デザイナーの話
今回は短い話です。
デザイナーはモコシュ大公国の工房内で、一枚の紙を見ながら体を小刻みに震わせていた。
弟子達が不審に思い、デザイナーの顔を見ると真っ赤になっていた。
「ちょっと!どういうことぉ?!」
「ど、どうされました?」
デザイナーは確かケレース王国の女王からの手紙を読んでいたはずだ。
デザイナーは女王を気に入っているはずなので、大体のことは許すだろう。
なので余程の内容であったと考えられる。
「どうもこうもないわよっ!あの子ったら私が作ったドレスをまだ着てないって言うのよ?」
「ええっ?」
デザイナーは大陸中で引く手数多の人物だ。
そんな大人気の人が制作したドレスをすぐに着ない人がいるなんて、弟子達は少しも思っていなかった。
「着ていないから来年の夏に着ますって何?」
「女王陛下はどれもお召しになっていないのですか?」
「星空のと赤い薔薇のは着たのを覚えているみたいね。他は多分着ていないだろうって」
「多分って……あ、あんなに美しいのに覚えておられないのですか?」
弟子達は顔を青くした。
縫製や刺繍に手間暇がかかったのに覚えていないと言われると悲しかった。
「はぁ、あの夫婦は全然服装を気にしないのよ」
デザイナーは軽く握った手で眉間の皺を伸ばすようにぐいっと押した。
「二人も見た目が整っているのに、本当に勿体ないわっ!」
デザイナーは両手を握り締めて大声で言った。
二人を見ると血が騒ぎ、デザインの草案が瞬く間に完成する。
それも何枚もだ。
なのに二人は衣類に無頓着なのだ。
こんなに悲しい話があるだろうか。
「新鮮な反応と言えばそうですね……」
「まぁね。女王の育った環境を考えれば仕方ないと思えるけど、王配はなんなのよ!大陸一の大国の王室で生まれ育ったのに、あんな襤褸を着ちゃって!本当に信じられない!」
「それでも似合っているような気がしてしまうのですよね」
「顔もいいし、長身で肉付きがいいからでしょう。だけど!もっといい服を着た方が絶対に似合うのよ!」
何人かの弟子達が同意のために頷いた。
女王は侍女達が用意した物なら何でも着るが、王配は楽な格好がいいので文句を言っていた。
今は侍従達の懇願で用意された物を着るようになったらしい。
「それで。女王陛下は今夏用を来夏に回すとおっしゃっているのですね」
「そうみたいね。他のお客さん達からはよく話を聞くのだけど、女王はドレスのお披露目会しないのね。はぁ、ドレスちゃん達が可哀想だわ」
デザイナーは自分と弟子達が丹精込めて作ったドレスを思って憂いた。
「お忙しいのもあるのでしょう」
弟子達は女王が忙しいから着用したのか覚えていないのだと思いたかった。
でないと、自分達の苦労がなかったことになりそうだからだ。
彼らは皆を笑顔をにしたいと思い一針一針刺繍をしたり、ビーズやスパンコールを付けたり、フリルやレースを付けたり頑張ったのだ。
「うーん、すぐに着たくなっちゃう作品を作ればいいのよね。ふふっ、燃えるわねぇ」
先ほどまで激怒していたデザイナーは、今度は別の熱を帯びていた。
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