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Persona breaker -仮面を壊す者-  作者: アリシア
2章 マルクト王国
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34話 魔石と暴走

「つまり彼は誰かに魔石を埋め込められた……彼も被害者なのか……」


ベヒーモス討伐に参加した討伐隊の全メンバーが集められたギルド3階『大会議室』では以上じみた破壊力の持ち主であったクラン『CRB海賊団』のリーダーである、通称親方の変死についての見解の説明をされていた。


基本的にこのような誰かの陰謀が絡んでいるような案件は機密事項となるのだが、その陰謀によって危うく死ぬところだった--実際に犠牲者が出ているため、黙って見過ごすことが出来ない冒険者もいるだろうという、ギルドなりの心遣いだった。

当人たちからすれば稼ぐ時間を浪費させる面倒な案件だと思っているのだが。


「問題はその魔石を誰が埋め込んだのかだが、見当はついているのか?」


ギルド職員は困った表情で首を横に振った。

この中から非難の声が上がるのだろうと身構えている受付嬢だが、杞憂にもこの場にいるのはそのような案件がどうでもいいと考えている者がほとんどのため、受付嬢が冷や汗垂らして必死になってやっている説明など聞いていないというのがほとんどの冒険者だ。聞いている者は理解しているのだ。この案件はそう簡単に表に情報が出てこないことを。


「魔石を組み込まれると暴走するのか?」


1人の冒険者が受付嬢に聞くが、彼女はあくまでも受付嬢。その類の知識は一般市民並である。

返答に困っている受付嬢はアタフタして結論を出そうとしているが、勿論出るはずもない。


「か、確認してきますぅ〜」


漫画であれば目がぐるぐる回っているだろう、多少ふらつきながらドアを開こうとドアノブを握ろうとするとひとりでにドアノブが急に回り、受付嬢が一瞬固まった。


「おっと、失礼。彼女が今にもパンクしそうだったので助っ人です」

「あ、研究者さん……あとは頼みます〜」


彼女はそう言って相変わらずの千鳥足でその部屋をあとにした。


「あの人、大丈夫かなぁ」


アリアの一言に多数の冒険者が目を逸らした。


「コホン。先程の魔石を人間に組み込むと暴走するのかという質問ですが、答えはイエスです」

「なんで断言出来る」

「実証されているのですよ」


つまり、実際に魔石を組み込んだ実験が行われていたということだ。

それを聞いていた冒険者の大半はなんとも言えない微妙な顔をし、研究者の彼も気まずい口調で進めた。


「……かつてこの国では魔石による『生きた武器』の作成を軍事的に行っておりました。しかし、それを使うには“契約”が必要となることが判明したのです。代償は寿命。それを使った兵士たちは一年も迎えぬうちに引退を迎えました。そのため、ある研究者が寿命以外の契約方法の研究を進めていたのです」

「それが魔石を組み込む方法、と」


クロムの言葉に研究者は頷く。

魔石の軍事的運用を試みた時期があった。これだけで言えばマルクト王国内では知れ渡った噂話なのだが、それが魔石を使った兵器開発であり、人間の体内に組み込むなどという極論に至った遠因となる。


「魔石を使った軍事的研究はネツァク崩壊と共に終了していると文献には残っております」


しかしこれらははるか昔に起こったことであり、文献という形でしか証明するものが残っていない。これらが実際に行われていたことなのかどうかは定かではないのだ。


「まあ、これはあくまでも文献で記された研究結果なので本当に魔石を組み込めるか否か以前に軍事的運用を試みていた事自体が疑わしい所なのですがねぇ」


研究者がそれを言っては駄目だろう。


「つまりその文献には魔石を組み込まれると暴走する旨が書かれていたのか?」

「いいえ、そんな事は一言も書かれていませんでした」

「ならなんで--」

「描かれて、いたのですよ」


描かれていた?

彼の話を聞いていた誰もがそう思った。

このような国についての歴史や成り立ちに関する文献は絵を描くということは禁忌とされているらしく、それらには必ず文字のみの構成となっているのだ。だからこそ彼の言った言葉がここの冒険者達は意味不明かつ、支離滅裂だと思ったのだ。


「文献は文字でしか書かれておりませんでした。--ところで文献の中にある『繋ぎの森』に大壁が出てくる話はご存じですか?」

「急に話を変え--」


急に話を変えるな。そう言おうとした冒険者の言葉をさえぎって彼は続けた。


「大壁には絵が描かれていました」

「は?」


急に彼の言った言葉に誰もが困惑した。なぜなら彼の言う『繋ぎの森』とは文献上での空想の森であり、実際にその森があるとされる所に森林はあるものの、あまりにも小規模(・・・)な森であり、その中に大壁などひとつとして存在が確認されていないのだ。これらは付近の国家のケテル王国、コクマー王国、ビナー共和国の3ヶ国の連合隊の探索結果であり、各国の代表が伝承の森は存在していない事を明言している。

