どうも、ひと段落ってやつですね
「というかあなたは……魔王軍の吸血鬼!?」
メリッシュはアルクを掴むヴァンプに驚きの声を上げる。
「というかなんでアルクさんの首を掴んでるんですか? 手を放してください」
『何であなたの言う事を―――ッ!?』
メリッシュはヴァンプが言葉を言い切る前に姿を消し、瞬間的にヴァンプとの距離を詰める。
『なんて速度なのかしら~~~!?』
メリッシュは腰に携えた剣を引き抜き、アルクの首を絞める腕へと切り上げる。
「てりゃあ!」
漆黒の羽を用いて後ろにはばたきメリッシュの件を躱す。
『ッ!? 危ないわね~~~!!!!!! アルクちゃんが怪我しちゃってもいいの~~~?』
「アルク? アルクなら私が抱えてるよ」
『へ~~~、切りつけたのはブラフだったてことね~~~』
メリッシュにお姫様抱っこされたアルクはバツが悪そうな表情で抱えられている。
「………………ありがとう」
そう言ってアルクはメリッシュの腕から地面に降りる。
『………………あなただいぶ異様ね、普通覚醒した瞬間なんて力に振り回されてろくに動けないはずなんだけどね~~~』
「誉めてる?」
『………………ちょっと本気を出さないとまずそうね~~~』
「一体何をするつもり―――」
メリッシュが言葉を言い切る前にヴァンプは自らの右腕を剣へと変質させ、左手の手首を切りつける。
「「ッ!?」」
切り付けられたヴァンプの傷からは通常では考えられない量の血があふれ出ている。
そして段々と血が地面へと広がっていき、すぐにアルク達の足元を覆いつくしす。
『痛いからこれしたくないんだけどね~~~』
そう言ってヴァンプは血が溢れている腕を頭の上に持っていき、何かを潰すように手のひらを握りしめると、広がる血がボコボコと泡立つ。
「一体……何をしているんだ?」
アルクの質問に答えるように泡立つ血から刃が飛び出し、アルクの肩を貫く。
「ッぐ!?」
「アルク!?」
メリッシュは自分に向かって来る刃をへし折りながらアルクの方へと向かい、アルクを貫く刃をへし折る。
『あなたがいくら強くても、この手数に対応は出来ないんじゃないかな~~~?』
メリッシュはアルクを背負い、刃を躱し、へし折り、ヴァンプとの距離を詰める。
「生えてくる刃を全部躱しちゃえば関係ない!」
『人間って悲しい事に手が二本しかないからな~~~、それにこれって殺すためにやってるんじゃないからね~~~』
「………………どういう事?」
ヴァンプは向かって来るメリッシュに逆に自分から距離を詰め、手を変形させた剣で切りかかる。
「単調な攻撃だね! 自分も攻撃に参加して手数を増やしたって、私の方が強いよ!」
メリッシュはヴァンプの攻撃を剣でいなし、そのままの勢いでヴァンプを切りつける。だがしかし、剣がヴァンプの首を切りつける前に、ガキンッ! という金属同士がぶつかる高音が鳴り響く。
「ッ!?」
『こういう事~~~。別に攻撃するためにしてるんじゃなくて、有利な状況を作るためにやってるんだよね~~~』
メリッシュの剣を血溜まりから出現した剣が止める。
「確かに厄介だけど、分かってたらなんてことない!」
『こんだけで終わるわけないよね~~~』
そう言ったヴァンプは次の瞬間にメリッシュの後方へと移動していた。
「ッ!? いつの間に!?」
「あいつ、さっきの瞬間移動か………………メリッシュ!?」
「アルク? どうしたの?」
「違う! 腹が!」
「お腹がどうしたの………………ァ……?」
メリッシュの腹部には剣が突き刺さり、突き刺さった剣を滴り血が地面へと落ちていく。
「ッウ、ッ!? いつの間に!?」
『剣を出す速度って別に制限ないんだよね~~~』
「………………剣を使って加速したって事か」
『アルクちゃんの大成か~~~い………………じゃ、もう一回行くね~~~』
ヴァンプは再び姿を消し、メリッシュに近づく。
「ッ!?」
『へ~~~、その傷でこの攻撃を二回目で止めるなんてね~~~。やるね~~~』
メリッシュは超高速で移動するヴァンプの剣を止める。
「あなたは何故かアルクには攻撃しない。だから前から攻撃してくるし、それに次は首を狙って来ると思った」
『どうして~~~?』
「多分この地面の血は自動で狙って剣を向かわせるやつでしょ、だから最初アルクの肩を貫いちゃった」
『どうかしらね~~~』
「その時あなたの顔に焦りが出てたから、今は手動でしょ」
メリッシュはヴァンプから距離を取り、後ろに飛ぶ。
「最初に血から離れるために私が地面から離れていた時も、倒れてるコープルとマシットにも剣が攻撃していなかった。これって地面に足を付けて立っているのが条件なんでしょ?」
メリッシュは下がったところにあったマシットの巨大ハンマーを持ち上げる。
「あなたがもし私からアルクの事を奪い返したら、またこの魔法を自動にするでしょ」
『私がアルクちゃんに執着してるんだったらそうかもしれないわね~~~』
「はっきり言ってアルクを背負ったまま戦ってもあなたに勝てる気がしないんだよね!」
はっきりと足手まといと言われたアルクは少し肩を震わせ、申し訳なさそうな顔をする。
「だからといってアルクを下ろしたら、すぐに回収されちゃいそうだからさ。それは怖いよね………………だからさ、私思いついちゃったんだよね」
メリッシュは手に取ったハンマーを肩に携え、部屋の中央へと移動する。
「地面があるから生えてくるんだったら! 地面をなくしちゃえばいいんだよ!」
メリッシュは地面へと向けて手に持ったマシットの巨大なハンマーを振る。
「そりゃあ!!!!!!」
掛け声と同時にハンマーが地面を割る。
『ッ!? やってくれるわね~~~』
「これであなたはその魔法が使えな―――ッ!?」
割れた地面の下は底すら見えない深淵で、その場にいた全員が地下の空間へと落ちていく。
落ちていく中でアルクは飛んできた破片が頭にぶつかり、そのまま気を失ってしまった。
27
「ッ………………!? どうなった!?」
アルクは閉じている瞼を通り越して入って来た光に意識を取り戻させられる。
「……起きた……」
「ゥ………………眩し!」
光の正体はコープルが使った魔法で、杖の先端が光を帯びている。
「……発光球体、暗闇も照らすけど……………………光の加減が出来ないから使いにくい……」
コープルは光を細めた目で見つめる。
「………………というか、メリッシュとマシットはどうしたんだ? それに………………ヴァンプも……」
「……メリッシュとマシットは大丈夫……そこで寝てる…………」
コープルは石壁に杖を向け照らし、肩を寄せ合って気を失っている二人の事を指をさす。
「よかった、無事だったのか………………一体、俺達はどんだけの距離を落ちてきたんだ」
アルクは上を見上げるが視界に入って来るのは闇のみで、距離を測る事すらも不可能だ。
「……分からないけど、私達が無事なのはメリッシュのおかげ……」
「………………俺が気を失ってる間に、何があったんだ」
「…………地面をメリッシュが割った時、私は少しだけ意識が戻ってた……その時にメリッシュが周囲の岩や砂を操って……吸血鬼を遠くに飛ばして、私達の事を保護してた……」
そう言ってコープルは地面に刺さっているメリッシュの剣を引き抜く。
「……何をしているんだ?」
「…………そっち、扉があるでしょ………………」
アルクはコープルの指さす方を見る、そこにあるのは先程まで気づかなかったのが不思議なくらい巨大な扉だった。
「………………竜の……模様」
「……そう、上に書いてあったのと同じ……」
「一体この先には何があるんだ?」
「……分からない、けど……」
コープルは少しの間扉を見据えて、目も合わさずに口を開ける。
「……この扉の先にはさっきの吸血鬼がいる……」
「………………進むのか? この先に」
「……メリッシュとマシットは今起こしたら危険な状態、私が何とかしないと……」
「………………回復過多ってやつか? 限界を超えて回復させた場合になるっていう」
「……そう、マシットは体の性質上仕方ないにしても、メリッシュは今までそんな事なかったのに………………多分、勇者になったせい……」
コープルは忌々しそうに扉を見つめる。
「……アルクはここに居て、私はあの吸血鬼の事を何とかしてくる……」
コープルは扉に剣を当てた。
「ッ!? なんだ!?」
「…………やっぱり、勇者の魔力に反応してる……」
切っ先が扉に当たった瞬間、扉は光だした。その光は運命の聖女を覆っていた粒子と同じ色で、神々しさを放っている。
それと同時だった、アルク達の後ろでズッという何かを引きずる音が二人の耳に入る。
「……ッ………………!?」
「なんだ!?」
音に反応して二人が振り返ると、そこには紫に薄く透けた八本の触手が宙に浮いており。半分ずつマシットとメリッシュの腕を掴み、引きずっている音だった。
「……ッ放せ……!」
コープルは叫んで、杖を振り上げ掴んでいる職種へと叩き込む。しかし、杖が職種に当たる寸前に触手はメリッシュ達を放し、一か所に集まっていく。そうして一つの塊となった触手はブルブルと震えて音を発し始める。
「ワ……我ラハ、アルーズ。アリア―ラ・ホテクサ……様ノ、下僕デアル」
発された音には老若男女様々な声が混ざり合っている。聞き取ることが困難であるはずなのに、しかし何を言っているのかを一言一句聞き取ることが出来るため聞く者に不可解な印象を与える。
アルクは名乗りを上げた触手の体を見て、マシットの言っていたことを思い出す。
「………………薄く透けた紫色の触手……ッ!?」
「……しつこいモンスター、ここまで追いかけて来るなんて……」
二人は臨戦態勢に入り、触手の動きに注意する。それに反応するようにアルーズは触手を上にあげそして………………地面へとこすり付けた。
「………………?」
「……一体何をしているの……?」
触手を折り曲げさせて謝辞を述べるアルーズ。そのお辞儀? のような動きを怪訝そうに見る。
「……済マヌ、先程マデハ勇者ハ覚醒シテイナカッタタメ、何者デアルカワカラナカッタノダ」
「……そんなのどうでもいい、メリッシュ達に何しようとしたの……」
「礼ヲ欠イテイルノハ自覚シテイルガ、簡潔ニ説明サセテイタダキタイ。ソコノ少女達ニハ時間ガナイノデナ」
「……………………時間が、ない……?」
「ソウダ、時間ガ無イ」
「どういう意味だ?」
「……説明して……」
「ココハ魔力濃度ガ高イ、気ヲウシナエバ自ラノ魔力デサヘ飲ミ込マレテシマウ程二」
「…………魔力が濃いのは分かってたけど、そこまでなんて想定外……」
「故ニ、地上ヘト転移サセヨウトシテイタノダ。信ジ難イカモシラヌガ、我ラモ勇者ガ死ンデシマウノハ不本意ナノダ」
「……そう、分かった…………信用する……」
コープルは再び扉の方へと向かい歩いていく。
「……転移先はどこ……?」
「行キ先ハ竜ノ像ダ」
「……そう……」
コープルは剣を腰のベルトに差し込み、杖を両手で持つ。
「……アルク、あなたもメリッシュ達と一緒に行って……」
「いや、俺も残るよ。あの吸血鬼には聞きたいことがあるからな」
「…………分かった……」
「デハ行クノハ勇者トコノ少女、二人デヨロシイカ?」
「……うん……」
「了承シタ」
アルーズはメリッシュ達の腕を掴み近くに寄せ、触手を器用に動かし二人を囲むように魔法陣を描く。陣を完成させると光を放ち、粒子を放ち始める。
「転移魔法」
音が聞こえた瞬間、浮いていた光の粒子が一ヵ所に集まる。光が晴れるとそこには何も残ってはいなかった。
「…………凄い、こんなに完成度の高い転移魔法なんて……見たのは二回目……」
一回目はリークで、二回目は目の前の触手。
「神罰二導カレシ者二魔法ヲ褒メラレルトハ、感無量ダ」
「……ッ……」
神罰、という単語をアルーズが放った途端にコープルの表情が険しくなり、手に力が込められている………………何かに恐れるように。
「……それで、アルーズ…………あなたはこの先にいる吸血鬼を倒すために協力してくれるの……?」
