↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
57/169

53.中年女性

 少し短いです。


 中年女性はヴィオレッタと共に演説を終え、隠れ家に戻った。

 何人か興味を抱いていたと思う。


 中年女性は若い頃に劇団で役者をしていたが、前王が贅沢を禁じたため劇団が潰され職を探していた時に今の主に拾われた。

 後に知ったのだが、職を失った原因の人物と深い関わりにある人間に拾われるとは何とも皮肉な話だ。

 組織にいる者達に演技を教えたので、彼らは簡単な芝居ならお安いものだ。

 実際に演技に騙された数人が仲間になったり、独自に広めてくれている者もいるようだ。


 ヴィオレッタは食事をするために別室に行き、中年女性は仲間が待機している部屋に行った。



「これを見てみろ」



 痩身の男性が何枚かの紙を見せてきた。

 そこにはヴィオレッタだけでなく、中年女性の顔と名前が記された紙もあった。



「あの子だけじゃなく、私の人相書きまで…そんな……」



 中年女性は顔を歪ませ、人相書きの細かな部分まで見た。

 活動を始めたときから変装すべきだったと後悔した。



「やはり、すぐに移動して正解だったな」



 劇団時代の元仲間と会ってしまったので、念のため別の隠れ家に移動したのだ。



「髪を切ったのと染めたのがバレてるな。クソッ、急いでいたから何かしらの痕跡が残ってしまったのか」



 ヴィオレッタの現在の想像図が何通りか出ていた。

 髪型と髪色を変えただけのもの、それに化粧をしたもの、太らせたり痩せて見えるようにしたもの、少年のようにしたものだ。



「どうする?もう使えないんじゃないか?」



 小柄の男性が誰もが思っていたことを小声で言った。



「もう十分広めたから、いいだろう」

「ここもヤバイかもな。お前も変装しておけ。得意だろ?」

「ええ、分かったわ」



 中年女性は急いで老人に見えるように肌もくすんで見えるように化粧をし、顔に皺やしみを書き、白髪のカツラをかぶった。



「お、流石だな」

「外に出るときは肉襦袢を着けようと思うのだけど、この暑さじゃね…」

「汗で化粧が落ちるかもしれないから、あまり外に出ない方がいいだろう」



 中年女性が頷くとヴィオレッタが部屋に入って来た。

 彼女の暢気そうな感じに苛立ちを覚えた。



「皆さんこんにちは。……あの、こちらの方は?」

「私よ」

「ええっ?全然分かりませんでした!こんなに変わるんですね!だけど、なんで変装してるんですか?」

「これを見てくれ」



 痩身の男性がヴィオレッタに人相書きを見せた。

 名前や出身地、目撃された場所など細かく書かれている。



「え?これって…」

「もうバレたらしいんだ。それだけ真実を知られるのが嫌なんだろう」



 それっぽいセリフを言って、不審感を抱かせないようにしている。

 尤も、ヴィオレッタは信じ切っているのでそんな事をしなくても問題ない。



「暫く隠れていた方がいいかもな」

「駄目ですよ!一人でも多くの人を救わないといけないのに、捕まるのが怖いからって隠れてちゃ駄目ですよ!」

「だけどなぁ……」



 中年女性は本当は引っぱたいて止めたかったが、ここは我慢して堪えた。

 おそらく彼女だけでなく、他の者も同じ気持ちだろう。

 何故突っ走ろうとするのか。

 もしヴィオレッタが一人で突っ走って、捕まりでもしたら主に何をされるか分からない。


 実際に最近男が一人いなくなったと同時に、たまに主の隣にいる人物が姿を見せた。

 その人物が現れると必ずと言っていいほど、人が減る。

 ヴィオレッタを止めなければ、自分達も減らされると中年女性は思った。


 中年女性は職を失ってすぐに主に拾われたので、もう十二年の付き合いになるが、主の本名を知らない。

 なんと呼べばいいのか聞いたら、好きに呼べと言われた。



「いい?これは長い時間をかけて行った方が効果があるの。今すぐに行動をして、もし捕まってしまったら元も子もないわ。今は身を潜める時期なのよ」

「ですけど!このまま黙って隠れていたら相手の思う壷ですよ!」



 無駄な正義感を振りかざさないで欲しい。

 そう思って中年女性は奥歯を噛んだ。



「もう種は蒔いてあるから大丈夫だ」

「種…ですか?」

「ああ、ヴィオレッタが頑張って演説してくれたおかげで関心を持ってくれた人が増えた。これからは彼らが我々の代わりに彼らがやってくれるだろう」

「あっ!種ってそういう意味だったんですね!比喩表現ってやつですよね。だけど、その人達だけに任せるわけにはいかないです。私達でやらないといけませんよ。今すぐに広場に行って――」