それを彼はあたかも実際に行ったことがある風に言ったのだ。


「繋ぎの森……あれは空想のものだろう?」


1人の冒険者が誰もが思っていたことを口にした。


「そうですね、あれは空想のものです」

「ならお前はなんでありもしないものを実際に存在するかのように語るんだ」


彼の言葉に研究者はやれやれと呆れ顔でため息を吐いた。


「誰も存在しないなんて言ってないですよ。まあ、たしかにこの“世界軸”にはありませんけどね」

「……世界軸?」


世界軸という聞きなれない単語に思わず聞き返すクロム。

他の者も意味が分からないと黙り込んで何やら考え始めていた。


「世界軸、つまり他の可能性の世界が実際にあるということか?」

「おお、貴方詳しいですね。研究者にご友人でも?」


世界軸という言葉は本来は天と大地の接続点であったはずだ。

彼が言っている意味から推測して『パラレルワールド』のことを言っているのだろう。


「世界軸だかパラレルワールドだかはどうでもいい。問題はなぜお前は別の可能性を確信しているかだ」

「ぱ、ぱら……?」


聞き覚えの無いだろう言葉に一瞬戸惑う研究者であったが気を取り戻し返答する。


「私にはお友達がおりましてね。とは言うものの私が一方的に知っているだけなのですが……それは兎も角です、彼はとても面白い人なのですよ」

「急に話を変え--」


急に話を変えるな。そう言おうとした俺の言葉を遮って話を続ける。


「彼はこう言いました。『ケテル王国は悪魔崇拝国だ。騎士イニヨルは必ず殺せ』」

「なっ」


彼の言葉にどよめきが起こる。

マルクト王国はケテル王国の姉妹国であり、非常に友好的な関係であるため、この国でケテル王国を貶すような発言は死罪を掛けられてもおかしくない程の行いなのだ。それを平然としてやった彼に多くは戦慄を覚えるだろう。


「彼は軸を移動していると言っておりましてね、私も最初は疑ったのですよ。ですが目の前でいきなり消えてしまっては信じるしかありません」


その言葉に俺はケテル王国付近での神殿での出来事を思い出した。


『くそっ!時間が無い......お、中井友樹、イニヨル(あいつ)には気を付けろよ!忠告はしたからな!』


友樹(おれ)!絶対に間違った選択はするんじゃないぞ!』


あの時の自称俺も同じようなことを言っていた。彼が言っていることはあの時のことと酷似している。俺と研究者が会った人物が同一人物かは断定出来ないが、彼が言っていることは十中八九本当のことなのだろう。


「お前が言っていることを実際にあった出来事だと仮定して、その人物が本当に違う世界軸から来た人物だという確証はないだろ?」

「痛いところを突かれてしまいましたね……確かに『転移する』といった能力のスキルなどを持っていれば別の場所に転移しただけだとも仮定できます。ですが、ならば何故彼はーー」

「なあ、あんたさあ?」


彼の言葉を遮るようにしてニコルは言った。彼女を見てみるとうんざりと言った表情で右手に赤ワインの入ったグラスを持ち、1人ソファで寛いでいる。


「はい、なんでしょうかお嬢さん?」

「お嬢さんだぁ?お姉さんだろ」


そんなことを言っている場合ではないかとニコルは誰にも聞こえないように呟いて再び口を開いた。


「だいぶ脱線してるような気がするんだけど?あんたらが言ってる世界軸とかあたしらには関係ないんだよ。んな知らない言葉の説明を永遠と聞かされるなんてごめんだね」

「…………」


ニコルの言葉を無言で聞く研究者は顔を俯け初め、黙り込み始めた。


「あたしらが聞きたいのは魔石の使った黒幕と、そいつに気をつけろよ。といった言葉だよ」


確かに話を聞いたのはこちらからだが、だからといって具体的に答える必要は無いだろう?とニコルは続ける。


「す、すみません」


なんで怒られてるか分からない。彼は戸惑いの表情で取り敢えず謝った。



□□□



「アイトさん、ありがとうございました。私に冒険者さんへの説明は荷が重いのです〜」


研究者、アイトの元に受付嬢が駆け寄りお礼を述べる。 彼がふと窓を見ると陽はすっかり落ちて月が顔を出していた。

かなりの時間を説明に費やしていたのだと実感する。


「いえ、いいのですよ。女性冒険者さんにダメ出しを食らってしまいましたが、いい勉強になりました」


彼の言葉を聞いて、それは失礼なことをしてしまいました。その方のお名前は?

と受付嬢が謝る。


「あぁ、いいのですよ。ニコルさんは悪くありませんから。それに、」


ニコルという名を聞いてやけに納得した表情の受付嬢に微笑み彼は言った。


「彼の親友にも会えましたから」

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