第三話「狙われた筋肉」
あらすじ
トレヴィルという町に辿り着いたユージは筋トレ器具の製作に取り掛かる。
その過程で知り合ったリネアという剣士の少女と協力の代わりにパーティーに加入する約束をする。
日銭を稼ぐために冒険者ギルドでギルドカードを作ろうとするが、試験としてギルド長のガルデンと戦うことに。
ユージの力はギルド長にも引けを取らないようだ。
ギルド長ガルデンとの模擬戦闘のしばらくあと、冒険者ギルド客間にて。
「以前、ユージ様にお持ちいただいた魔水晶、そしてホブゴブリン単独討伐の噂・・・」
私はセリオ、ガルデン、リネアと卓を囲んでいる。
「それに、先ほどのギルド長との模擬戦闘。見学者も少なくありませんでした。」セリオが私に語りかける。
「つまり、ユージ様は今、この町の話題の中心にいるわけです。」
「セリオのいう通りだ。このワシも仕事柄随分多くの冒険者を見てきたが・・・」
ガルデンはこちらを興味深そうに見ている。
「ワシの斧を素手で破壊するようなヤツは初めて見たわ!」
そう言うと、ガルデンは豪快に笑った。つまり、このギルドのトップ2のお眼鏡に叶う内容だったようだ。私は飛び級でランクCのギルドカードを受け取ることができるらしい。
「すみません。ギルド長、それにセリオさんも」ここでリネアが珍しく控えめな口調で口を開いた。
「ギルド長は元Sランク冒険者ですよね?互角に戦ったユージがCランクというのは・・・」
リネアの言葉を聞いて、セリオは難しい表情をする。
「おっしゃることはわかります。しかし、先ほども言った通りユージさんはこの町の話題の中心・・・」
「我々としても、ルールに則りギルドカードを発行せざるを得ないのです」
セリオによれば、この国に数多く存在する冒険者ギルドは国が定めた指針によって運営されている。
基本的には全ての冒険者はEランクからそのキャリアをスタートするが、ギルドカード発行の際のテストの結果次第で、最大Cランクまでの飛び級が可能とされているようだ。
「まァ、場合によっちゃいきなりランクAのギルドカードを発行せにゃならんこともあるがな・・・」ガルデンがバツの悪そうな声で言う。
「それはどういう・・・」
「いろいろだな。お貴族様が跡取りを高ランククエストに連れて行くためだったり、高ランク冒険者の権威を手に入れるためにだったりだ」
なるほど、貴族社会というのも異世界ファンタジーでは定番だ。この手の話題には首を突っ込まないに限る。
___________
さて、リネアと様々なクエストをこなして日銭を稼ぎながら数日が経ち、そろそろ筋トレ器具の試作品が完成かという某日。お世話になっている工房の主人、ギルデスと最終確認をするために工房に向かった。
「ギルデスさん・・・これは・・・」
眼前に広がるのは見るも無惨な工房の惨状。
器具が散乱し、家具や装飾品も破壊されている。
その様子を見るに、人為的に起こされた破壊行為であることは間違いないだろう。
「こりゃあひでえな。悪いな兄ちゃん、アンタの試作品もやられちまったみたいだ」ギルデスは鉄屑を拾い上げる。
「・・・犯人に心当たりがあるんですか?」特に驚く様子を見せないギルデスに聞く。
「いいや?だが、ワシの工房の防護結界を破れる魔術師はそうおらん。そこんじょそこらの盗賊、冒険者の仕業じゃねえだろうな」
聞くところによるとギルデスは魔術にもかなりの心得があるらしい。
「犯人はかなり厄介なヤツだな。宝飾や金目のモンには興味がなかったらしい。壊すだけ壊していきやがった。」
「そ、それって…」
「断言はできねえが、兄ちゃん、かなり厄介なことに巻き込まれちまったようだな!」そう言うと、ギルデスは豪快に笑った。
「わ、笑い事じゃないですよ!どうするんですか?」
「どうするもこうするも、まずは兄ちゃん次第だろ。器具の制作は続けんのか?」
ギルデスの問いに私は少し悩んだ。
確かに器具は必要だ。
だがそれを作ることによって何らかの勢力に目をつけられてしまったこの状況を考えると、危惧政策の続行はリスクが大きいかもしれない。
___________
「そんなの、待ち伏せでもしてひっ捕まえればいいいじゃない」
ギルデスとの話を一旦保留にしたのち、リネアに状況を伝えると彼女は落ち着いた様子でそう言った。
「ま、待ち伏せですか?」私は聞く。
「そもそも、ユージのせいでそうなったのかもわからないんじゃ犯人の探しようもないじゃない?また制作を再開して、何もなければよし、また犯人が来るようなら捕まえられるようにすればいいのよ」
私は少し驚いた。何度かクエストを一緒にこなすうちにその片鱗は見せていたが、脳筋めいた性格、戦闘スタイルとは裏腹に、彼女の状況判断と行動哲学は非常に理にかなったところが多い。
「なるほど・・・」
その後、私たち一行は冒険者ギルドを訪れた。
聞く話ではこの国に存在する町や村ではギルドが各管轄地域の警察のような役割も持っているらしい。
当たり前だがギルデスの工房で起こった出来事は事件性が高いので、リネアの勧めで報告に来たのだ。
「先日のホブゴブリン討伐、それにCランクへの飛び級で注目されているユージさんを快く思わない冒険者の仕業かもしれませんが・・・」セリオはリネアを見る。
「その工房、ギルデスさんの工房で間違いありませんか?」
そう聞くセリオの表情はいつになく真剣だ。頷くリネアを見て、さらに険しい表情へと変わる。なにか心当たりがあるのだろうか?
「・・・まずは、リネアさんのおっしゃる通り、ユージさんの器具製作が犯人の動機であるかを調べる必要がありそうですね。」セリオは言う。
結局のところ、ギルドの資材を借りる形で、器具製作は再開となった。
ここまでしてくれるのはありがたいが、どうして無償でここまでしてくれるのかは不気味なところだ。
「___筋トレがしたかっただけなのに、随分と面倒なことになってしまったな・・・」
私はそう呟くと、犯人が現れた時のための準備に向かうのだった。
第一章「筋トレがしたいだけなのに」 完
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