「………………申シ訳ナイガ、我ラハコノ先二進ム事ガ出来ナイ」
「何でだ?」
「神域ダカラダ、普段我ラハ水域ヲ守護スルコトシカ許可ヲ頂イテイナイノダ」
故ニ……と続けてアルーズ魔法陣を描き出す。
「コノ陣ハ、アリア―ラ・ホテク様ノ祝福ヲ与エル物ダ」
「………………あの妖精の祝福……?」
「なんかやだなぁ」
「………………妖精? 何ノ話カハ分ラヌガ、我ラノ主ヲ救ッテモライタイ」
「………………リークを救うだと? どういう事だ?」
「デハ、我ラハ元ノ使命ヘト戻ラセテモラウ」
「おい! 答えろよ!」
アルーズはアルクの問いに答えることなく薄くなっていく。
「君達ニ祝福ガアラン事ヲ」
姿が完全に消える瞬間アルーズは呟く。完全に姿が消え切ったと同時に描かれていた魔法陣が毒々しい紫色の粒を放ち始め、途端に無数の禍々しい粒が二人の体の中に取り込まれていく。
「ック!? なんだこれ!?」
「…………なんか………………後で体調崩しそう……」
28
「……行こう……」
「………………ああ」
体に悪そうな色の光の粒子をたっぷりと取り込まさせされたアルク達は、巨大な扉の前に並んで立つ。
「……アルクは右の扉を押して、私はこっちのを押すから……」
「え?」
コープルは紫の髪を伸ばし八本の触腕を作り出す。その生み出した腕を活かして重たい扉を押し始める。
「……アルク、早くして……」
「……少しも押せる気がしないんだけど……いや、やるから睨まないでくれ」
アルクは明かに自分が出せる力よりも強い力で押されて、びくともしていない扉を押す。
「なあ、本当にこれ開くのか?」
「……押してたら分かる…………もっと力入れて……」
「……分かったぁ!?」
アルクが全力で力を入れて扉を押すと先程まででは信じられないほど簡単に開き、アルクはそのまま顔から地面に倒れ込む。
「……危ない……」
「………………助かった、けど苦しいから早く起こして欲しいです」
アルクが地面とキスする前にコープルがアルクの首に髪を巻きつけ引き留める。そのまま首に巻き付けた髪を操り直立体制へとアルクを導く。
「……ハァ……軟弱……」
「……首を絞められたら誰でも苦しいと思うんだが」
アルクは酸素を取り込むために荒い呼吸をし、息を整える。
「……しかし、広いな」
アルクはざっと入った部屋を見渡す。部屋の作りは上と同じだが一点だけ違うところがあった……いや、違うところというよりは違和感と言った方がいいだろう。
部屋の作りは同じなのだが中央には短い階段があり、上った先には石で出来た小さな祭壇がある。それは異質さは無いのだが、しかしそのことが逆に不気味さを引き立てている。
「………………あの祭壇、一体何なんだ?」
「………………」
「……無視しないでくれないか?」
「…………アルク、あれを……」
「………………? ッ!? なん、だ……あれ、は」
コープルが指さした先は天井、そこにあったのは………………。
「木の……根?」
木の根は天井全てが埋まっておりところどころ蠢いている。恐らく見えている部分は巨大樹の根の一部であり、全体像は想像すらもすることは出来ない。
「……異常……」
「……ああ、あれだけデカい根だ、地表に生えてる部分なんて世界樹レベルだろ」
世界樹……ヴァリアントの西にある大国、トライアンフに生えている一本の大木。この木は天を支えていると言われており、また、神が宿っていると言う者もいる。
「……世界樹……ね、そういえば……」
コープルが何かを思い出したかのように口を開けたその時、パチンッ、と突如として指を鳴らす乾いた音が聞こえた。
「……指を鳴らす音」
「……そして少しの魔力の乱れ…………この部屋に吸血鬼が来る……」
『というか正確にはもう来ているんだけどね~~~』
ヴァンプは声を響かせながら、中央にある祭壇の上へと突如として姿を現す。
だがしかし、先程アルク達と相対した時とは違い真紅と漆黒で彩られた豪勢なドレスはところどころ破け、肌にはヴァンプ自ら切りつけたのとは違う傷が見られる。
「………………ッ!? お前!」
「……まさか……!?」
アルク達はヴァンプの姿を見て驚きの声を上げる。それはヴァンプが急に二人の視界に現れたからでも、明らかに戦闘で負傷を負っているからでもない。原因は手にもっていたもの……者にある。
『あら~~~、もしかして知り合いだったかな~~~? この運命の聖女ちゃんと~~~』
運命の聖女は首を掴まれぐったりとしている。服はヴァンプの物よりも赤く染まっており、背は一際深紅に滲み、大きく破れた服の隙間から見える切創は深く、痛々しい。
「あ、アリア!?」
「……一体何が……」
『まあでも勇者と一緒にいたなら知ってるのも当然かな~~~』
ヴァンプは運命の聖女を祭壇に投げ捨てる。
「ッ!? アリアに何をするつもりだ!」
アルクは祭壇に向けて走り出す。
『ふふ、大切にされてるなんて……嫉妬しちゃうわね~~~』
ヴァンプは手の平についた傷から血を噴射させ階段を血で染め、そして血だまりから刃を突き出させ階段を封じてアルクの進行を止める。
「ッ!? 刃!」
『危ないから離れててね~~~』
ヴァンプは歌でも歌うように言葉を紡ぎ、転がっている運命の聖女の胸に腕を突き立てる。
「ク……ッソ」
「……ッ……!?」
胸からは血が噴き出した祭壇を構成する石隙間を通り赤い幾何模様を作る。滴る血は祭壇だけでなく地面までも染め上げ、錆臭い真っ赤な絨毯を作り上げていく。
『さ~~~て、儀式の下準備は終了ってところかな~~~?』
「……儀式…………?」
ヴァンプはどこからか六十センチ程度の木の枝を取り出し、へし折り、ピクリとも動かない聖女の胸へと向かって枝を突き刺す。
『 』
ヴァンプは天井を見上げ、およそ人には理解できない音を使い、詩を読むように呪文を唱える。呪文に反応し天を仰ぐ二本の枝が振動し、それに共鳴するように大地が揺れる。
「……一体、何が……?」
「この揺れは……何だ!」
天井の根の一部が地面へと降り注ぎ、地に触れた途端、ぐずぐずに腐りきる。真っ黒へと変色したそれは蠢きだし、まるで不死鳥の様に小山の中から小さな双葉が生え、次第にその葉は成長し、五メートル程度の樹木へと成長する。
「…………まさか、世界樹……!?!?」
「ッ!? 枝が!?」
世界樹をほうふつとさせるその木は深緑に包まれている、だがしかし、その木は大きな異常性を持っている。
「……触手…………」
その木は無数の枝が生き物のように動いており鞭のようにしなっている。
「ッグ!?」
そのうちの一つがアルクの横っ腹を捕え、壁へと吹き飛ばす。
「……アルク……!!!!!!!」
「ガッ!」
バキッという嫌な音と共に壁へと勢いよく衝突したアルクは、打ち付けられた痛みをなんとか抑えて立ち上がる。
「ッ!? まずい!」
前方へと向けられたアルクの視界は、左右から自らへと迫りくる二発の鞭をとらえる。
「……アルク、掴んで……!」
逃げ場のないアルクの頭上へと紫の髪が寄越される、アルクはその髪束を掴み上へ引き上げられる。
「ッぶねぇ」
コープルはアルクを自分の隣へと降ろし、周囲を警戒する。
「……吸血鬼が操ってこれをしてるってわけじゃなさそう……」
コープルはアルクにメリッシュの剣を投げ渡し、迫りくる木鞭を杖で叩き落とす。
「どうしてそう思うんだ?」
アルクは渡された剣を使い、自らの体を何とか守る。
「……枝に混ざって私達を攻撃してこないのが何よりの証拠……」
ヴァンプはいつの間にか姿を隠している。
「……アルク、『呪い』であの木を吹き飛ばせない……?」
「……いや、無理だ。あの木が何なのかは分からないが、力が強すぎる。こんな所で『呪い』の力を使ったら、威力が強すぎてこの場所が崩れるかもしれない」
あくまで消し飛ばすことは出来るが、しかし威力が強すぎるため使えない。そんな状況にアルクは何とか威力を小さくできないか……と考える。
「ッ……どうすれば」
『威力を抑える方法を教えてあげちゃおうか~~~?』
「何の話だ」
『だ~~~か~~~ら~~~! アルクちゃんのその「呪い」の破壊を抑える方法を教えてあげようかって言ってるの~~~!』
「信じられないな!」
『なんでかな~~~? タダで教えてあげるって言ってるんだけど~~~』
「単純な話、お前が不利になるようなことを何でお前が教えるんだってことだ!」
「……絶対裏に何かある……」
アルクはヴァンプの提案をバッサリと切り捨て、ひたすら枝から身を守る。
『え~~~、裏なんてないんだけど~~~』
「「………………」」
アルクとコープルは声を無視して体を動かす。段々と余裕のなくなってきたコープルはその紫色の髪を八股に分け迎撃する。
『アルクちゃんに死んでほしくないだけなんだけどな~~~?』
「「………………」」
『ちょっと~~~、コープルちゃんも何か言ってくれな~~~い?』
ヴァンプは何を考えているのかアルク達に話しかけるが、ことごとくそれを二人に無視される。
『………………「呪い」は物に付加できるのよ、意識さえ出来れば簡単に出来るからその剣でやってみたら~~~』
「……一人で勝手に話し始めた……」
「………………なんか可哀そうだから、一応やってみるか」
「……相手は極悪吸血気だけどね……」
アルクはヴァンプに言われた通りに剣に意識を向ける。
「………………早くして、一人で捌くには限界がある……」
コープルはアルクが抜けた分の手数を補うため髪をさらに二倍に分けて対応する、しかし髪の太さは半分になってしまったせいで
「(意識を向ける………………か)」
剣を持つ腕に力を入れ呪いの付加を試みるが………………剣に呪いが乗るどころか、何の変化も起こらない。
「無理だできない! やっぱヴァンプの虚言だ!」
「いいえ、虚言ではありません」
アルクは後ろから聞こえてきたその声に驚き声の方を見る、そこには木の枝が突き刺さった聖女がいた。
「あの吸血鬼が何を考え、何を狙い、どんな結果を引き出そうとしているのかは一切わかりません。ですがあの吸血鬼の言った、容易に『呪い』を物体に付加できるという発言には嘘偽りがない事は確かです」
普通なら死んでいる傷で立ち、勇者を導くようにアルクへと語り掛ける。
「アリア!? 生きてたのか!?」
「聖女は頑丈ですので」
運命の聖女は血まみれの洋装からは考えられないほどに落ち着いており、まるで何も感じないといった様子だ。
「無事ならよかった……ボロボロになってる奴にこんなこと言うのも悪いんだが、枝を捌くのを手伝ってもらえないか?」
「申し訳ありませんが、それをすることは出来ません」
「そうだよな、悪―――」
「―――なぜならそれをする必要が無いからです、見てください」
運命の聖女は木の方を指さす。
「一体なん………………!?」
指の先にはコープルを襲っている蠢く木があるはずだったのだが……その木はピクリとも動くことは無く、同様にコープルも停止している。
「これは………………!?」
「これは時間停止魔法、吸血鬼が使っている魔法と同じものです」
「………………こんなに時間停止魔法を使える人がいるって知ったらジャンニャーさん発狂するんじゃないかな」
アルクは魔法名を聞きジャンニャーの目的を思いだし口に出すが、そんな事をしている場合ではないと考え運命の聖女へと問いを投げかける。
「………………で、吸血鬼の言ったことが虚言じゃないってのはどういう事なんだ?」
「……勇者の力とあなたの『呪い』は相反する力であるため、反発し合い付加することが出来ないという事です」
「………………この剣がメリッシュの剣だからってことか」
「そういう事です」
アルクは現状の打開が不可能であることを知らされ、どうするべきかを考える。
「……方法が無いわけではないわけではありません」
運命の聖女は剣先に触れながらアルクの目を見る。
「ッ本当か!? 教えてくれ!」
「………………簡単な話です、それは―――」
