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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第1章「筋トレがしたいだけなのに」

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第2話「この筋肉、かなり強い」

## 第2話「この筋肉、かなり強い」


### 【あらすじ】


 ひょんなことから異世界に転移してしまった筋トレマニアのユージ。


 その鍛え抜かれた体には尋常ならざる力が宿っているようだ。


 彼は森で巨大なゴブリンを倒してとある街へと辿り着いたが……彼を待っていたのは――筋トレ器具が存在しないという残酷な現実だった。


### 【本文】

 

 翌朝。


 冒険者ギルドに併設された酒場で朝食を済ませた私は、さっそく今後の計画を練っていた。


「さて……まずは器具をどうするか、だよな」


 そう。この世界には当然、元の世界のような“ジム”はないのである。


 パワーラックはもちろん、ダンベルもマシンも知る者はいなかった。


 この問題は私に大きくのしかかる。筋肥大、少なくともこの筋肉を維持するためには……元の世界と同じクオリティのワークアウトが必須なのである。


 少なくとも今必要なのは――


「インクラインベンチとダンベルだ!」


◇◇◇◇◇◇


 最も理想的なのは、バーベル種目を行うことができるパワーラック、代替案としてハーフラックを手に入れることだが、現状設置場所に苦労しそうなため、借りた部屋の中で使えそうなベンチ台とダンベルの製作を目指すことに。


 私は早速、冒険者ギルドを訪れた。


 道中、購入した紙にインクラインベンチの構造とダンベルを書き、それがどういうものか記入した上でセリオに見てもらっている。


 ちなみに、この世界の文字は――なぜか読めるし書けるようになっていた。先日の、異常な私の身体能力と同じくらい驚きの出来事だ。


「これは……一体何に使うのでしょう?」


 紙を見たセリオが尋ねる。


 私はその場でインクラインダンベルプレスの動作をして見せた。鍛える部位と動作の説明付きだ。


「……なるほど。効率よく体を鍛えるためにこの傾斜をつけられる椅子と、重量がある上に保持しやすい“ダンベル”が必要と」


 この男、やはり頭が切れるというか、先日の印象通りの人物のようだ。おかげで私の欲しいものが正確に伝わった。


「はい。問題ないでしょう。この町の技師は腕利きが多いですから、この紙の内容を伝えれば対応できるはずです。ちょうどギルドの訓練場に悪くなった剣や盾が山ほどありますから、どうぞご自由にお持ちください」


 異世界にきて初めてできた人脈がこの男で良かったと心底感じる。


 無料でもらっていいというのは少し不気味なくらいの親切ではあったが……セリオからギルドの訓練場に一筆書いてもらい、私は訓練場に向かった。


◇◇◇◇◇◇


 訓練場では何人かの冒険者と思われる男女が訓練に励んでいた。防具を身につけ、なかなかに激しい打ち合いをしている光景は素人目に見てもなかなか迫力がある。


 その様子を見ている教官らしき人物に、セリオからもらった紙を見せると、武具の倉庫に案内してもらえた。なるほど、屑鉄と呼ぶに相応しいボロボロの剣や盾が大量に放置されている。


