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51.仲間達

 血が出ますのでご注意ください。


 男はいつもの通り、夜中に旦那に会いに行った。

 今回は報酬が貰えるかは分からない。

 仲間に引き入れた若い女性、ヴィオレッタが捕まってしまったからだ。

 正確に言うと仲間ではなく、手駒の一つとして入れられただけだ。

 自分もそのうちの一人なのだろうと男は思った。

 早く縁を切りたかったが、騒ぐだけで金が貰える、つまり楽して稼げるので今の生活を捨てるのはかなりの覚悟が必要だった。

 彼は仕事が長続きしないで困っていたところ旦那から声をかけられ仲間になった。

 旦那によると他にも声をかけたらしいが、誰もが怪しんで仲間にならなかったらしい。



「よう、旦那」



 旦那はまた長い外套を着ていた。

 寒がりなのだろうか。



「そうだ。あの娘だが、別の者が逃がした」



 旦那はなんの抑揚もなく喋る。



「へぇ?そうでしたか。あの女に利用価値はあるんですか?大して俺らの情報を知らねぇでしょうから、捕らえられていても問題ねぇでしょう」

「そうだが、あの娘は完全に信じているようだから利用出来ると思ってな」

「確かにあの信じっぷりはヤバイですねぇ」



 男はヴィオレッタの様子を思い出して嗤った。



「他人が言ったことを自分の考えだと思い込む人間なのだろう」

「それを利用するんだな」

「ああ。…ほら、これが今回の分だ」



 旦那は男に小袋を渡し、男はその小袋を握りしめた。



「頂けるんですかい?これはありがてぇ。俺はこれからも言われた通りに動きますんで、よろしくお願いしやすよ」



 男は背を丸めてお辞儀した。



「そうか。それは助かる」

「ではまた、ご贔屓に」



 男はまた同じようにお辞儀し、男は暗闇の中を歩きだした。

 小袋を手の平の上に乗せ、重さを確認するように数回上に投げた。



「へへっ」



 やはりこの仕事は辞められないと男は思った。

 男がいくら入っているだろうかと考えている時だった。



――ドンッ



 何かに背中を殴られたような衝撃がした。



「あんだァ?」



 男が振り返ると、誰かが立っていた。

 背丈からして旦那ではない。



「?」



 何やら温かい物が背を伝い、足に流れて落ちていっているようだ。

 男は湯か何かをかけられたのかと思ったが、それにしてはぬるい。

 男が小袋をしまい、自身の腿を触ると手にはぬるりとした液体がついた。

 暗いので何が手についているのか分からない。



「なんだこれ……。オイ!テメェ何しやがった!」



 誰かは何も言わなず、じっと立っているままだった。

 男はその態度が気に食わず、誰かに掴み掛かろうとした。



「おい、てめぇ聞いてんのか!……うっ!」



 背中に痛みが走った。

 燃えるように熱くも感じた。

 男は気付くと倒れていた。



「なにが、おきて……」



 男は必死に頭を整理した。

 あれこれ考えて、さっきの背中の衝撃は殴られたのではなく、刺されたのだと漸く気付いた。



「ん?まだ生きているのか?」

「!!」



 聞き間違いようもなく旦那の声だった。



「な、んで……」



 男は顔を上げて旦那の顔を見ようとしたが、力が入らず地面に這ったままだった。



「用済みだからだ」

「クソ……」



 もっと早く組織から抜けていれば。

 違う。

 最初から怪しかった、怪しすぎた。

 無視すればよかった。

 いくら嫌でも、もう少し真面目に働けばよかった。


 男は自身を呪った。

 相手を呪った。



「クソォオオ…………」



 男は叫びたかったが、唸るだけになってしまった。

 旦那達は男が動かなくなるのを確認し、男から小袋を回収した。



「最近の若いもんはすぐに辞めるだの、抜けるだの言う。まぁ、こいつは言っていないがな」

「はぁ、その度に私の手が汚れていく。たまにはご自分でなさってみては?」



誰かは男の背中に刺さっていた刃物を抜いて、血まみれの刃に布を巻き付けて服の中に隠した。



「得意な者に任せるのは当然だろう」



 旦那は相変わらず声からは感情が読み取れない。

 そんな態度の旦那を見て、誰かは鼻で笑った。



「なんと、自分本位な。自分でやるのが怖いだけでしょう?」



 誰かはおどけたように言う。



「金はちゃんと払っているんだからいいだろう」

「ええ、もちろん。沢山いただいています。が、いつまで持つのやら…」

「大丈夫だ。あちらの資産は私の何十倍、いや、何百倍もあるからな」

「流石、大国は文字通り、桁が違いますね」



 誰かはクククと小さく笑うと、今度は旦那が鼻で笑った。



「いくらか没収されたそうだが、それでもこの国だと十分すぎるほどの金がある」

「羨ましい限りですね。それで、あの娘はどうするんですか?」

「あの娘はいい客寄せになるだろう」

