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独身貴族は異世界を謳歌する~結婚しない男の優雅なおひとりさまライフ~  作者: 錬金王
一章

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独身貴族の心は変わらない


「八歳の時に冷蔵庫の設計図を描いたってすごいじゃないですか!」


「設計図とはいっても、今のものと比べると非常に稚拙なものでした。魔力効率もすごく悪くて、すぐに魔石を交換しないといけないくらいでとても魔道具とはいえません。今、家庭で使っているものになるまで両親の協力とかなりの時間がかかりました」


「いやいや、それでも天才過ぎます!」


「わたし、八歳の頃ってなにしてただろう? 近所の子たちと走り回って遊び回っていた気がする。そんなわたしと比べると、やっぱりジルクさんはすごいですよ。子供の頃から努力家だったのですね」


 魔道具の話を聞いて、過剰なまでのよいしょをしてくる女たち。


 その無理矢理ともいえる持ち上げには、こちらをバカにしているんじゃないかって思えてしまう。


 というか、魔道具の話をしていただけなのにいつの間にか女が増えている。


 一体、いつになったらこの包囲網がなくなるのやら。


「やあ、賑わっているところごめんよ」


「ちょっとジルクさんとお話させてー」


 将軍蟹を抱えて走って家に戻りたい。などと現実逃避していると、本日の主役であるエイトとマリエラがやってきた。


 新郎と新婦がやってきては、さすがに遠慮せざるを得ないのか周囲にいた女たちは蜘蛛の子を散らすように離れていった。


「ジルク、モテモテだったじゃないか?」


 ようやく地獄から解放されたとばかりに息を吐くと、エイトがニヤニヤとしながら言ってくる。コイツ、俺が困ってるとわかっていて放置していたな。


「それで俺が喜んでいるように見えたか?」


「いや、まったく。でも、誰か一人くらい気が合うような女性はいるかなーと思ってな」


「俺にはそんな気遣いは必要ない。二度としないでくれ」


「悪かった。そうするよ」


 俺が本当に嫌がっているとわかったのだろう、エイトは苦笑しながらも頷いた。


 幸せのお裾分けなら違う奴にしてほしい。独身を決めている俺には必要ない気遣いだ。


「にしても、ジルクさんってあんな風な対応ができるんだねー」


「どういう意味だ?」


「いや、だって普段はぶっきらぼうというか、あんまり愛想がないから」


「俺としてはいつジルクさんが切れるか恐々としてましたけどね」


 さすがにトリスタンは付き合いそれなりにあるだけで、俺の心のフラストレーションがわかっていたみたいだ。


「あっ、やっぱりそうなんだ。早めに気遣いを切り上げて正解だったわ」


 あんな奴等と本心で接していたら胃に穴が空いてしまう。心を何重にも障壁で包んで相手しないとこちらが病んでしまうからな。


「ごめんなさい、遅れちゃって! まさか、エイトさんとマリエラさんがもうテーブルにきちゃうなんて!」


 なんて話していると、ジルク工房の最後の従業員が慌てて戻ってくる。


 つい先ほどまでエイトとマリエラは先のテーブルにいたのだ。それが急に自分たちのテーブルにやってきているのが見えて慌てて戻ってきたのだろう。


「気にしないでくださいルージュさん。俺たちの都合で強引に順番を変えただけですから」


 エイトにそう言われる中、何度も頭を下げるルージュ。


