第1話:終わりの始まり
この物語は、異世界で魔王と戦った勇者が、
現代日本へ転移するところから始まります。
現代×異世界の物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
黒い霧が渦を巻き、世界そのものが悲鳴を上げていた。
ガキィン! キィィン!
「はぁ、はぁ、くそっ!」
俺は今、仲間たちと” 魔王ヴォルネクサス”を倒すべく戦っている。
何時からいたのか、何処から来たのかすら分からない存在だ。
こいつがいるだけで、空間は裂け、石造りの玉座の間は歪み、床に刻まれた魔法陣が軋むように震えている。
空気は重いし、息を吸うだけで肺が焼けるように痛くなる。
『グオォォ!』
ドガガガガガガッ!
「くっ、みんな避けろ!」
魔王の拳から衝撃破が放たれた。
こいつ、まだこんな力が残っているのか……。
確実に削っているはず。
あと少しだ。
「うおっ!」
仲間の一人。
豪快で頼れる男、剣士ライアン。
子供の頃、俺に剣を教えてくれた先生だ。
アラリウス王国の武闘大会で五連覇を達成した実力者であり、俺の旅に最初から付き合ってくれた稀有な人物。
「このっ!」
二人目の仲間。
光・闇・聖以外の全属性を操る天才魔道士、魔法使いのミーナ。
歳は俺より1つ上で、素直になれない性格。
更に付け加えるなら、身長は大分小さい。
小さいなんて言うと、ミーナの得意な氷魔法で氷づけにされてしまうから注意だ。
「きゃあ!」
三人目の仲間。
聖魔法を極めた、僧侶のセラ。
心優しくて、まさに”深層の乙女”を具現化したような人だ。
そして、俺の恋人でもある。
「みんな、無事か?」
「ガハハ! このくらい余裕だ!」
「ちょっと、危ないじゃない! レオン、あんたが何とかしてよね」
「私は大丈夫だよ」
「よし。あと少しだ、みんな気合を入れろ!」
魔王の身体からは黒い瘴気があふれ出ている。
破壊神の瘴気――
それはただの闇ではなく、触れれば精神を侵し、見れば魂を削り、音も光も生命の気配すら飲み込む“世界の毒”と言われている。
その中心に立つ”魔王ヴォルネクサス”は、まさに悪夢が形を得たような存在だ。
その巨体は脈動し、黒い肉体は蠢き、背から伸びる影の翼は光を吸い込んでいる。
輪郭は常に揺らぎ、見ているだけで視界が歪んだような気さえしてくる。
ただ、そこに立っているだけで世界が軋み、床石がひび割れ、空間が悲鳴を上げている。
厄災――
そんな魔王に俺たちは立ち向かっていた。
「いくぞ!」
俺は、魔王の懐に入り込み、聖剣で連撃を繰り出す。
だけど、魔王のガートも硬い。
傷を付けるも、これでは決定打には程遠い。
一度距離を取ろう。
「はあ、はあ……すぅー、はぁー」
闘いが始まって大分経つ。
俺は肩で息をし、膝は震え、全身は傷と血にまみれている。
それでも、仲間が俺を支えてくれる。
だから、心は折れていなかった。
背後で仲間たちの荒い息遣いが聞こえた。
『やるではないか、勇者レオンよ……』
魔王が、ゆっくりと俺を見下ろす。
その視線だけで、俺の背筋に氷の刃が突き立つような感覚が走った。
――恐怖
――絶望
――死の予感
だが、俺は一歩も退く気はない!
聖剣を握る手に力を込める。
仲間を守るために。
世界を守るために。
そして――
セラとの未来を生きるために。
俺は、魔王の前に立ち続ける。
魔王が大きく息を吸った。
まずい! 咄嗟に危険を察知したが避ける時間はなさそうだ。
『死ね、勇者! 《黒禍奔流》!』
凄まじい轟音がする。
世界が軋む。
魔王の黒き奔流が一直線に仲間へと迫る。
その瞬間――
「――《守護一閃》ッ!!」
赤い紋章が地を走り、ライアンの大剣が光の軌跡を描いていた。
黒い奔流が触れた瞬間、音もなく霧散する。
仲間を守るためだけに振るわれた、戦士の魂の一撃だ。
「今だーー、レオン!!」
ライアンの豪快な声が戦場の空気を切り裂く。
後ろではミーナが流れるような足取りで詠唱の準備をしていた。
「足止めをするわ。少ししか時間稼げないからね!」
足元に複雑な氷の魔法陣がゆっくりと展開される。
旅の途中でミーナが覚えた、最上級氷属性魔法。
「氷よ、鎖となりて敵を縛れ――
《氷鎖縛陣》!」
バキィィィィィンッ!!
そして、空間を埋め尽くすほど無数の氷鎖が、魔王の四肢を絡め取り拘束していく。
『き、さまっ!』
魔王の動きが一瞬止まった。
その隙を逃すものかとばかりに、ミーナの横に立つセラが胸の前で手を組んだ。
淡い金色の魔法陣が足元に広がり、天井から光柱が降り注ぐ。
背後に天使の翼のような光が揺らめき、祝福の風が吹いていた。
「聖光よ、力を与えよ。
いま、英雄の器を示したまえ――
《英雄付与》!
レオン! 行って――!」
バァァァァァンッ!!!
セラのその声が聞こえた時、俺の中の何かが爆発するように燃え、体から黄金のオーラが溢れ出した。
身体能力、魔力効率が限界を突破し、英雄が降臨したかのような圧力が玉座の間を満たしていく。
俺は迷わず地を蹴り、魔王に向けて走り出す。
英雄のオーラを纏い、最短距離で魔王へと跳び込んだ。
「聖剣よ――
浄化の光を解き放て。
闇を断ち、呪いを祓え。
《聖剣破魔斬》!!」
聖剣が白金色に輝き、刀身から光粒が溢れだす。
足元には浄化の紋章が浮かびあがり、聖剣を振り抜いた瞬間、斬撃の軌跡が白金の光の弧となり、魔王の胸を切り裂いた。
『グゥオオオオオーーー!!』
光が爆ぜ、魔王の咆哮が城を揺らす。
黒い霧が吹き飛び、巨体が崩れ落ちる。
そして、玉座の間に静寂が訪れた。
ご一読いただき、誠にありがとうございます。
本作は物語の序盤をテンポよくお楽しみいただくため、【毎日1回 夜19:00】の周期で更新を予定しております。
結末までプロットをしっかりと構築して臨んでおりますので、どうぞ最後まで安心してお付き合いいただけますと幸いです。
もしレオンと朔弥のこれからの旅路に興味を持っていただけましたら、お気に入り登録で応援していただけると、今後の何よりの励みになります。




