―幕間― 三つの影、三つの心
夜の公園に、三つの影が伸びていた。
灯りに照らされる角度は同じなのに、その揺れ方はまるで違う。
美咲の影は細く、優斗の影は大きく、朔弥の影は揺れている。
三人は同じ場所に立っているのに、胸の奥で抱えているものはまったく違っていた。
夜風が吹き抜け、木々がざわめく。
その音が、三人の心の声を静かに浮かび上がらせていく。
―美咲― <光の奥にある影>
美咲は両手を胸の前で組み、夜空を見上げていた。
昨日、自分でも信じられないほどの力を得た。
浄化まで出来て、三段階も一気に開花し、レオンからも素質があると認められた。
誇らしいはずなのに――
胸の奥には、まだ小さな影が残っていた。
(……私、本当に……みんなを守れるのかな……)
光は強い。
でも、強い光ほど影も濃くなる。
美咲はその影を見つめるように、自分の手のひらをそっと見つめた。
(昨日の私は……ただ必死だっただけ。あれが本当に私の力なのか……まだ信じられない……)
胸の奥がざわつく。
優斗の剣は強く、朔弥の火は熱い。
二人の背中は、いつも自分より前にあるように見えた。
(……私も……あの二人みたいに……強くなれるのかな……)
不安。
期待。
責任。
そして――
ほんの少しの恐れ。
それらが胸の奥で混ざり合い、美咲の影を静かに揺らしていた。
―優斗― <剣の重さと誓い>
優斗は木刀を肩に担ぎ、遠くの街灯をぼんやりと眺めていた。
昨日、レオンの剣を受けて初めて知った。
守るという言葉が、どれほど重いかを。
(……強くならなきゃ……あの二人を守るって決めたんだ……)
腕の痛みはもうない。
だが胸の奥に刻まれた覚悟の痛みだけは、まだじんじんと熱を持っていた。
(美咲は……すげぇよな。あんな光、俺には絶対出せねぇ。朔弥だって……火を灯した。あいつ、絶対伸びるタイプだ……)
仲間を誇りに思う気持ちと、自分も負けていられないという焦りが、優斗の胸の奥で静かに燃えていた。
(……俺が剣を握る理由。それを……もっと強くしねぇと……)
優斗の影は大きく揺れ、その揺れの中に決意が宿っていた。
―朔弥― <弱さを燃やす火種>
朔弥は手のひらを見つめていた。
そこにはもう炎はない。
だが、さっきまで灯っていた小さな火の温もりが、まだ皮膚の奥に残っていた。
(……俺だけ……遅れてる……でも……それでも……)
胸の奥で、弱さが燃えていた。
悔しさも、焦りも、情けなさも――
全部まとめて火種に変わろうとしていた。
(美咲は光の魔法を一気に三段階も覚えた。優斗は剣士の極意に触れた。なのに俺は……灯火ひとつで暴走しかけた……)
自分の未熟さが、胸に刺さる。
でも――
その痛みが、逆に火を強くする。
(……弱さを燃やす……レオンが言ってた……火は心だって……)
朔弥は拳を握りしめた。
その手は震えていたが、その震えは恐れではなく前へ進むための熱だった。
―三つの影が交わる場所―
風が吹き抜け、三つの影が重なった。
その瞬間だけ、三人の心が同じ方向を向いたように見えた。
美咲は光を信じたいと思った。
優斗は剣を握る理由を強くしたいと思った。
朔弥は弱さを燃やして前へ進みたいと思った。
三人の願いは違う。
歩く道も違う。
抱える弱さも違う。
だが――
辿り着きたい場所は、同じだった。
レオンはその影を見つめ、静かに目を細める。
(……この三人は、やはり選ばれた者だ)
夜の公園に、三つの影が静かに揺れ続けていた。
その揺らぎは、これから訪れる戦いの序章を確かに告げていた。




