独身貴族は討伐作戦に一人で参加する
書籍5巻は来年の2月頃に発売予定です。
王都の冒険者ギルドに戻ってくると、フロア内は朝と変わらず仕事をしない冒険者で溢れ返っていた。
「よお、ジルク!」
そんな冒険者たちの脇を通って歩いていくと、一人の金髪の男が声をかけてきた。
「エイトか……」
「やっほー、ジルクさん」
「俺もいるぞ!」
「……声を上げなくてもそのデカい図体でわかるから」
エイトだけでなく、マリエラ、ガウェイン、カレンといった面々もいた。
パーティーの面々が揃っている姿は結婚式以来初めて見たかもしれない。
「久しぶりだな。ここのところ森にもきてなかっただろ?」
「……悪いが雑談は後にしてくれ」
エイトと近況を話し合うのも悪くないが、今はそれよりも先にやるべきことがある。
「なにかあったのか?」
「少し森で面倒事があってな」
「面倒事ってなんだ!?」
エイトはなんとなく事態を察したようだが、ガウェインという奴は本当に察しが悪い。
「……気になるなら後ろで聞いていればいいじゃない」
「それもそうか!」
後ろをこのデカいのがちょろちょろされると気になるのだが、相手をするのも面倒なので放置して受付に向かうことにした。
「こんにちは。どうなさいましたか?」
「東の森でオークキングが出現した」
にっこりと笑みを浮かべて出迎える受付嬢に俺は端的に報告を述べた。
「詳しい報告をお聞かせ願いますでしょうか?」
「北側にある山の麓の巣にオークキングがいて、その周囲の洞窟にオークジェネラルが三体、ハイオークやオークが大勢いて巣を三つほど作っている」
報告をしながら俺は宝具で撮った写真を提出した。
「これだけ精緻な絵を一体どうやって描いたんです?」
「こ、これはオークキング! それだけじゃなくジェネラルが三体も!?」
オークキングとジェネラルたちの写った写真を見て、受付嬢が驚きの声を上げた。
「この間の写真ってやつか! オークキングが写ってるってことは森にオークキングがいるんだな!?」
「……彼の報告からしてそうなるわね」
「すげえな! 写真のお陰でどんな魔物がどこにいるか丸わかりだぜ!」
後ろから写真を手に取るガウェインが素直な賞賛を上げる。
一見して何も考えていない脳筋に思えるが、宝具の本質的な有用性を見抜くことはできるらしい。さすがはエイトの仲間なだけはあるな。
「ただ写真を撮るだけの道楽宝具だと思っていたけど、使い方次第でこんなにも便利なのね」
「一見して使い道の少ない宝具も、考え方をかえればとんでもない効果を発揮することがある。それも宝具の面白いところだ」
使い手次第で性能が何倍にも跳ね上がる。その可能性を引き出すのは使用者の才覚と言えるだろう。
「なんて宝具について語っている場合じゃないな。オークたちを放置すれば群れがさらに拡大し、最悪の場合は王都に侵攻してくる可能性もある。早めの対処をすることを勧める」
「待ってくれださい、ジルクさん」
報告は終えたとばかりに背中を向けると、受付嬢がこちらを呼び止める。
彼女の言わんとすることが想像できるな。
「なんだ?」
「ジルクさんは討伐に参加してくださらないのですか?」
「先行してこれだけの情報を持ち帰ってきたんだ。冒険者としての貢献は十分過ぎるはずだが?」
「そ、それはそうですが……」
「ギルドには大勢の冒険者がいる上に、エイトたちだっている。わざわざ俺が行かなくても十分だろう?」
危険な森の中を奥まで偵察し、これだけ情報を集めてきたんだ。
俺がBランク冒険者であり、それなりの戦力であることはわかっていることだが、これ以上の過剰な労働はごめん被る。俺の役目は十分に果たしただろう。
「おいおい、ジルク。ルイサちゃんを苛めてやるなよ?」
なんて言っていると、エイトが肩に手を回しながら言ってくる。
ルイサというのは誰か知らんが、会話の流れからしてこのセミロングの髪をした受付嬢なのだろう。
「別に苛めてなどいない。事実を述べただけだ。ランクBの俺が出しゃばらなくても解決できるだろう?」
「……そうかしら?」
「どういうことだ?」
「……朝っぱらからお酒を呑み続けてる人たちが使い物になると思う?」
カレンに指し示されて酒場に視線をやると、冒険者たちのほとんどが酒杯を傾かせていた。
