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二ヶ月を超える長い夏休みが終わり、大学の授業が始まった。
エーイチはとっくの昔に夏休みが終わっていた。高校の夏休みは1ヶ月程度だ。
だが、高校は授業が終わるのが早いので、夕方ぐらいになるといつもエーイチが来ていたような気がする。
大学は受ける授業を選択できるため、ミチホは授業を調整して、がっつり行く日と平日休みを作っていた。
大学までの往復時間がもったいないという理由からである。
大学は90分授業で、五時限目まで出て家に帰るとすでに夜だ。
エーイチと会う日は減ったが、大学生の二年目は忙しい。
大学生は一、二年でほとんどの単位を取らないと就職活動に集中できなくなるという。
三年で少し残った単位を取り、四年目はほぼ空けておかなければならない。
ちょっと寂しい気もするが、エーイチは勉強に集中できて良い事だろう。
とはいえ、エーイチはエチホの平日休みの夕方と、土日には必ず来ていた。
ミチホの殺風景な部屋がよほど気に入っているようだ。
「ミチさんの大学、模試でA判定出たよ。」
「おおエーイチ、なかなかやるじゃないか。よしよし。」
ミチホはエーイチの頭をぐりぐりと撫でた。
ふわさらした髪の毛が気持ちいい。
「でも、うちの大学は第一志望じゃないっしょ?」
「うーん、そうだったけど、ミチさんと一緒ならいいかなって。」
ミチホは思わず、腕を高く振り上げて、エーイチの脳天にチョップを食らわした。
「どるぁ!」
「いてっ!」
「アホかぁー!!大学を女で選んでどうするんだ!!」
「え、でも。」
「一緒の大学になったって授業は被らないし、わたしは二年までにほとんど単位取っちゃうからほとんど会えないよ。だいたい別れたらどーすんの?大学中退すんの?」
エーイチはショックを受けている。
ミチホはその様子を見て冷静になり、ちょっと言い過ぎたかもしれないと思った。
落ち込むエーイチを慰めるべく、ミチホは抱きついて言った。
「エーイチはもっといい大学行けるんだから。頑張ろ。ね。」
打算的なアメとムチ作戦である。
棒読みじゃないぶん、ミチホは女優だと言える。
しかし、ミチホが怒るのも当然のことだ。
自分のせいで一人の人間の人生を狂わせてしまうなんて恐ろしい。
かわいい弟のような存在であれば尚更、変な道には進んで欲しくないものだ。
エーイチは頷いたが、まだ落ち込んでいるようだ。
つらい受験勉強の日々から逃避していた自分に気付いたのかもしれない。
さらに気分を盛り上げてやらねばなるまい。
「あのね、いい大学に行ったほうが、収入も上がるしモテるよ。女っていうのはね、本能で強い男を選ぶけど、現代の強さっていうのはお金なんだよ。世の中はお金だよ。お金持ちが強いんだよ。だから収入が高くないといい女は手に入らないんだよ。だからいい大学行ったほうがいいんだよ。」
ミチホは大真面目に語ったが、エーイチは冗談だと思ったようでクスクス笑い出した。
思惑は外れたが、いちおう機嫌も治ったようだし、ミチホの目的は果たせたと言える。
「もー、ミチさんは面白いなぁ。」
「楽しんでいただけて光栄です。」
「ミチさんが手に入るなら、頑張るよ。」
さりげなく口説いてくるエーイチは天然なのか、冗談なのか。
ミチホはドキドキしてどう受け取るべきか迷ってしまう。
天然だったらちょっと怖いかもしれない。ミチホはそんなに口説かれ慣れてないからだ。
「うん。頑張ってる人ってカッコイイし、思わず惚れちゃうかもね!」
エーイチに惚れてない宣告したようなものだったが、平常心が保てていないミチホは気付かなかった。
事実をうっかり漏洩してしまった、つまり失言である。
少し寂しげなエーイチはミチホに尋ねた。
「ミチさんってさ、どういう人がタイプ?どういう人と付き合ってたの?」
「えーと、年上かな。」
身も蓋もない言葉だ。年齢はどう頑張っても変更できない。
「そうなんだ。」
「今までは三人ぐらいと付き合ったけど、付き合って欲しいっていうから付き合ってみたぐらいで、別に好きとかなんとかってのはあまり……。」
「え!ミチさん、最初は好きな人でとか言ってなかった?!」
「アハハー。女はね、初めての人とかイチイチ覚えてないから。細かい事は気にしない!」
笑って誤魔化すミチホ。
女性はデータを上書き、男性は別のフォルダを作るとはよく聞く話だが、
ミチホは済んだこととして消去していってしまうようだ。
自分から告白したことも、フラれたこともなかったので、執着が無いのであろう。
顔が並でも、若くて会話ができれば、そこそこ相手には困らないものである。
ミチホは恋愛をしているようで、していなかった。
「だいたいさ、処女って面倒なだけだしね。処女じゃないと嫌だっていう男はお断りしたいし。」
「俺はミチさんならなんでもいいよ。ミチさんの初めても欲しいけどね。」
実際にミチホが初心な小娘だったら、こんな関係にはなっていないだろうが、
自分のことを丸ごと受け入れてくれているエーイチに、ミチホは嬉しく思った。
「ありがと。わたしがエーイチに惚れたら、初恋かも。」
「マジで。惚れたらどうなるの?」
「んふふ。べったべたに甘やかして、わたしがいないと生きていけないようにする。」
「うは。なんかすごそう。」
今までの相手でもそうだった。
惚れてはいなかったとはいえ、誰かを喜ばせるのが好きなミチホ。
散々甘やかしまくって、疲れて飽きたら別れていた。
もし惚れた相手なら、さらに色々とやってしまうだろう。
ただし、相手が調子に乗ったらすぐ冷める自信もある。
きっとエーイチなら大丈夫だろうけど、でも、惚れるかなあ。とミチホは思った。




