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48.年越しへ

 

 女王と王配は女王の執務室で侍女達から国内各地で行われる年越しの祭りの内容を聞いていた。

 王配はもちろんのこと、女王も知らなかったようで彼女達の話に聞き入っていた。



「へぇ、共通しているのは年越しの瞬間は皆で踊っているのか」



 王配の出身国では外出せずに家で、王配は王城で過ごしていたので家族以外と何かをしながら年越しをする習慣がなかった。



「何を踊っているのかしら?」



 女王は年越しのための特別な踊りがあるのかと考えたようだ。



「その時に流れている曲に合わせて踊っております」

「へぇ、自由に踊っていいのね。なんだか楽しそうだわ」



 女王には上手く想像出来なかったが、雰囲気に合わせて体が勝手に踊り出すのだろうと解釈した。



「はい。皆好きに自由に踊っております。人数もそれぞれ自由です。その場にいる人と踊ったり、一人で踊ったり、群舞になったりと、その時の乗りで変わります」



 一昨年は十年ぶりに祭りが出来るようになったので、大騒ぎだったらしい。



「そうだったのか。俺たちは去年……その話は今はいいか」

「え?去年は寝ていただけよね?」



 女王は王配が話を途中で止めた理由が分からなかったので確認した。



「寝てはいたな」

「いつも通りだったわよね」



 女王は顎に手を当てて考えてみたが、やはりわざわざ何かをした記憶は無かった。



「……うん。それはさておき、祭りなのだから他にも何かするのだろう?」

「皆で料理を持ち寄って食事をしますし、お酒も飲みます」

「どんちゃん騒ぎってやつか。楽しそうだな」



 各家庭の味が楽しめるのだろう。



「王城でもやるの?」

「一昨年と昨年は自主的にやったようですよ」

「確か食堂でやっておりましたよ」



 女王の問いにアンナとリンダが答えた。



「食堂で……今年もするのなら大広間を使ってもいいわよ。もちろん条件があるわ。大騒ぎをして就寝している人の邪魔にならないようすること。後は汚損させないことね。きちんと元通り、綺麗に片付けてね」