 主役の二人がやってきたというのにゲストがいないのは失礼に当たるからな。


 しかし、今回は俺に気遣ってのせいなのであまり気にする必要はない。


「結婚おめでとうございます、エイトさん、マリエラさん」


「おめでとうございます。二人ともとてもお似合いです」


「ありがとうございます、ルージュさん、トリスタンさん」


 全員揃って一息ついたところでルージュとトリスタンが祝福の声をかける。


 エイトとマリエラは二人揃って笑みを浮かべて返事をした。


 二人の言葉が終わると、エイトとマリエラはこちらに視線を向けてくる。


 間違いなく俺の言葉を待っているのだろう。


「……結婚おめでとう」


 結婚ということにいいイメージを持っていない俺だが、二人の幸せそうな姿を見ると何とか言葉に出すことができた。


 あまりにも自分とはかけ離れた言葉であるので、出てくるか不安だったが俺の口は動いてくれたらしい。


「ありがとう、ジルクさん」


「ジルクからも祝いの言葉がもらえて嬉しいよ。今日は来てくれてありがとう」


 何の捻りもない言葉なのに、それが最高の言葉であるかのような嬉しそうな笑みを見せるエイトとマリエラ。


 本心から感じた言葉でないだけに少し罪悪感があるが、二人の喜ぶ姿が見られたのでこれで良かったのだろう。


 でも、それでは俺が納得できないので言葉以外のモノを贈ることにする。


「二人に渡したい物があるんだがいいか?」


「勿論だ。なにをくれるか楽しみだ」


「ジルクさんの贈り物って、ちょっと予想がつかないかも」


 エイトが食いつくように返事し、マリエラが苦笑した。


 確かに贈り物をするなんて柄ではないしな。


 マリエラがそのように言うのも仕方がない。


 二人から神妙な眼差しを受ける中、俺はポケットから小さなケースを取り出した。


 そして蓋を開けると、そこには銀色に輝く二つの指輪が鎮座している。


「……これは指輪かい?」


「ああ、結婚指輪という。結婚した夫婦が結婚の証としてつける指輪だ。途切れることのない円が永遠の愛を象徴する。そんなイメージを込めて作った」


 確か指輪の由来はそんなものだった気がする。前世では縁のない代物であったが、友人や同僚が結婚して指輪をハメた際に、そのようなうんちくを語っていた。


「ちなみにこれも魔道具だ。攻撃を受けた際に自動で障壁を展開してくれる。中級魔法程度なら一度は防いでくれるだろう」


「そんな性能まであるのか……」


 魔道具としての効果を聞いて、エイトが驚く。


 ただの自己満足かもしれないが、真心を贈れない者なりに考えて作ったものだ。


 この世界にはアクセサリーとして指輪をつける習慣はあるが、婚約や結婚を誓い合ったものたちが指輪を着ける文化はない。


 だから、結婚式の場に相応しい贈り物として結婚指輪というものを真っ先に思いついた。


「……素敵」


 指輪を見て、一番大きな反応を見せたのはマリエラだ。


 ただ指輪を見せただけなのに何故か泣きそうになっている。


「すごく綺麗だ。本当に貰ってもいいのか?」


「勿論だ。左手の薬指にはめてみてくれ」


「……そこに着けるのにも理由が?」


「その位置には太い血管が通っていて、心臓ともっとも繋がりが深いからだ」


「へえ、ジルクは物知りだな」


「まあな」


 まあ、前世でそう考えられていただけで、一番の理由はその位置が日常生活で邪魔にならないからだと思う。だけど、感激している二人に水を刺す必要もないので黙っておくことにした。


