そうして観察を続けること一日、屋敷に動きがあった。
「動きがありました」
「ようやく聖女が出てきたか」
「いえ、聖女は出てきていないのですが……代わりに使用人が大勢出てきました」
「なんだと? 数は?」
「おそらく使用人全て……屋敷内は王子と聖女しかいないと思われます」
「全員だと? 訳が分からんな……」
「しかしこれは好機かと」
ボスと呼ばれる人物も好機だとは考えていた。好機過ぎて逆に罠かと思うくらいに。
しかし自分たちが警戒されるようなこともしていないはず。だから決めた。
「あまり手荒な真似はしたくなかったが仕方ない。この機を逃さぬうちにーーーー襲撃するぞ」
◇
突然屋敷にテロリストが襲撃してきた。
現在王子を人質に取られている。
現在この屋敷は私と王子の二人しかいない。使用人は私が追い出してしまったから。
まさかこんなことになるなんて……。
「一体何が目的ですの?」
集団の中心にいる大男に問う。すると大男もまた私に問いを投げ掛けた。
「お嬢さんが聖女なのか?」
「一応そういうことになってますわね」
「では魔法を見せてくれないか?」
予想外の命令に心臓が高鳴る。
私は聖女を名乗っているだけで魔法を使えない。
まさかこのテロリストは私が魔法を使えないと知っていてそれを聞いてきてる? 聖女差し替えという国の不正を暴くために……。
しかしまだ確証が持てない。
「残念ながら私の魔法はトップシークレット、今この場でお見せするわけにはいきませんわ」
「シークレット? 筋肉聖女なんて名前が浸透するくらいには周知されているのではないのか?」
「あ、そっちですの?」
緊張しながら答えたが、男の反応のせいで一気に気が抜けた。
目的が分かれば現状も把握できる。要するに人違いだ。
この襲撃者達は聖女が交代したことを知らぬまま筋肉聖女、つまり姉を求めて尋ねてきたのだろう。
しかし人違いの旨を説明しようとすると、男達は何を勘違いしたのか急に騒ぎ出す。
「まさか……筋肉魔法は恥ずかしいから人前では使わないって決めてるとか?」
「それでトップシークレットか……確かに女性にとってはデリケートな問題だしな……」
「は? いや全然違……」
「だが我々にも目的があるのだ。何とか魔法を使ってもらえないだろうか!」
否定しようにも彼らは全く耳を貸さず、むしろ私を説得する方向にエスカレートしていく。
「きっと俺達は分かり合える!」
「他に何か我々の気持ちを伝えるには……そうだ構成員A、お前の熱いビートを披露してやれ!」
「オーケーボス……YOYO。俺達の目的はより強靭な肉体。通常筋肉は精神の傀儡。その逆転こそが理想の最大。けど変化なけりゃ組織はいずれ解体。理想を成すための近道はないかい? そう、お前の魔法こそが組織の最適解。イェア!」
「さあどうだ!」
「うわぁ筋肉ラップとかマジでイカれてますわね……」
「逆効果みたいです!」
「無念なラッパーはここで敗退……」
「構成員Aー!」
謎の盛り上がりにドン引きしつつ、このままでは話が進まないため無理矢理話題を切り替えさせることにした。
「あの、私の魔法は筋肉魔法ではありませんわ」
「え? マジ?」
「マジですの。筋肉聖女と呼ばれていた姉は剣聖になりまして、先日妹の私が聖女を引き継ぐことになったんですの」
「人違いだと……えーっとうーむ……ちょっとタンマ!」
私に待機命令を出した男達はヒソヒソと作戦会議をし始めた。
「どうしよこれ。襲撃しちゃったんだけど」
「聖女仲間にできないとなるとただの犯罪だよこれ……」
「しかも相手は王子だし、重罪なんじゃ……?」
「うーむ……」
ようやく手違いで襲撃してしまったと気づき、今さら後悔しているらしい雰囲気。
(私が見逃すって言えば素直に帰ってくれそうですわね……)
こちらから打診してみようとするが、それより先に相手が結論を出してしまった。
「よし、やっぱこの聖女様も人質にするか。それで本物の筋肉聖女と交換してもらおう」
(全然そんなことありませんでしたわ。やっぱり襲撃して来るだけあって頭のネジが何本か飛んでますわね)
多少常識があるのかと思い安堵しかけたが、すぐに考えを改めることになった。
ふざけた連中ではあるが、私達の窮地には変わりないらしい。