運命の聖女は剣に触れている指をスライドして血を滴らせる。
「―――聖女の力で強引に接続してしまえばいいのです」
流れる血は剣へと取り込まれていき、それに続くように聖女の周りを漂う力強い聖光が剣に吸収される。
「これで『呪い』がこの剣に乗せることが出来ました」
アルクはそう言われて手に持つ剣を見る、元々メリッシュの剣は光を跳ね返し銀に輝いていたが、現在は刃全体に薄い黒膜が覆っており剣を禍々しい様相へと作り替えている。
運命の聖女はどうやら力技で『呪い』と勇者の力を共鳴させたため魔力を使い果たし、バタリとノーアクションで倒れ込む。
「お、おい! 大丈夫か!?」
「―――魔力が枯渇したため時間停止魔法の実行を停止します……完了しました。続いて運命の聖女としての処理を終了します……器の身体破損率八割七分、生命維持を発動します……生命維持実行完了、器へと主導権を委託します」
「生命維持!?」
生命維持は緊急で対象の体を仮死状態にし、生命を維持するのに必要な最低限度の機能以外の処理を止めることで、消えゆく命の灯を現世へと引き留める魔法だ。本来ならこの魔法を使うぐらいなら回復系魔法を使い体を治すべきなのだが、この魔法を発動するという事は回復系魔法を掛ける余裕もないという事だ……つまり。
「早くアリアを回復しないと!」
幸いな事にコープルがいる……が、現在彼女は迫りくる枝をそのウニョウニョと動く紫色の髪で防いでいるためこちらも余裕がない。
「……どう、出来たの……?」
「ああ、アリアが手伝ってくれたおかげでな、ただ……急がないとやばい」
アルクは倒れたアリアを指し示す。
「……運命の聖女? いや、アリア……!?」
コープルは信じられないものを見たような顔で固まってしまう……その一瞬だった、瞬き一つも不可能な短い時間集中を欠いたことが致命的だった。
十六に分けた髪の内たった一つ操作をおろそかにしてしまい、その髪が防ぐはずだった枝がコープルに襲い掛かる。
「っ!? コープル危ない」
アルクは枝がコープルに到達する前に間に入り込み、剣で枝を切りつける。
「……流石、『呪い』の力……」
先程までコープルが防ぐだけしか出来なかった枝に枝に切り傷ができ、そこから緑色の樹脂が流れでる。
『よくできました~~~、教えたかいがあるってものね~~~』
拍手の音と共にヴァンプが木の幹の上へと現れる。
『おかげでこのクソ"竜"の制御もはかどるってものだからさ~~~』
ヴァンプが幹に足を置いたと同時に、うねる触手が動きを止める。
『元々"これ"からは魔力は引き出せてはいたんだけど~~~、そうじゃなかったら時間停止魔法なんて超大型の魔法なんて使えないしね~~~』
心底不愉快そうな様子でヴァンプは語りだす。
『でもね~~~やっぱ腐っても伝説級だから血を少しでも混ぜないといけなかったんだよね~~~』
身じろぎをしながらそう話すヴァンプの表情には一切の変化が無く、笑みを浮かべ続けている。
『そのためには傷がいるんだけど~~~、私じゃ力が足りないからさ~~~』
ヴァンプは楽しそうに目を細め、アルクの事を見つめる。
そうして細めた目を残酷な容貌へと変貌させ裂けたように口をゆがませる。
『さあ~~~て、戯れはこんな所かな~~~? やることはやらないとね~~~』
「…………一体何をするつもりなの……?」
『ふふ、何って~~~? 決まってるでしょ~~~?』
ヴァンプは張り付けたような笑みを浮かべて声を出す。
『さ・つ・り・く……といっても~~~地表の人間のだけどね~~~』
うっとりとしながらヴァンプはそう言う。その言葉に続いて地面から枝が生え、天井へと突き刺さる。
『君達は私が直々にいたぶってあげるからね~~~』
29
ヴァンプの周りには地面から高々と伸び天井に突き刺さる四本の枝が生えている。
アルク達を襲っていた無数の、大木からつながる枝は動きを止めている。
『まずは小手調べってところかな~~~? やっちゃえ~~~!』
しかしその四本の内一本の枝がそれらの代りと言わんばかりに殺意を持って、ヴァンプの掛け声と共にアルク達に襲い掛かる。
「ッさっきよりも早いだと!?」
「……さっきまではただ動いてただけって事……?」
アルクは枝の一撃目を何とか回避し、襲い来る二撃目を『呪い』の付与された剣で切りつけ、枝の先端を切り落とす。
「いける、切り落とせる!」
「…………ダメ……」
喜ぶアルクだが………地面へと落ちた先端は崩れ去り、そしてそれと同時に切り傷から緑の液体が溢れ出し、次の瞬間には切られる前に戻っている。
「ッ!? 切っても意味ないのか!?」
「……いや、そんなことない……」
「……どういうことだ?」
「……切られた一瞬だけだけど、あの木の魔力が下がった……」
だから……と続けてコープルはアルクに話す。
「……枝全部を同時に壊せれば倒せるかも……?」
「あの四本の枝をか?」
「……違う、天井に刺さってるのも含めて八本全部、かな……?」
「………………地上の人に、賭けるしかないのか」
アルクは天井を見上げて、呟いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あーーー、なんだ。まぁ、集まってくれてありがとう」
ギルドはヴァンプの呼び出した龍種の頂点の被害により元々あった場所には瓦礫しか残っていない。
「まあギルドは完全にぶっ壊されてしまったが気にするな」
ギルド長は集めたメンバーより一段高い所に立ちその場にいる顔ぶれを見渡す。
「……ランシア達がいないな、それにアル―――」
「―――遅刻じゃないな! これはセーフだ!」
ギルド長がその場にいない人間を確認していたところ、ランシアが全力疾走で瓦礫を吹き飛ばしながらギルド長の横へと緊急停止する。
「……ランシアは来たか、キチリーとジャンニャーは?」
「私が全力疾走したんだぞ、後から来るに決まってるだろ?」
「……そうか」
その場にいなかった複数の冒険者たちもちらほらと集まり始め、アルク達以外のメンバーがその場に集まった。
「はぁ、我は文科系なんですよ! 走るのは嫌いなんです!」
「いやあんた私よりクッソ速い速度で走ってたじゃないっすか、私武闘派で通ってるのに三着っすよ!?」
Sランクであるランシア達はAランク以下のメンバー達と少し離れたところに集められた。
「……なあ、アルクとメリッシュ達はどこに行ったんだ?」
ギルド長がランシアへと話しかけ、その場にいない四人の事を聞く。
「………………来てないんですか? 我たちと離れた後に何かあったとかでしょうか?」
「んーーー? そうなるんすかねーーー?」
「まああいつらなら何とかなるんじゃないか?」
「………………そうか」
「……心配にはならないのか?」
「………………なにが言いたい?」
ランシアはギルド長に、あくまで気軽に質問する。
「……当然ギルド長はアルクの力の事を知ってるんだろう?」
「………………」
「あいつの力は何なんだ?」
「……すまないが返答は出来ないな、ただ………………」
ランシアに背を向けギルド長は離れる。
「知りたいんだったらアリア、いやどちらかと言えば運命の聖女を追うといい」
「アリア? あの女の子か……名前が確かに同じだと思ったが、親が信心深いのかとばかり思ってたぞ」
ランシアはこれ以上は情報を与えないという態度のギルド長の背に声をかけ、満足げにその場に落ちているレンガを拾う。
「これ見てたらまた紅茶飲みたくなってきたな」
「さっき飲んだばかりじゃないっすか、飲み過ぎて牛にでもなりたいんっすか?」
ランシアはキチリーの腰を掴み、体を持ち上げそのまま頭から地面へと突き刺した。
30
「ッチ、いつになったら集められた理由が説明されるってんだ」
キリオンは待たされている現状にイライラしながら、組んだ腕を指でトントントントンと叩いている。
「来てない人を待ってるんじゃないんですか?」
「その可能性が一番高そうだな……来てない奴に何で俺らが合わせねえといけねえんだ」
「本当にそうですよね、先に来た私達が待たされるなんて間違ってます」
普段から不機嫌そうな表情をしているケアンだが、今はどちらかといえば不安の色が顔に出ている。それはキリオンはケアン、クシル、カリーナと共にパーティーを組んでいる、しかしこの場にはキリオンとケアンの二人しかいないのが理由だ。
「……龍種の頂点との戦闘でのダメージのせいで二人は寝込んだままですし、様子を見に行きたいので早くしてほしいですよね」
「………………ざっと見渡してみたが、いないのはアルクと、それに一緒にいやがったハンマー女どもだな」
「ッチ、あのクズ。パーティーに居た時だけでなく追っ払った後まで私達に迷惑をかけて……最悪ですね」
自分達が待たされている原因がアルクだと分かった二人のイライラは限界へと達し、ギルド長に直談判しに行こうと一歩踏み出したところで、ギルド長が瓦礫の壇上に登った。
「長く待たせてしまってすまない」
ギルド長は声を張り上げてギルドメンバーの注意を自分に向けさせる。
「そして少し話を聞いてくれ」
ざわついていたその場はギルド長の一声で静まり返る。
「俺の攻撃を止めた吸血鬼が四天王と名乗ったのは聞いていただろう、あれは奴の狂言ではない」
ギルド長の声に静まったその場は再びざわつきを取り戻してしまう。
「俺達ギルドは王命という形で魔王の復活を調査していた……結果は四天王が街を襲ったという事実の通りだ」
ざわつくその場を気にせずにギルド長は自分の足元へと顔を向ける。
「ここからは第九位のSランクパーティー予知夢のリーダー……ホロスに話してもらおう、頼んだぞ」
いつの間にかギルド長の隣には青い短髪を持つ少女が三角座りしており、その目には光はなくどこか虚ろで目の下には酷いクマを作っている。
呼びかけられ立ち上がった少女はギルド長の腰当たりの身長であり、どちらかといえば少女というよりは幼女といった印象を与えられる。
「どーも、ご相伴に預かったホロスでーす! 人前に立つなんて久しぶりだから緊張しちゃうなー! 三日ぶりくらいかな!?」
声は元気だが表情は一貫として鉄仮面であり、その声から受ける印象は快活な印象だが表情のせいでなんとも言えない違和感をその場にいる全員が与えられる。
「はーい! じゃー話しちゃおうかー!」
ホロスは指をパチンッと鳴らすと辺りには大量の水が現れ、そして球体へとその姿を変える。
「まー知ってると思うんだけど私の予言ってよく当たるんだよ、正確には二千七百八十三回中二千七百八十二回ぐらいなんだけどさ! ここで絶対って言えないのは悲しいんだけど外れて良かったから複雑な気分だけどね!」
ホロスは手を叩き恐らく笑っているのであろう様子で語りだす。
「話を戻すんだけどもさ、君達をここに呼んだのは……このタイミングまで待たせたのは今この時のためなんだよね!」
ホロスが言葉を放った瞬間、その場にいる全員を強い地鳴りが襲う。ホロスは水球を変形させて三本の矢を生み出す。
「えーい!」
三本の矢は向いていた方向へと飛んでいく。
「いったい、何なんだこれは!?」
ギルド長がホロスに尋ねる。
「まあ見てなって………………お!」
ホロスは額に手を垂直に当てて矢の向かう遠方を見る。一切全ての地鳴りが止まり木の枝が地面から飛び出すが、地表へと現れた瞬間にホロスの水の矢が直撃し、飛び散る水が鎖へと姿を変えて荒ぶる樹木の動きを縛る。
「やったぁ! 予言通りってところかな」
ホロスは手を挙げて喜びを表現し、全員に語り掛ける。
「まーそう言うわけで! 皆にはあの三本の枝をぶっ壊してもらうよ、私の言うタイミングで同時にね! あ、ギルド長ちょっとこっち来て」
ホロスはニカッと表情を変えずに笑ってギルド長を呼びよせる。
「……なんだ?」
「ギルド長には一人で一本担当してもらうからさ!」
「……は、嘘だろ?」
「大丈夫大丈夫! 予言だといけるって出てるからさ!」
「まあいいか……お前はどうするんだ?」
