第13話「移動する筋肉。戦う筋肉。」
あらすじ
病気を治すためにノエラの馬の権利を奪ってしまったユージだったが、何とか事情を説明して彼女に馬を返すことに成功する。
乗合馬車での旅が始まり、ルノアの過去も知ることができた。
王都への道のりは始まったばかりだ。
「ところで・・・ルノアさんって、やっぱりユージさんの・・・奴隷、なんですか?」
今日は男たちの質問攻めから逃れるために、ノエラに頼んで御者用の空いたスペースに座らせてもらっている。
しばらく当たり障りのない会話をしていたが、しばらくしてノエラはそう聞いてきた。
「ああ・・・そう、だな」
やはり、奴隷を連れているのは印象が悪いのだろうか。
「あの、気を悪くされたら申し訳ないんですが___」ノエラはそう言うと、少し気まずそうにする。
「昨日も言ったが気にしなくて大丈夫だぞ」
「は、はい。それなら・・・なんと言うか・・・珍しいなと思って」
珍しい?どの部分を指していっているのだろうか?
「あの、あまり、奴隷の方と一緒に主人が寝たり、ましてやあんなに密着して___」
そこまで言ってノエラは恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
なるほど。たしかに。
おそらく階級制度が強いであろうこの世界であのようなことは珍しいのだろう。
しかし、こちとら異世界人なわけで、そう言った感覚は持ち合わせていな___
いや、異世界人としても幼いとはいえ血の繋がっていない女性とあのような形で一晩を明かすのはダメか。
むしろルノアの幼さがより一層事件性を増しているか・・・?
「い、いや・・・!これにはワケがあってだな!」
無言なのは逆に怖すぎると思い、慌てて話はじめる。
昨日は王都に向かう理由しか話していなかったため、ルノアの不治の病の話と、契約するに至った経緯を話す。
「そんなことが・・・」
良かった。納得してくれたか・・・?
「では・・・主従の関係ではなく単純に、昨日はあんな感じでお休みになっていたんですか・・・」
なんと、この子、ずいぶんと痛いところをついてくる。
「い、いや・・・それはだな・・・」
しどろもどろになっていると、馬車を引く馬が突然止まった。
「おわっ!?」
馬車が揺れ、咄嗟に投げだされそうになったノエラを捕まえる。
「きゃっ・・・!?」
全くもって狙ってはいないのだが、最終的にノエラを抱き抱えるような形になってしまった。
ちょうど、昨晩のルノアと同じような___
「ちょっと!一体何が___」
剣を持って飛び出してきたリネアは我々を見て
「・・・アンタ、そう言う趣味なわけ?」そう冷たく言い放った。
「そう言う趣味・・・とは?」わかっていないわけではないが、聞き返す。
「わかってて聞くんじゃないわよ」リネアは冷たい目線を送ってくる。
「おいおい!夫婦漫才してる場合か!一体なんだってこんなところで止まったんだよ!」
夫婦って・・・と、いや、そんなことにツッコミを入れている場合ではない。
この男の言う通りこの世界の治安じゃ盗賊なんかが出てきてもおかしくはない。まずは状況の確認が先だ。
「モ、モンスターですっ・・・!」ノエラが叫んだ。
どうやら、モンスターの気配に怖気付いて馬が走るのをやめてしまったようだ。
「ルノア、わかるか?」
ルノアは猫獣人という自身の身体能力を生かしての索敵が得意・・・らしい。
「うん。イノシシ、いっぱい」
イノシシ型のモンスター・・・以前クエストでも倒したことがあるボアってやつか。簡単な相手だが、量が多いのは厄介だな。
「皆さんは戦えますか?」そう言って乗り合わせた男たちの方を向く。
「とんでもねえ!俺たちぁただの商人だぞ!?こういうのは馬車の管理者がどうにかするんだろ!」
そういわれると、ノエラほどの少女が一人で護衛もつけずに馬車を引いているのは少し危険すぎる気もする。
もしかしたら、昨晩の防護結界魔術もそうであったように、腕に覚えがあるのかもしれない。
「ノエラ、いつもこういう時はどうしてるんだ___」そう言い、ノエラの方を向くと、
「ど、どうしましょう・・・!モンスターっ・・・私攻撃魔術は使えなくて___」
馬の周りをうろうろしながら慌てふためいている。これは私たちでどうにかするしかなさそうだ。
「リネア、いけるか?」
「普通のボアならなんでもないんじゃない?」
リネアの言葉通り、群れとはいえ普通のボア。私たちの敵では無いだろう。
「ルノアもたたかう」
「うおっ___?」
ルノアは突然飛び出すと、木々の間を駆け抜けていく。
「俺たちも行くぞ!」
「ええ!」
ルノアは以前も戦闘に意欲を見せていたことがあったが、実際にその力のほどは未知数だ。
その直後、前方で獣の叫び声が響き渡る。
「な、なんだ今の!?」
すでに視界に入っていた先頭のボアが何かに”撃たれた”かのようによろめき、倒れる。
「ルノアなのか?」
ともかく、突進を続ける後続のボアを受け止めなくては・・・!