「何を聞いていたの?」



 もう我慢の限界だった。



「おい」

「え、何ですか?」

「何を聞いていたのかって言ったの。今捕まるわけには行かないのに、どうして貴女にはそれが分からないの?」



 今ではなく、ずっとだが。

 本当ならヴィオレッタを見捨てて遠くに逃げ去りたい。

 こんなにも人の話を聞けない人間は組織にいらない。

 どうせ主もすぐに切り捨てるためにヴィオレッタを仲間に入れたのだろう。

 切るなら今せず、いつするのだ?



「もう一人で勝手にやって、私達は別の隠れ家に行くわ」



 何だったら、誰にも見つからない場所に逃げたいと中年女性は思った。


 かつての仲間は復職し、人々を楽しませ感謝される活動をしている。

 彼らの演技や演奏と歌を目にした時、涙が出そうになった。

 ずっとあれがやりたかった。

 今、自分がしているのはなんだろうか。

 人を騙し、また騙すためにさらに人を騙して金を得ている。



「折角私達の活動が広まってきたのに、ここで隠れたら意味がなくなっちゃいますよ!」

「あーいや……だから、さっきも言った通り、種を蒔いたから平気だって言ったろ?皆を信じよう。今は次の段階に移行するために羽休めが必要なんだ。力を蓄えておいて一気に仕掛けるんだ」



 小柄な男性はヴィオレッタを落ち着かせるために言い繕った。

 当然ながら中年女性はこんな計画は何も聞かされていない。

 ただ、騒げとしか言われておらず、この次の行動は知らない。



「なぁんだ。そうだったんですね!早く言ってくださいよ!うふふっ」

「ああ、すまない」



 ヴィオレッタがご機嫌になったので、中年女性達は目配せした。

 これからどうするんだ?といった感じだろうか。


 こんなにも扱い辛い人間はなかなかいない。

 これなら赤子の方が、あれこれ意見をしないだけましだ。

 主はヴィオレッタをどうするつもりなのだろうか。

 捨て駒なのは間違いないが、どのように使うのかが分からない。


 まさか、女王と対決でもさせるつもりだろうか。

 民衆がどちらにつくのかは明らかだ。

 無謀すぎる。

 では、何をするつもりだろうか。


 ここで、中年女性は気付いた。

 ヴィオレッタを目眩ましにして逃げるつもりだ。

 それも国外逃亡をするのだろう。

 自分達は確実に捨てられる。


 どうしたらいいのか。

 そんなの決まっている。

 出頭すればいいのだ。


 洗いざらい話せば命は助けて貰えるかもしれないし、なんなら劇団に戻れるかもしれない。

 なんでも、女王は前王達の愛人らを更生させるために劇団や楽団で働かせているらしい。


 そうだ、それなら大丈夫だ。

 自分は何もしていない。

 騙されていただけだ。


 どんな役でもいいから、また舞台に立ちたい。

 今の格好のような老人でも、死体でもいい。

 人を騙すために役者になったんじゃない。

 楽しませるために、喜ばせるために役者を志したのだ。



「おい、大丈夫か?」

「っ!!ええ、平気よ」

「そうか……」



 中年女性は他の者に勘付かれないように、平静を取り繕った。



「では、買い出し等は俺たちでするから、二人はここから出ないでくれ。窓から見られるかもしれないから家の中でも変装したままでな」



 夏なのに窓を閉め切っていたら明らかに変なので、窓は開けてある。

 なにより暑いので窓を閉めていたら倒れかねない。



「分かったわ」

「分かりました」



 中年女性はいつどのように逃げだそうか策を練り始めた。




 少しでも続きが気になった方は評価&ブクマをお願い致します。更新の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。