「私は枝折には参加できないよ、行かないといけないところがあるしやらないといけないことがあるからね!」
ホロスは詳細は言えないといった風にギルド長の問いかけを適当に返す。
「あ、そうそう忘れてた! 音球放送の権限私に譲渡してくれない?」
「分かった、タイミングを合わせるためだ致し方ない、後で返せよ? 俺が死刑になるから」
ギルド長は懐から小さな球を取り出しホロスに手渡す。
「……これって自分の魔力を流したらいいのかな?」
「そうだな」
音球放送、それは街全体に張り巡らされた出力機から所有者が自由に音を流せる。
当然こんなものを自由に操作できる権利が国の管轄から離れれば大問題だ、それゆえにギルド長はこの球を借りるにあたって命を対価にかけている。当然なくせば処刑である。
「っし、これで権利を確保できたかな?」
「そうだな、で? 俺は一体どの枝を折りに行けばいいんだ?」
「そうだねー、ギルド長は北の奴を対応してもらうよ。地理的にもそれが一番いいからね」
ホロスは北、南、北西に大地を貫き現れた枝に指をさす。
「北西の奴はランシア達にやってもらおうかな? 残った南の枝はAランクの冒険者たちにやってもらおう」
「……今更なんだが、お前の予言では一体この街は一体どうなるんだ?」
「それはどういう意味かな?」
「ぶっ壊されてるのか、元に戻るのかだ」
「………………単純な話なのかもしれないんだけどさ」
ホロスはギルド長に背を向けて歩き出す。
「私の予言がどうであろうとギルド長はさ、この街を守るために全力をだして戦うでしょ?」
「………………………………」
「予言の結果を聞こうが聞くまいが全力出すんだったら聞く意味なくない? 未来なんて基本的に聞くべきじゃないんだしね」
「………………………………そうか」
ホロスのその言葉を聞いたギルド長は、察したようにその場を離れ、北の方へと向かって姿を消した。
31
「デッカいなあ! 私より大きいんじゃないかこの木!?」
「我ツッコムべきですかね? どう思います?」
「いつもの事じゃないっすか、ランシアさんが意味わかんないのなんて」
聖徒界のメンバーは北西の方に現れた枝の麓に訪れ、長大なそれを下から見上げる。
「しっかし、一体こいつを倒せって無理じゃないか?」
「それも他の人たちと同じタイミングっすもんね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「………………やっぱり遠くから見てるのと違って、近くに来ると大きいな」
ギルド長は枝を見て、月並みな言葉を放つ。
「これを倒すためには……天使一体使えば行けるか?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「………………無理だ、こんなもの切り倒せるわけないだろ」
「キリオン、諦めてはいけません。あなたはいつだって正しいのです、そんなあなたが諦めてしまっては可能性がゼロになってしまう」
「………………ああ、そうだな」
南の枝の麓にはキリオン達を含めたAランクの冒険者が二十八名、計十八パーティーが揃っており皆それぞれ何かを考えながらその枝を見上げている。そんな面々の思考を遮るように、ザザーという砂嵐の様な音が聞こえる。
『いえーい! 聞こえてるかなー!? 音珠放送の時間だよー!』
元気なホロスの声が出力機を通して街に響き渡る。
『倒して欲しいのは私がスタートの「ト」を言い切ってからちょうど四分二十一秒後に倒してねー! それではスタート!』
ブツンっという音と共に音球放送が切れて、北の方向から二つの爆音が聞こえる。
「ギルド長とSランクがおっぱじめやがった、俺達も始めるか。役立たずの居なくなった俺達ならできるはずだしな、俺が弱気になるなんてどうかしてたな!」
「そうですね、あのクズがいないんだから私達は一つ上のステップに行けたのですから何でもできるはずです。それに時間が四分程度しかないとはいっても、ホロスの鎖が動きを止めているのですから、この場の全員で同時に攻撃すれば切り倒せるはずです」
バチンッという音が聞こえて、ケアンとキリオンは枝の方へと振り返る。
「な……ん」
全ての方位で水の鎖がちぎられ枝が暴れ狂っている。
『いやー! 鎖で止めとくの無理だったみたーい!』
飛び散った水が上空へと飛び上がり4:00という数字を作り上げ、数字を刻々と減らしてゆく。
『ちょっと止めとくのは無理っぽいから、時間制限を表現することにしておくよー!』
「っち、ふざけてんのかクソ鉄仮面が」
キリオンは事の重大さに対して、一方気軽にハイテンションなホロスの声に苛立ちを覚え悪態をつく。
「だけどよぉ」
キリオンはケアンを見る、ギルドには倒れている仲間たちがいる。
恐らくこの暴れ樹をへし折らなければ、被害は広がり仲間たちに致命の一撃与えてしまうかもしれないとキリオンは考える。
「……くっそが、やってやる。俺はAランクなんだ! こんぐらい乗り越えないならこれからやってられねえ!」
覚悟を決めたキリオンが声を上げた。
「そうだ!」「私達だって誇り高き冒険者なのよ!」「負けらんねえよな!」「やってやるよ!」
キリオンの声に続いて全員の士気が上がり、みな口々に声を上げていく。
「俺に続け! 全員で攻撃すれば何とかなるはずだ」
キリオンは剣を取り前へ走り出し、それに続いて冒険者達が後を追う。
「時間まではへし折ったらいけないんだったら、今はこのクソ枝の被害を最小限に抑える用に立ち回らないといけない!」
「だったら私が魔法でキリオンをサポートしましょう」
ケアンは杖の先に魔法陣を展開すると、杖の先端から光がキリオンへと向かい飛んでいき直撃する。その直後からキリオンの動きが数倍機敏になり、剣を握る力も数倍へと上昇する。
「全能力上昇、キリオン! 頑張ってください!」
普段の数倍の効率で動けるようになったキリオンは、Aランク冒険者では躱せるほうが稀有な速さでしなる鞭の様な枝を避け、攻撃を自分に集中させる。
「今のうちにダメージを蓄積させろ!」
「「「「おう!」」」」
キリオン以外のAランク冒険者は枝を取り囲む。
魔法使いは魔力を練り上げてそれぞれが得意とする攻撃魔法をぶつけ、剣をを持つものはキリオンの邪魔にならないように注意しながら枝の表層を切りつけていく。
「皆さん、私が支援魔法を掛けるので攻撃に集中してください!」
ケアンが攻撃をしている全員に聞こえるように指示する。
「そんなことできるの!? 魔力切れになるでしょ!?」
「大丈夫ですよ、私の魔力は多いので」
近くにいた魔法使いの女性の声にケアンはそう答え、全員に全能力上昇を掛ける。
ケアンは常人よりもおよそ四倍の魔力量を保有している、だからこの場にいる全員に支援魔法を掛けたとしても魔力が切れることは無い。
「………………冒険者になってよかったですよ、この私の魔力量に感謝ができるようになれたんですから」
ケアンは支援をしながら自分の手のひらにある大きな傷の後をしみじみと見る。
「(キリオンに助けられるまでは、この魔力のせいでクズ共に忌避されていましたからね)」
ケアンは昔を思い出し、少し表情を暗くする。
「………………おや」
ケアンはキリオンを見る。その瞬間、嫌な予感がケアンの背筋を襲う。
「……あ、れは」
正確には見ていたのはキリオンではない、その前にある枝だ。
暴れ枝は先程まではキリオンを狙ってその体を振り回していたのだが、打って変ってピクリとも動かなくなっている。
「はあ、はあ……一体なんだ!?」
キリオンは目を見開いて枝を見る。
「キリオン! 注意してください、魔力が枝の各所に集まっています」
ケアンは魔力の流れを見ていると、魔力が集まっている場所に変化が起きた。
「(一体何が………………魔力が集まってる場所につぼみが咲いている?)」
「俺達の攻撃で気力でも尽きたのか?」
キリオンはそう判断して本格的に枝をへし折るために麓へと近づく。
「(ダメージの蓄積で動きを止めた………………いや、これは!?)」
無数のつぼみが花開き、そして極撃の衝撃波を放つ。
動きを止めた枝に油断し表層を削らんと近づいていたキリオンはそのために真正面からその衝撃波を受ける結果になった。
「ッな…………ぁ」
防御の体制なんて整っていない、そして躱すこともできない……その事実にキリオンは立ちすくむ。そして迫る衝撃波がキリオンを襲いそしてその命を奪う………………ことは無かった。
「キリオン!!!!!!!!」
衝撃波がキリオンに直撃する直前にケアンが近寄り、衝撃波が当たらないように横へと突き飛ばしたからだ。
「ッ!? ケアン!?」
キリオンの代りにケアンが衝撃波に飲み込まれ、そしてその体は後ろにあった瓦礫の山へ吹き飛ばされる。
キリオンはすぐさま枝から距離を取り倒れているケアンへと駆け寄る。
「そ……んな」
キリオンは見てしまった……油断した馬鹿な自分を庇って攻撃を受けた仲間の姿を。
頭から大量の血を流し、右目は潰れ、右足は骨が折れて本来曲がるはずのない部分が関節となっている、そして………………右腕が肩からゴッソリとえぐられ、なくなっている仲間の姿を。
「ク……ソが」
キリオンはケアンに語り掛ける。
「おい! クソ! 俺が油断したばっかりに!」
「ぁ………………き、キリ……オぉ、ン」
ケアンは衝撃でほとんどの歯が折れたその口で、キリオンに自分が生きていることを表示する。
「ッ! もう喋るな!」
泣きそうな顔でキリオンは叫ぶ。
「こ、れぇ………………」
ケアンが何かを呟くと残っている左手に光が集まり、そしてゆらゆらとその手をキリオンに押し当てる。
「ッ!? 全能力上昇!?」
ケアンは自分が一瞬気を失ってしまったために切れていた支援魔法を再びキリオンにかけ直す。
「自分の事を回復させろ! 死ぬぞ!」
「だ……ぃ、じ………………ょぶ」
ケアンはそのまま手を光らせたまま自分の胸に手を当てる。
「ッ………………生命維持」
ケアンは自分に魔法を掛け、そのまま糸が切れた様に意識を失う。
生命維持は自分の体の状態を維持する魔法だが、この魔法を掛けたまま気を失うと他人にかけていた支援魔法はそのまま維持される。つまり、ケアンはキリオンにあの枝を何としても折れと、自分が生きられるか分からない今の状態で託したのだ。
「……クッソ! 急いでどうにかしないと!」
キリオンはケアンの意思を汲み枝を倒す決意を固める。
枝を倒すためにキリオンは周りを見渡す、他のAランク冒険者達はケアンほどではないとはいえ、先程の衝撃波でかなりの被害を受けており、自由に動けるのはキリオンだけだ。
「ッ、俺一人で……あれを?」
キリオンはせめて後一人ぐらいいればよかったのにと考える。
「………………は」
そして考えを改める。
「アルクの奴を追放しなければよかった………………なんて考えるところだった」
キリオンは弱気になった自分を諫め、そして剣を持って枝へと向ける。
「だが俺は間違ってねえ、あいつが居たらきっと俺まで大ダメージを受けていたに決まってる」
頭の中から後ろ向きの感情を排除し、頭の中をまっさらにし叫ぶ。
「だからあいつを追放した俺は間違ってない……そうだよなケアン!」
ケアンの事を少し見てキリオンは剣を握る力を強め、枝に向かって一心不乱に走り出す。
「絶対にあのクソ樹木を粉々にへし折って、そんでお前を元通りにしてやるよ!」
32
ギルド長は花から放たれる衝撃波を剣一つで捌き街への被害を抑え、残り時間を確認する。
「………………残り二分ジャスト」
暴れる木の攻撃を捌き、躱し、周囲の状況を確認する。
「さっきの攻撃、聖徒界の連中は大丈夫だろうが………………Aランクが心配だな」
ギルド長は様子を見に行きたい衝動に駆られるが、思いとどまる。
「いや……信頼すべきだな。ここで俺が持ち場を離れることで何が起こるかもわからない」
そして目を閉じて手を胸に持っていき、天に祈りをささげる。
「………………ちょっくら天使に力を借りるとするか」
