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侍少女は誉を夢見る

レオンが戦闘員その1として、沙耶は戦闘員その2と言った立ち位置です

見知らぬ国の街道

転移の余韻がまだわずかに残る中、沙耶は一歩踏み出した。


足元はしっかりと地を踏みしめている。

その背筋は真っ直ぐ、隙はない

だがその瞳には、わずかな高揚が混じっていた。

「メグ殿、カロン殿とはどのような御方でしょう?」


隣を歩くメグへと視線を向ける。

「アクア様の弟君ともなれば……さぞや教養に溢れ、品格ある御方でござろうな……?」

凛とした武士の顔。

だがその奥には年相応の期待が滲んでいる。

主君に連なる者…仕えるに値する存在、それを確かめる機会。

――心が弾まぬはずがない。


メグはそんな沙耶を見て、にこっと笑った。

「うんうん!仲間思いで紳士的!」

軽やかな口調で続ける。

「字も綺麗だしマナーも良いよ!カロンきゅんは!」

(ま、ウソではないしね!)


内心だけで付け加える。

沙耶の目が、さらに輝いた。

「これぞ誉……!」

拳を軽く握る。

「アクア様、紫苑様より賜りし御命……この身を以て応え申す!」

決意に迷いはない

その中を沙耶は進む、胸に抱くのは――

理想の主君像、誇り高き任務

そしてこれから始まる“忠義の物語”


――まだ、この時は。

沙耶は何一つ疑っていなかった。



人だかりと歓声が渦巻く巨大な施設の前で、メグが立ち止まる。

「カロンきゅん達、ここにいるらしいね〜」

軽い口調

沙耶は周囲を見渡しながら問いかける。

「メグ殿、ここは?」


メグは少しだけ考えるような素振りを見せてから答えた

「う〜ん……速い馬を見極める場所かな?」

曖昧な説明、だが沙耶は真剣に頷く

「なるほど……!」

その目が、ぐっと鋭くなる。

「神馬を選ぶ儀式でござるな!」


完全に変換された。

メグは一瞬だけ口元を押さえる。

(いやまあ……間違ってはないけど!)

その頃、中では観客席が熱狂の渦に揺れていた




「16頭ギュッと固まる…いや!15頭だ!1頭は前を走っている!ラストラン全ての思いを込めてドゥライモータル!!頑張り切れるか!?ドゥライモータル!!」


「ハーツアンドダイヤモンズ来た!!

ハーツアンドダイヤモンズ来た!!

ハーツアンドダイヤモンズ来たーー!!!!!!」


「内からウインドインスバル!!」




実況が絶叫する。


「あと100!!並んだ!捕らえた!」


土煙を上げて駆け抜ける馬群。


「ハーツアンドダイヤモンズだ!!レジェンドユタカだぁぁぁぁぁぁ!!!」

歓声が爆発する。



そして

「しゃおらーーー!!三連単421倍ィィィィ!!」

一番うるさい男がいた。

カロンである。


スタオンヌは隣で楽しそうに微笑む。

「あら〜、複勝も中々♡」


レオンも思わず拳を握る。

「ジャスーー!!!」

完全に乗っている。


エマは冷静に分析していた。

「レオくん、この競馬場トリッキーだから一番人気信じ過ぎちゃダメだよ」

理論派。


リバティーナだけが、ぽつりと呟く。

「……あの……旅は……?」

正論。

誰も聞いていない。



その光景を――

少し離れた場所から見ている影が一つ、

沙耶だった…

その姿は完全に固まっている



「…………」



言葉が出ない。

さっきまでの理想、気高き武人。、誠を重んじる主君


――目の前にいるのは。

「よーし!皆!次も行くぞォ!!」

賭博に熱狂する男


沙耶の思考が、静かに崩れ始める。

(……違う……これは……拙者が思い描いていたものと……)

完全に違う


ぽかん、と口を開けたままただその光景を見つめていた


――まだ、この時点では。

“現実”を受け入れきれていなかった。


観客席の喧騒が、まだ収まらない。

「ユ・タ・カ!ユ・タ・カ!」

拳を突き上げ、満面の笑みで叫んでいる男――カロン


その姿を、沙耶はただ見つめていた。

(……あれが……?)

