8.服
短いです。
女王の衣装部屋で若い侍女達が集まっていた。
何やらとても楽しそうに話している。
彼女達の表情は色とりどりのドレスのように明るく華やかだった。
「あー!侍女になってよかった-!毎日こんなに綺麗なドレスが見られるんだもの!」
「新しいドレスも素敵よね!」
「デザインもだけど、生地の染色が見事だわ!どうやってこの色を出したのかしら?」
「見て!この刺繍はただでさえ細かいのに、とっても薄い生地に刺繍してあるの!」
侍女達がほぼ同時に一着のドレスを覗き込んだ。
「わぁ…凄いとしか言葉が浮かばないわ……」
「一流のデザイナーには一流の職人がつくのね…」
「練習したら出来るようになるかしら…」
皆、息を飲んでドレスに見入っていた。
「一部の国だと、そのうち陛下のドレスに似たデザインの服が市場に出回るのでしょう?」
「うーん、似ている服を着るより本物を見る方が断然良いと思うの!さらに女王陛下がお召しになったお姿を見られる方がっ!」
かなり興奮していているようで鼻息が荒くなっている。
「私もそう思うわ!」
「本当にそれよね!」
侍女達は誇らしげに頷いた。
「どちらのドレスからお召しになるのかしら?」
「この星空のドレスじゃない?陛下の寝室にも星空の絵が飾ってあるもの!」
賛同する声が聞こえる中で、一人の侍女が得意気な顔をして喋りだした。
「うふふ。私、この間、聞いちゃったの」
「えっ、なになに?」
年頃の娘達は興味津々だ。
「あの絵は女王陛下と王配殿下が離ればなれになっている時に、殿下を思って陛下が飾られた絵なんですって!」
ふふんと小さな子どもが自慢するように言った。
「え…どうして?」
「あっ!私分かったかも!王配殿下の御髪の色よ!そうでしょ!」
「当たり!」
他の侍女達から歓声があがった。
「今もとっても仲がよろしいわよね。見ている私達が恥ずかしくなっちゃうくらいに」
「そりゃ、新婚ですもの!」
「そうだわ。王配殿下のお召し物も新しいのが入ったそうよ」
「せっかく、いいお顔立ちをしているのに普段のお姿は勿体ないわよね」
「本当に!」
侍女達は首がもげんばかりに頷いた。
「陛下もあまり豪華な格好はなさりたがらないけど、殿下はもっとよね」
「ええ、だから侍従達が嘆いていたわ」
「えー、あまりこだわりがないのなら楽でいいじゃない」
「急なお客様がいらした時が大変らしいわよ。何を着るかでもめるらしいのだけど、殿下は常日頃鍛えてらっしゃるから服がきつくて入らなかったりするらしいわ」
今度は小さく悲鳴のような声があがった。
「普段から着てらしたら分かるのにってわけね…」
侍従達の苦労を思い、ため息が漏れた。
「運動した後って血流とかで筋肉が大きくなるって言うし、訓練後とかでも起こるかもしれないのね」
「…え、なんでそんな筋肉の話なんて知ってるの?もしかして誰かいい人いるの?」
「ちょっと何それー」
「えー誰なの?教えてよー」
色恋に敏感な仲間達に取り囲まれた侍女は、皆の圧に負けて喋りだした。
「あ、兄よ。兄さんに聞いたの!」
「なんだ。ダニエルさんか」
ダニエルの妹はなんだとはなんだと思い、じとりと睨むと、動作でごめんと謝られた。
ダニエルとは女王や王配を警護する兵士の一人だ。
「でもでも、お兄さん繋がりでいい人探せるんじゃない?」
「じゃあ、お兄さんに紹介して貰いましょうよ」
「えー、兄さんの知り合いにろくな人いないと思うけど」
若い侍女達が楽しく話をしていると、衣装部屋の戸が開いた。
「ほら、お喋りはそこまでにして仕事してください」
「はいっ!」
侍女次長のアンナに言われると若い侍女達は慌てて自身らの仕事場に行った。
彼女達は女王の衣装や装飾品の管理もするが、基本的には女王専属の侍女の補助をする役目で、直接は女王と直接関わらないのだ。
彼女達は女王が在室していない間に寝室や執務室の清掃、備品に不備がないかの確認をする。
「ふぅ…良い子達なんだけどね」
アンナは困り笑顔をしながら呟いた。
さっきの若い侍女達は女王が身につける物の管理を任されているので、信用出来る人物でないと任せられない。
過去には宝石類を盗もうとした侍女や侍従がいたそうだ。
なので身元調査はかなり慎重に行われる。
現に親族が王城に勤めている、あるいは過去に勤めていた人物が候補に挙がりやすい。
アンナは念のため女王のドレスの点検をした。
当然ながらどれも問題なく、ドレスはどこも欠損等はなかったので胸をなで下ろした。
「うーん、三着かぁ」
若い侍従は眉間に皺を寄せている。
若い侍従達もまた、王配の衣装部屋にいた。
「どうした?」
「陛下の新しいドレスは六着なのに殿下はたった三着だ。最初から少ないのにだ」
若い侍従は不満そうな顔と話し方をした。
「まぁ、殿下は堅苦しい格好はお好きでないようだから仕方ないさ」
服だけでなく髪型も多少撫でつけはするが、王配という身分の人間がする髪型にしては簡素だった。
「恵まれたお姿をしてらっしゃるのに、我らに対する嫌がらせか?」
別の侍従の一人が冗談めいて言うので皆が笑った。
王配は美丈夫かつ偉丈夫だ。
彼に憧れて侍従の中でも体を鍛え始めた者もいる。
「もう少しきちんとした格好をしていただきたいよな」
「ああ。野良作業の格好とまでは言わないが、ちょっとそこら辺に飲みに行くぐらいの格好だからな」
王配の顔は王城内の皆が知っているので不審者扱いはされないが、知らぬ人が見たら驚くだろう。
流石に中央領に領主として出向く際は正装をするが、他は来客が来なければ正装しない。
しかも顔見知りだとそのままの格好だったりする。
「なんとかならないものか…」
この場にいる全員が無言になった。
必死に考えたが何も思いつかないようだ。
「陛下のお話ならお聞きになるだろうから、陛下にお願いしてみよう。殿下は日々鍛錬をしておられるから服の調整が大変だとお伝えしよう。普段から着ていないと分からないのだと。急な来客の場合だと、着られる服がないかもしれない可能性があるとも…」
侍従達の悩みは切実だ。
自分達が直接言っても効果はなさそうなので女王に頼むしかなさそうだ。
「それしかないな…。侍従長に話を通して頂こう」
その日のうちに女王から王配に侍従達の願いが伝えられた。
王配は渋々だが飲みに行くような格好から、王城内を歩いていてもおかしくない格好をするようになった。
これによって王配は粗野な服装で王城内を歩けなくなり、楽な格好での日々は終わりを告げたのだった。
侍女達は女王が好きなようです。