「これだけあれば、パワーラック作るのも夢じゃないか?」


 そんなことを考える。


「いや……ダンベルまで作るとなったら足りない……か?」


 ぶつぶつと喋っていると――


「……アンタ、こんなもの見ていったい何に使うつもり?」


 背後から声をかけられた。振り返ると、いつのまにか女性の冒険者らしき人物が立っている。


 まっすぐに伸びた赤い長髪が印象的な、おそらく10代後半から20代前半くらいの年齢だろうか、活発な印象の子だ。装備から、恐らく剣士……か何かだろう。


「あ、いや……なんというか、鍛錬のための道具を作りたくてですね……」


「“作りたい”?道具を探しに来たんじゃなくて?」


 怪訝そうな表情で言う。


「はい。どうやら私が使いたい器具はこの世にないみたいなので……」


「ふーん……? よくわからないけど、鍛錬のための道具……ね……それって剣の鍛錬にも使えるのかしら?」


「直接的に剣の腕前に影響する訓練はできませんが、剣を扱うための体づくりには役に立つと思いますよ」


 私の説明を聞いた彼女は……うむ、どうやらピンときていないようだ。


「その剣、少し借りても?」


 警戒しながらも、訓練用らしい錆びれた剣を貸してくれた。


 鉄製の長剣。1〜2kg程度の重さだろうか。彼女の華奢な体型だと片手で長時間扱うのは少ししんどいかもしれない。


「剣の技術的な話は分かりませんが、筋力のトレーニングをすればこの剣もより扱いやすくなると思いますよ」


 私は片手で剣を振って見せる。


 剣先が音を立て、空間を切り裂いたような衝撃が走る。


 ……なんというか、こう、すごくしっくりくる感覚があった。


 私は、剣術など全くの素人だ。それでも、鍛えた筋肉は不気味なほど素直に剣の重さへ適応した。


「お、驚いたわね……」


 彼女は私から剣を受け取りながらそう言った。


「アンタ、パーティーには入ってるの?」


「いえ。ただ、もし誘おうと思っていただけているなら――申し訳ないのですが、今はその鍛錬器具を作ることに集中したくてですね」


 私は丁重に断ろうとしたが、彼女は諦める様子がない。


「じゃあ、その器具とやらを作るのを手伝うわ!それが終わったらパーティーに入りなさい!」


 彼女の赤い髪と勝気な喋り方から想像できる随分と強気な性格にやや圧倒される。


「パ、パーティーですか?」


「そうよ! 冒険者たるものパーティーを組んで高難易度クエストに挑んでこそでしょ?」


「そうなんですね……?」


「アンタ、本当に興味ないのね」


 リネアはジト目で私を見た。


「で、どうなの? その鉄屑、使うんでしょ? 私腕のいい鍛冶師と知り合いなんだけど」


 そのリネアの言葉を聞いて、私は即座に決断した。


「ぜひよろしくお願いいたします」


 渾身の土下座付きで、彼女の協力を得ることにした。


◇◇◇◇◇◇


 昼、リネアは話していたとおり、彼女が武器や防具の世話になっている工房を紹介してくれた。


 リネアが工房の主人に、セリオに見せたものと同じ器具の図を渡す。


「なんだぁ?このへんちくりんな物は」


 工房主のギルデスというドワーフ族と思しき男は言う。


「インクラインベンチとダンベルです」


 私は即座に説明した。


「名前聞いてもわからん――ってか兄ちゃんは誰なんだ?」


 ギルデスはリネアに聞く。


「私のパーティーメンバー候補です」


「ほぅ……そりゃまた……」


 ギルデスは私を興味深そうに見た。 


「……まぁ、ご贔屓にしてもらってる嬢ちゃんの頼みなら断るわけにゃいかんか」


 ギルデスはもう一度、図を確認する。


「とりあえず、これがどういうモンなのかだけ教えてくれ」


「わ、わかりました!」


 こうして、初めての器具製作がスタートした。


◇◇◇◇◇◇


「パーティーメンバーって探すの大変なんですね」


 その後、私とリネアは街の大通りに出ていた。


「……普通はこんなに苦労しないわよ」


 何の気なしに振った話題だったが、リネアは複雑そうな表情になってしまった。


(これは……詮索しない方が良さそうか)


「……で、どうすんのよ。お金」


 リネアも話題を変えるように言う。


 ――そう、ギルデスから言われたお金の話。


「どうしましょうか……」


 材料は、持ち込んだ屑鉄でなんとかなるようだった。


 しかし、追加で作業料が必要だ。なにぶん、未だかつてない器具を作るということで、費用がかさむらしい。


 先日稼いだ1万バルの残りでも全然足りなかった。


「『どうしましょう』って、アンタね……いろいろと謎なことが多いけど、そもそも何者なわけ?」


 リネアは呆れた様子で言う。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。タカハラ・ユージと言います。あ、いや……ユージ・タカハラなのか……?」


「まぁともかく……出身は……何というか、もの凄い遠いところから来てるって感じですかね……?いろいろあって」


 リネアは少し考えるような仕草を見せる。


「ふーん……アンタも――訳アリってことね。私はリネア。冒険者で剣士」


(あんた“も”、か……)