頭の中で、何かが音を立てて崩れていく

――その時


「カロンきゅーん!」

場違いなほど明るい声が響く


カロンが振り返る。

「おう!メグ姉!」


レオンもすぐに姿勢を正す。

「メグ様……!」


スタオンヌは目を輝かせる。

「あの御方が……大賢者様……」


一同の視線が、自然と沙耶へと向けられる。

メグは楽しそうに手を叩いた。

「この子、アクアきゅんと紫苑ちゃんが派遣してくれた用心棒!」


軽い紹介。

カロンは「ああ」と思い出したように頷く。

「手紙に書いてあったな」

そのまま、じろりと沙耶を見る。

上から下まで、遠慮なく。

そして一言

「ちっさいな…何才?小学生?」


沙耶の思考が、完全に止まる。

(……は?)

言葉が出ない、ただ固まる

メグがすかさずフォローに入る

「いやだな〜、沙耶ちん16歳だよ!カロンきゅんと1個しか変わらないよ!」

明るい訂正。

だが沙耶の中では、すでに別の何かが燃え始めていた。


ゆっくりと顔が上がる

その目は先ほどまでの憧れや敬意ではない

明確な不快感


「……拙者は」

低い声


「子供扱いされる覚えはないでござる」

空気がピリつく

カロンは一瞬だけ目を細め――


ニヤリと笑った。

「へぇ、喋れんじゃねぇか」

第一印象は最悪の出会い


ざわめきの余韻が残る観客席の端

張り詰めた空気の中でリバティーナがふと口を開いた。

「……あ、私と同い年ですか」

視線は沙耶へ


少しだけ親近感のある声音。

その隣で、スタオンヌが柔らかく微笑む。

「でも……小さくて可愛いです♡」

無邪気な一言が――火に油


カロンが即座に食いついた。

「マジで!?」

面白そうに目を細める。

そして――

リバティーナと沙耶を、露骨に見比べた。


リバティーナ、161センチ。

沙耶、146センチ。


差は明確。

沙耶のこめかみがピクッと動く。

「……何を見ているでござるか」

低い声

「失礼な御人……」


カロンは特に悪びれもせず、肩をすくめる。

「ま!アクアと紫苑の推薦なら間違いないだろ!」

あっさりと切り替えそのまま手を軽く上げる

「よろしくな!」


やたらと距離が近い

沙耶は一歩引く

「か、勝手に馴れ馴れしくするなでござる!!」


そのやり取りをメグが満足そうに眺めていた

「じゃあアタシは帰るね〜!」

軽い、あまりにも軽い


沙耶が振り返る。

「ちょ、メグ殿!?」

既に遅かった

足元に魔法陣が展開される

メグはにやりと笑った。

「頑張ってね〜沙耶ちん!」

光が弾ける


次の瞬間――姿は消えていた。


取り残された空気

沙耶はその場に立ち尽くす…

目の前には――

賭博に熱狂し、無遠慮で、距離感がおかしい男。

「……」


ゆっくりと顔を上げる。

「……拙者は」

小さく息を吐く。

「こんな輩に仕える為に来たのではないでござる……」

完全に不本意


だがカロンはそんなこと気にもせず、次のレース表を見ていた。

「次どれ買うかな〜」

温度差が酷い

レオンは頭を押さえる

「……また面倒なのが増えたな」

リバティーナも小さく頷く。

「ええ……間違いなく……」


スタオンヌだけが楽しそうに微笑んでいた。

「賑やかになりましたね♡」

――こうして

沙耶・ヒジカタは。

極めて不本意な形で。

このパーティに加わることになった。


競馬場の喧騒を背に、一行は外へと出た。

夕方の風が、少しだけ熱を冷ましていく。

カロンは上機嫌だった。

「あー儲かった!」


心底楽しそうに笑いながら、バイクへと跨る。

スタオンヌも自然にその後ろへ

「さすがカロン様です♡」

ぴたりと抱きつく


レオンは苦笑しながらガーディアのドアを開けた。

「……遊びじゃねえんだけどな」

リバティーナも呆れ気味に乗り込む。

「もう何も言いません……」

半ば諦め


――その少し後ろ

沙耶は静かに立っていた。

腰には一本の刀。

手には、まっすぐな杖


その姿だけは、場違いなほどに凛としている。

「こちらへどうぞ」

エマが軽く手で示す、ククリRPVの後部座席


沙耶は一瞬だけ視線を向け――頷いた。

「かたじけない」

無駄のない動きで乗り込む


エマはその様子を確認しドアを閉めた

「日ノ本から遥々ありがとうございます、お疲れでしたらゆっくりしていて下さい」

丁寧な言葉、変わらぬ柔らかさ

沙耶は短く返した。

「お気遣い、痛み入る」


形式としては完璧なやり取り。

だが――

その目は、まだ前方のバイクを追っていた。

(あれが……アクア様の弟……)