「まあ!皆が喜ぶでしょう」



 女王の提案に侍女達は明るい表情になった。

 大広間を使えるのは王族や貴族、外国からの来客ぐらいなのだ。

 そんな特別な場所で年越しが出来るなんて夢のような話だ。



「王城勤務の人だけよ?後は官舎に住んでる家族とかね」

「ああ、そこら辺は厳しくしないとな」



 人の出入りを緩くすると不審者や図らずとも不審者になってしまう者がいるので、厳重にしなければならない。



「お二人はご参加なさいますか?」

「私がいたら堅苦しくなっちゃうでしょう?私はいつも通り、寝室で年越しをするわ」



 女王は去年の年越しはすでに眠っていたと記憶しているが、今年は皆と同じように踊りながら過ごそうと思った。



「エレオノーラが寝室にいるなら、俺もそうするよ。そうだ俺が何か料理を作って、それをつまみにしよう」

「アレクセイ、料理出来るの?」



 女王と侍女達は目を丸くしている。



「野営で何回か作ったんだ」

「王子自ら作ったの?自分で食材を用意して?」



 部下達が全て用意して加熱しただけなのではないかと女王は怪しんだ。



「疑っているのか?俺は捕った生き物の血抜きや解体も出来る。調理は適当な大きさに切って塩や香辛料つけて焼くだけだ」



 王配は女王の質問に少々ムッとしていた。



「火加減とかも自分で?」

「そうだ」

「盛り付けも?」

「いや、鍋のままだ」



 驚きながら質問する女王に対して、王配は淡々と答えた。



「そのまま食べるの?食器を汚さないように?」

「それもあるな。エレオノーラも体験してみるか?」

「…え?私は遠慮しておくわね」

「香辛料があれば匂いは気にならなくなるから、大体大丈夫だ」



 王配は女王に様々な体験をして欲しいと思っているし、女王も同じように思っている。



「やっぱり遠慮するわね。野生の生き物は増やしている最中だから捕らえちゃ駄目よ」



 しかし、女王は笑顔で断った。



「……そうか。残念だな。妻に手料理を振る舞おうと思ったのだがな」

「また今度の機会にいただくわね」



 王配は残念そうな顔になったが、女王は笑顔のままだった。



「料理は駄目だが、つまみならいいか?」

「おつまみも別の機会に貰うわね。ねぇ、アレクセイ。まだこの話を続ける気なの?」

「いけないか?もしかしたら、俺の料理の腕を疑っているんじゃないかと思ったんでな」

「そんなことないわよ」



 女王はいつも以上に王配の目を見て言ってきた。

 流石に違和感がありすぎるので、王配は目を細め眉をひそめた。



「…そうか。疑っているのか」

「アレクセイって何でも沢山食べちゃうから、もしかしたら何でも美味しいと感じる人なのかなって思っただけよ」

「俺が沢山食べるのはこの城の料理人の腕がいいからだろう。運動もしているしな」



 王配は今日も訓練に参加した。

 させられた。



「それもそうね。体も大きいものね」

「だろ?まぁ、料理はまた次の機会にとっておこう」

「アレクセイは何でも出来ちゃうのね。絵を描く以外は」



 女王は最近知った王配の弱点を言ってみた。



「そうだな。絵を描く以外は…ってそれは余計な一言だなぁ」

「今度、是非ともアイズベルクさんを描いてみてほしいわ」

「遠慮しておこう」




 夜になり、女王と王配は寝室にいた。

 女王は王配に背を向け、汗疹対策のために胸の下に粉を叩こうと準備していた。

 女王が寝間着の上着をめくった時だった。



「エレオノーラ!俺が手伝おう!いや、手伝わせてくれ!」

「自分で出来るから大丈夫よ。ありがとう」



 女王は背を向けたまま答えた。

 そんな女王を見て王配は静かに女王に近づいていった。



「俺が胸を支えよう」

「触りたいだけでしょう?」



 王配は手を準備しながら言ったが、女王は見ていない。



「当たり前だろう。なんなら俺が粉をつけようか?いや、つけさせてくれ!」



 王配は素早く女王の正面に移動していた。



「自分で出来るから平気よ」



 女王は王配を気にせずに胸の下に粉を叩いている。



「そうか…。では終わったら俺の胸部にもつけてくれないか?」

「アレクセイも?そうね。大胸筋が発達しているから、汗が溜まっちゃうものね」

「そうなんだ。大変なんだよ。ケレースはセマルグルより暑いしな。うん」



 王配は断られると思って言葉を用意していたので、返す言葉を慌てて探した。



「エレオノーラ、胸の下だけでなく谷間にも付けないといけないな」

「ああ、忘れるところだったわ」



 女王はせっせと自分の胸に粉を叩いた。

 なんでこんな大きさになってしまったのだろうと思ったが、以前王配から遺伝だろうと言われ納得した。

 母も大変だったのだろうと女王は思った。



「うん。終わったら、ついでに俺の胸にもつけてくれ」



 女王が顔を上げると、王配はいつの間にか上半身裸になっていた。

 彼の顔は嬉しさを表に出さないようにしているが、犬だったら尻尾を振っていただろう。



「ついでじゃなくても、つけてあげるわ」

「有り難い」



 女王は王配の大胸筋にもポフポフと粉を叩いた。

 王配の大胸筋は塔から出たばかりの頃の女王の胸よりも大きかった。



「これでいいかしら?」

「ああ、ありがとう」

「アレクセイのも用意して貰えるように言うわね」



 女王は道具を棚にしまった。



「……二人で一つではいけないのか?」

「一つずつでも二人に一つでも使用量は変わらないわよね?」

「一緒に使いたいじゃないか」

「そうなの?……ハッ!夫婦だからってやつね。そうでしょう?」



 女王は王配の言いたいことが分かったので、彼女の表情には嬉しさが溢れ出ていた。



「分かっているじゃないか」

「だけれど、衛生面を考えたら一つずつにした方がいいと思うわ」

「…では、一つずつにするとして、互いの体につけ合うのはどうだろか」

「非効率的じゃないかしらね…?」

「なんで、なんで可愛い顔をして現実的なことを言うんだっ!俺は悲しいぞ!」



 王配は泣き真似をしているが、どう見ても泣き真似なので女王は困惑した。

 しかし、対応の仕方を知っている。



「えっと…もう寝ましょう?寝台まで運んでくれると嬉しいわ」

「よし、分かった。任せてくれ」



 王配は軽々と女王を抱き上げて寝台に運んでいき、女王を寝台に寝かせた。

 灯りを消してた後、王配は女王の隣に横になった。



「アレクセイ、おやすみなさい」

「おやすみ、エレオノーラ」



 二人はどちらからともなく、唇を合せて眠りについた。




 何十分か経っても眠れなかった女王は、目を開けて王配の方を見てみた。

 彼は規則正しく寝息を立てている。

 女王は彼の顔をよく見るために、体の向きを変えた。



(アレクセイはいつ見ても大きな体をしていて、顔もよく整っているわね。眉毛ともみあげがしっかりしているし、私と全然違うわ)



 女王は王配の良く通った鼻筋を見て、そのまま唇を見た。

 いつも心地いい声がする口だ。



(耳元で囁くのはよくないと思うの。なんだかムズムズしちゃうもの)



 女王は思い出しただけで、耳まで熱くなってしまった。

 心臓も少し速くなったと思う。



(寝なくちゃ……)