「ええ、見た目を整えれば問題なく役目を果たしてくれるでしょうね」



 ヴィオレッタの人相書きも出回っているので、外見を変えさせる必要もあるが、田舎娘のより小綺麗な女性の方が真実みが出るだろうとの考えもある。

 旦那と誰かの笑い声は風の音でかき消された。




 ヴィオレッタが部屋に入ると仲間達が泣いていた。

 皆、下を向いて肩を震わせている。



「皆さんどうしたんですか?」

「ああ、ヴィオレッタ。…悲しいことに、今朝俺達の仲間が…ううっ!」



 痩身の男性が何かを言おうとしたが、泣いて上手く言えなかった。



「え?何があったんですか?」

「死んでいたんだそうだ……」



 小柄の男性はヴィオレッタにとって予想もしなかった言葉を言った。



「ええっ?」

「背後から襲われたそうだ」



 小柄な男性は言い終わった後、唇を噛んだ。

 ヴィオレッタは驚きのあまり、一歩二歩と後ろに下がった。



「襲われたって…え?殺されたってことですか?」



 ヴィオレッタは室内の人達の顔を順番に見て確認した。



「そうよ。刃物で刺されてそのまま……」

「ひどいっ!一体誰が!」



 ヴィオレッタは怒りと悲しみでいっぱいになって叫んだ。



「そんなの国がやったに決まっている!」



 痩身の男性が声を絞り出すようにして大声を出した。



「我々の活動を恐れてやったんだ!」



 小柄な男性は怒りで顔が真っ赤になっている。



「いつか私達も殺されてしまうの?」



 中年女性はまた泣き出し、手で顔を覆った。



「早く国民のみんなにこの事実を知らせないと!私、町に行って来ます!」



 ヴィオレッタは今さっき入って来た戸に向かおうとした。



「待って!貴女はこの間の騒動で人相書きが出回っているの。だから外見を変えないといけないわ」

「そんな事している暇はないですよ!私が真実を言えば皆さん信じてくれるはずです!」

「駄目よ。貴女にまで何かあったら…。これ以上、仲間を失いたくないのよ。お願いだから私に手を貸させて?」



 ヴィオレッタは説得され、中年女性と主に別室に移動した。

 戸が閉まった時、中に残った男性達がニヤリと笑ったのをヴィオレッタは知らない。



「じゃあ、髪を切って染めましょう」



 ヴィオレッタの髪の色は明るい茶髪だが、黒に近い濃い茶色にすることになった。

 腰まである髪は鎖骨ぐらいまでに切った。



「えっ?こんなに切ってしまうんですか?」

「ええ。他の国だと女性でも男性みたいに短髪だったりするそうよ」



 次は髪を染め、その次は化粧だ。

 ややまだら日に焼けた肌の色を均一に整える。

 眉毛の形も整え、目のまわりに色をのせ、頬紅や口紅もした。



「わぁ!すごいです!こんなに変わるなんて!」



 鏡の中にはヴィオレッタとは別人のような顔が映っていた。

 ヴィオレッタは様々な角度から、自分の顔がどう変わったのかを目を輝かせながら確かめていた。



「ええ、まぁね。これくらい朝飯前よ」

「何かされていたんですか?」

「ちょっとね……。ええ、昔よく友人達に化粧をしてあげていたのよ」



 中年女性は言葉を濁したが、ヴィオレッタは首を傾げただけで濁した理由を考えなかった。

 彼女は発せられた言葉だけが、その人の中にあるものだと思っているようだ。



「そうなんですね!私、自分でしてみたいので今度教えてください!」

「ええ、もちろんいいわよ」

「ありがとうございます!」



 ヴィオレッタが喜んでいると、中年女性はある物を取り出した。



「はい、これを着てみて。貴女によく似合うと思うわ」



 中年女性の手には綺麗な刺繍が施された洋服があった。

 ヴィオレッタほどの年頃の娘によく似合いそうな服だった。



「こんなに綺麗で高価そうな服を私が着ても良いんですか?」

「ええ。私達には支援者がいるのよ」



 中年女性はにっこりと満面の笑みを浮かべて言った。

 ついさっきまで泣いていたとは到底思えない。



「ちゃんと分かってくれる人がいるんですね!」

「そうよ。その方が是非貴女にって。貴女は使命があるから、着るに相応しいって思ったんですって!」

「本当ですか?今までそんな風に言われたことなかったから嬉しいです!」



 ヴィオレッタは今まで褒められたためしがなかった。

 いつも親や周囲の人間を困らせてばかりだったので、皆がため息をつくのしか記憶になかった。

 だが、彼女にはどうして皆がため息をつくのか分からなかった。



「着替えたら、発声の仕方とか教えてあげるわね。そうすれば、もっと貴女の話を聞いてくれる人が増えるわよ」

「はい!私もっともっと頑張ります!」



 ヴィオレッタは初めて自分が認められて嬉しかったので、この人達のために精一杯頑張ろうと決意したのだった。




 殺害描写は淡泊に書いたつもりですが、不快に思われたならすみません。

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