独身貴族は丸投げしたい
二章開幕です。一章のように毎日更新とはいきませんが定期的に更新したいと思います。
「よし、そろそろいいだろう」
起床して身支度を整えた俺は、リビングにある魔道具を止めた。
それにより魔道具内で放出されていた温風が消える。
四層の円盤型をしているこの魔道具はフードドライヤーだ。
風と火の魔石を本体に埋め込み、温風を放出させることで簡単にドライ食品が作ることができる便利な代物だ。
蓋を開けてみると、中にはすっかりと乾燥したバナナとキウイが顔を出した。
スライスした時の瑞々しい光景はどこにいったのかと思うような乾燥具合。
軽く指でキウイを触ってみるとしなしなだ。だけど、カラカラッというほどではない。ほんの少しだけ水分が残っているようだが、これくらいで十分だろう。
ちなみに一層目にはタマネギ、ニンジン。二層目にはショウガ。三層目にはリンゴ。四層目にはバナナ、キウイといった食材を並べている。
ちなみにこれも正式には発売していないもので、個人で楽しんで使っている。
つまり、こうして気楽にドライフルーツを作ることができるのも俺くらいのものだろう。
それぞれ確認してみると、きちんと乾燥しているようだ。
「……旨味が凝縮されていて美味いな」
乾燥してはいるが噛むと奥底にある旨みが染み出してくる。
パリパリになるまで乾燥させたドライフルーツも嫌いではないが、俺はこのぐらいの乾燥具合が好きだな。
いくつかの食材を乾燥させてきたが、今日のものが一番自分好みだ。
一通り、味見を終えると朝食に使う分だけのバナナやキウイ、リンゴを小皿に入れておく。
他のものは革袋に入れて、マジックバッグで収納しておく。
小腹が空いた時にいつでも食べられるし、ドライ野菜なんかは外に出た時にスープの具材として食べることができる。完璧だ。
「とはいえ、作り過ぎたな」
この完璧な乾燥具合を模索するために、いくつものドライ食材を量産した。
マジックバッグの中はそればかり。
容量にも限界があるし、あまりにも種類が多いと取り出す際に混乱することもある。少し整理した方がいいだろう。
「ルージュやトリスタンにくれてやるか」
あいつらならば、乾燥具合に拘ることもないだろうしな。
そんなことを考えながら全てのドライフルーツを収納した俺は、フードドライヤーを片付けて朝食を作る。
魔道コンロで温めたフライパンの上に卵を二つ割り落とす。
ジュウウッとした脂の弾ける音が聞こえ、白身があっという間に白くなっていく。
少量の水を入れて蒸し焼きにすると、左側のコンロにホットサンドメーカーを乗せて食パンを挟み込む。今日は特に具材は挟まず、ただ焼くだけだ。
食パンが焼けるまでの間に、冷蔵庫の中にあるトマトやキュウリ、キャベツをカットした皿に盛り付け、特製のオリーブオイルソースをかけた。
市場で買っておいたヨーグルトを取り出すと、こちらも皿に盛り付ける。
いつもならここに砂糖か蜂蜜、ジャムでもかけるところだが、今日は代わりとばかりにドライさせたリンゴ、キウイ、バナナを投入だ。
それが終わると自動ミルでコーヒーを作る。
そして、焼き上がった食パンを皿に乗せると……。
「完成だ」
サクサクに焼けている食パンを頬張り、ドライフルーツの混ざったヨーグルトを口にする。
ヨーグルトのまろやかな酸味と、リンゴやキウイ、バナナといったドライフルーツの凝縮された旨味が非常に合っていた。
決して豪華な朝食とはいえないが、洋食風モーニングセットの完成形がここにある。
コーヒーミルを作ったお陰で家でもコーヒーが飲めるようになり、フードドライヤーのお陰でヨーグルトにも彩りができたな。
いい一日はいい朝食から始まる。今日はいい日になりそうだ。
●
朝食を食べ終えて準備を整えた俺は外に出る。
いつもは素通りするエントランスのポストであるが、今日は中に郵便物が入っていた。
中を確認してみると一枚の手紙が入っていた。
「またか……」
軽く中を覗いてみると、実家にある食事会の誘いだった。
ルーレン家の紋章が見えた時点で、そんなことだろうと思っていた。