 女王はドキドキするのを堪えながら、王配に背を向けた。

 これ以上彼を見ていたら、眠れそうにないからだ。



「どうして背を向けるんだ?」

「!!」



 女王の心臓はさらに高鳴った。

 王配が女王の耳元で囁いたからだ。

 それも低く甘い声で、わざと吐息をかけるようにして。



「起こしちゃったかしら?」

「いや、寝たふりをしていた」



 女王がそう、と言ったら王配が女王の細い体に逞しい腕を絡ませてきた。

 女王は驚いて身を縮ませたら、さらにきつく抱きしめられた。



「アレクセイ、熱いわ」



 女王は背中だけでなく全身が熱くなった。

 汗が噴き出しそうだった。



「そうだな」



 そうだなと言ったわりに王配は女王から離れてくれない。



「アレクセイ、このままじゃ暑くて眠れないから離れて欲しいわ」

「もう少し、このままでいさせてくれ」

「どうしたの?」



 女王は顔を王配の方に向けると思ったより彼の顔が近くにあってドキリとした。

 耳元で声がするのだから当然なのだが、体の熱さに気を取られて考えつかなかった。



「妻の体温を感じちゃいけないのか?」

「いけなくないけど……」

「じゃあいいだろう」



 王配は女王の首筋に口吸いをして、そのまま彼女の首筋に顔を埋めた。



「やっ、やめてよ……。眠れないじゃない」

「じゃあこのまま話をしよう」



 女王には王配の声の振動がじんわりと足先まで伝わった気がした。



「何を話すの?」

「何でもいいじゃないか。なんなら、しりとりでもするか?」

「余計に眠れなくなっちゃいそうだから、別の物にしましょうよ。あっ、そうだわ。私お菓子を作ってみたいの。アレクセイが好きなお菓子って何?」

「エレオノーラが作った菓子なら何でも食べるさ」



 王配は特に好き嫌いはなく、用意しれあれば何でも食べる。



「それでは駄目よ。真っ黒焦げになっても食べる気でしょう」

「当たり前だろう。それにしても、さっきは散々俺の料理の腕を疑っていたのに、エレオノーラが菓子を作りたいと言い出すとは面白いなぁ」



 王配は女王の耳の後ろでクククと笑った。

 女王は全身がぞくりとした。



「っ、今は信じているわ。お菓子を作りたいのは未体験のものにどんどん挑戦していきたいと思ったからよ」

「なら、一緒に作るか?作るなら何を作ろうか。焼き菓子にするか?」

「焼き菓子に限らずお菓子ってきちんと計量しないといけないから大変じゃない?それに加えて火を使うから初心者は失敗しやすいんじゃないかしら?」



 それこそ真っ黒に焦げたり固かったり、などなどだ。



「んー、計量は大雑把でよくて火を使わない菓子って何かあるのか?」

「まずは作り方を調べないといけないわね…」

「だな」



 ここで女王が王配の方を向いた。

 王配は彼女の顔についている金の髪を払った。



「実は初めて作る料理はもう決めているの」

「へぇ、何を作りたいんだ?」

「リゾットよ。塔を出て初めて食べた料理…とても美味しかったの。熱くて舌を火傷しちゃったけど、本当に美味しかったの」



 女王は猫舌になったのは、幽閉されていた塔に食事が届くまでに冷めてしまっていたからだった。

 今もかなりゆっくりと食べるのはそのためだった。



「そうか……」



 王配は女王の十年間を考えたら胸が苦しくなった。

 顔に出そうだったが、堪えてみせた。



「トマトの味がしてとっても美味しかったの」



 しかし女王は塔を出てすぐに食べたリゾットの味を思い出してとても嬉しそうだった。

 チーズの味や香りも思い出すと頬が緩まずにはいられないのだ。



「もしかして、それでトマトが好きになったのか?」

「うふふっ、後から考えてみたらそうだったみたい」

「そうだったのか。なんなら俺がリゾットを作ろうか?」

「え?作れるの?」



 王配が自然に言ったので、素材を焼く以外の調理も出来るのかと思い驚いた。



「作れないが、習うさ。出来ないなら習う。基本だな」

「じゃあ、私も一緒に習いたいわ」

「最初に作ったリゾットを互いに食べるのはどうだろう?」

「なんだか面白そうね」

「では、大晦日の過ごし方はそれで決まりだな。リゾットを作ろう」

「え?大晦日にやるの?いきなり過ぎない?」



 女王は来年やるのだろうと思っていた。

 だが王配の性格を考えると、すぐにと言うだろうと思い直した。



「厨房の隅を貸してもらうだけだから平気だろう」

「そうかもしれないけど、手順を覚えないといけないから予習しておかないと」

「その都度聞けばいいさ」

「習うんじゃなかったの?」

「分からないから聞くんだろう?」

「…ああ、そうね。習うってそうよね。あんまり経験がないからよく分からなくって」

「まぁ、予習も必要だな。料理本でも読んでみよう」

「そうね。明日侍女に頼んで持って来てもらいましょう」



 王配はそうだなと言い女王を抱きしめ、そのまま二人は眠りについた。




 と言うわけで、大晦日はリゾット対決(?)です!

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