「フンっ!!」
前方に大きく突き出した二本の角をそのまま掴み、ボアの動きを封じる。
「動くんじゃないわよ!」
その後、リネアが見事な剣撃でボアを討ち取る。
その間にも、別のボアが先ほどのように倒れていく。あっという間に三体のボアが屠られる見事な連携だ。
残されたボアは二体・・・すっかり勢いを削がれ、逃げるように去っていった。
「す、すごい・・・」
その様子を見ていたノエラはつぶやくように言った。
「しかし・・・あれは一体どういうことなんだ?」
木々の間から姿を現し、戻ってきたルノアを見ながら言う。
「こういう驚かされ方はアンタでもう十分なんだどね・・・」
リネアも先ほどのルノアの動きには驚いている様子。
その後、討伐したボアの魔水晶を回収すると、馬車の陰に隠れていた男たちが寄ってきた。
「旦那ぁ・・・その魔水晶、どうするんです?」
男はわざとらしく媚を売るように話す。
「どうと言われましても、王都に着いたらいつも通りギルドに持って行くつもりですが・・・」
「なんだって?そりゃ勿体無い!」男は続けて捲し立てるように話す。
「冒険者ギルドなんてのは商売に関しちゃ素人の集まり!冒険者から魔水晶を集めるだけ集めて、売り方はまるでなってねぇ!」
その話を聞いてか、もう1人の男も割り込んできた。
「こいつのいうとおりだ!クエストで指定されでもしてないなら、冒険者ギルドに持って行くだけ損ってやつですぜ」
この男たちの話によると、ギルドは冒険者から購入した魔水晶に利益分の手数料をかけて他の工房や教会に販売しているという。
当然、ギルドは慈善活動団体でもないので仕方ないことだと思うが・・・。
どうやらこの商人たちは冒険者ギルドのことをよく思っていないらしい。
「ちょうどいいんじゃない?私たち、この馬車のお金払ったら割と金欠だし」
そういうリネアの勧めで、男たちに魔水晶を買い取ってもらった。
「それにしても驚いたな!ボアの突進を素手で止めちまうなんてよ!」
男はさらに絡んでくる。どうやら商人というのは話すことが好きらしい。
「い、いやあ、普通のボアですからね。」
「でもよぉ、普通はスキルを使ったり、盾で受け止めたりするもんだろ?」
「あ、それなら私も使ってますよ。スキル。便利なものでああいった時に自動で発動するんですよ〜」
グラートの水晶による鑑定で分かったが、私は常に"危機察知"というパッシブスキルで危険に対応する能力を向上させるスキルを持っていることが判明している。
「そ、そうか・・・」
ん、なんだ?男の態度が急に変わった。
その後、そそくさと話を切り上げて2人の男は馬車に戻って行った。
「アンタ・・・今の不味かったんじゃない?」リネアが言う。
「え、何が?」全く心当たりがなく聞き返す。
「そのスキルのことよ。自動で発動するパッシブ効果のあるスキルなんて、レジェンダリーほどじゃないけど超珍しいレアスキルよ?」
「・・・そう言うのは早く言ってくれます?」
「言ってるわよ。アンタはおかしいって。いつも。」
これは、王都に着いたらすぐに自身のスキルについて理解を深める必要がありそうだ。
__________
「みなさん・・・!そろそろ到着です!」
ノエラの声で目を覚ます。
どうやら昼寝をしてしまっていたようだ。
ボア襲撃後は、特に大きな事件はなく、数日の野営を経てついに王都に辿り着いた。
「・・・デカいなぁ。」
王都は私たちがいたトレヴィルとは比べ物にならないほど大きく、格式の高さを感じさせる白に統一された建築物や、中央に大きく聳え立つ城が脅威を寄せ付けない力強さを感じさせる。
しばらくすると、馬車の列に加わる形で入り口へと辿り着き、剛健な装備を身につけた門番たちの検問を受ける形となった。
「登録証を」
そう言われると、ノエラは何かの紙を渡す。
「確かに」
門番の男は何かしらの魔術を使用して紙の真贋を確認したようだ。
「次!」
そう言うと、そそくさと男二人組が門番に何かを見せる。
どうやら、商人ギルドのギルドカードのようだ。
こちらも魔術による確認が行われる。
「次!」
どうやら我々の番のようだ。
おそらくこの騎士団からの召喚状を見せれば良いのだろうが、なぜか妙に緊張する。
門番の男は召喚状をみると少し驚いた様子を見せたが、魔術による確認をすると「騎士団に連絡を」と言い、「馬車の清算を済ませ、ここで待て」と言った。
___________
「ここでお別れかしら」リネアが言う。
私たちはノエラにお礼を言って人数分の料金を払うと、男二人組も清算を済ませ、すぐに商人ギルドにいかなくてはと去って行ってしまった。
ノエラはこれからどうするのだろう。
彼女が身一つで馬車を引いている謎もまだ解けないまま。
このまま別の乗客を乗せて王都を出発して、もし盗賊にでも襲われたら?乗客の戦闘能力によってはモンスターに遭遇しただけで詰んでしまうこともあるだろう。
ノエラは指定された場所に馬車を停めている。
その姿はどこか寂しげで___
「お前たちか」
その時、明らかに他の門番と違う装備の男が現れた。
恐らく騎士団の人間だろう。
「はい」畏まって答える。
「三人か?」
そう聞かれ迷う。事情を知らないままこの場を立ち去るのは後味が悪い。
それならいっそ___
「いえ、四人です」
そう言って馬の世話をしているノエラを指差す。
リネアは「アンタ何言ってんの?」と言ったような顔をしているが、今度こそ私のアドリブが良い方向に向かうと信じよう。
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