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記憶のない僕らは  作者: 青山 立
最終章 僕がずっと知りたかったこと
104/108

(004) Area 33 To love and be loved ミエの心

 --ミエの心--#カイ

 

 キッチンで物音がする。しばらくするとミエが水の入ったグラスを二つ持って、リビングに入ってきた。


「水、飲む?」

「うん。ありがとう」


 差し出されたグラスを受け取る。ミエは僕が座っている大きめのソファーの右端に座ると、ソファーの前にあるコーヒーテーブルに自分のグラスを置いた。


「カイは薬を飲むの?」

「薬って、記憶制御を解除する薬?」

「うん」

「どうかな、まだわからない」


 ミエの様子がおかしい、どこか別の世界にいるようにさえ見える。


「あの薬は、まず私に使ったの」

「どういうこと」

「私はMCPだったの」

「え?」


 僕の反応を無視するかのように、ミエは淡々と話を続ける。


「お父さんとお母さんが私の記憶を何度もコントロールしていたみたい」

「ミエ、大丈夫?」


 ミエは僕の問いが聞こえていないか、そのまま喋り続けた。


「気づいたきっかけは、私が幼い頃からつけていた日記を読んだこと。

 私が日記をつけていたことは、お父さんとお母さんは気づいていなかったんだと思う。

 私は時々その日記を読み返していて、ある日、自分の記憶と日記に書かれた内容にずれがあることに気がついた。初めは私の記憶違いか何かかと思ったんだけど、何度も自分の記憶が飛んだり、周りの人に微妙な反応をされることがあったから、もしかしたらと思って、自分の周りに盗聴器や監視カメラをつけて調べてみたの。

 そうしたら、私が自分をコントロールできなくなって、カイを傷つけそうになるたびに、お父さんが私を眠らせて、記憶を制御していたことがわかった。どちらかというと、記憶制御はお父さんが始めたようで、お母さんはやめたがっていた。

 記憶制御を解除する薬を飲んで、制御されていた記憶が戻るまではわからなかったけど、私は自分で思っていた以上に、劣等感が強く、精神的に不安定で、何度も自傷行為や自殺未遂を行なっていたみたい。

 日記の中では、私はいつも強がっていたから、自分がこれほど弱い人間だなんて知らなかった」


 ミエは、僕に話しかけているようだが、まるで別の景色を見ているように視線が合わない。もしかして、夢を見ているんだろうか?


 僕は悪夢は見るけれど、自然に思い出したミエとの記憶は、夢の中の出来事と異なり、楽しいものばかりだ。もしかして、僕もまだ辛い記憶が制御されている状態なんだろうか?


「カイ、私はね、お母さんがMCUの開発後におかしくなって、カイとはぎくしゃくして疎遠になって。ずっと心細かった。

 でも、それでも、すべて失っても、お母さんだけは救いたくて、お母さんがずっと続けてきた研究をなんとか引き継いで、薬を完成させたの。あの時は嬉しかった。これからは、お母さんと楽しく過ごせるんだって思った。


 でも、何もかも遅すぎた。上手くいかなかった。

 私、何か間違ってたのかな?

 わからないの。


 薬を飲んでも、すべてを思い出しても、結局のところ、父さん(あの人)のことは好きにはなれないし、お母さんのことも諦められない。


 私、油を撒いた夢を見たの。

 何もかも消えてしまえばいいと思ったから。だって、あの食堂は気味が悪かったの。

 食堂に置いてあるものは、四人で過ごした家にあったものばかりで、あちらこちらに母さんの影が浮かんでは消えた。


 火をつけようとしたらどこからか足音が聞こえてきて、怖くなって、私、裏口から逃げたの。

 数分間しばらく食堂の裏庭でうずくまっていて。気がついたらバイクで逃げていた。

 あの後ずいぶんしてから、あの家が火事になったって聞いて、詳しく調べたけど、ニュースにもなってなくて、自分の目で確かめに行った。


 そしたら、何もかもなくなってた。

 どうして、あの人が自分で?

 それとも、私が?

 ねえ、カイ? 私が去った後、本当は何があったの? 私が全部燃やしたの?」


 ミエは錯乱状態にあるんだろうか?

 夢で見たと言いながら、まるで、本当の出来事かのように話している。

 僕の記憶の中では、火事は何かの爆発によって引き起こされたし、その時去って行った車の音も聞いた。

 あの火事の犯人は多分これからも、わからないだろう。あの日聞いた人の声は見知らぬ人の声だった。

 おそらくMCS社か政府の人間が火事を引き起こし、火事を知った、父さんの手紙に書いてあった信頼できる人が、依頼通りに、永薪食堂はをすべて跡形もなく片付けてしまったんだろう。


 今となってはその真相を突き止める術はない。


 真実で人を救えるのなら、この世はもっとシンプルで生きやすいはずだ。でも、真実は、人それぞれ違って、自分の中の記憶でさえ、日々形を変えていく。


 僕はそう思った瞬間、すべてを知るまでは前に進めないと思っていた呪縛から、逃れられた気がした。


 そして僕は嘘をついた。彼女はもう十分苦しんだのだから。


「姉さんは悪い夢を見たんだよ。あの火事は、父さんが点けたキャンドルが地震で倒れたことで起きてしまったんだよ」


 なんとも説得力のない説明だと自分では思ったが、不思議とミエは落ち着いて、そのままソファーで眠ってしまった。


   ◇     ◇     ◇


 翌朝、ミエはどうして自分がソファーで寝ていたのかも覚えていなかった。


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