理解が追いつかない納得もできない

だが、命は受けた

それだけは揺るがない。


カロンが振り返りもせず叫ぶ。

「次は国境沿いだな!今日の内に進もう!」

一切の迷いなし

エンジンが唸る

三台が同時に動き出す

土煙を上げ、街道へ

その列の中で


沙耶は静かに目を閉じた。

(……見極めねばならぬ)

この男が仕えるに値するのかどうかを…

風が吹き抜ける。

その旅は――

まだ始まったばかりだった。


国境沿いの街。

日が傾き始め、橙色の光が通りを染めている。

人の往来もそこそこあり、旅人が立ち寄るにはちょうどいい規模の街だった。

エマが周囲を見渡し、小さく頷く。

「良さげな街ですね」


リバティーナも同意する

「ええ、補給や休息には適していると思います」

カロンはそんな二人の会話を聞きながら、にやりと笑った

「よし!今日は沙耶の歓迎会するぞ!」

軽いノリだが、悪意はない


その言葉に、沙耶はわずかに目を伏せる。

(仲間思い……というのは……事実のようでござるな……)

複雑な感情


まだ認めきれないが、否定もしきれない。

――その時だった

通りの影から、数人の男が現れた。

「よぉお兄ちゃん達さ〜」

軽薄な声

「なんか可愛い女の子、沢山連れてるじゃん?」

下卑た視線

「ここ通りたきゃ……分かるよね?」


リバティーナが呟く、

「訂正します、やっぱりろくでもないです」


カロンが一歩前に出る

口元に笑み

散弾銃を取り出そうとした――その瞬間


「待たれよ」

低く通る声、気付けば沙耶が前に出た

迷いなく一歩、二歩


「アクア様からの命でござる」

背を向けたまま告げる。

「不本意ながら……拙者がお守り致す」


その言葉には、はっきりとした距離がある。

カロンはそれを聞いて、少しだけ口元を歪めた。

「へぇ」

興味。

沙耶は静かに刀に手をかける。

――抜刀。

構えは、平正眼


一切の隙がない、刺し違えてでも勝つと言う覚悟と気迫に…空気が変わる


カロンが目を細める

「お、天然理心流じゃん」

軽く言う。

「沙耶、使い手だったのか」


沙耶は一瞬だけ驚く

「……ご存知であったか」

そのまま視線は外さない。

「拙者、四代目宗家とは親しい仲にて」

誇りある言葉


カロンは肩をすくめた。

「紫苑から聞いたことあってさ」

軽い調子

だが、知っている

その事実が、ほんの少しだけ沙耶の認識を揺らす。

――だが


男達はそんな空気など気にもせず、笑い声を上げた。

「ギャハハハ!!」

「なんだよそのチビ!」

「子供が刀持ってイキってんじゃねぇよ!」

完全に舐めている。

その瞬間

沙耶の目が、すっと細くなる。

「……無礼」


風が止まったような静けさ。

次の瞬間――

“何か”が起きる。


一瞬だった。

踏み込みも、構えも、すべてが“見えない”。

並の人間では、目で追うことすら叶わない速度

次の瞬間――男達の身体が、遅れて反応した

肩、腕、脚。


それぞれの急所を外した位置に、正確無比な突き。

「ぐあっ!?」

「なっ……!?」

何が起きたのか理解する前に、痛みだけが走る。

沙耶はすでに元の位置に戻っていた。

刃をわずかに払う。

血が地面に点々と落ちる。


エマが思わず声を漏らす。

「わぁ……♡」

どこか恍惚とした表情。


レオンが即座にツッコむ。

「ときめくな!」


沙耶は静かに言い放つ。

「急所は外した」

視線は冷たいまま。

「さっさと失せるでござる」

それだけで十分だった


男達は顔を引きつらせ、転げるように逃げ出す。

「ひ、ひぃっ……!」

あっという間に、通りは静けさを取り戻した。

――カロンが小さく拍手する。

「見事」

短い評価


沙耶は刀を収め、軽く頭を下げた。

「御粗末」

だがその表情にはほんの一瞬だけ。

誇らしさが浮かんでいた


――しかし

カロンが次に口にした言葉で、それは一瞬で崩れる


「いや〜、おかげで追加収入だわ!マジでナイス沙耶!」

その軽い調子に沙耶の眉がぴくりと動く

「……?」


カロンは懐から、どさりと何かを取り出した。

それは複数の財布


さっきの男達のもの…いつの間にか、全部

リバティーナが呆然と呟く

「え……いつの間に……」


レオンはため息をつく

「やっぱやってたか……」


これぞカロンの、母親譲りのスリ技