その状態で暴れ樹の猛攻を躱して捌き、光を発生させその光をギルド長へと取り込んでいく。
「………………さて、準備完了だ」
ギルド長は光る眼を見開き、その目線を枝へと向ける。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こいつ硬すぎるだろ! なんだ植物の癖に!」
「うるっさ! 人の耳元で大声出すもんじゃないっすよ!」
「あなたたちちょっと我を見習って清楚に戦ったり出来ないんですか?」
聖徒界の面々はランシアが槍を叩きつけ、ジャンニャーが魔法で爆発を引き起こし、そこにキチリーが爪で切りかかる。
「何回やっても傷すらつかないんですけど!? なんなんっすかねこれ!?」
「………………ほかの枝もこんな感じなんですかね? だったらAランクの人たち大丈夫なんですかね?」
「いや、そんな事ないっぽいぞ」
ランシアは衝撃波が襲った二つの方向に顔を向けて目を細める。
「どうやらAランクが戦ってる枝は脆いっぽいな、というか私達の所の奴が特別硬いんだなこれは」
「はぁー? ふざけんなよクソ占い師が、後で見かけたら顔面ひっかいてやるよ!」
「キチリー……口調が」
「おっと、失礼したっす」
キチリーはスカートの端を掴んで頭を下げながら口調を正す。
「………………清楚ってこんな感じっすかね?」
「それはどっちかっていうと淑女だと思います」
「……お前達、馬鹿言ってるんじゃない。残り一分半なんだから、そろそろ本当に気を引き締めないとやばいの分かってるのか?」
「………………いつも馬鹿やってる人に言われたくないです」
「………………人の振り見て我が振り直せって言葉知ってるっすか?」
ランシアは返答の代りに二人の脳天に拳をめり込ませた。
「「いってえ!!!!!!!!!」」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キリオンは考える。
ギルド長が居る方向には天からの光が差し込み、極光が樹木を照らしている。あれがギルド長の魔法なのだろう……人智を超えている。
キリオンは考える。
聖徒界がいる方向では爆発の極音や、何かを叩きつける爆音が時折空気を振動させている……伝わる音が自分とSランクとの差を歴然とさせる。
キリオンは考える。
どうすればこの枝をへし折ることが出来るのか、彼らの様に人の枠を超えた力を自分は持っていない。であればどうするべきなのか………………。
「………………いや、考えるだけ無駄だ! 要はへし折ったらいいんだからな!」
キリオンは時間を見る…………残り一分半。
「……一度もできたことは無いが、今ならできるかもしれない」
半径二十メートル以内に人がいると巻き込んでしまうだろう。
「まだ動ける軽症の奴らは枝の周りから動けない奴をできるだけ遠くに移動させろ!」
走りながらキリオンは叫ぶ。
「だが俺達Aランクが引いたら枝を折ることが出来ないぞ!」
誰かがキリオンの声に答えた。
「……大丈夫だ、俺が何とかする」
「出来るのか?」
「出来る出来ないじゃない……やるんだよ!」
「………………分かった、お前に賭けよう。俺達はお前が出来るだけ全力を出せるように指示に従おう」
「……任せたぞ!」
33
「(クソが、鉄仮面が指示した時間まで後一分十五秒。それまでは枝に何かしたって意味がない、だったら今は人命救助が優先か)」
キリオンは当たりを見回す。
視線の先では、暴れ枝が尻もちをついて後ろへと逃げる剣士へと狙いをつけて枝をしならせている。
「クソ枝がよお!」
暴れる枝と負傷者の間に割り込みキリオンは剣で追撃を防ぐ。
「少しでも動けるんだったらとっとと逃げやがれ!」
「あ、ありがとう」
両腕がボロボロになった剣士は礼を言って後ろに下がる。
「クソが、あっちもか!」
キリオンは走り、狙われている盾を持った男の前に立つ。
「今のうちに逃げろ!」
「ふ、ふがいない」
キリオンは剣を振り、迫る枝をはじき返す。
「クッソたれがキリがねえ! このクソ樹木弱った奴から狙って攻撃してやがる」
キリオンは枝との距離をさらに詰める。
「(さっきも近づいたら俺だけを狙いやがった)」
キリオンの狙い通り枝は狙いを負傷者から変える。
「(だがこれは……違和感があるな)」
キリオンは何となく不安感を覚えて進行方向から右へと跳ねる。その場から離れた瞬間、先程の全てを薙ぎ払う衝撃波が地面をひっくり返す。
「ッ!? あぶねえ!?」
顔を青ざめるが、しかし走る足は止めない。
「こいつ、根からでもさっきの衝撃波を放ちやがんのか!」
実際には根ではないのだが、しかしキリオンにそんな事は関係ない。なぜなら全部薙ぎ払ってしまえばいいからだ。
「ック、ここもか!?」
キリオンはニ三歩左にステップする。予想通り先程いた場所の地面から衝撃波が天へと突き抜けた。
「………………今日は結構さえてやがるな俺、これならいける!」
キリオンは水の時計に目をやる……あと十五秒。
「全員後ろに引いたぞ!」
後ろの方から男の声がした。
その声に反応してキリオンは辺りを見渡して誰もいないのを確認する。
「やるじゃねえか! だったら今度は俺の番だ!」
今いる場所からさらに距離を詰め、剣に力をこめる。
「ぶった切ってやるよ!」
34
………………残り十五秒。
「時間が来ましたのでもう始めましょう!」
ジャンニャーは鞄から赤黒い液体の入った小瓶を二個取り出しランシアに伝える。
「え? それ使ってもいいんすか?」
「使わないと無理だと判断しました、ランシア!」
「よし! 私が槍でぶっ叩こう!」
キチリーとランシアは瓶を受け取りその中身を飲み干す。
「何回飲んでもまずいっすねこれ」
「叩きますよ本当に」
「お前達! 無駄口叩いてるんじゃないぞ!」
「分かってるっすよ」
キチリーは枝に向かって走り出す。
「じゃーいっちょやってやるっすよ!」
爪が光を放ちだし、その爪を枝へとめり込ませる。
「弱点創造」
差し込んだ爪を引き抜きキチリーはその場から距離を開ける。
「では次は私ですね、全能力上昇」
ケアンが使った時とは比べ物にならないほどの光がランシアに行き届く。
「ヨッシ! やってしまおうか!」
ランシアは上空へと飛び上がり槍を振りかぶる。
「くらえ!」
持っている槍を何倍もの大きさへと変貌させ、ランシアは槍を上から叩きつける。
鼓膜を破るような轟音と共に巨大な枝を真っ二つへと引き裂き、そのまま槍が地面へと叩きつけられる。
「ッ! なんて腕力してるんですか本当に、衝撃で周りの瓦礫が全部吹き飛んでるじゃないですか!」
「それも問題だと思うっすけど………………私の作った弱い部分に攻撃しないのなんなんすか!?」
ランシアが空中から着地し、ジャンニャー達の元へと歩いてくる。
「よし、これで任務完了だな」
屈託のない笑顔を披露しながら、ランシアは視線を宙に上げる。
「ちょうど残りゼロ秒だしな、まあ瓦礫の片づけはやっといてくれるだろ」
「散らかしましたしね、すごい衝撃でしたよ。Aランクの人たちが吹き飛ばされてないか心配です」
「……まー大丈夫だと思うっすけどね、仮にもAランクっすよ? 心配のし過ぎっすよ」
キチリーとジャンニャーはそうして黙り込み、顔を見合わせて意思を確認する。
「「ちょっと確認行きましょう」」
「………………面倒臭いな」
三人は急いでAランクたちの元へと走っていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「………………残り十五秒、そろそろやらないとな」
ギルド長は纏った光を剣へと集中させ剣を振る。
「断罪の天使! 今度は頼んだぞ!」
魔王の残滓を奪われ弱体化してしまった断罪の天使だが、しかしそれは魔王の要素を奪われたおかげで本来の力を取り戻したという事でもある。
「食らいやがれ!」
剣から光が刃として放たれ、それが羽を持った人の形を作り出す。
その人型が口をパクパク動かすたびにキーンといった金属同士がぶつかるような音がギルド長の耳を貫く。
「……分かった分かったすまなかった、もう断罪じゃないんだな」
そうギルド長が口にした途端に人型は満足げな様子で枝へと対面する。
その人型は羽を振り、風を起こしながら枝へと打ち付けそのまま枝をへし折った。
「さっすが天使だな、俺じゃ出来ねえ」
とてつもない風に体を持っていかれないようにし姿勢を屈ませその様子を見つめる。
人型は役目を終え、そのまま姿をくらました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ここで出来なかったら一体いつ出来るってんだ!」
キリオンは足に力を込めて魔力を剣に流す。
「(距離はちょうどいい感じだ、後は成功すれば……いける!)」
キリオンの剣に流された魔力が巨大な剣の形へと整えられる。
「ケアンの仇だ食らいやがれクソ樹木が! 超撃斬刃!」
長大な魔力の剣を振り回し、キリオンは渾身の一撃を巨大樹へと叩き込む。
「うおあああああああああああああああああああああアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
剣を枝にめり込ませ、バキバキという極大の音と共に枝の体を裂いていく。
「へし折れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
世界を包み込む光と共に起きた爆風がキリオンを襲い、その場から後方へと吹き飛ばされる。
「はぁ……はぁ………………やったか?」
枝を見たキリオンは顔を青ざめ、地面へと拳を打ち付ける。
「ッ、クッソ……がぁ!」
枝は確かに切れていた、しかし三分の一だけ残して。
「クソ! クッソォ!」
絶望し打ちひしがれるキリオンを、ギルド長と聖徒界の放った攻撃の衝撃波が襲う。
「ッ!? なんだ!?」
キリオンはその場から衝撃波により、二転三転転がり瓦礫へと打ち付けられる。
しかし、衝撃波が襲ったのはキリオンだけではなかった。
「おい! あんた危ないぞ!」
「ッ!?」
衝撃波によりキリオンに切り込みを入れられた枝はその衝撃波を耐えることは無く揺さぶられ。ベキッという致命的な音を奏でながら、徐々にその角度を深くしていく。
「倒れるぞ!」
「立てるか!? 走れ!」
重傷者を連れて行き、様子を見に戻って来ていたAランクの冒険者たちはキリオンの元へと駆け寄り、肩を貸して被害が出ないであろう場所まで連れて行く。
「済まない、大口叩いたのにへし折れなかった」
「何言ってんだあんたはよくやった方だよ。Sランクやギルド長が放った攻撃の余波だけでへし折れてたとは思わない」
「………………ああ」
キリオン達の後ろから風圧が襲い、少しよろめくが損害を受けることなく回避できたことを確認する。
「……いつか全部守れるようになってやる」
キリオンは顔を地面に向けて、誰にも聞かれないようにつぶやいた。
35
アルクは『呪い』を付与した剣を振り回し迫る枝を切り落としていた。
「クソ、一本ずつしか切れない!」
「……だったら私が引っ張って絡まらせる……!」
コープルは八股に分けた紫の髪を蠢かせ、アルクを襲う枝の一本へと纏わせる。
「……ふん……!」
そのまま枝を動かして近くの枝にぶち当てて絡ませる。
「……これで二本同時に切れるはず……」
「それって残り二本は頑張れって事か?」
「……そう……」
アルクは機能不全となった枝はコープルに任せることにして。今だ何度切られてもピンピンとしている残りに目をやる。
「(どうすればこいつら全部同時に切り落とせるんだ)」
アルクは枝の動きを見て考える。
「いや………………やってみるか」
アルクは近づく枝を剣で跳ね除け、右へ左へ回避する。
「……何を……?」
「……いまだ!」
アルクは枝の攻撃を防ぐ中で、二本の枝が重なるタイミングを計り。重なったと同時に横から剣を突き刺して動かせないようにした。
「……理解……」
