独身貴族は堪える
フラワーシャワーをしながらの退場をすると披露宴に移る。
今回は教会の中庭を貸し切ってのガーデニングスタイルなので移動は非常にスムーズだ。
「へえ、披露宴はここの中庭でやるんですね!」
「移動距離が少ないのは楽で助かるわ」
こういったゲストにも優しいスタイルはとても嬉しい。
貴族などの結婚式では、ここからわざわざ高級ホテルに馬車で移動させるので面倒なことこの上ないからな。
見事な芝生が生えそろった庭園では、神官やシスターが準備してくれたのかテーブルが設置されており、その上には豪華な料理が並んでいた。
事前に割り当てられているテーブルにいればいいだけなので楽なものだ。
礼拝堂はあれだけ静かだったのだが、庭園では賑やかな声が響いている。
冒険者にとってはこれくらい気楽な方がやりやすいのだろうな。
披露宴では堅苦しさを抜きにしているのか、エイトやマリエラが入場して簡単な挨拶を述べると、すぐに歓談と食事の時間になった。
「これからどうすればいいんですかね?」
披露宴に出るのは初めてなのかトリスタンが首を傾げる。
「エイトさんとマリエラさんが回ってくるまで料理を食べたり、他のゲストと交流をしていたらいいわ。ただ、二人が回ってくるまでには必ず戻ること」
「なるほど。ルージュさんはどうします?」
「あたしは冒険者と交流を図るわ。エイトさんと仲がいいだけあって、高ランクの冒険者が多いからね」
獲物狙うような目で冒険者を眺めるルージュ。
冒険者がビクリと肩を震わせて、慌てて周囲を見渡している。
さすがは高ランクの冒険者だけあって危機察知能力は高いようだ。
「祝いの場だから営業は程々にな」
「わかってるわ。ちょっと挨拶して顔と名前を覚えてもらうだけだから」
こういう場での露骨な営業は嫌われるものだが、さすがにルージュもそれを弁えているようだ。それならば問題ない。
「ねえ、ジルク。知り合いの冒険者とかいないの?」
「いないな」
即答するとルージュが呆れたような視線を向けてくる。
「冒険者をやっておきながらそれってどうなのよ。じゃあ、強そうな冒険者とかわからない?」
「……あそことあそこにいるテーブルにいる冒険者を狙え。あの辺は実力がありそうだ」
「わかったわ。ありがとう!」
先ほど、危機察知能力を働かせていた冒険者を教えてやると、ルージュはさっと移動した。
「ジルクさんは諫める側なのか、勧める側なのかどっちなんですか……」
「いい魔道具を作るためにも、いい素材は必要だからな」
優秀な冒険者に採取の依頼を頼めるに越したことはないからな。
俺が話を通す方が早いのかもしれないが、生憎とそういうのは苦手だ。得意なルージュに丸投げするに限る。
「エイトさんとマリエラさんがやってくるまで遠いですね」
「俺たちは後ろのテーブルだからな」
前方の方ではエイトとマリエラの親しい冒険者仲間だろうか。
その集団と親しげに会話しているようだ。
最後列であるこちらのテーブルまで回ってくるにはまだまだ時間がかかるだろう。
「ジルクさんはどうします?」
「適当に料理でも食って時間を潰す」
「ええ、せっかくの披露宴でボッチ飯は寂しくないですか?」
「別に俺はそれでいい」
見ず知らずの人間と関わるよりも、目の前で陳列されている豪華な料理と向き合う方がよっぽど楽しいからな。
俺は構ってほしそうなトリスタンを放置して、料理たちと向き合う。
テーブルの上にはコカトリスの丸焼きやローストビーフ、ブルーシュリンプの塩焼きといった豪快な料理から、綺麗に飾り付けされた料理が並んでいる。
さすがに披露宴の食事だけあって豪勢だ。
これらのほとんどは高ランクの魔物による食材。聞けば、それらを採ってきたのはエイトとマリエラのパーティーだと言うのだからさすがとしか言いようがないな。
「おお! こいつは将軍蟹の塩焼きじゃないか!?」
料理を眺めていると中央に鎮座している大きな焼き料理。
大の大人の腕ほどの大きさのある真っ赤な蟹の腕がどっしりと鎮座していた。
「なんですかそれ? 美味しいんですか?」
「危険度Aの魔物食材だ。高級レストランでも滅多に出てこない。かなり美味いぞ」
「マジですか!?」
俺がそのように説明してやると、手持無沙汰にしていたトリスタンが目を剥いた。
二年前に一度食べたことがあったが、かなり美味しかった。
スプーンで軽くほぐして自分とトリスタンの皿に取り分けてやる。
香ばしい蟹の匂いを堪能しながら将軍蟹の身を口にする。
口の中で広がる芳醇な蟹の風味。少し前に食べた鎧蟹とは風味も味も段違いだ。
「美味い」
軽く振りかけられた塩だけで十分に完成された味だ。さすがは危険度Aの高級食材。
素晴らしい味だ。
「本当においしいですね!」
これにはトリスタンも夢中になっている様子だ。
まさか披露宴で将軍蟹を食べられるとは。
色々と迷って参列することを渋っていた俺だが、これを食べられただけでも来た甲斐があったかもしれない。
「すみません、良かったらご一緒してもいいですか?」
将軍蟹を味わって食べていると、急に声をかけられた。
振り返ると見慣れない女性の二人組がやってきた。
身に纏っている二人のワンピースは肩が見えていたり、スリットのラインが深かったりしている。
「近くで見ると本当にイケメン。エイトよりもカッコいいかも……」
お陰でトリスタンの視線があからさまだ。
招待客のドレスコードとしては少し相応しくないように思える。
「……どちら様で?」
「マリエラの友人のフレアといいます」
「わたしはベルーサ」
まだ一緒のテーブルについてもいいと言っていないにもかかわらず席につく二人。
非常に図々しい。俺は将軍蟹を味わうのに忙しいのだが。
「名前を聞いても?」
「はじめまして、俺はトリスタンといいます!」
「ああ、そう」
「イケメンのお兄さんの方は?」
名乗ったにもかかわらず素っ気ない対応をされたトリスタンが、ガックリと肩を落とした。
ここまで露骨な対応をされると彼女たちの目的もわかるというものだ。
「ジルク=ルーレンといいます」
「ええ、ジルク=ルーレンって、あの魔道具師の!?」
「というか、貴族じゃない! やばっ!」
名乗りを上げただけではしゃぐ女たち。
そこに品性は感じられず、騒々しいとしか言えない。
そして、この次に彼女たちが言ってくる台詞は大体言ってくる。
魔道具に興味があるのでお話を聞かせてくれとかいうものだ。
「あの! お仕事の話とか聞かせてくれませんか? 私、魔道具に興味があって!」
「わたしも聞きたいです!」
ほら、みろ。やっぱり、こういう台詞が出てきた。
ワントーン上がった声に媚びるような上目遣いに辟易とする。
俺の容姿とルーレン家という肩書きに惹かれているのは明らかだった。
これが社交界であれば、ひと睨みをして追い返すところであるが、エイトとマリエラの披露宴である以上、あまり手ひどい対応はできない。騒ぎになったら申し訳ないからな。
こういう面倒な事が起きるから、催し物は苦手なんだ。
しかし、今日はエイトとマリエラを祝福すると決めている。
会場の空気を悪くしないためにも穏便な対応をしてやらないといけないか。
「いいですよ。どんな魔道具のお話が聞きたいですか?」
俺は綺麗な笑みを意識して貼り付けて、面倒な女たちの相手をするのであった。
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