独身貴族は意外と見ている
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「そういうわけで残りの四十セットと合わせて、アルトからブレンド伯爵に納品してくれ」
アルトの作ったミルを確認した俺は、自分で作った分のミルを纏めて渡した。
これはアルトからブレンド伯爵に送ることに意味があるからな。俺が直接渡すよりも、アルトが渡した方がいいだろう。
「わかったよ。ありがとう、兄さん」
「気にするな」
ミルの仕事がひと段落してホッとしていると、執務室の扉が控えめにノックされた。
「アルトさん、フィーベルです。ジルクさんがいらっしゃるのでご相談したいと思いまして」
どうやら扉の向こうにいるのはフィーベルらしい。
アルトが視線を送ってきたので、許可をするように頷く。
「わかった。入っていいよ」
アルトが返事をすると、扉を開けてフィーベルが入ってくる。
しかし、その背中に隠れるようにイリアもいた。
フィーベルの方が小柄なために、高身長なイリアはまったく隠れられていない。
「なんでイリアまでいるんだ」
「……う、うるさいわね。別にいいじゃない」
関係のない者がいることを突っ込むと、イリアは唇を尖らせながらも強引にソファーに座った。まるで出ていくつもりはないとばかりに。
まあ、どうしてやってきたかは大体想像はついているし、これ以上突っ込んでも言い合いになるので放置だ。
「それで相談というのはなんだ?」
フィーベルがイリアの隣に腰を下ろすと、俺は早速と相談内容について尋ねた。
「結婚指輪の試作品ができましたので是非確認をと思いまして」
「わかった。確認しよう」
頷くと指輪の収納されたケースをテーブルに乗せるフィーベル。
ずっと監修をするつもりはないが、最初の試作品だけあって確認してもらいたいのだろうな。
ケースを開けると、男性用、女性用の指輪が露わになる。
男性用のものはシンプルにシルバニウムで作り上げたものから、微妙に湾曲させたものや、ブリリアントカットのような少し表面が角ばったタイプのものもある。
女性用のものには男性用と対になり、やや柔らかで華やかな印象だ。
それとは別にいくつかは淡いゴールドを使用したものや、やたらと小さな宝石が埋め込まれているものもある。
試しに嵌めてみるとサイズ調整の付与もしっかりされており、すんなりと指にハマった。手を開閉しても邪魔になることはない。
「付与は障壁や魔力強化、状態異常耐性か……」
「よくわかりますね」
「魔力回路を見ればわかるだろう」
言われるまでもなく指輪の中にある魔力回路を見ればわかることだ。
「……こっちの対になっていない二つの指輪はイリアが作ったやつだな」
「な、なんでわかったのよ?」
対になっていないゴールドのものと、やたらと装飾の凝っている指輪を示しながら言うと、イリアが驚いたように声を上げた。
「お前の癖なんてすぐにわかる」
「え?」
見抜いた訳を言うと、イリアが呆然とした顔をした。
なんだ。どうしてそこで固まる。
「へー、姉さんの癖っていうのは具体的にどんなところ?」
イリアの反応を不思議に思っていると、アルトが興味深そうに前のめりになる。
「こういった小さな物体の中で魔力回路を組み上げることは難しい。そういった細かい回路の調整とデザイン面を両立させるのがイリアの得意分野だろう」
そもそも小さな魔道具に付与をすること自体が難しい。小さな魔道具にもかかわらず、安定した付与と女性ならではのデザインセンスを持っているのがイリアだ。
「他にイリアさんの作ったものでは、どんな特徴がありますか?」
そのように述べると今度はフィーベルが聞いてくる。
基本的に大人しい女だが、魔道具の話になると饒舌になるタイプか。
「小さいものを得意とする反面、大きな規模で回路を組むことは苦手だな。小さくまとまり過ぎて大きさが活かせてない。いくつか魔道具店でイリアが作ったランプを見たが、なんだあのおざなりな魔力回路は? デザインにばかり意識がいき過ぎだ。あんな組み方をしなくても、もっと効率化できるだろうに――」
「あーもう! うるさいわね!」
過去に見たことを思い出しながら指摘すると、イリアは顔を真っ赤にして立ち上がる。
怒ったのかと思って見上げると、イリアはすぐに顔を背けて部屋を出ていった。
「……なんだ、あいつは?」
急に顔を真っ赤にしたと思ったら怒るでもなく部屋を出ていく。どういう感情を抱いて、そのような行動に出たのか理解できない。
「普段からジルクさんに魔道具を見てもらえていたことがわかって、嬉しかったんだと思いますよ」
首を傾げているとフィーベルが苦笑しながら言う。
「家族の作った作品くらい目を通すだろう?」
ルーレン家の魔道具はクオリティが高いからか、やたらと魔道具店で見かけるというのもあるが、俺だってクリエイターだ。自分だけの世界にいては良いアイディアは生まれない。他人の作品を見て、インスピレーションを受けることや、刺激になることだってある。
家族の作った作品だけでなく、他の魔道具師が作った作品も軽くチェックはしている。
まあ、家族以外の魔道具師のことまで覚えているとは言い難いがな。
「兄さんの普段の態度が素っ気ないから、そう思っていなかったんだと思うよ」
「……つまり、俺に認知されているのがわかって、イリアは嬉しかったというわけか?」
「ストレートに言うとそうだね」
だとすると、顔を真っ赤にしていたのは照れ隠しか? 俺に認知されてどうして嬉しいのかわからないが不思議な奴だ。
「話は逸れてしまいましたが指輪の出来はどうでした?」
そうだった。イリアの妙な反応のせいで肝心の結論を出していなかった。
「問題ない。イリアと共にこのまま進めてくれ」
「ありがとうございます。では、このままお客様から注文を受けて製作を開始いたしますね」
俺の強調した意図を理解したのか、フィーベルがにっこりと笑みを浮かべた。
さすがは女だけあってデザインも華やかだ。
やはり、男である俺とは感性や視点が違うのだろう。
二人とも楽しんで作っているようだし、モチベーションの低い俺が作るよりもよっぽどいいだろう。
フィーベルとイリアに投げて正解だったな。
指輪の試作品を見て、俺は丸投げした自分の判断が間違っていなかったことを確信した。