コープルは二本の枝の動きを止めている髪を動かして、アルクが動きを止めた二本に絡ませて一つにまとめる。
「……剣は引き抜いた……」
「ああ、助かる」
アルクはコープルから剣を受け取る。
「……とりあえずこれで四本同時に切れるな!」
「……だけど地上の奴も切られないと……」
コープルは地上を見上げ目を細める。
「…………ッ今切って……!」
「え!?」
「…………早く……!」
アルクは指示に従ってその枝の糸束を切り落とす。
「だけど上のも同時に切らないと再生するんじゃ………………ないのか?」
アルクは自分の切った枝の様子を観察するが、穴が開くほど見ても再生する様子はない。
「……地上で誰かがやってくれたのか、というかなんでコープルはそれが分かったんだ?」
アルクは返答を求めて隣に立っているコープルの顔を見る。しかしコープルの表情はどこか暗く、返答もない。
「……そう、あなたがそうなのね……」
「……どうしたんだ」
「…………何でもない……」
コープルは返答は最小限にし、これ以上は返答しないという意思表示をする。そしてコープルはヴァンプが足場にしている木を指をさす。
「……だんだん枯れてる……」
「……というかあの枝を切り落としたって事は大体全部片付いたって事だな」
「……後はあの吸血鬼……」
アルク達がヴァンプの方向を見ると、パチパチという乾いた音が二人の耳を貫いた。
『よくできました~~~、面白かったよ~~~うん』
腐りおちる木からヴァンプが飛び降り、二人との距離を歩いて詰めてくる。
「……切り札が折られたのに自信は折れなかったの……?」
『切り札? このクソ竜の死骸が?』
足元にあったグズグズに溶けた植物の残骸に唾を吐きかけ、そしてガシガシと踏みつける。
『こんなものただの自己満足って所だからね~~~、このクソ竜に吸血鬼っていう下位存在に操られる屈辱を味合わせたかっただけだからさ~~~』
「……嘘、ただの強がり。これを使って地上の人間皆殺しにするんじゃなかったの……?」
『………………ふ~~~んなるほど、地上でほとんど誰も死んで無いの知ってるんだ』
ヴァンプは維持の悪い笑みでコープルに語り掛ける。
『やっぱりそれも神罰に導かれてるからかな~~~?』
「……安い挑発には乗らない、ここであなたを殺せば私達の勝ち……」
『……へぇ』
何秒かコープルとヴァンプは視線を交わらせ、そして次の瞬間にはヴァンプがコープルの目の前へと移動し爪で切りかかっていた。
「……ッ……」
その爪をコープルは杖でギリギリ受け何とか攻撃を防ぐ。
『やるじゃ~~~ん』
アルクは攻防を続けるヴァンプの後ろから切りかかる。
『おっと危な~~~い、黙って切りかかるなんてひどいよね~~~』
「ッ!?」
危ないなんて言いながら背の真っ黒な羽を動かし、振りかぶる手にぶつけて剣をはたき落とす。
「器用なことしやがって、後ろに目でもついてんのか!?」
『ついてるのかもね~~~!』
ヴァンプは羽で風を起こしてアルクを後ろへとよろめかせ、落とした剣から距離を取らせる。
『手を放しても「呪い」が残ってるね~~~、上出来上出来良く出来てるよ~~~』
剣を手に取りうっとりとその剣を見る。
「……いい加減にしろ……!」
コープルは自分を脅威とも思っていない吸血鬼に対して髪で拘束して動きを阻害し、吸血鬼との距離を五メートル程度取る。
『おっと、油断しちゃったかな~~~』
ヴァンプは自分を捕える髪をはがそうともぞもぞ体を動かすが取れない。
『全然緩まないな~~~、解放してくれな~~~い?』
「……放すわけないでしょ……」
『そう、楽しくないな~~~』
「……あなたが楽しいか楽しくないかなんて関係ない……!」
ヴァンプはつまらなさそうに指で足をトントンと叩いている。
『………………もういっか』
縛られたまま心底冷たい声で呟き、氷の様な視線でコープルを見つめる。
「……ッ……!?」
蛇に睨まれた蛙のようにコープルは身を竦めるが、しかし縛る髪の力を緩めることは無い。
「……何する気……?」
『何って? こうするだけだけど?』
そう口にした途端に体から剣を突出させて髪を切り刻み、即座にコープルへと近づいて爪で切りかかる。
「……ワンパターン……ッ…………!?」
先ほどと同じように杖でその魔手を防ぐが、横に構えた杖がへし折られる。
『じゃあね』
無感情に呟かれたその言葉と共にコープルの体を切り刻む。
「……ぁ……………………」
宙へと鮮血を散らしながらコープルの体は地面へと正面から落ち、流す血で作られた水たまりへとベチャリという不快な音と共に倒れる。
「ッ!? コープル!?」
アルクはすぐさまコープルの元へと駆け寄り呼吸を確認する、地に伏したコープルはか細い息で何とか呼吸をしているのみで意識は完全に失っているが何とか生きている。
『どお~~~? コープルちゃん生きてた~~~?』
ヴァンプはコープルに向けていた冷たい表情ではなく、満面の笑みを作ってアルクへと語り掛ける。
「………………お前、一体何がしたいんだ」
そのヴァンプの行動に背に妙な悪寒を感じながらアルクは問いかける。
『質問の意味がよく分からないな~~~?』
「さっきのやり取りだ、コープルを即死させる事だって出来ただろ。だけどコープルは生きている」
『………………………………』
「枝の時もそうだ、わざわざ俺に『呪い』の付与を教えて自分を不利にした」
『何か不都合あるかしら~~~? コープルちゃんもまだ死んで無いし~~~』
「何も不都合ない、俺からしたらな。だけどおまえ視点では何も意味が無いだろ、ずっと意味がないことをしているんじゃないか」
アルクはヴァンプを見据えてそう言う。
「お前の目的は人間を皆殺しにすることのはずなのに、コープルにかなりのダメージを与えるだけで即死はさせない。竜を操って俺達を追い詰めるのに、俺に『呪い』の付与を教えて状況を打開させる」
そうしてヴァンプの行動を淡々と列挙していく。
「お前の目的と行動が一致していない………………という事は目的が皆殺しじゃないって事なのか? それを実行しきるだけの力をお前は持っているはずなんだから」
『………………そうだね~~~』
ヴァンプはアルクから目線をそらして、上の空な様子で何かを考える。そうして何かを思いついたように指を鳴らしてアルクへと視線を戻す。
『いいことを思いついたよ』
そうしてヴァンプは『呪い』の付与されている剣をアルクへと向かって放り投げてしまう。
カラカラと地面を滑って足元へと転がって来た剣をアルクは拾い上げる。
『私と戦って勝てたら教えてあげるよ~~~』
36
『それじゃあ始めちゃおうか~~~!』
ヴァンプはそう言って一旦アルクとの距離を開ける。
『まずはこれ、躱せるかな~~~?』
ヴァンプは掌をアルクへと向け、そこから剣を出現させとてつもない速度で発射する。
「ック!?」
アルクは瞬時に左へと跳ねるが完全に躱すことは出来ず剣が腕の肉をえぐる。
『あ~~~かすっちゃったね~~~』
「(攻撃を当てれば勝てるはず、ただ近づけない)」
何とか近づけないかと思案するが思いつかない。
『もう一回行くよ~~~!』
そうしてさっきと同じ手順で剣を飛ばす。
「またかよ!」
アルクも同じように左へと躱す。
「(今度は完全に躱せたか?)」
そう考えていたアルクの右腹を衝撃が貫き、そのまま左へと吹き飛ばされる。
「ッぐう!」
『躱し方がワンパターンだね~~~、そんなんだとカモられちゃうよ~~~? こんな風にね~~~』
地面へと打ち付けられながら転がるが何とか立ち上がり姿勢を立ち直す。
視線を地面から元いた場所へと向けると、足を上げているヴァンプがいた。
「……一瞬で近づいて俺の横っ腹を蹴り飛ばしたのか」
『そ~~~だよ~~~』
ヴァンプは余裕な表情でアルクと言葉を交わす。
「(なにか、何か手はないか)」
あたりを見渡して使える者が無いか考え、そして一つ見つけた。
「(………………これならいけるか?)」
アルクはそうしてコープルの元へとダッシュする。
『お? こっちへ走ってきて何するつもり~~~?』
ヴァンプは掌をアルクへと向ける。
「俺だってワンパターンだがお前だってワンパターンだ!」
剣が放たれる前にアルクはヴァンプが元居た、刻まれたコープルの髪とヴァンプが作った剣が散乱している場所に向けて方向を変える。
『おっと~~~』
「打つまでの間はいつも動きを止めてたよな!」
『へ~~~よく見てるね~~~』
そしてアルクはその剣と髪と落ちている場所まで到達する。
「食らいやがれ!」
そうしてアルクは落ちている数多の剣をヴァンプへと投げつける。
『私の作った剣を投げても、もとは私なんだから意味ないよね~~~!』
ヴァンプは自分へと届いた剣を躱す素振りも見せることもなく全てを体で受け、そしてそれはヴァンプの体を傷つけるどころか、むしろ体へと取り込まれていき体の一部へと変化していく。
『考え自体はよかったとおも―――ッグ!?』
余裕綽々でアルクの攻撃を評価していたヴァンプだが、その言葉が遮られる。それはヴァンプの体を剣が貫いたからだ、『呪い』の付与された剣が。
『な、るほどね~~~? 私の剣に混ぜて君の剣も投げつけてたのか~~~』
ヴァンプは自分の腹を貫いた剣から視線を上へと移動させ、自分へと走って近づくアルクを見る。
『攻撃手段がない状態で一体どうするつもりなのかな~~~?』
「こうするんだよ!」
アルクはそのまま手を何も持たない手を振りかぶる。
『(恐らくただのハッタリ、アルクちゃんは「呪い」をここでは使わない。だったら他の所に要素があるはず)』
ヴァンプはアルクから注意をそらして、周辺を警戒する。しかしその判断が間違いだった。
『がッ!?』
アルクの行動と共にヴァンプの体に数本の切れ込みが発生する、その事実にヴァンプは驚きアルクとの距離を即座に開ける
『………………一体何をしたのかな~~~?』
ヴァンプはアルクを見るがやはり何も自分にダメージを与える様なものは持っていない……いやその手には見ずらいが数本の糸の様なものを握っている。
『なるほどね~~~、コープルちゃんの髪の毛か~~~! なかなか考えたね~~~』
「まだ『呪い』を瞬間的に乗っけるのなんて出来ないから、お前に投げた剣で倒せるとも思ってなかったしな」
アルクは視線をヴァンプに向け、相手の出方をうかがう。
「(若干気は引けたが勝つためだ、だけど後で謝っとこ)」
ヴァンプは自分の傷口を指で押さえつけジッパーを閉じるかの如くスライドさせる、そうすると傷から流れる血は止まり傷跡も残すことなく消え去っている。
『だったらもうこっちも本気出しっちゃってもいいよね~~~』
その一言にアルクは心にできた余裕一気に奪われる。
やはりヴァンプの表情はにこやかだが、それはやはり吸血鬼で魔王軍四天王だという事を否が応でも理解させる狂気を含んでいた。
『それじゃあ行くよ精々耐えてね~~~』
ヴァンプはそう言うと姿を消す。
「消えた……上か!」
アルクはそう判断し線を上に上げる。
『せいか~~~い!』
空からアルクの『呪い』を付与した剣を振りかぶり、宙から落下してくるヴァンプをアルクは視界の中に捕える。
「とっとと剣を返しやがれ!」
アルクはヴァンプが使っている剣の『呪い』を解除し、続いて髪の両端を両手で横一線に張り詰める。
「(これであの剣で攻撃しようがあっちの剣が切れる)」
このまま落下してくることは無いと考え、アルクはその次。ヴァンプが宙をどう移動するかを観察する。
「ッ!?」
だがヴァンプはそのまま張り詰められた髪へと向かって落ちていき、触れた直後に剣も、その身さえも無数に分解される。
「な!?」
その行動に意識を向けていたアルクだったが、すぐに思考を止めたのがうかつだったと悟らさられる。
呆気に取られていたアルクの足もとからバキッという音が聞こえる、それは床の石畳を打ち割る音でその元凶の地面からはアルクの足首へと腕が伸びていた。
『捕まえた~~~』
