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文通

 テオドロの話です。


 将軍の息子テオドロは悩んでいた。

 だが、悩んでも悩んでも分からなかったので母親に質問してみた。



「お母さん。女の子って手紙で何が書いてあったら喜ぶの?」

「あら?王女様への手紙よね?まだ書いてなかったの?」



 そう、オーディン王国のヴィクトリア王女へ送る手紙だ。

 彼女が女王の戴冠式に訪れた際に迷子になり、テオドロが王女を助けた。

 その縁でずっと文通をしている。



「うん…。手紙が来てから二週間も経っちゃったんだよね。どうしよう…。本当になんて書いたらいいんだろう?」



 テオドロは白紙の便箋を睨むように見つめた。

 王女に送るので便箋もそれなりに立派なものを用意してもらっている。

 上等な紙にあった内容を書かなければと、余計に悩んでしまうのだ。



「そうねぇ。今、ケレース王国では花が沢山咲いています。とても綺麗なので、王女様を思い出しました。って書いたら?」

「え?なんで花を見て王女様を思い出すの?」



 母親のカロリーナの言葉を不思議に思い、テオドロは首を傾げた。

 彼は花と王女が結びつかない。



「はぁ…。じゃあ、王女様と一緒に花を見られたらよかったのに。って書いたら?」

「…どうして王女様と一緒に花を見るの?」



 テオドロは花を一緒に見てどうするんだろうと驚いた。

 綺麗といえばそうかもしれないが、一緒に見て何か変わるのだろうか。



「はぁ…。じゃあ花が咲いたのだけ書きなさい。後は……そうね。そちらの国ではどんな花が咲くのですか?って聞いてみたら?」

「そうか!国や地域によって花の種類も違うもんね。どんな環境で咲くのかも知られるね!」



 テオドロは他の国を知るのは楽しいかもしれないと考えたようだ。

 何ならどんな格闘術があるのかも知りたかった。

 むしろそちらの方が知りたいが、母から止められそうなので言うのをやめた。



「…同じ物があったら、それを見てその人を思い出せるでしょう?」

「え、思い出してどうするの?」



 テオドロはさっきから母親が言う言葉の意味が分からなかった。



「会えない日々を紛らわすとかかしら?」

「見ている時間があったら剣や槍の練習をした方がよくない?他にも沢山する事あるしさ…」



 剣術や槍術に弓術に体術、馬術もそうだ。

 もちろん学校の勉強もしなければいけないし、友人達とも遊びたい。



「はぁ…。顔だけじゃなく、性格もお父さんそっくりねぇ」

「本当?僕もお父さんのように立派な武人になるよ!」



 テオドロは目を輝かせて、とても嬉しそうに言った。

 カロリーナは嫌味で言ったのだが、テオドロには通用しなかったようだ。

 これも交際当初の将軍と同じだなとカロリーナは思い、これ以上何かを言うのは無駄だろうと判断した。



「怪我をしないように気を付けてね」

「うん!」




「ああっ!テオドロ様から手紙が来たわ!ずっと、ずっと待っていた手紙よ!」



 ヴィクトリア王女は愛しいテオドロからの手紙に歓喜した。

 彼女は手紙を持ってくるくると回転して、寝台に寝転がった。



「うふふっ!テオドロ様…」



 王女はうっとりとテオドロが書いた彼女の名前をなぞった。

 王女は急いで封筒を開け、便箋を取り出し笑顔で手紙を読み進めた。



「まぁ!花を見て私を?やだっ!テオドロ様ったら…。うふふっ!一緒に見たかったですって。はぁ…私も一緒に見たいわ…。どんな花が咲きますか?はっ!もしかして、その花を飾って私を?キャー!!」



 王女は足をパタパタと動かして大喜びしている。



「剣や乗馬の練習もしてらっしゃるのね。もう大人と混じって練習なさっているなんて、流石テオドロ様だわ!」



 ただ人が足りないだけなのだが、王女は知る由もない。

 王女はテオドロが何をしているのか知られるだけで、それだけで嬉しいのだ。



「はぁ…。一目だけでもお姿を拝見したい……」



 王女は頬と耳を赤くして手紙を胸に抱いて、目を瞑った。




「……またテオドロとかいう奴から手紙が届いたのか?」



 王女の父、つまり国王はしかめっ面でため息をついた。

 国王は椅子の肘掛けに肘を乗せて頬杖をついている。



「ええ、そうみたいね。とっても嬉しそうにしていたわ」



 王妃は嬉しそうにしていた王女を思い出して笑顔になった。

 あんなに嬉しそうにするのはテオドロから手紙が届いた時ぐらいなのだ。



「…はぁ、いつになったら飽きるんだ?」

「恋に飽きるなんてないわよ。冷めるのならあるでしょうけど」



 王妃は膝に乗った愛猫を撫でた。

 白くて長い毛を持った猫だ。



「そうなのか?」

「飽きて嫌になっちゃったら、その後の恋も出来なくなっちゃうじゃない」

「ん…そうか……。冷めるのはどうなんだ?」

「冷めるのは、ある日突然その人が嫌になるのよ。今までの愛情や恋情とか関係なしに、なんでこんな人が好きだったんだろう?どこが好きだったんだろう?って思っちゃうの」

「一体、何が違うんだ?」



 国王は王妃が何を言っているのか理解出来なかった。

 あまりに難解だったので、国王の顔はかなり険しくなっている。



「ちょっと違うし、かなり違う…かしら?」



 そんな国王を見て王妃は微笑み、愛猫を撫で続けた。

 猫は王妃の膝の上でウトウトしている。



「はぁ?さっぱり分からんな」

「だから私にしか相手にされなかったのね」



 王妃はウフフと声を上げて笑った。



「んなぁっ!そんなことは!そんなはず……そんなはず……」




 テオドロは王女から分厚い手紙が届き、青ざめていた。

 なんでこんなに書けるのだろうと、届く度に思ってしまう。

 テオドロは頑張って頑張って、なんとか二枚書いている程度なのに、王女からは本のような厚さでの手紙が来るので彼はため息をつくしかなかった。

 相手が王女でなければ手紙を読んで返事を書いたりしないだろう。



「これを読むのかぁ…。いつも何が書いてあるのか分からないから、解読が大変なんだよなぁ……」



 王女は気持ちに任せて手紙を書いているらしいので、読むのがとても大変だったのだ。

 読み終わるのに何日かかるんだろうと、胃が痛くなったテオドロだった。



「…テオドロ大丈夫?」

「お母さんが代わりに読むわけにいかないもんなぁ…」

「そうよねぇ。頑張って読んでね。おやつも用意しておいたから…」



 カロリーナは息子を思い、彼が好きなお菓子を用意してあげた。

 少しでも気分良く手紙を読んで欲しいとの思いもある。



「僕は他にしないといけない物が沢山あるのになぁ。いつになったらこの文通は終わるんだろう?」



 テオドロはため息を長めに吐いた。

 そして、大きく息を吸った。



「よしっ!」



 テオドロは大きな声で言い、気合いを入れた。

 彼の目は強敵に挑んでいく武人のようになっていた。




 温度差……。

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