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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第5章「転機」

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第17話「筋肉と魔術師」

## 第17話「筋肉と魔術師」


### 【あらすじ】


 ノエラが一人で乗合馬車を引いていた理由を知ったユージ。


 今大事なのは仲間たちの使命を手伝うことだと決断する。


 騎士団からの誘いを断りに出発するが……。


### 【本文】


 この宿泊施設は騎士団訓練施設からそう遠くない場所にある。


 しばらく歩いていると、ルノアが妙な気配を察知したようだ。


「ご主人様、なんかへん」


 周囲を見渡す。


「変というか……人少なくないか?」


 この世界……というか国に曜日という概念があるのかはわからないが、ともかく昼前のここまで発展した王都に人っこ一人いないのは非常に異様な光景である。


「こ、これ、認識介入の魔術かもしれません……!」


 ノエラが言う。


「わかるのか?」


「は、はい!馬車の仕事を始める前に攻撃魔術以外はかなり勉強したので……」


 彼女が言うには、集団の移動先や目的意識に介入することで一定エリアから対象以外の人間を排除する方法があるらしい。


 集団にかける魔術は超高度な術らしく、そうそうできる人間はいないというが――


「そんな奴がなんでまた私たちを……って心当たりありまくりね」


「あるんですか!?」


「あら、あなたも知ってるでしょ?コイツ、“筋肉の賢者”様なのよ?」


「――そうでした」


 刺客は“悟り”のスキルをもつ私をどうにかしようとしている奴らなのか?そんなことを考えていると――


「貴様が“筋肉の賢者”だな?」


 怪しげなローブを身にまとった男たちがどこからともなく現れた。


「……確信があるからここまで大掛かりな魔術で仕掛けてきたんじゃ?」


「否定しないとは。我々も舐められたものだな」


「な、なに挑発してんのよ!」


「こいつらの狙いは恐らく俺だ。三人はなるべく離れてくれ」


 これ以上増えなければ、相手は五人。


 これまでの経験上、イシュルドやギルド長のガルデンよりは数段下の相手のように感じる。


「待ちなさいよ!私も戦うから!」


「ルノアも」


「わ、私は下がってますぅ……!」


 二人はやる気のようだ。


 リネアはどのみち私がやられれば無事ではないのだ。ルノアはまあ……やや血気盛んなところがあるので仕方ない。


「我らが女神様に仇なす存在には死を――!」


 男の一人が何かを唱えると、火の玉のようなものが生み出されこちらに発射される。



「……ん?」



 火の玉は子供が下投げでテニスボールを投げてきたような程度の速度感に感じる。


 数こそ多いが、直線的にこちらに向かってくるので簡単に避けることができる。


「な、なんだ!?グオッ!?」


 しばらく男たちの攻撃を躱していると、奥の方にいた男が消える。


 傍にいたルノアがいつの間にかいないのでルノアの仕業だろう。


「まさか殺っちゃってないよな?」


 た、多分大丈夫だろう!


「リネア!間違っても殺しちゃダメだぞ!」


「あんた私のことなんだと思ってるのよ!」


 リネアも華麗に敵の攻撃を躱し、相手に攻撃をする。鞘から抜く前の剣による打撃は効果抜群のようだ。


「す、すごいです……!」


 ノエラは十分安全そうな位置まで下がれたようだ。


 それでは私も……石をまともに当てれば相手がただでは済まないので、適度に加減した投擲を行う必要がある。


「ふんっ……!」


 石を投げたその瞬間――


「わ、私も手伝います!」


 ノエラが珍しく叫ぶ。


「あ、やばいかもこれ」


 ノエラは恐らく強化魔術のようなものを使ったのだろう。


 私が投擲した石になにかしらのエンチャント効果が付与され――


「ぐわぁぁぁぁっ!」


 先頭にいた男に命中。


 防護結界のようなものを展開してはいたものの、この威力は想定外だ。


「あ、アンタ人のこと言えないじゃない!なによ今の!?」


 キレ気味でリネアが詰め寄ってくる。


「く……“筋肉の賢者”、どこまで我々女神教を愚弄するか!」


良かった!生きてるみたいだ……。


「この国で神託に逆らうことがどのようなことを意味するのか知っているのか?」


 神託……?一体なんのことだろうか。それに、女神教と言ったか?