そのまま足を掴んだ状態で地面から抜け出して、アルクを持ち上げる。そしてそのまま腕を振りかぶり、アルクを壁に向かって投げつける。
「グ……ッハ」
アルクはその行動に対応することは出来ず壁に直撃しクレーターが出来る。
『うんうん、生きてる生きてる』
アルクは手に掴む髪を放すことは無かったが、しかしぶつけた背中が痛みを訴え掛ける。
「はぁ……はぁッ。……さっきの奴は一体何なんだ?」
『君覚えてないの~~~悲しいな~~~』
ヴァンプは手を目の下に持っていき、張り付けた笑顔で泣いているような動きを手で取る。
『バーで見せたでしょ~~~? 君の放った「呪い」に突撃した奴だよ~~~』
「………………あれか、あれは分身だったのか?」
『正解正解、あの時君は何の迷いもなく「呪い」を私に向けて撃ったけどね、あれって本能で私の分身って理解していたのかな~~~?』
ヴァンプは自分の肌を爪で少し削り爪と指の間が赤くなる。
『これが分身の元、これをこうするとあっという間にもう一人の出来上がり』
そう言って地面にそれを擦り付ける、そうすると次の瞬間にはヴァンプがもう一人立っていた。
『結構難点はあるし使いずらいんだけどね~~~、特に自分の力の十分の一程度の力しか出せない所とかね~~~』
指を鳴らすと分身がその場所から消える。
『でも自分が二人いると片付けとか楽じゃん? こんな風にさ~~~!』
アルクは一瞬風を感じた、そして―――。
「かッ……は」
―――次の瞬間には先程見ていた景色が遠のいていき、背後からバキリッという音が響いた。それが自分の背骨が鳴らした快音であるという事をアルクは数秒かけて理解する。
『お腹か背中か、どっちの方が痛いかな~~~?』
先ほど自分がいた場所にはヴァンプの分身体が腰を落として拳を突き出して立っている。
『部屋に髪が落ちてたら拾うし捨てるよね~~~』
殴られた衝撃で落とした髪をヴァンプが拾いあげ指に掴む、その髪は顔の位置まで持ち上げられると、燃えて燃え尽きた。
『で、アルクちゃ~~~ん。私にダメージを与えられる武器はもうないわけだけど~~~、どうしたい~~~?』
ヴァンプは自分の分身体へ近付き肩へと手を置く、そうすると分身体はその体が真っ黒に染まりボロボロとその形を崩していく。
「どうするってのはどういう意味だ?」
『降伏して私の眷属になってもらう』
バーでしてきた提案と同じ内容を楽し気に語り、人の命を簡単に握りつぶせる手を差し向ける。
「………………断ったらどうなる」
『そうだね~~~』
ヴァンプは倒れている紫髪の少女の傍らに立ち、自らに突き刺さっている剣を引き抜きコープルの首へと添える。
「コープルちゃんを殺して、その次に君を殺す」
一際残酷な笑みを浮かべてそう言い放つ。アルクはその言葉に間髪入れずにその問いに返答する。
「俺の返答はバーで答えたのと同じだ」
アルクはヴァンプの目を力強く見つめて、拳を突き出す。
「お前の眷属になるなんてお断りだね!」
『だったらコープルちゃんには死んでもらおうか~~~!』
ヴァンプは剣を上へと上げて勢いよくコープルの首筋へと振り下ろす。
「させるか!」
アルクは地面を蹴ってヴァンプへと向かって走り出す。
その行動を見てヴァンプは剣をピタリと止め、切っ先をアルクの方へと向ける。
『先に死にたいんだったら意思は尊重してあげないとね~~~!』
「コープル!」
そう叫んだ少年の言葉に答えるように倒れている少女の指がピクリと動く。
アルクが地面を踏みつけると、その地面が割れアルクは急激に加速しヴァンプの懐へと入り込む。
『な!?』
割れた地面の代りにその場に見えるのは紫の糸、コープルの髪だ。その髪が幾重にも重ねられアルクはその押し出される力によって加速した。
「死ぬのはお前だ!」
ヴァンプの胸部へと拳を突きつけ、そして貫く。
『ッグ!?』
心臓を的確に貫かれ吸血鬼であるヴァンプは血を全身に行き渡す身体の機能がなくなった。
『ど……うやって』
アルクには吸血鬼の強靭な肉体を体一つで貫くような力はない。であればどうしてヴァンプは体の中心に巨大な空白を作り出しているのだろうか?
「『呪い』を髪の毛、言ってしまえば人の部位の一つに付与できたからな。だったら俺の体にも付与できるんじゃないかって思ったんだよ」
ヴァンプの問いに腕を引き抜きながらアルクは答える。
『………………ハハ、そんな事も出来たの……それは知らなかったよ』
ヴァンプは立つ力を維持することが出来ず、背中を地面に強く打ち付けながら倒れる。
「……なあ、一つ聞かせてくれ。お前はどうして俺に殺されたがってるんだ?」
アルクはヴァンプの色を失いつつある顔を見て問いかける。
『そうだね~~~』
ヴァンプは考える、自分が四天王として、吸血鬼として、はたまた乙女としてどう答えるのが正解なのか……。
『元カレに似てるからかな、人間に殺された吸血鬼の王子にね』
考えた結果ヴァンプは本心を答えることにした。
ヴァンプは残酷さの無くなった、本当に楽しそうな笑顔を作って答えた。
「………………は?」
予想していた答えとは斜め上の返答が帰ってきたため思考に空白が出来る。
『意味わかんないと思うけどさ本当に似ているんだよね、姿も形も性格も……あなたが「呪い」と呼んでるそれも彼が使ってた物と同じだしね』
「ど……ういう事だ」
震える声でアルクはヴァンプに問いかける、だが死へと一歩一歩近づくヴァンプはその質問へ答えることは無く、語りたいことを淡々と語る。
『生き返ったのかと思ったんだけど違ったしね、生まれ変わりってやつなのかなって』
ヴァンプは目を瞑って昔のことを思い出す。
『自分を庇って死んだ人と瓜二つな存在を自分の手で殺せるかって言われたら無理だしさ、でも恩人である魔王ちゃんを裏切るなんて出来ないしね、だったら戦って殉職ってのが一番いい形だと思ったからさ』
左手をアルクの頬へと当てて、そのまま自らの右肩へと当てる。
『一番いいのは君が眷属になる事だったんだけど、なってくれなかったしね』
その手を肩へとめり込ませると、メキッ! という骨をへし折音が鳴って、切り口からは血が溢れ出す。
肩から腕を切り落とすと、ダランとした腕の手を真っ赤に染まった手で握る。
「ッ何を!?」
腕は美しい剣へと姿を変えて松明の光を反射させる。
『これ貰っといてよ、吸血鬼っていう魔物の部位から作られた剣だから相当な価値だと思うよ。その代わりと言っちゃなんだけど魔王ちゃんに会ったら私の代りに謝っといて、仕事に私情を持ち込んでごめんってさ』
「………………」
『ここまで話を聞いてくれてありがとね、話せて良かったよ………………じゃあね~~~』
幸せそうな表情を作っているヴァンプの身体は消滅し、カラン―――という剣が地面へと落ちた音がアルクの耳を貫いた。
37
龍種の頂点のまき散らした災厄の被害から逃れた、被害を受けなかった地域の住宅街で薄暗い路地裏に少女が一人立っていた。
少女の視線の先には触手の集合体がおり、傍らには二人の少女が倒れている。
「やあ、これで私の予知は二千七百八十五回中二千七百八十三回当たった訳だ」
仕草や声から喜んでいるという事はくみ取れるが、表情はピクリとも動くことは無く機械の様な冷たい印象をアルーズは与えられる。
「……我ラニ敵対スル意思ハ無イ、少女ラヲ地上ヘト届ニキタダケダ」
「あー大丈夫、知ってるから」
「………………?」
「私の言葉聞いてたでしょ、予知で知ってたから大丈夫だよ」
「デアルナラ話ハ早イ、傍ラノ少女ラヲ保護シテ頂キタイ」
「良いよ、というかそのために来たんだしね」
その言葉を聞いたアルーズはメリッシュとマシットの体を触手でつかみ、ホロスの傍へと移動させる。
「我ラノ役目ハ果タシタ、デハ人間後ハ任セタゾ」
アルーズはどこからか音を奏でて、魔法陣を形成していく。
「ああ、ちょっと待って」
「………………何ダ?」
「ちょっと言いたいことがあってさ………………死んでくんない?」
「……何ヲ言ッテイル?」
「というかもう死んでもらってるんだけどね」
ホロスは指をアルーズの体へと向けて、ちょいちょいっとそこを見ろとハンドシグナルを送る。
「コ、レハ……イツノ間ニ」
指を指された部分には全ての光を吸い込むような黒の水の槍が刺さっている、その刺さっている部分からアルーズの体は砕け始め、徐々に原形を留められなくなっている。
「コンナ、物デ我ラガ消滅スルトデ………………モ?」
「それね、竜の力を混ぜた魔法なんだよね。君みたいな存在でも関連する全てを魂から殺しつくす、言うなれば絶滅の槍って所かな」
「人間、貴様一体何者ダ?」
「私? 私は神罰に導かれし者ホロスちゃんだよ、四原理の炎担当の癖に一番得意なのは水の魔法なんだけどね」
「ホ、ロス?」
アルーズは思い出すように名前を口にするが、しかし記憶の中にはどこにもその名前はない。
「私が神罰に導かれてるって気づかなかったでしょ? だったら実験は成功だね」
「何故我ラノ命ヲ狙ウ?」
「それはね……………………教えてやるわけないだろ、とっととくたばれキモ触手」
ホロスが手をグッと握り占めると、それと共鳴するように黒い槍はアルーズの体内から外へと向けて無数に刃を伸ばし、アルーズは塵となって消えてしまう。
「はいはい目的完遂っと」
ホロスは触手の居た場所から足元に寝転がる二人の少女へと顔を向ける。
「まさか私の予言がまた外れるとは思いもしなかったよ、これで黒星二個目なんだよね」
二人の少女を水で作った台車へと乗せて、ホロスは来た道へと戻る。
「この街の崩壊を起点に人類は魔王軍によって絶滅させられるはずだったんだけどね」
どこか遠くを見て、自らが見た運命を塗り替えた存在へと思いをはせる。
「私も全力を出して四本の内一本をへし折ったしまあ殲滅されなかったことを残念がるのもおかしいんだけどさ、まさか世界の運命を分岐させることのできる人間がこの街にもいたなんてね」
何処か楽し気に話す少女の顔には張り付けたような、不似合いな笑顔が作られていた。
38
でかでかと神と竜の像が飾られた教会には怪我をした人間が大量に寝かされており、重症者は今も回復魔法で治療を受けている。その中にはマシットの姿もあり治癒者に手を握られ魔力を流し込まれていた。
「……マシット……」
避難所として機能している教会へと様子を見に足を運んだコープルは、回復過多によって血色が薄くなった少女の顔をみて不安そうに名前を呟く。
「……まあ大丈夫か、マシットだし……」
「え? そんな軽い感じなの?」
「……まあマシットだから、というかもう一人女の子いたと思うんだけど……?」
隣に立っているアルクの言葉を適当に流して、白い服を着た治癒者にメリッシュの所在を問いかける。
「ああメリッシュさんですか? それなら………………あ、ちょうど帰ってきましたね」
治癒者はドタン! とけたたましい音を立てて教会の扉が開いた。
「水汲んできたよ!」
大量の水を含んだ水槽を持ち上げながら、光を背にメリッシュは立っていた。
「あ! コープルとアルクじゃん、お帰り!」
持っている水槽から水を一滴もこぼすこともなく、走ってアルク達の元へと駆け寄って来る。
「………………メリッシュさん、何度も言ってますけど重傷者が寝ているんだから静かにしてください」
治癒者は顔はにこやかだが声には圧が混じっている。
「ごめんなさい、ちょっと力が抑えられなくて」
メリッシュは治癒者に謝罪して水槽を地面に置く。
「……何でメリッシュそんなに元気なんだ?」
「分かんないけど、元気が溢れてるから手伝えることはやらないとね」
「……いつものメリッシュで安心した……」
「あ! そうそう」
メリッシュが思い出したように口を開いた。
「お水汲んでた時にギルド長と会ってね、マシットが起きたらでいいからパーティー全員でギルド跡地に来てくれだってさ」
「……だったら結構待たないとダメかもね……」
「その心配はないわぁ、意識がはっきりしてきたしぃ」
「……マシット……!」