 彼女の言い方に少し引っ掛かりを感じたが、話題は金策の方法に移る。


「とりあえず、この街で稼ぐならやっぱり冒険者ギルドが一番よ」

「私みたいなよそ者でも依頼って受けられるもんなんですか?」

「出身は関係ないわね。余程の罪人とかお尋ね者じゃなければ――」


そう言うと、リネアは素早く私から距離を取る。


「違う違う!そういう訳ありじゃないから!」


「……冗談よ」


「わかってもらえてよかったです……で、これからギルドに行って依頼を受けて、それで稼ぐって感じですかね」

「そうね、ギルドカードは……持ってないわよねその感じだと」

「はい……」

「じゃあ、登録試験からになるわ」

「登録試験?」

「冒険者の仕事っていっても色々だから……危険な仕事ができるかどうか、力量を測る試験があるのよ」

「なるほど」

「……安心なさい。アンタのガタイなら絶対大丈夫だから」

「そういうもんですかね……」


 そんなことを話しながら、我々は冒険者ギルドの前に到着した。


「じゃ、行ってらっしゃい。私は酒場でご飯食べてるから」


 リネアにドンと背中を叩かれ、私は受付に向かう。


 なかなか強引な子だな……まぁ何も知らない異世界のことを教えてくれるのは助かるけど。


◇◇◇◇◇◇


「来たな。お前さんがセリオの言っていた男か」


 その後、私はギルド訓練場の中央で強面の猛者と対峙していた。


 この男、ギルド長のガルデン。顔立ちから初老の50代のように感じられるが、その体は素晴らしく仕上がっていた。


 ゆうに20kgは超えるであろう大型の斧をこちらに構える様子は、まさに圧巻と言うべき姿だ。


「セリオさんからどのような話があったかはわかりませんが……これは一体――」


 聞いたのも束の間、ガルデンは信じがたい脚力で一気に間合いを詰め、襲いかかってきた!


「ッ――!」


 咄嗟に後ろに身をのけぞる。ガルデンの斧が眼前をものすごい勢いで通過した。


 ――自分でも驚くほどの反応。脳が危険を感じた瞬間、体はすでに回避を終えていた。


 私は追撃が来る前に下がって間合いを取る。


「ガハハハ!見事!今の避け方はなかなかできるもんじゃあないぞ!」


 ガルデンは豪快に笑って見せた。


「うむ、ホブゴブリンを一撃で殺ったと言う話、偶然というわけではなさそうだな」


 ガルデンは再び斧を構える。


(また来る!)


 ――この感覚。彼と対峙した私の体の奥底に感じるこの感覚は、アドレナリンが出て体が芯から沸き立つような……そう。それはベンチプレスのマックス重量更新にチャレンジする前のような感覚。


 ガルデンというこの男は本気で私の力量を測りにきている。こちらも、相応の覚悟で応えるのが礼儀というものであろう。


「行くぞ!」


 ガルデンが再び襲いかかってくる。さっきよりも速い。しかし……迎え撃った私の“パンチ”がガルデンの斧と衝突した刹那――


◇◇◇◇◇◇


 気がつくと、仰向けに倒れていた。


 “パンチ”を放った右拳が痺れているが、外傷はない。


 体を起こすと、私は訓練所の端まで吹っ飛ばされたようだ。だがそれはガルデンも同じのようで、彼も訓練場の対角線上に座り込んでいた。


 彼の持っていた斧は刃の部分が大きく欠け、地面に突き刺さっている。


「まったく、参ったなこりゃぁ……」


 ガルデンは言う。


「素手で斧をぶっ壊すなんてよ……こりゃ俺の負けだな」


 ホブゴブリンに出会った森で色々と試していたこの“パンチ”。


 例によって拳に凄まじい威力を乗せることができるのはもちろんだが、打撃による拳へのダメージもゼロにできるということはわかっていた。


 それは彼の斧にも通用した。ひとまず、合格点だろうか。そんなことを考えながら天を仰ぐ。


 日の傾いてきた、異世界の夕暮れが妙に美しく感じた。


◇◇◇◇◇◇


 同時刻、冒険者ギルド酒場。


 各々が楽しそうに食事を楽しんでいるところに、一人の冒険者が飛び込んでくる。


「おい!ギルド長が負けたぞ!」


 その男の一言で、酒場は一気に静まり返る。


「……おい、何の話だ?ギルド長が……?」

「ああ!この目で見たんだ!でっけえ筋肉ムキムキの男が――」


 その会話を聞いて、リネアは持っていたチキンを皿に落とした。


「素手でギルド長の斧をぶっ壊しちまったんだ!」

「はあ!?何だそりゃ!一体どこの誰が――」

「それがよ……冒険者登録試験で来た新人みてえなんだよ」


(私、とんでもない奴、パーティーに誘っちゃったかも……)


 リネアは、あの筋肉マッチョのポテンシャルに恐怖すると同時に、妙な高揚感を覚えるのだった。

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