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独身貴族は道を示す


「……しょうがないな」


「え?」


 俺がそう言って立ち上がると、何故かトリスタンが驚いたような顔をした。


 自分で頼んでおきながら引き受けたら驚くとはどういうことだ。


 パレットやイスカがやってきて既に一週間が経過している。


 課題を出しているが、未だに二人は魔石の魔力均一化に成功していない。


 期日がドンドンと近づいているのに、成果が掴めないせいか二人とも疲弊しているように見える。


「……二人とも加工した魔石を見せてみろ」


「え? は、はい!」


 近づいて声をかけると、パレットとイスカがおずおずと魔石を差し出してくる。


「ダメだな」


 一言で告げると、二人はしょんぼりと肩を落とした。


 初日に比べれば、いくばくかマシというレベルだが、それでも使い物にならないというのに変わりはない。


「魔石には魔力の流れというものがあるのは知ってるな?」


「……はい、魔石にもそれぞれの個性があり、内包される魔力の質や量、強弱が違います」


 尋ねるとイスカが淀みなく答える。


 さすがに基礎の知識くらいは、ルーレン家の工房で習っているようだ。


 同じ種類の魔物からとれた魔石であっても魔力の流れは微妙に違うし、強弱だってある。


 闇雲に同じやり方で加工はできない。


「お前たち、これらの魔石の魔力の流れはどんなものだと思う?」


「渦巻いている感じ……だと思います」


「僕のは内から外に広がっていると思います」


 魔石を渡してみると、パレットとイスカがやや自身なさげに答える。


「渦巻いているとは具体的にどのようにだ? 内から外にどのように広がっている?」


「え、えっと、すみません」


「……これ以上わかりません」


 さらなる具体的な説明を求めたが、それ以上はわからないようだ。


「パレットの魔石は右回転で流れており真ん中に収束している。イスカの魔石は内側から外側にいくにつれ徐々に魔力が弱まっている。魔力の流れを詳細に把握できていなければ、最適な魔力加工ができないのは当然だ」


