三号店の鼓動
なにがいけないのだろう。なぜうちのお店には客が来ないのだろう。
味か。それとも値段か。もしかして接客だろうか。考えてもすべてな気がするし、そうでない気もする。
いけない。一人で考えてもラチがあかない。こんなときは素直になるにかぎる。シンプルに単純に考えろ。
レミリアにレストランを繁盛店にする方法を教えてもらおう。
わたしはレストラン"シーフード"のオーナー兼シェフのミリア。独身で二十五歳のオバサン。このままではいずれシーフードは潰れる。
一刻も早く改善する必要があった。
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異世界で土下座をみることになるとは。
ボクは神人こより。十五歳。とつぜん異世界に飛ばされ、なぜかバイキングレストラン「カレー大好き」の店長をやっている。
一号店の「お肉は正義」に来ると、店内で土下座をしている女の人がいた。レミリアさんも困った顔をしていた。
「レミリア頼む!」
「ちょっとミリア。まず土下座をやめて」
「はい、ちょっと失礼」
「あ」
ボクはミリアと呼ばれる女性を立たせる。
「お客様のいるところで困ります」
「すまない」
「こよりくん。ちょっといい」
三人で二階にあがる。このパターンに慣れてきたぞ。
「この子はミリア。近くでレストラン"シーフード"を経営してるの」
「このところ売り上げが悪くてな。改善する方法を教えてもらいにきた」
「へえ」
口調はぶっきらぼうだが根は素直な人らしい。自分には自分のやり方がある!といつまでも成果のでない努力を続ける人ではなさそうだ。
「頼む!レミリア!!教えてくれ!!」
「そうねえ」
「とりあえず、こよりくん。店をみてあげて」
「この娘が?」
「そう、こよりくん。うちもまんぷく食堂もカレー大好きも成功させた凄い子なんだから」
「ほんとか!?」
「フォーピースもお得意みたいだけどね」
「ちょっ」
「フォーピース??」
「こっちの話です!気にしないで!!」
なぜバレている。恐るべしレミリアさん。
十分後、ボクとミリアさんはレストラン"シーフード"の前にいた。
店名よし。店の外観もよし。ゴミなどもきちんと掃除されていた。窓ガラスもちゃんと拭き掃除されている。
次は店内に入る。建物は古いけど、清潔感のあるいいお店だ。照明も暗くない。ここまでで問題らしき問題は見当たらない。
メニューを見る。決して高くない。少し料理の種類が多すぎる気がしたけれど。まずは食べてみないことには話が始まらない。
「この店で一番人気のある、または一番オススメの料理を食べさせてください」
「あいよ!座って待っていてくれ!!」
女冒険者風というか、きっぷのいい女将なんだよね、ミリアさんは。
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どん。目の前に海鮮たっぷりのパエリアが置かれた。熱々で美味しそうだ。
「いただきます」
パクパクパク。うん、美味しい。米の炊き具合も味付けも絶品だ。値段もこれで千ウェンなら文句はない。
「ごちそうさまでした」
「うまかっただろ」
「はい。とても」
ミリアさんが嬉しそうに笑う。あ、このひと好きかも。
「でも客が来ないんだ」
「問題はなさそうなんですけどね」
「掃除も接客も料理も努力してる」
「それはわかります」
「そういえば宣伝はしてます?」
「そんなのしてないよ」
「なんで」
「美味いものを作っていれば客は来るものだろ」
「あー」
わかった。ミリアさんは職人なんだ。良いもの、美味いものを作ればお客様が黙っていても来てくれると信じている。
「でも、じっさいお客様きてませんよね」
「う、そうだな。ほんとそうだ」
偉いな。ちゃんと自分の間違いを受け入れている。こんな年下の小僧のいうことなのに。こうなったらボクが力を貸しますか。
「ミリアさんはなぜレストランを始めたの」
「親がやってたのもあるけど、自分が作った物を美味しそうに食べてくれる人の顔が見たくてさ」
合格だ。この人なら間違いをしない。
「店名のシーフードは誰がつけたの」
「あたしさ。港町で生まれ育ったから魚にかんしては誰にも負けないよ」
ならば方向性は決まったな。
「繁盛店になるなら店名は変えてもいい?」
「名前にもよるね」
「魚の虜とかは?」
「いいね。最高だ」
「わかった。作戦会議をしよう」
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「ひとことで宣伝不足です」
ボクはミリアさんに断言した。ミリアさんもそれは痛いほど分かっていたようだ。顔にでるよね、素直な人だから。
「料理も美味い。掃除もちゃんとしてる。店内も清潔」
「なのに客が来ない」
「それが宣伝不足」
知らない店に人は来ない。何かを買おう、何かを食べたい。そうお客様が考えた時に頭に浮かばないお店は消える運命だ。
肉を食うならお肉は正義。
カレーを食いたければカレー大好き。
スパゲッティをたらふく食いたければ、まんぷく食堂。
では魚を食べたければ。残念ながらシーフードは出てこない。出てくるのはオーナーや関係者だけだ。
じっさいボクもこんな近くにあるシーフードもミリアさんも知らなかったからね。でもミリアさんはお肉は正義もカレー大好きもまんぷく食堂も知っていた。
つまり、そういうこと。説明をするとミリアさんは納得していた。
「こよりの言う通りだ!」
「わかってくれた?」
「ああ、目からウロコが落ちたよ。ありがとう」
「いっそのことバイキングレストランにしちゃおうか」
「手を貸してくれるか」
「もちろん。この店を満席にしてみせるよ」
「ならやろう」
話は決まった。バイキングレストラン「魚の虜」を作るぞ。
はい異世界シニアです。
肉、スパゲッティ、カレーときて魚です。
次回、異世界バイキング。魚の虜。