沙耶はゆっくりと振り返る

その目に浮かぶのは――

明確な理解、そして怒り。

「……拙者の剣を囮に……」


低く、震える声。

「盗みを……したでござるか……?」

空気が張り詰める。

カロンは悪びれもせず、肩をすくめた。

「別いいだろ?先に絡んで来たのは奴らだ」

当然のように言う

その一言で沙耶の中の“何か”が、決定的に音を立てて崩れた。


そんな張り詰めた空気の中

カロンは、珍しく真面目な顔で口を開いた。

「しかしさ……」

軽く顎に手を当てる。

「斬ることにも、殺すことにも躊躇がないな」

視線はまっすぐ沙耶へ


「流石、天然理心流……しかもその練度で、か」

軽口ではない評価だった。

そこには天然理心流への理解、知識があった。


沙耶はわずかに目を細める

「ほう……見る目はあるようでござるな」

少しだけ胸を張る。

「宗家のコンドウとは旧知の仲、共に鍛えた親友でござる」


誇りを込めた言葉。

カロンは小さく頷き、淡々と続ける。

「“剣は論”って言われてた時代にさ名より実、美徳より必殺を取った剣術だろ」

一歩踏み込む


「そんな時代の中で天然理心流は、スポーツでも嗜みでもない、本物だ」

静かな断言


――その一言で


沙耶の中の認識がほんのわずかに揺らぐ。

(……この男……)

軽薄ではない。

少なくとも、“剣”に関しては理解している


沙耶はゆっくりと口を開く

「拙者は、この剣で誠を貫く」

視線は揺らがない

「いずれは仕えるべき主君の下……紫苑様のような、真の侍となるでござる!」


まっすぐな言葉と迷いのない覚悟


――その瞬間。

カロンが即座に返した。

「なに言ってんだ?紫苑は乳デカいだろ?お前と一緒にすんな」

――沈黙。


空気が凍る。

沙耶の思考が一瞬で停止する

「…………は?」


ゆっくりと顔が上がる。

その目に宿るのは――怒り


「き、貴様……!!」

カロンはケロッとしている。


レオンは頭を抱える。

「……なんでそこでそれ言うんだよ……」


リバティーナは完全に呆れた顔。

「評価を帳消しにする天才ですね……」


スタオンヌだけが、くすくすと笑っていた。

「カロン様らしいです♡」


――そして沙耶。

「やはり……!」

刀に手をかける。

「この男、最低でござる!!」

さっきまでの“見直しかけ”は、見事に吹き飛んだ


夜。

街の外れの小さな酒場。

簡素だが温かい灯りが、五人を包んでいた。

テーブルには酒と料理が並び、ささやかながらも“歓迎会”の体裁は整っている。

カロンがグラスを掲げた。

「じゃ!かんぱーい!」

軽い音頭


一同もそれに続く。

「かんぱーい!」

グラスが触れ合い、小さく音が鳴る。

その中で沙耶だけが、腕を組んだまま動かない

「……おのれ……厚かましい輩め……」


小さく呟く。

歓迎されているはずなのに、まったく納得していない顔


スタオンヌが隣でくすっと笑う

「まあまあ沙耶さん」


優しく声をかける

「カロン様も、仲間になってくれたことは素直に喜んでますから♡」


沙耶はちらりとカロンを見る。

そのカロンは――

「おいレオン、それ俺の肉だろ!」

「お前さっき食ってただろうが!」

「スタオンヌ、それもう一個焼いてくれ!」

「はいはい♡」


完全に自由。

全く隠す気もない。

「……どこがでござるか……」


沙耶の眉がぴくりと動く。

リバティーナが小さくため息をつく。

「……まあ、あれが“あの人なり”なんでしょうね……」


諦め半分、理解半分。

エマはグラスを傾けながら淡々とカロンを語る

「まあ仲間思いなのは間違い無いですし、空気は良いですよ」

意味が分からないフォロー


沙耶はもう一度カロンを見る。

騒がしく品はない。

だが――

仲間の中にいる。

自然に、当たり前のように

「……」

納得はしていない

だが、完全に否定もできない。

沙耶はゆっくりとグラスを手に取った。

「……不本意ながら」

小さく呟く


そして――

「……乾杯でござる」

ほんのわずかに、遅れてグラスを掲げる。

その夜は、騒がしく過ぎていった。

――そして。

新たな“歪な関係”が、静かに動き始めていた。

次回に沙耶の見た目投稿予定

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