「エイト、私の指につけて。エイトの指輪は私がつけてあげる」


「いいね。そうしよう」


 俺がつけ方を説明するまでもなく、マリエラはエイトにつけてもらうことを要求した。


 エイトはにっこりと笑って、それを了承。


 マリエラの指輪はシルバニウムにルビーをはめ込んだ指輪だ。


 二人とも冒険者であるし、あまり派手なものは好まないと思ったのでシンプルなデザインにしている。


 マリエラの指輪が入ったケースを差し出すと、エイトはそれを丁寧に摘まむ。


 それからマリエラの左手を取って、薬指にゆっくりと差し込んだ。


 指輪にはサイズ調整の魔法を付与しているので、マリエラの指にそっと馴染んだ。


「すごく綺麗……」


 指輪を見て、うっとりとした呟きを漏らすマリエラ。


「次は俺のを頼むよ」


「ええ」


 エイトに頼まれて、今度はマリエラがエイトの指輪を摘まんだ。


 エイトの指輪も同じくシルバニウム。デザインはお揃いであるがはめ込まれたのはサファイアだ。クールな彼に相応しい落ち着いた輝きを放っている。


 マリエラがエイトの左手を取って、そっと薬指にはめ込んだ。


「……これはいいな」


「私たちだけの指輪だね」


 互いの左手を眺めて、嬉しそうな笑みを浮かべる二人。


 そんな二人の様子を周囲の者たちも見ていたのか、途端に大きな拍手に包まれた。


 教会での拍手よりも大きいんじゃないかと思う音だ。


「最高のプレセントを貰った!」


「私たちの結婚指輪よ!」


 エイトとマリエラは驚きつつも、互いの指輪を見せつけるように笑顔で叫んだ。


 幸せの空気があっという間に伝播していく。


「ちなみにエイトの指輪には追跡の魔法をかけている。これでエイトがいつどこに行っているかマリエラにはわかるぞ」


「うえっ!?」


「冗談だ」


 ジョークなのだがエイトがやたらと焦った表情をするので、すぐにネタ晴らしをする。


 しかし、そんな旦那の反応を嫁は見逃さなかったようだ。


「……なに今の反応? もしかして、やましいことでもしようと考えてる?」


「べ、別にしてないさ。ジルクも変な冗談はやめてくれよ!」


 どうやら既に嫁の尻に敷かれている傾向があるようだ。


 高ランク冒険者でも、嫁には敵わないということか。


 などとしょうもないことを考えていると、ルージュに軽く小突かれた。


「まったく、ジルクは……珍しく良い事をしたと思ったら、最後に余計なことを言って」


「本当ですよ。ジルクさんのことを見直して損しました」


 拍手をしながら傍で聞いていたルージュとトリスタンが呆れの表情を浮かべていた。


 俺がそういう奴だというのはわかっていたはずだ。それはしょうがない。


「それにしても、この『結婚指輪』ってやつは流行りそうね。私の勘がこれは売れるって叫んでいるわ」


「確かにその予感はありますね。なんだかすごく興味のこもった視線を感じます」


「今は二人を祝うことだけ考えよう。商売のことは放っておけ」


「それもそうね。ジルクが素敵な魔道具を作るもんだから、つい営業の血がね」


 どこか照れ臭そうに笑うルージュ。


 俺たちの視線の先にはタキシードに身を包んだエイトと、ウエディングドレスに身を包んだマリエラがいる。


 互いに腕を組みあって、誇らしそうに指輪を見せる二人は間違いなく幸せなのだろう。


「こういう幸せそうな光景を見ると、ジルクも結婚したくなるんじゃない?」


 微笑ましく二人を見守っていると、ルージュが小声で囁く。


 が、俺の心はこの程度では決して揺らぐことはない。


「いいや、まったくならないな」


 一度生まれ変わり、生きる世界が変わっても俺は俺だ。


 独楽場利徳という魂が変わらない以上、俺の信念も変わらない。


 エイトとマリエラの幸せそうな姿を見ようとも、俺には一人で生きていく方が合っている。


「俺は異世界でも独身で生きていくと決めているからな」


 独身生活をおくることが、自身にとって最も幸せな過ごし方だと理解しているから。


 だから、俺は異世界でも結婚しない。


 今度も独身貴族生活を満喫してやるのだ。





これにて一章は終了です。


面白かったら★★★★★面白くなくても★で応援してくれると嬉しいです!



二章はさすがに毎日更新とはいきませんが、適宜更新していきたいと思います。


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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
[一言] 結婚式行きたく無いのわかるぞ 1人で居る時間の方が優先したい でも一応友?の大事なイベントだし行かないのもモヤモヤする気持ち
[一言] 追跡機能付きイヤホンやスマホですね解ります 昔アニメやスパイ映画で発信機付けて追跡してた 当時仕組みがすごく不思議だった
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★ ポイントシステムが累計式でないのが少し残念です。
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