 とうとうこの国の国教である女神教に捕捉されてしまったのであれば――


「ふむ、これはこれは全くの想定外」


 一瞬身のすくむような感覚に襲われると、空から声が聞こえてきた。


 その様子を見るやいなや、女神教の男たちは一斉に退散していく。


「ご主人様、ひと、ういてる」


 ルノアの目線の先を見ると、なんと神父のような格好の老人が空に浮いている。


「あれでも我々女神教が精鋭たちなのですが……いやはやどうして、あなた方は厄介な存在のようですね」


 老人はゆっくりと男たちがいたところに降りてくる。


「……三人とも、手を出すのはよそう」


 この男はやばい。危機察知のスキルがそう告げているように感じる。


 恐らく、この場所から人を追い払った魔術はこの男によるものだろう。


 老人はゆっくりとこちらに近づいてくる。


「どうですか?ゆっくりとお茶でも」


 老人はこちらを嘲笑するように言ってくる。


 冗談じゃない。我々は騎士団に断りを入れて目的のために動き始めなくてはならないのだ。


「――断る。と言ったら?」


 恐る恐る聞く。


「それは困りましたね。王都のど真ん中で大戦争を起こすのは私も避けたいのですが」


 老人が不敵に笑う。


 こいつと本気でやり合うのはまずい。どうにかしなければと思った瞬間。



 耳をつんざくような粉砕音がこだまする。



「おやおや、結界が破られましたか」


 老人は空を見上げる。


「これは残念。今回はここまでにしましょう」


 一瞬強い風が吹いたかと思うと、老人は消えていた。


 気がつくと道は続々と人で溢れ始める。


 しばらくもしないうちに、ものすごい剣幕のリディアが駆け寄ってきた。


「おい!今のは何事だ!」


◇◇◇◇◇◇


「その老人は恐らく女神教のザハリエルという男だろう。まさかとは思ったがやはり君が“筋肉の賢者”とは。災難だったな。昨日の今日で追っ手がかかるなんて。」


 その後、匿われるように騎士団施設へと向かった我々は、再び応接室で顔を突き合わせた。


「あいつは何者なんですか?」


「私を含め、ザハリエルについて詳しく知っているものはほとんど居ない」


「な、なんですかそれ……」


「昨日話した通り、騎士団には魔術派を推し進めようとする派閥がいる。覚えているか?」


「はい」


「魔術派の元締めは教会だ」


 ん?どういうことだ……?それじゃあ――


「つまり、俺は女神教から『平民で“悟り”が使える』って理由で目をつけられてて、女神教の権力を増すために騎士団に送り込まれた人間を潰しちゃったってことか?」


「平たく言うとそうだな」


 リディアは気の毒そうに言う。


「そうだなじゃないですよ!」


 なんと言うことだ――どんどん面倒ごとに巻き込まれていってしまう……。


「なにをそんなに悲観する。君が騎士団に入ってくれるなら万事解決だ」


「あ、その件なんですが――」


「まさか、断ろうと言うことはないだろうな」


 リディアは今までに見せたことのない凄みを出しながら言う。


「君のその力、こんなところで無駄にしてはいけない」


「どういうことでしょうか」


 リディアの引っかかる物言いに思わずこちらも凄んでしまう。


「そのままの意味だ。君は王国を守るための力を持っている。君がいれば魔術派に王国の国防を乱されることはないだろう」


「それは私には無関係なことです」


「無関係なものか。君はすでに教会からマークされている。今後もあの老人のような魔術の権威から狙われ続けるぞ」


「それは……」


 言い淀む私を見るや、リディアは続ける。


「君はいいだろう。だが、彼女たちを守り切れるのか?」


 少し考える。だが、ここで引き下がるほど私の決断は甘くない。


「はい」


 私はそう断言する。


「そうか。ならばその決意、試させてもらうとしよう」


 今にも斬りかかってきそうなリディアの発する圧に思わず身構える。


「ハハハ、なにも今ここでやる必要もないだろう」


 リディアは笑う。


「三日後、我々と模擬戦をしようじゃないか。君たちが勝てば我々は君たちから手を引こう」


 またまた、とんでもないことになってしまった。だが、真に自由に生活するには、まずこの騎士団からのマークを外さなければ。


「ルールは一対一。そちらと同じ私を含めた4名を用意しよう。先に3勝した方が今回の模擬戦を制する」


「わ、私も戦うんですかぁ!?」


 ルールを聞いたノエラが驚く。


「もちろんだ。今回は君たちがこの先魔術派のものたちと渡り合っていけるか図るための模擬戦だ。例外はないぞ」


 ものすごく不安そうなノエラ。だがリディアの意見も間違ってはいない。


 この先自由に行動するには彼女にも自衛の手段を身につけさせなければならないだろう。


 おそらく私はこの騎士団長、リディアと戦うことになるはずだ。リネアやルノア……ノエラも騎士団の精鋭と戦う。


 三日後……か。


 できることはある。それに――


 “トレーニング”は私の十八番だ。

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