顔を真っ赤にしているものがほとんどで、オークキングが出現したというのに真剣に耳を傾けている者は少ない。
……確かにこいつらはダメだな。
「有象無象がダメでも、高位の冒険者を集めればいい」
ここは王都だ。Aランク冒険者はエイトたち以外にもいるし、Bランクの冒険者だって大勢いる。ここで酔っぱらっている奴等以外の者を招集すれば、十分に対処できる。
「そ、それが高位の冒険者は外に出ていまして……ほとんどいないんです」
「ほとんどいないとはどういうことだ? ここは曲がりなりにも王都だろ?」
高位の冒険者が揃いも揃って王都にいないとは一体どういうことなのか。
「え、えーっと、クーラーを買うための資金稼ぎに奔走しています」
「「…………」」
受付嬢が言いづらそうにしながら口を開くと、エイトたちの視線が一斉にこちらに集まった。
まるで俺がクーラーを販売したのが悪いとでもいうような視線だ。
「俺のせいだというのか?」
「そういうわけじゃねえよ? ただ、貴重な戦力を逃がすほど余裕がないってのはわかるだろ?」
「エイトたちだけで何とかならないのか?」
「ちょっとキツいな」
「オークキングだけなら問題ないけど、ジェネラルまで出てこられるとしんどいわ」
「……他にもハイオークやオークたちもいる。私たちだけじゃ殲滅しきれない」
確かにいくらAランクでもオークキングに複数のジェネラルまでは対処しきれないか。
エイトたちの言い分も理解できる。
「だが、うちにジルクが加わってくれれば別だ」
「俺はBランクだぞ?」
「誰とも組まずに一人でBランクになっている男だぞ? そこらのAランク冒険者よりよっぽど強いだろ」
エイトの前でロクに戦った覚えはないのだが、随分と実力を買ってくれているものだな。
「なあ、ジルク。俺たちのパーティーに加わらないか?」
エイトがこちらを見据えながら真摯に誘ってくれる。が、俺の考えは変わらない。
「断る」
「おいおい」
「一人で戦う。それが参加する絶対条件だ」
俺は今までずっと一人で戦ってきた。誰かと合わせて戦うなんてことなどしたことはないし、背中を他人に預けることなんてことも性分的にできない。
俺は根っからの一人好きだ。臨時とはいえ、エイトたちのパーティーに加入することはできない。
それに独神の加護の影響もある。
エイトのパーティーに加わって戦闘をしようものなら、俺は弱体化してまったく使い物にならないだろう。
仲間と一緒に戦ったが故に命を落とす可能性だってある。
一人で戦うという条件は俺にとって絶対に譲れないものだった。
「わかった。参加してくれるならそれでいい」
「ええー、いいの?」
「ジルクは今まで一人でやってきたんだ。彼のやり方を尊重しないと」
マリエラは不満そうにしていたが、エイトがそう言うとため息を吐いて、それ以上は何も言わなくなった。
「で、一人でどう戦うつもりなんだ」
ここで一番高位の冒険者はエイトだ。
冒険者を率いるのは当然彼の役目になるので、勝手な動きをされると困るのだろう。
「そうだな。俺がオークキングを引き受ける。お前たちはジャネラルやオークたちの掃討を頼みたい」
ジャネラルたちが守っている巣は三つある。
それらをエイトや他の冒険者に掃討してもらい、俺がキングの住処へと単身で乗り込む。
そうすれば、俺が一人で行動しても足並みを乱すことはないし、誰の迷惑にもかけないだろう。我ながらいいアイディアだ。
「……あなた一人で勝てるの?」
「勝てない相手に挑むほどバカじゃない」
当然、これは俺がオークキングに勝てるからこその提案だ。
そうでなければ、無駄死になってしまうので提案などしないし、参加などそもそもしない。
「わかった。なら、オークキングはジルクに任せる」
「決まりだな」
俺はオークキングを討伐し、その巣穴を壊滅させればいい。
話し合いが終わると、エイトや受付嬢が声を張り上げて緊急招集を行った。
オークキングの出現や巣穴の数を共有すると、参加できる者を集めてパーティーの振り分けを始める。
しかし、一人でキングを討伐する俺には関係のないことだ。え
騒がしくなった冒険者たちをよそに、俺はマジックバッグから取り出した宝具のチェックをして時間を潰すことにした。
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