おかしい。いい朝食を食べたはずなのに、早速と俺の一日に暗雲が立ち込めている。
「無視だな」
つい、二か月ほど前に行ったばかりだ。そんなに頻繁に戻れるほど暇じゃない。
手紙をポケットにしまい込むと、俺はいつも通りに工房へ向かった。
中央区のやや外れた場所にある三階建ての民家。それこそが俺の構える工房だ。
「ジルクさん、おはようございます」
工房に入ると、トリスタンが挨拶してくるので軽く返事をして自分のデスクへ。
「コーヒー作りますけど飲みますか?」
「自動ミルで頼む」
「俺の手で作るコーヒーはそんなにマズいですか……」
「ああ、マズい」
「…………」
面と向かってそう言われるとは思ってなかったのかトリスタンが無表情になる。
だから自動ミルの方で頼んでいるんだろうに。
トリスタンがすごすごと自動ミルに移動すると階段の方から騒がしい足音がした。
木箱を抱えて降りてきたのは、我が工房の営業、販売、雑務を担当するルージュだ。
「あっ、ジルク! ようやく来たわね!」
「別にいつも通りの時間だろう」
「それよりも見て! 結婚指輪の製作依頼がたくさんきてるわ!」
ルージュは俺の返答をスルーして木箱を置くと、自分のデスクにあった書類を渡してきた。
ざっと確認しただけで十数件もの製作依頼がきている。
「こんなにもか? 一体、どうして?」
「どうしてって、あんな贈り物をすればそうなるに決まってるじゃない」
「あんないい物を貰えば、自分たちも結婚式でって思うのは当然じゃないですか?」
尋ねると、何を当たり前のことを聞いているんだとばかりの表情を浮かべるルージュとトリスタン。
この事態を予想していなかったのはこの中で俺一人だけらしい。
「そんなに良かったのか?」
「素敵じゃない。二人の愛の証の指輪だなんて」
「結婚したっていう実感と思い出が強く感じられますよね」
どこかうっとりとした表情で言うルージュと神妙な顔で頷くトリスタン。
「モノがないと互いの繋がりを信じられないのか?」
「うるさいわね。どうして考えた本人がケチをつけるのよ!」
「考えたのはジルクさんですよね?」
「それもそうだな」
などと突っ込みを入れると、ルージュとトリスタンが反撃してきた。
エイトとマリエラを祝うために、前世の風習を取り入れた贈り物をしたのは俺なので、これ以上何も言うことはできないな。
「あんないい魔道具を作った人が、こんな捻くれた人だなんてね」
作った人物と魔道具に関係はないだろ。などと突っ込みたかったが、これ以上話をしても作った本人であるために不利でしかない。黙ってスルーしておくのが正解だな。
「そういうわけで指輪の製作をお願いね」
「待て。俺は引き受けるとは言っていないぞ?」
あれはエイトとマリエラを祝うために特例とした作った魔道具だ。どこの誰とも知らない奴のために作る気はない。
「依頼者のほとんどは高ランクの冒険者なの。その人たちとの繋がりを作るために、引き受けて欲しいわ」
「そうは言われてもなぁ。作りたくないものは作らない主義だ」
「……魔道具に使う素材欲しくないの? 高ランク冒険者を安くこき使うチャンスよ?」
ルージュの悪魔の囁きに俺の心が揺さぶられる。
素晴らしい魔道具を作るためには良質な魔石と、魔物の素材が必要になる。
それを集めるためには高ランク冒険者との繋がりが必要だ。それらがあれば、商売としての利益を度外視した自分だけの魔道具が作れるわけで……。
どうするべきか悩んでいると、ポケットの中でカサリという音がした。
その感触を認識した瞬間、俺は天啓のごとく閃いた。
「よし、実家に任せよう」
名案とばかりに告げると、期待の表情を浮かべていたルージュがなんともいえない顔になる。
「それがダメとは言わないけど、実家の方も忙しいんじゃないの?」
「大丈夫だ。そっちの方は何とかしてみせる」
ちょうど実家に帰る口実があるわけだ。さっさと行って話をつけてくることにしよう。
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