第26話、海神の娘たち。(中編)
『──ッ、来るぞ、総員、迎撃準備!』
『『了解!』』』
今まさに、「風雲急を告げん」としている海面へと、一糸まとわぬ上半身のみを現した、見かけ十三、四歳ほどの幼い女の子である、人類の『最後の切り札』たる私たち、潜水艦タイプの軍艦擬人化少女『そうりゅう』シリーズであったが、すでに日本海海上は、『地獄絵図』そのままの有り様となっていた。
こちらへとゆっくりと迫り来る、全長100メートル近くはありそうな、純白と漆黒との、二体の巨大なる熊に、その周囲を飛び回る無数の螽の群れ。
そのすべてが、今や地球上の全人類を滅亡の淵に追いやろうとしている、文字通りの『死のウィルス』によって象られているのだから、これを地獄と言わずして、何と言うべきであろうか。
『──総員、対BC戦用防御態勢!』
『『『了解! ──集合的無意識と、アクセス! 周囲の「同化レベル」を、「Aマイナス」にアップ!』』』
──その途端、
私たち潜水艦娘の周囲に、海の人魂である『不知火』が数え切れないほど灯るや、そのまま全身を覆うようにしてまとわりついてきた。
……いや、人魂を全身にまとっている人魚と言うのも、客観的に見れば、まさしく地獄にふさわしい、おどろおどろしい有り様に違いなかろう。
そのようにあえて目立つように、『艤装換装』した甲斐もあって、こちらを目ざとく発見した螽たちが、文字通り真夏の虫けらそのままに殺到してくる。
螽自体も十分に脅威であるが、その正体はかの凶悪なる『大陸風ウィルス』なのである、ほんの少しでも触れた途端、皮膚や肉どころか骨までも、汚染されてしまいかねなかった。
──しかし私たちは、一人としてひるむこと無く、モノトーンの巨大熊のほうへと進み続けた。
『『『ギギギギギギギギギギギギギギギギギギ──⁉』』』
私たちの周囲の不知火に触れた途端、断末魔を上げながら消滅していく、螽たち。
とはいえ、炎に煽られて燃え尽きたわけでも、本性であるウィルスに分解したわけでも無かった。
実はこの不知火は、本物の炎では無いのはもちろん、超常的な火炎系の魔法の類いでも無く、言うなれば、集合的無意識の『情報書き換え適用範囲』を可視化したものなのである。
──ここで爆弾発言を行おうと思いますが、私たち『潜水艦娘』は、絶対に『人魚』の姿であり続けるわけでは無く、陸上での(軍艦擬人化少女としての作戦)行動が必要な場合には、普通に二本脚の人間の少女の姿になることも可能なのです。
「な、何だよ、それって⁉」
「これまで、本作やその他の作品において、(軍艦擬人化)ヒロインを人魚にすることの効能を語ってきたくせに、今更それは無いだろう⁉」
「ほんと、この作品の作者って、クズだよな!」
「あれだけ、『これぞ人魚ならではの、淫靡エロス効果だ!』『人魚であれば、JCくらいの女の子が、上半身裸であっても、別に構わないのだ!』『特に挿絵のまったく無いWeb小説は、完全無罪なのだ!』等々と、言いたい放題言ってきたくせに!」
「それなのに、『潜水艦娘』も、普通に二本脚で陸地に上がれますって、それじゃ他の『艦む○』と、変わりが無いだろうが⁉」
「だったら最初から、人魚になんかするなよ!」
──ええ、わかります、わかります、皆様の気持ちも、ようくわかります。
私どもも、アホな作家に生み出された身の上ですので、そのご苦痛は、文字通りに痛いほど理解しております。
でもですねえ、一応これにも、ちゃんとした理由があるのですよ。
つまり、『人魚姫』ですよ、『人魚姫』。
童話とかで人魚姫は、王子様のハートを射止めるために、海底の魔女にお願いをして、人間の身体──つまりは、二本の脚を手に入れるではないですか?
と言うことは、おそらくは海底の魔女には、人魚の身体を変化させることのできる、力があるわけですよね?
まあ、それが、魔女の身に備わっている力なのか、それとも何かそういった『薬』を作り出す技術を有しているのかは、定かでは無いですけど、とにかく、『人魚の尾びれが人間の脚になる原理』を、論理的に説明する必要があると思うのですよ。
あ、「おとぎ話だから、別に説明なんか要らないだろう?」と言うのは、無しですからね。
そんなんでは、何の進歩も望めないし、何よりも、『軍艦擬人化少女の実現』なんて、夢のまた夢になってしまいますしね。
──そうなのである、私たち軍艦擬人化少女には、まさしく『量子論や集合的無意識論に則った変身技術』が使用されているのだ。
それと言うのも、軍艦擬人化少女が軍艦擬人化少女であるための、『最大のアイデンティティ』とは、自身の周辺において展開できる、大砲や機銃や魚雷等の兵器をメインにした、いわゆる『艤装』なのだから。
この艤装が無ければ、私たち潜水艦娘は、単なる人魚になってしまうし、某コレクションゲームなら、巫女とか女学生とかスク水とかの、コスプレイヤー集団になってしまいますからね。
──まあ、とにかく、フィクションであるゲームならともかく、あくまでも現実であるこの世界においては、何も無い空間から、突然軍艦の艤装を出現させることに、ちゃんとした理由が必要なんですよ。
私たち潜水艦娘においては、この不知火が艤装に変化するわけなのですが、実はこれこそは、私たち軍艦擬人化少女の構成要素である『ショゴス』を、体現しているとも言えるのです。