 魔石に流れる魔力の特徴を完全に把握しなければ、完璧な均一化は不可能だ。


 いくら闇雲に練習しようとも根本的な原因を見直さなければ上達するはずがない。


「「……はい」」


 それらを指摘してやると、二人はさらに項垂れる。


 なんだ、この微妙な空気は……。


 俺は別に他人に説教がしたいわけじゃないのだが。


 どうも他人に何かを教えるというのは難しい。


 ここで二人の無力さを突きつけるだけでは、面倒を見たということにはならないのだろう。


「今までお前たちが加工して魔石の中で上手くいった部類の魔石を見せてみろ」


「え? あ、はい」


 そう言うと、パレットとイスカは動き出していくつかの魔石をデスクに載せる。


 俺の求める均一化のレベルには達していないが、中にはそれなりのレベルのものもあった。


「上手くいった魔石に共通点があると思わないか?」


「共通点……ですか?」


「あっ! ――なんでもないです!」


 傍で見ていたトリスタンが空気を読まず、回答しようとしたので視線で黙らせた。


「……僕が成功している魔石の魔力は、内から外に広がっているものが多い」


「あっ! 私のは外から内のものが多いかも!」


 イスカとパレットもようやく気付いたらしい。


 二人にも魔石加工が得意な魔力の流れがあるのだ。


 不得意なタイプの魔力の流れや、魔力の詳細な知覚すらできない魔石の加工にチャレンジしても習得するのは難しい。


 俺が課題に出したのは魔石の完璧な魔力の均一化だ。それも期日までに一個できればいいという条件。


 どのような魔石でも完璧な魔力均一をしろなどとは言っていないのだ。


 俺の言っている意味が理解できたのだろう。二人の顔がみるみる明るくなっていく。


「あと、お前たちは魔力のコントロールが下手だ。これでも使って練習しろ」


 マジックバッグから虹色の光彩を放つ角を二本取り出して二人に渡す。


「これなんです?」


「魔力を通してみろ」


 そのように言うと、二人は角を握って魔力を流す。


 が、すぐにキイインという音を立てて、魔力が拡散された。


「きゃっ! な、なんですかこれ!?」


「魔力が拡散された……?」


「それはマナボルテクスという魔物の角だ。魔力を流すと、不規則な魔力を発生させて魔力を拡散させる特性がある」


「懐かしい! 俺もそれで魔力コントロールの練習をしましたね!」


 どこか懐かしそうに呟くトリスタン。


 そういえば、こいつが入ってきた時にもこれを持たせて練習させたな。


「めっちゃ難しいけど、それを使えば魔力コントロールが上達するよ!」


「本当ですか!? これを使って練習頑張ります!」


 先輩も同じ道具を使って練習し、上達したということで希望を持ったのだろう。


 パレットが笑顔で頷いた。


「しかし、マナボルテクスという魔物なんて聞いたことがないです。どのような魔物なんでしょう?」


「ダンジョンの奥にいたSランクの魔物だな」


「「「Sランクッ!?」」」


 イスカの問いかけに答えると、全員が驚きの声を上げた。


「さ、さすがにジルクさんが一人で討伐した――わけないですよね?」


「俺が誰かとパーティーを組むわけないだろ? 一人に決まってる」


「…………」


 何をわかりきっていることを聞くのやら。


 俺が誰かと一緒に戦うなんてことをするはずがない。


 パーティーなんて組んでしまえば、独神の加護のデバフがかかってしまう。


 俺にとっては一人で活動するより、パーティーで活動する方が危険だ。


「魔力を阻害する相手をどうやって倒したんですか?」


「宝具だ」


「な、なるほど……」


 きっぱりと告げると、トリスタンが苦笑しながら納得する。


 魔力がロクに通じない相手に魔法で挑むなんて論外なので、魔力法則の埒外らちがいにある宝具で倒してやった。


 消耗は激しかったが普段は絶対に使えないような宝具なども使えたので楽しい戦闘だったな。


 まあ、あれは戦闘というよりも一方的な蹂躙だったような気がするが。


「とりあえず、暇な時に魔力でも流して練習しておけ」


「「はい! ありがとうございます!」」


 パレットとイスカがぺこりと頭を下げて礼を言った。


 普段ならこんなお節介はしないのだが、アルトにどうしてもと頼まれたからな。


 これだけアドバイスをして、高価な練習道具まで貸したとなれば、最低限の面倒は見たといえるだろう。後は二人の頑張り次第だ。


 役目を終えた俺はジャケットを羽織って帰り支度をする。


 二人の面倒を見ていたせいで大分時間が遅くなってしまったな。


 小型クーラーの生産を家でしなければいけない。


 帰り支度を整えて扉まで向かうと、イスカとパレットが角を大事そうに抱えて付いてきた。


 アドバイスをした俺に恩を感じて見送るつもりらしい。


 そんな暇があれば、さっさと練習しろと言いたいが今回ばかりは好きにさせてやる。


 ドアノブに手をかけたところでふと俺は思い出す。


「言っておくが、その素材はかなり貴重だ。絶対に失くしたりするなよ? 具体的な金額は――」


「ジルクさん、言わないでください!」


「言われたら緊張して使うのが怖くなりますから!」


 最後に念押ししようとすると、何故か二人に口を止められ、押し出されるようにして工房を出ることになった。


 貴重なものだから大切にしろと言おうとしただけなのに。


 新人たちの態度に釈然としない気持ちを抱きながら帰路についた。







新作はじめました!


『スキルツリーの解錠者~A級パーティーを追放されたので【解錠&施錠】を活かして、S級冒険者を目指す~』

https://ncode.syosetu.com/n2693io/


自信のスキルツリーを解錠してスキルを獲得したり、相手のスキルを施錠して無効化できたりしちゃう異世界冒険譚です。


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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
一気に読んでしまいました とても面白いです ぜひとも、続きをお願い致します。
[一言] ここで中断ですか。再開を気長に待ってます!
[一言] 続きが読みたいです。よろしくお願いします。
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