「起きてくれてよかったぁ!」
マシットはフラフラとした足取りで立ち上がるが、しかし倒れたりすることは無く軸はしっかりとしている。
「じゃあ今すぐギルド長の所へ向かいましょうかぁ」
「……そうか、だったらここでもうお別れだな。俺は金を受け取ったらそれで地元に帰るとするよ」
「………………? 何言ってるの?」
メリッシュはアルクの放った言葉が理解できず、何といったか聞き返す。
「俺はお前達のパーティーメンバーじゃないんだから、それに付いていくのはお門違いだろ?」
「え? アルクはもう私達の仲間だよ」
メリッシュはなんでもないように自分の思っていることを口に出す。
アルクは少女の予想外な言葉に一瞬思考を停止させられるが、自分が無粋なことを言ってしまったことを気づかされる。
「……ああ、そうだったな」
アルクは噛み締めるようにただそう返す。
「それじゃあそろそろ行こっか!」
メリッシュに続いて三人はギルド長が待っている簡易ギルドへと向けて出発した………………ドガ! というメリッシュのけたたましい扉を開ける音と共に。
「病人がいるって言ってんだろが!」
治癒者の怒鳴る声を背に逃げるようにメリッシュは走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
教会からアルク達が出て行ってからしばらくしてキリオンが教会の扉を開けた。
「……ケアンの容体はどうなってる!?」
「あなたは……キリオンさんですね」
治癒者はキリオンの顔を見ると暗い顔をして、こちらへといって奥の扉の前へと連れて行く、扉の上には面談室と書かれた鉄のプレートが付いている。
「命の危機はもうありませんがケアンさんの姿を見たら少しショックを受けるかもしれないです」
「………………」
「はい、それに直面する覚悟が決まったら扉を開けてください」
キリオンはその言葉を聞いてから数秒扉を見つめて、面談室の扉に手を掛ける。
「………………入るぞ」
そう言ってキリオンは扉を自分の方へと引き寄せた。
「………………ああ、キリオンですか」
部屋の中ではケアンが木製の椅子に足を組んで座っている、どうやら折れた足は回復魔法で完全に回復したようでキリオンは安心する………………しかし。
「………………足は完全に治たんですが、回復魔法といえども失った腕まではやはり生えて来ませんでした」
当たり前ですがと続けてケアンは自嘲気味に"右腕"を自分の頬へと当てる。
「その腕は……一体何なんだ?」
「これですか?」
その失ったはずの右腕の代りについている、半透明の腕を左手で愛おしむように撫でる。
「これはあの鉄仮面のSランクがやっていた水を鎖に変えていたやつを参考にして、自分の腕を作ってみたんですよ」
ケアンは当たり前かのようにそう言うが、それを出来るのは一握りの人間だけだ。
「まあ常に魔力を消費し続けるので腕の代り程度にしか使えませんから、元々くっついていた腕の方が便利ですね」
「……俺が油断したせいでお前に取り返しのつかない怪我を負わせてしまった、すまない」
「………………だったら私と添い遂げてくれますか?」
「は?」
「……冗談ですよ、まあそういう事を言うのはよしてください。私はあなたのパーティーメンバーなんですから、リーダーの事を守るのは当然ですし」
ケアンは顔をそらして机へと視線を落とす。
「……というか、二人は大丈夫なんですか」
「ああ、クシルとカリーナなならもう起きて街の修繕の手伝いをしてるぞ」
「そうですか、それはよかった」
ケアンは椅子から立ち上がり、キリオンの方へと近づいていく。
「それじゃあ私も行きます、キリオンはどうしますか?」
「ああ俺も手伝いに行くが……というかもう動いてもいいのか?」
「まあ回復魔法で完治しているので」
ケアンはキリオンの手を引いて教会の扉まで歩く。
「それじゃあ行きましょうか」
「そうだな」
そう言って二人は扉を押して外に出ていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ランシア達は崩れた街の中を歩き回って被害の確認をしていた。
「とりあえず逃げ遅れた人とかはいないっぽいすね」
「まあ冒険者が総出で確認したんですからそりゃあそうでしょうね」
三人は雑談をしながら落ちている瓦礫を荷台へと積み込む。
「しっかしSランクにもなってゴミの回収任務を任されるなんて考えてもいなかったすね」
「あー懐かしいですね、あの頃は私達もいろいろ抱えててギクシャクしてましたっけ?」
「そうだったかあ? 結構仲良かったと思うがなあ」
「ランシアはそうかもしれませんね」
「多分人との関係の値が良いか知らない奴かしかないんっすよこの人」
「なんだ、馬鹿にしてるのか?」
「誉めてるんっすよ! 腕の筋肉見せながらこっち寄ってきてほしくないんすけど!」
ランシアは持っている瓦礫を投げすててキチリーを追いかける。
「何やってるんですか本当に」
ジャンニャーはそう言いながら、枝が生えていた方角を見る。
「(しかし、奇妙ですね。四天王はアルク君達が倒したらしいですけど……四天王一人だけが事街を襲っただけで第二陣が来ていないのはいったいどういう事なんでしょうか?)」
ジャンニャーは魔王軍の行動の意味を考えつつも、今はいったん街を修復するのが先だと手を動かし始める。
「あなた達もふざけてないでまじめに―――」
そう言って走り回る二人を諫めようと、音のする方を見ると………………顔面に飛んできたキチリーが直撃した。
「ッぶ!」
ジャンニャーはそのまま後ろへと倒れ込み、集めた瓦礫の中へと飛ばされる。
「「やっべ」」
ランシアとキチリー、二人の声が重なった。
「………………あなた達、ちょっとふざけすぎてますね」
ジャンニャーは瓦礫の中からゆらゆらと立ち上がって、二人の事を威圧する。
「………………久しぶりにギスギスしときますか? それに試してみたかった魔法があるんですよね」
そう言って杖を掲げて魔法陣を形成する。
「……や、ちょっと待ってくれ。それかなりの威力じゃないか? 私といえどもちょっとまずいぞ」
「いーや、ランシアさんならちょっと大怪我するぐらいで済むかもしれないっすけど。私普通に死ぬっすよそれ」
「そうですか………………だったらいっぺん死んどけ、おらぁ!」
そう言ってジャンニャーは溜めた魔力を開放する……壊れた街の一角で、大爆発の極音が炎と共に空気を揺らした。
39
布で簡易的に区切った部屋の中にはアルク達四人が横一列に立っており、その四人の正面には瓦礫で作られた長机を一つ挟んでギルド長が座っていた。
「まずは来てくれてありがとう、というかマシットが倒れていると聞いていたがもう動いて大丈夫なのか?」
「えぇ、大丈夫です。治癒者に魔力を調整してもらったのでぇ」
「そうか、ならよかった」
ギルド長はそう言って自分の視線を四人へと向ける。
「で……本題なんだが」
そう言ってギルド長は数枚の紙を机の上に並べた。
「これって?」
メリッシュはそのうちの一枚を手に取ってその内容に目を通す。
「……数文字読んだだけで気分が悪くなってきちゃった、マシット代りに読んで」
そう言って紙をマシットに手渡す。
「はぁ、分かったわよぉ」
受け取った紙へ目を落としたマシットは顔の色を青へと変える。
「な、ホントに言ってる訳コレぇ?」
そう言ってマシットはギルド長の顔を見る。
「……一体何が書いてあるの……?」
「……………それはこれから説明しよう」
コープルの声にギルド長が答えて立ち上がる。
「俺達は今回の四天王による街の襲撃を受けてギルドの総戦力による魔王の撃退を決めた、そのためにまずはSランクパーティーの一位から十位……全員の終結が不可欠だ」
「……それで、私達がどうして呼ばれているの……?」
「それはだな……お前達のパーティーにその任務を任せようと思う」
「……え……?」
「任務の詳細だが依頼書にも書いてある通り火山都市リギルリアへと向かって奇想天凱をこの街へと招集してくれ」
ギルド長は紙の内一枚を手に取ってメリッシュへと手渡す。
「……よくわかんないけど、分かった!」
「ちょっとぉメリッシュ、はっきりってこの任務異常よぉ。Cランクの私達にこんな任務回すなんて」
「……安請け合いするべきじゃない……」
「何言ってるんだ、むしろ元々の状態でCランクだったのがおかしいんだ」
ギルド長が三人の会派へと入り込む。
「今回の件でハッキリしたがお前達の適正ランクはAランクだろ」
そう言ってギルド長は机の下から紙を一枚取り出して、机の上に置く。
その紙には『パーティ「 」のAランク昇格の承認』と書かれており、その下の四角の箱には承認の二文字の印が赤色で押してある。
「パーティーの名前を登録されてなかったから順番は違うんだがな、先に承認を押して置いた」
「……それっていいんですかぁ?」
「……後だし……」
「なに、問題ない。それにメンバーの所もちゃんと読め、しっかりアルクも入れておいたぞ」
「………………本当だ、私達の名前の下にアルクの名前もある」
「……確かに俺パーティーメンバーになりましたけど、申請通しましたっけ?」
「受付が加えとけって言ってたからな」
「……それ大丈夫なんですか?」
「俺が許可したから問題ない」
ギルド長は紙をメリッシュの方へと向けて隣にペンを置く。
「この紙にお前達のパーティ名を書き込んだら承認したという事になる」
メリッシュはペンを手に取って、三人の方を見る。本当にいいのかという視線を飛ばしながら。
「………………まあメリッシュだし受けるんでしょ」
「……元々ランクを上げるのは目的だったしまあ……」
「……古参勢がいいって言ってるんだから、新参者の俺がとやかく言う資格は無いよな」
「………………分かった、じゃあパーティー名は……鈍龍導祝っと」
そう言ってメリッシュは紙へと書き込んで、ペンを机へと置く。
「よし、これで大丈夫だ。じゃあ頼んだぞ」
「……所で、どのくらいを目安にここを出発すればいいの……?」
「三日後とかかしらねぇ?」
「ん? すまないが今すぐ行ってもらうぞ」
「「「え?」」」
メリッシュ以外の三人の声が揃った。
「今からだと馬車で二日ぐらいだな、馬車は手配しておくから明日の朝にはもう出発してもらう」
「ええ、明日ぁ?」
「明日に街の門の前だ。というか街に来るように命令する書類がいるな……明日に門で渡す」
これで話は終わりだと言ってギルド長は部屋を出ていき、四人は部屋へと取り残された。
「……本当にいいのか? こんな任務に俺が関わって」
「……いや、それよりもぉ。メリッシュが勇者だって多分ばれてるわよねぇこれ」
「……言われなかっただけでそういう事だと思う……」
「まあ別に隠すことでもないし問題は無いんじゃない?」
「……それはそうだな、というか……明日かぁ」
アルクが空を見上げると視界に入って来るのは綺麗なオレンジ色だ。
「まあでも、問題ないんじゃない?」
メリッシュが笑顔でそう言う。
「何か力も制御できるようになってきたし、何とかなる気がする」
「そうねぇ、メリッシュのその顔を見ていると考えている方が馬鹿な気がしてくるしねぇ」
「……メリッシュがそうならきっとそう……」
メリッシュは顔をアルクの方へと向けて目を見る。
「それに新しい仲間もできたことだしね!」
その言葉を受けてアルクは一瞬動揺するが、アルクは答えるように口を開ける。
「……あらためて自己紹介させてくれ、俺の名前はアルク。特技は人を呪う事だ、これからよろしく頼む」
「……人を呪う事が特技って自己紹介やばいと思う……」
「まあいいじゃなぁい、向き合えるようになって来たって事でしょぉ?」
「いろいろあったけどこれからよろしくね! アルク!」
続きが気になる方、『評価』と『ブクマ』をどうかよろしくお願いします。
この下の星マークで評価できるので、していただけると幸いです。
☆☆☆☆☆→★★★★★
という感じに。




